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まほろば島への招待! 〜二日目〜
「いい島だなぁ〜」
大きく伸びをするヒコボシは、振り向いてステラに問う。
「昨日は泳ぐほうに力を注いだけど、今日は何かあるの?」
「……あります。今日はこの島で毎年ある『夜市』の日ですから」
「ヨイチ?」
「はい。色んなお店がありますぅ。夏祭りの定番のお店から、変わったものを扱うものまで。
えっと、あとは『蛍狩り』ですね」
***
ぱたぱたとうちわを扇いで、窓から外の景色を眺めているフレアはいつもの服装だ。暑くないわけではないのだろうが……もっと薄着にすればいいのにと梧北斗は思ってしまう。
(つーか、なんで同じ部屋なんだよ……)
いや、それは昨日の朝、バスの中で言われたことだし、自分も拒絶しなかったからなのだが。
結局フレアは一睡もせずに窓際にああして腰掛けたままだった。北斗は北斗で緊張してはいたが、途中でうっかり寝入ってしまったのだ。
朝食をとり、部屋でくつろぐ二人ではあったが、四六時中考え事をしているらしいフレアと、そのフレアの出した提案の答えをどうしようかと迷う北斗では、どうにも甘いムードになるはずもない。というか、くつろいでいないだろう、間違いなく。
「そ、そういえばさ、帽子はどうしたんだ? もう被らないのか?」
話題に困ってそう尋ねると、フレアは薄く笑った。不敵な笑みだ。
「被るさ。だが、おまえと二人の時は必要ないだろう。あれは元々顔を隠すためだったんだし。それに」
彼女はつい、と北斗に視線だけ向ける。金縛りにあったように北斗は体を硬直させた。
「お付き合いするかもしれない相手に対して、ちょっと失礼だなと思ったんだが……。おまえはアタシが顔を隠しているほうが好きなのか?」
「お、おつき、あいっ!?」
それもそうだ。もしかしたら、そういう展開に転ぶ可能性だってある。
フレアはうちわで自身の顔へ風を送りつつ、北斗に尋ねた。
「そうだ。なんなら試しにキスでもしてみるか、今ここで」
「ええぇぇええぇーっ!?」
絶叫をあげて真っ赤になった北斗は、一気に部屋の隅まで後退してしまう。凄まじい勢いであった。
その様子にフレアはゲラゲラとおなかを抱えて笑う。
「あっ、あはっ! アハハハ! なんだそれっ! そ、そんな一気に退がることないじゃないか……! あははははっ」
明るく笑う彼女はかなり可愛い。畳の床をばしばしと手で叩いている。
北斗はそろそろと元の位置まで戻ると、膝を抱えてしまう。情けない。
「あははは! や、やばっ……、な、涙出てきた……!」
「そ、そんなに笑うことねーじゃん……」
「いやいや、可愛いなあと思ったんだ。ぶはっ」
ひぃひぃとフレアが息を吐く。北斗は唇を尖らせた。
涙を拭きながらフレアは北斗に「すまない」と謝る。
「まあそれは今度にするか。
そういえば今夜は蛍狩りがあるって聞いたぞ。行ってみるか?」
「えっ……。俺は夜市ってやつがあるって聞いたぜ? あ、でもフレアが蛍を見たいっていうんなら別にどっちでも……」
「そうか。じゃ、夜市に行こうか」
あっさりとフレアは言った。北斗としては楽しいもののほうに行きたかったので、その言葉は嬉しかった。
こくこくと激しく頷く北斗は言う。
「お、おう! じゃ、今晩行ってみようぜ!」
*
北斗は浴衣姿である。旅館が貸してくれたものなので、かなり無難な柄と色である。
旅館の出入り口のところでフレアが出てくるのを待った。着替えるのにフレアのほうが時間がかかったせいだ。
「待たせたな」
そう言って玄関を出てきたフレアの姿に北斗は唖然とした。
赤髪に髪飾りをつけ、いつもと違った髪型にしている。浴衣は白地に彼岸花の模様が描かれている。白と赤という色自体はいつもと何も変わらない。
浴衣と揃いの巾着袋を持つ彼女は「ん?」と首を傾げてきた。
「どうした。可愛くて絶句か?」
からかいの混じった言葉でそう言うと、彼女は歩き出す。全くその通りだった北斗は「うぅ」と唸っただけである。
慌てて追いかけて横に並んだ。こうしてみると、昨日と同じようにフレアも普通の女の子のように見える。水着姿も良かったが、浴衣姿もいい。
「な、なんかフツーの女の子みたいだ……」
小さく言うとフレアがケラケラと笑う。
「そりゃそうだ。ここではアタシは普通だよ。言ってみれば、ただの、朱理の一年後の姿ってことだ。あぁ、でも朱理の時よりは性格が悪いがな」
下駄の音をさせながら二人は島の町へ向けて歩く。とはいえ、すぐそこだ。
旅館が少し離れたところに建っているだけで、島民が住む地域はわりと近い。
歩いているうちに、他にも浴衣を着ている人々に出会う。行き先が違う人は蛍狩りなのかもしれない。
目的地に近づくと、祭特有の音が響いてきた。北斗が背筋を伸ばし、そわそわし出す。
「犬じゃないんだから、落ち着け」
フレアが北斗の頭を軽くはたいた。全く痛くない。
はたかれた部分を軽く撫で、北斗はフレアの手を見る。昨日は結局だめだった。だから今日は。今日こそは!
「人が多いとはぐれたら大変だからな!」
赤く染まった顔を引きつらせて、北斗は半ば乱暴にフレアの手を握る。唐突のことに彼女は少し驚いたようだが、小さく微笑んだだけだ。
「そうだな。はぐれたら、大変だ」
「な、なんか楽しそうに言うな、フレア」
「楽しいとも。手が冷たいぞ。緊張しているのか?」
「い、いいだろそんなこと!」
ずんずんと歩き出した北斗にフレアは引っ張られて歩いた。
*
大きな通り。その通りに面するように、道の両側に屋台が並んでいる。わたあめ、とうもろこし、金魚すくい、などなど……定番のものもあれば変わった感じの店も見受けられた。
「へぇ〜!」
北斗は辺りを見回し、うきうきとしてしまう。人はかなり多いようだが、それが気にならないほど面白そうだ!
「あ、あれ面白そう! ……あ! あれ美味そう!」
「おいおい……。別に店は逃げないんだから、そんなにきょろきょろするなよ」
呆れたように言うフレアに北斗は「だってさ!」と忙しなく言う。
やれやれと肩をすくめ、フレアは歩き出した。北斗とは手を繋いだままだ。
「とりあえず見て回ろう。面白そうなら、その度にやってみればいいし、美味そうなものも買えばいい。近くで見てみないとわからないこともあるしな」
「そうだな! よし、行こう行こうっ」
ぐいぐいとフレアを引っ張って北斗が人ごみの中を歩き出した。
「フレアはなに食べたい?」
「そうだな。りんご飴が食べたいぞ」
すんなり答えてくるとは思わなかったので北斗は驚いてしまう。
(り、りんご飴? そ、そんな可愛い代物を食べ……)
イメージと違う。と思ってフレアを改めて見るが、考え直した。今の彼女はかなり可愛い。惚れている北斗の目でなくとも、大抵の人間はそう思うだろう。……完全に惚れた欲目ではあるが。
今の格好で食べれば、かなりサマになる。うぅ、むしろ食べて欲しい……。
「よ、よし!」
気合いを入れてりんご飴の屋台を探す北斗の後ろで、フレアが「ぶふっ」と吹き出して、笑いを堪えていた。
屋台を見つけると北斗は早速近寄っていく。りんご飴の屋台の前は女の子が多い。頭に動物の耳の生えた者もいる。
「すみません、一つください!」
大きな声で店主に言う。店主は「あいよ」と応えると一つ差し出してきた。
がっちり受け取ってからお金を渡す。店の前から離れると、早速フレアに差し出した。
「ほら!」
「ありがと」
にっこり笑うフレアは受け取る。飴の部分を舐める彼女は「やはりこれを食べないとな」と上機嫌だ。それを見て北斗も嬉しそうにする。喜んでもらえるだけで、こんなに心があたたかくなった。
射的の屋台を見かけ、北斗はそれに挑戦する。実はこれには、ある目論見があった。
とったものをフレアにプレゼントしようと思ったのだ。店主からコルクの弾が装備された鉄砲を渡された北斗は構える。
三回挑戦して取れたものは金魚のストラップだった。だがフレアは、「可愛いな」と喜んでくれたのである。
*
祭りはまだ続いているが、色んな店を回り、様々なものを食べ、十分に楽しんだので北斗たちは旅館に向けて帰っている最中だった。
周囲には誰もいない。街灯などが一切ないため、月明かりを頼りに歩くことになるが、空にある月は大きく、眩しいので問題はない。
「うわー、綺麗な星空だなぁ」
北斗は頭上を見上げて言う。こんなに星がはっきりと見えるなんて……!
「元気だなあ、北斗は」
「フレアは、疲れた?」
「そうだな。こんな風に遊ぶことだけに集中するのは久しぶりだから……。でも楽しかったぞ」
微笑むフレアにどきりとしてしまう。
北斗は焦って前を向き、後ろのフレアから視線を逸らす。
(色々言いたいのに、俺のバカ……!)
今日は俺も楽しかった。浴衣似合ってるよ。もっと一緒に居たい。
「北斗」
からん、と下駄の音を響かせてフレアが北斗の横に並ぶ。
「どうだろう。せっかく雰囲気もいいし、キスしてみないか?」
「ぶーっ!」
その申し出に「雰囲気台無しだ!」と思いつつ、吹いてしまう。
思わず足を止めて「あのなあ!」と怒鳴ってしまった。
「そ、そんなひょいひょいするもんじゃないだろ! それに……おまえ、俺のことす、好きってわけでもないし……」
言っていて悲しくなる。
だがフレアは北斗の顔を手で固定すると、言った。
「いや、好きにはなりかけてると思う。だから、もっと近づきたい。気持ちが離れていく可能性もあるが、おまえがアタシを好きでいる限り……大丈夫だ」
「フレア……」
近い。顔が近いよ。
「どうだ。おまえはしたくないか?」
「…………」
なんか違うような気がする。でも、でも、一人の男として、好きな女の子とキスをしたくないなんてことは、ないのだ。
したい。しても、いい?
「する」
決意して言うと、フレアは「よし」と頷いた。
「誰にも見られていないし、満天の星空の下だ。なかなかいいだろ、条件としては」
フレアの顔が近づいて来るので、北斗は思わず瞼を強く閉じる。唇を真一文字にした。
触れた唇の感触。柔らかかった。それが離れていくと、北斗は瞼を開けて「ぷはっ」と息を吐き出す。
呆気ない。これがキス?
「お、おまえ、息止めてどうするんだよ!」
大笑いをするフレアにムッとして、北斗はフレアの腰に手を回して引き寄せる。
「じゃ、もう一回す、するぞ」
「よし、来い」
くすくす笑うフレアが瞼を閉じた。ぎゃっ、と内心慌ててしまう。だが、決意して顔を近づけた。
(な、慣れるまで時間がかかりそうだな、俺……)
でも、彼女とキスをするのは悪くない。うん……そう思う。
━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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PC
【5698/梧・北斗(あおぎり・ほくと)/男/17/退魔師兼高校生】
NPC
【ヒコボシ(ひこぼし)/女/外見年齢10/星の導き手】
【フレア=ストレンジ(ふれあ=すとれんじ)/女/?/ワタライ】
【ステラ=エルフ(すてら=えるふ)/女/16/サンタクロース】
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご参加ありがとうございます、梧様。ライターのともやいずみです。
フレアと夜市を回って楽しんでいただき、最後は……。いかがでしたでしょうか?
少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。
今回は本当にありがとうございました! 書かせていただき、大感謝です!
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