コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談・PCゲームノベル>


東京魔殲陣 / 模倣魔

◆ 模倣魔 ◆

―― ガガガガガガッ!

赤黒い結界壁によって世界から切り離された処刑場。
魔殲陣と呼ばれるその結界の中で、その少女――正確には、少女の姿を模した霊鬼兵『Gespenst Nachahmer』、通称『模倣魔』――は、胸の奥から湧きあがる焦燥に突き動かされるまま、手にしたマシンガンのトリガーを引いた。
「無駄よ♪ あなたの攻撃は、どうやったってあたしには届かないわよ」
しかし、黒いマズルフラッシュと共に銃口から吐き出される怨霊弾は、何故か標的に届く前に霊的結合を霧散させられ、大気中に解けて消える。
(なんなんだ……いったい、なんなんだ『アレ』は!?)
常軌を逸したその光景に、少女の姿をした霊鬼兵の焦燥は、もはや狂乱に近いところにまで迫っていた。

最初に『そいつ』を見たとき霊鬼兵が抱いたのは、純粋な疑問。
なぜ、戦場に制服姿の女子高生、いままさに学校からの帰りです、と言わんばかりの少女がいるのか、と言うこと。
しかし、そんな疑問はすぐに思考回路の隅へ。
自分が結界(魔殲陣)の内に囚われ、その結界を形成しているのがどうやら眼前の女子高生だと言うのならば、何も考えることはない。
己を束縛する原因を排除し、『組織』から与えられた命令に従い、超常能力者の霊力サンプルの収集に向かう。
この場にいる以上、彼女とて『ただの女子高生』ということはないだろうが、任務の障害になる程の者ではない。霊鬼兵は、そう考えていた。
だが……それが決定的に間違いであったことを、霊鬼兵はすぐに知ることとなる。

(……くっ、弾丸が届かないのなら、直接攻撃で……)
眼前の標的に対しては、まったく用を成さないと言う事が判った以上、それを持っている意味はない。
霊鬼兵は、手にしたマシンガン型怨霊兵器を投げ捨て、背中に負ったブレード型の怨霊兵器に手を掛け、
(光学迷彩起動。周囲の景色との同調開始……)
パワードプロテクター『NINJA』に備わった光学迷彩機能を発動させる。
姿を隠したまま近づいて、近距離からブレードを見舞う心算である。
「あら……もしかして、ステルス? ふぅん、『IO2』の情報通りってことかぁ」
しかし、徐々に透過してゆく霊鬼兵を眼にしても、少女は全く動じた素振りを見せない。
それどころか、無駄な足掻き、とばかりに僅かに顔を歪めて笑ってみせる。
(兵器選択『思念波爆弾』、目標『結界内全域』……爆撃、開始)
数秒後には、姿を消した霊鬼兵が自身の首をブレードで切り裂くかもしれない。
そんな窮地であるにも関わらず、少女は落ち着いた素振りで次の『命令』を思考の内に思い描く。
そして、その思考は『念話(テレパシー)』となって、光速で空間を移動する電波よりもなお速く、その『命令』をこの星の衛星軌道上に待機する『宇宙船』へと伝える。

―― カッッッッッ!!!!!

コンマ秒のブランクもなく結界内に満ちる閃光。それは、思念波爆弾の炸裂によって溢れ出た純粋な思考の群れ。
魔殲陣の展開に伴う制約の所為で、世界や時空間そのものに干渉するような大規模な機構は使用できないが、それでもこの程度――思念波爆弾による絨毯爆撃――なら、何ら問題なく使用可能だ。
「な、なんだこれはっ!?」
暴風のように吹き荒れる圧倒的な思考の奔流に中てられて、自身が霊的なものによって構成されているが故に霊的・精神的なものに対して高い感応力を持つ霊鬼兵が、その光学迷彩を剥がされ姿を露にする。
それは『思念』と言う名の暴風で、『光学迷彩』という名のコートを無理矢理剥ぎ取るが如き所業。
童話『北風と太陽』の北風も真っ青の力技であった。
「みぃ〜つけた♪ 残念だけど、あたし『かくれんぼ』ってあんまり好きじゃないのよね」
そう言って邪気の無い表情でニッコリと笑う少女の顔に、霊鬼兵は薄ら寒いものを感じる。
絶対的な自信に裏打ちされた、圧倒的な余裕。そんな表情。
格が違う。存在としてのレヴェルが違う。
常識の外側の存在である霊鬼兵にすらそんな印象を与えずには置かない無言の圧力が、確かに其処に存在していた。

三島・玲菜。
尖った耳に天使の翼、鮫の鰓を持つ亜人間『メイドサーバント』
自身の細胞によって構成された宇宙船を、テレパシーを用いて使い魔の如く、空間を隔てて存在するもうひとつの器官、第三の腕の如くに操る少女である。

◆ ハッピーエンド光線? ◆
「くそっ、この『化物』めっ!」
結界の中を縦横無尽に走り回りながら、少女の姿をした霊鬼兵の口からそんな言葉が漏れる。
勿論、真に『化物』と呼ばれるべきは、世に数多溢れる屍と怨念を繋ぎ合わせて作られた自分たち『霊鬼兵』にこそ相応しい呼び名だと言う自負がある。
だが、それ以上に、眼前の女子高生、三島・玲奈が持つ力が圧倒的過ぎた。化物である自分そしてそう呼ばせる程に。

―― キュォォォォ……ドゥンッッ!!

東京の街に満ちる悪霊・怨霊・魑魅魍魎。そう言った負の霊魂を掌に集め矢を成し放つ。
「オオオオオオ……」
黄泉路の果てから響くような怨讐の声を上げて玲奈に迫る怨霊矢。
直撃すれば肉体はもとより精神までも腐らせる怨霊の群れ。
「そんな、誰彼構わず恨んで殺すなんて在り方、楽しくないでしょ? しょうがないから、あたしが、成仏させたげる♪」
しかし、それすらも玲奈を退かせるには至らない。
むしろ、美味しい料理と綺麗な歌とスリル満点の思い出の旅行と言う『楽しい思い出・楽しい生き方』を提供することを生き甲斐としている玲奈にとって、怨霊や怨念と成り果てた彼らのあり方は、どうにも容認できない。
故に、ここで退く訳にはいかないのだ。
(情報レーザー照射。規模『極大』。物質的願望の充足によるハッピーエンドの演出開始♪)
そして、再び『念話』を用いて宇宙船に命令。
宇宙船は玲奈の『命令』に従い、迫る怨霊矢を構成する怨霊が怨霊たる理由。
即ち『怨霊として現世に留まる理由となった彼らの未練』を解析・分析し、それぞれに対応する情報を構築しレーザーとして照射、疑似体験によって怨霊として存在する上で必要な『懊悩』や『未練』を昇華させてやろうというのである。

―― オォォォォォォン……

果たしてそれは、玲奈の思惑通りの結果を生み、怨霊たちは満ち足りた笑顔を浮かべ次々と『成仏』してゆく。
そして、現世の理を離れ『成仏』してしまった怨霊を操るような力は霊鬼兵にはない。
攻撃を防ぐと同時に相手の攻撃手段までも奪う。それは、実に効率のいい方法だった。
「……ッッ! なんて出鱈目な力なんだよ」
衛星軌道上から照射される情報レーザーによって、周囲に満ちていた怨霊たちが次々と成仏してゆく様を見詰めながら、少女の姿をした霊鬼兵は、己の核たる怨霊機を守るように両手で肩を抱き、『成仏』と言う名の甘い誘惑に耐える。
もし、旧型の霊鬼兵であれば、身体を構成する怨霊たちが怨霊機の制御を離れ、霊鬼兵としての存在を維持できなかったところだが、幸いにも己は新型の怨霊機を搭載し、旧型が抱えたあらゆる弱点を克服している。
故に、玲奈の放つ情報レーザーにもこうして抗する事が出来た。
だが、それだけ。
周囲の怨霊を固めて武装とする霊鬼兵にとって、周囲の怨霊を枯渇は敗北に等しい。
しかも相手は、生半可な攻撃ならあっと言う間に無力化してしまうような常識外の化物。
ナグルファル級の大型怨霊兵器があれば少しは違うのだろうが、いまは望むべくも無い。
「くそっ……私の、敗けか……」
最期の力を振り絞り、降り注ぐ光――衛星軌道上から照射される情報レーザー――の中に佇む玲奈に視線を向けた。

◆ 模倣魔 捕獲! ◆
「あらら? あなたは随分と強情さんですね。そんなに『成仏』したくないんですか?」
周囲の怨霊があらかた成仏、ないしは怨霊としての存在を保てないほどに雑霊化・白濁化したのを確認して、玲奈がレーザーの照射を止める。
結界内に明確なカタチで残っている怨霊は、既に少女の姿を模した霊鬼兵の構成部材のみ。
その霊鬼兵も、情報レーザーの照射を耐えるのに力を使い切ってしまった為か、どうと地面に膝を付き、肩を上下させ荒い息を吐いている。
この様子では、もはや玲奈の脅威足り得ることは無いだろう。
だが、同時に玲奈にも眼前の霊鬼兵を完全に屠る術がないのもまた事実。
新型の量産型霊鬼兵としての性能もさることながら、その身に纏ったパワードスーツ『NINJA』を模した防具が有する霊的な防御力の高さ故に、怨霊を離反させ『成仏』させる事が出来ないからだ。
さてさて、困った。どうしたものか。
息も絶え絶えの霊鬼兵を前に、玲奈は「はて?」と首を傾げ、懐から『IO2』の命令書を取り出す。
『魔殲陣を用いて速やかにこれを捕獲し、撃破せよ!』
命令書に記されたそんな一文を見て……閃いた。
「そっか。撃破が無理なら、このまま捕まえちゃえばいいんだ♪ そうすれば、あとで改心してくれるかもしれないし」
誠心誠意説得すれば、きっと判ってくれるハズ。
まぁ、それで無理なときは……チョッとだけ『強引な手段』に訴えれば問題ナッシング。
良し、そうしよう、そう決めた。
(衛星軌道上より移動を開始。現地に到着後、結界を解除。あたしと、捕虜を一名、収容しなさーい)
そして、玲奈は思い立ったが吉日とばかりに満面の笑みを浮かべて、さっそく『念話』で宇宙船に『命令』を飛ばすのだった。


■□■ 登場人物 ■□■

整理番号:7134
 PC名 :三島・玲奈
 性別 :女性
 年齢 :16歳
 職業 :豪華客船オーナー兼旅行社経営

■□■ ライターあとがき ■□■

 三島・玲奈さま、お初にお目にかかります
 この度は、PCゲームノベル『東京魔殲陣 / 模倣魔』へのご参加、誠に有難うございます。担当ライターのウメと申します。
 まずは、納入期限を過ぎてしまったこと、この場を借りてお詫び申し上げます。

 さて、いきなりの高難度事件、そしてNINJA娘との戦闘でしたが、結果はご覧の通りです。
 プレイングの通りにしてしまうと圧倒的過ぎて詰まらなくなってしまいそうでしたので、
 チョッと制限をかけつつ、足りない頭で色々と解釈しながら書かせて頂きました。
 結果、魔殲陣シナリオ始まって以来の『捕獲』エンドとなりました。
 プレイングに難解な言葉・表現が多く(まぁ、単に私の理解力が足りないと言う説もありますがw)
 あーでもない、こーでもない、と色々と悩んだのですが、書き終えてみれば良い思い出です。
 
 公私スケジュールの都合もあり、今後は少し窓明けも控えめになるかと思いますが、ご縁があればまた。
 それでは、本日はこの辺で。
 また何時の日かお会いできることを願って、有難う御座いました。