コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


消えた探偵・後編



1.
 数日前から行方を絶っている草間・武彦。
 彼の安否を心配する零のためにも調査を進めた者たちはある事件に草間が関わっていることを知る。
 そしていま、彼がどのような状況なのかも。
 零を巻き込むわけにはいかないと、彼らは目的の場所へと急いだ。
 事件の真相と、草間のいる場所へ。

「さて、翠。山狩りの準備は良いか?」
 ヴィルアの言葉に、翠はしばらく待てという素振りをしてから口を開く。
「もう七夜が戻ってくる」
 その言葉を待っていたかのように、黒色の猫又である七夜が翠の足元へと姿を現す。
「どうやら、武彦は見つかったようだな」
 言いながら、翠はじっと七夜の目を見た。
 七夜の目を通じ、翠は七夜が見てきたものを見ることができる。
 山林を通り、更に奥深くへと行った先に洞穴が見えてくる。死体の数は見えないが山全体に人ではない気配が満ちているのが感じ取れた。
「どうやら、相手の数だけは多いようだぞ」
「数など私たちには問題ではないだろう?」
 案の定、ヴィルアは不敵な笑みを浮かべたままそう答えた。
 それから更に奥へと向かう。随分と奥まで行ったものだと半ば呆れながら翠がじっと見続けると、ようやくその姿を捕らえることができた。
「いたぞ。武彦の馬鹿者だ」
「何処だ」
「洞窟のようだな。隠れるには良いかもしれんが、あの馬鹿め、あんな場所に入っては逃げ出すことが困難になることくらいわからぬでもないだろうに」
 翠の言葉にヴィルアも同様のことを感じ、同時に疑問が浮かぶ。
 草間とてそのくらいは心得ているはずだし、そのようなミスを普段ならば決して行わない。
 そうなれば、その洞窟に入ったのは草間の意思ではない可能性がある。
「逃げ込まなければならないように誘導されたか」
 ヴィルアの言葉に、翠も考えられないことではないと思った。何しろ、草間ひとりであっても吸血鬼が相手となれば部が悪いというのに、幼い子供がどうやら巻き込まれているらしいとなれば尚のことだろう。
 と、そのとき、翠の『目』がその姿を捉えた。
 洞窟の中、疲弊した顔の草間が庇うように腕を抱えている相手に何か話しかけている。おそらく力づけているのだろう。
 だが、その相手を視た瞬間、翠は眉を潜めた。
「ヴィル、どうやら武彦は嵌められたようだぞ」
「その意味は?」
「あの馬鹿者が命がけで庇っている相手は、人ではない」
 人でないのは自分たちも同じであるが、あえて翠がそのような言い方をした理由がすぐにわかったのだろう。ヴィルアの顔が笑みで歪む。
「成程、執拗に隠しているムカツク気配がその餓鬼か」
 どうやらその気配事態はすでに察していたらしいヴィルアの言葉に、翠も頷く。
「できるだけ早く武彦と合流した方が良さそうだな」
「そのようだ。翠、武彦の元へ行くもっとも短いルートはわかるな?」
 ヴィルアの問いに、今度は翠が造作もないという顔で答えた。
「単純だ。力のない手下は頭目の近くに群れているものだ。私たちはただ、真っ直ぐにそこを突っ切れば良い」
 単純明快だがそれだけの力がなければもっとも危険な方法だが、愉快そうにヴィルアは笑った。
「よし、では山狩りの開始だ」
 その言葉と同時に、ヴィルアと翠は山の中へと足を踏み入れた。
「そういえば、結局あいつが追っていた事件というのはなんだったのだ? 吸血鬼が絡んでいることはわかったが」
 獣道とも呼べない草むらを掻き分けながら歩いているとき、思い出したように翠がそう口を開く。周囲は殺気に満ちているが気にしたふうでもない。
「さぁな、武彦ひとりの手におえるようなものではなかったということだけは間違いなさそうだが、詳しくは……」
 と、その言葉を遮るように黒い影がヴィルアたちに襲い掛かったが、その頭をヴィルアは構えた銃で正確に撃ち抜き、別の一体も翠が放った符の前にあっさり燃え尽きた。
「武彦本人に聞くのが手っ取り早い」
 耳障りな断末魔と共に身体が崩れ灰と化す様も見ずに話の続きを付け加えると、ヴィルアたちは歩を進めた。


2.
 黒い影が山の中を駆けていく。ふたつの影は奥へと向かい、それを阻止するように何処からともなく沸いてくる無数の別の影は明かりに群がる羽虫の如く次々と現れては消えていく。
「翠、武彦の隠れている場所はまだか」
 複数で襲い掛かってきた吸血鬼を一蹴しながらヴィルアはそう尋ねる。
「あと少しだ」
 言いながら翠も鉄扇を用いて一群をなぎ払った。
「私もさっさと着いてほしいと思っていたところだ。こう雑魚が出てきては面倒臭い」
「歯ごたえのない相手は退屈だが、まぁ堪えろ」
 山に入ってから休む暇もなく襲い掛かってくるものたちをことごとく殲滅して進んでいたが、ふたりの相手をするにはあまりに力不足の連中ばかりで食傷気味だったのはヴィルアも同じだった。
「ヴィル、見えたぞあそこだ」
 そう言って翠が指差した先には確かに洞窟らしきものが見える。
「ようやくか。まったく手間取らせられたな」
「まったくだ。だが、そういう苦情も武彦に言うとしよう」
 そう言いながら、ふたりは残っていた吸血鬼を全てなぎ倒して洞窟へと入っていった。

「……ふん、いるな」
 洞窟に入った途端、ヴィルアはそう呟いた。草間と、そしてその傍らにいるらしい外にいたものたちよりも余程危険なものの気配を察したらしく、すたすたとそちらへ向かっていく。
 内部はやや入り組んではいたがよく知っている草間の気配を追っていけば迷わずに辿り着くことができる。
 細い道をしばらく進んでいくと、急に視界が開けた場所が現れた。
「これは良い。まるで舞台だな」
 わざとらしく愉快そうにヴィルアがそう言うと、何かが動く気配がする。
「……その声、ヴィルアか?」
 警戒しているような声だが、紛れもなく久しく聞いていなかった草間の声が聞こえ、ヴィルアと翠は顔を見合わせて頷いた。
「私もいるぞ。とにかく顔を出せ」
 翠も促すように言えば、ようやく影になっている部分から草間が姿を現した。流石といおうか怪我らしきものをしている様子はない。
 そして、草間の陰に隠れている『それ』にふたりはほぼ同時に気付いた。
 少女の姿をした『それ』はぎゅっと草間のジャケットを握りながら、警戒のこもった目でふたりを見ているが、同時に草間を盾にしているように見える。
「武彦、お前の後ろに隠れている可愛らしいお嬢さんは誰だ?」
 翠がやや距離を取りながら草間にそう尋ねると、草間は困ったような顔になり、『それ』に目線を下ろしながらゆっくりふたりのほうへと近付いてくる。
「お兄ちゃん、この人たちは?」
 だが、一定の距離以上近付こうとした途端、少女は草間を引き止めるように心細げな声で草間に声をかけ、草間はそれに大丈夫だというジェスチャーをしてみせてからふたりのほうを見た。
「見てわかると思うんだが、この子がな……」
「良いからもう少しこちらへ来い。会話もろくにできんし不必要に大声を出させんでくれ」
 面倒臭そうに翠がそう言えば、草間は苦笑しながら更に近付いたところで、ヴィルアが久し振りの再会を喜ぶように軽く手を振って見せた。
「よう、武彦。無事で何よりだ」
 些か皮肉も込めてだが、ヴィルアがそう言った途端、草間の顔に怪訝そうな色が浮かぶ。
 ヴィルアは、普段親しいもの以外がいる場合、紳士的な態度を取る。相手が幼い子供である場合は尚のことだ。
 それを知っている草間はだから、少女の姿が見えているはずなのに普段通りの口調で話しかけてきたことに違和感を覚える。
「ヴィルア、どうし……まさか」
「そのまさかだ。離れろ馬鹿者!」
 翠の怒鳴り声に、草間は慌てて少女の姿をしたものから飛び退る。
 途端少女は舌打ちをし、そうさせじと腕を伸ばしてきたが、それは翠が素早く張った結界によって遮られた。
「……遊びすぎちゃったってことかしら?」
 結界が容易に破れないということをすぐに判断したのか、ちろりと少女はヴィルアと翠を見た。
 その目には先程までの気弱さは微塵もなく、深い闇の色と光があった。


3.
「ほう、武彦を生かしておいたのは遊びだったと?」
 冷たい笑みを浮かべながらヴィルアはそう尋ねた。翠は草間を守るためも兼ね自身にも結界を張っている。
「だって、人間と他の遊びをしたらすぐ死んじゃうじゃない。それじゃつまんないわ」
「その遊びが今回の事件とやらの原因かな?」
「事件なんて大袈裟ね。遊びに負けて死んじゃっただけじゃない」
 まるで興味がないという態度で少女はそう言ってから、ヴィルアを見た。
「アンタとは、別の遊びができそう」
 言いながら、少女は不敵な笑みを浮かべる。
「おもしろい。私と遊びたいのか?」
「違うわ。私がアンタと遊んでやるのよ」
 少女の外見にはまったく似合わない傲然とした笑みを浮かべ、少女の身体が宙へ舞った。
「翠、武彦を結界から出すなよ!」
 いつの間に変化させたのか鋭く尖った鍵爪を振り下ろしてきた少女の攻撃を受けながら、ヴィルアはそう翠に言った。
 身体が小さいこともあってか少女の動きは早い。と言って、ヴィルアの動体視力が追いつかないスピードではない。
 笑みを浮かべたままヴィルアは銃を構える。
「哀れ狩人は一転獲物へ。さて、その逃げ足は如何程か?」
 同時に洞窟内に銃声が響き渡る。だが、あがったのは悲鳴ではなく馬鹿にしたような哄笑だった。
「外れ、外れ! そんなものいくら撃っても掠りもしないわ。残念でした」
「成程、姿に相応しく逃げるのは得意というわけか」
「あら、逃げるのは臆病かしら、卑怯かしら? その手には乗らないわよお姉さん?」
 挑発的なヴィルアの言葉にも少女は激昂することなく楽しげに笑って答え、また鍵爪を振るう。今度は先程よりもスピードも力も増している。
 鍵爪を難なく受け止めたヴィルアに、少女はニィと笑うと同時に蹴りを繰り出した。その身体からは想像もできない重い蹴りで、下手なものが受ければ腹に穴が開いただろう。
「いまのはどうかしら、狩人サン?」
 キャハハハと甲高い笑い声が洞窟に響く。
「……ふむ」
 蹴りを当てられた部分を手で触れ、ヴィルアは何かを確認するように呟いた。
「貴様、手を抜いているな?」
「さっき言ったでしょ? これは遊びだもの。遊びに本気なんてならないわ。でも、このままじゃ退屈よね」
 ヴィルアを馬鹿にしきった笑いを浮かべたかと思うと、少女の姿が変化していった。
 笑みを浮かべたまま、どろりと下半身が血の塊と化して溶けていく。
 上半身は少女のまま、血と化した部分はすぐさま新たな形を取っていく。現れたのは狼などを彷彿とさせる獣の身体だ。
「これでさっきより速くなるわよ。どうかしら?」
 少女と狼の溶け合った姿をしたものはそう言ってまた笑う。
「小さなウサギは得意でも、狼が狩れるのかしら、狩人サン?」
 馬鹿にしたような笑いを浮かべている少女に対し、ヴィルアも笑みを返した。先程から浮かべているものよりも一層壮絶な笑みだ。
「おもしろい。お前は実に愉しめる敵だ。折角翠もいることだ。私の本性も見せてやろう」
 そう言ったかと思うと、ヴィルアは翠に向かって声を放った。
「翠、封印を解け!」
 その言葉に、いままで沈黙したまま草間の警護に当たっていた翠が口を開く。
「よかろう。鬼が鬼の魂を返してやろうぞ」
 翠の言葉に、ヴィルアはニィと先程の少女を真似るように笑みを浮かべたが、その姿が変化する様子はない。
 だが、ヴィルアを取り巻いている空気が先程までとはまったく違うものに変化していることに少女は気付かず首を傾げてみせる。
「なに? なんの封印を解いたの? 時間がかかるようなものは待ってられないわよ」
 退屈そうに少女はそう言うと狼の足で地を駆け、ヴィルアの喉笛めがけ牙を突きたてようとする。
 その足を、何処からともなく現れたサーベルが容易く斬り裂いた。
「……え?」
 突然前足を失った少女は自分に何が起こったかわからずヴィルアのほうを見た、途端、喉を絞められたような悲鳴が少女の口から漏れる。
 先程まであった冷笑は消え、押し潰されそうなほどの威圧感の中にも気品に満ちた態度、しかしそれらを含めて見た者に絶対的な恐怖を与える異様な存在感をしたものがそこには立っていた。
「……ほう、遊びで震えが走るのか?」
 赤い目が少女を見下ろす。その目で見られただけで少女は一層大きな震えに襲われる。
「ふ、ふざけないでよ。誰が震えてなんか……!」
 強がりのような言葉で少女は身体から切り離され血の塊と戻った部分を再び形に戻そうとする。だが、そんな余裕は与えられなかった。
 ひゅ、と空気を切り裂く音が聞こえた気がした。
 音は一回しか聞こえていない。だが、次の瞬間少女の身体から残っていた足が、そして両腕も斬り離される。
「……!?」
 立て続けに起こった攻撃に、胴と頭だけとなった少女は目を見開く。
 ヴィルアの手にサーベルが握られているのは少女にも見えている。だが、先の足を斬り裂いたときも、そしていまの攻撃も少女にはまったく見えていなかった。
「さぁ、そのままでは動けまい。早く戻せ。急ぐことはない、これは遊びなのだろう?」
 その響きには嘲笑の響きはない。あるのは敵であることさえも忘れ従いそうになるほどの絶対的な命令。
 そして、その間にもまた空を斬り裂く音が聞こえ、今度は少女の腰から下が斬り落とされる。
 気が付けば『少女』だったものに残されていたのは頭部と胴のみ。血は流れない代わりに何かがあった残滓のように血の色をした霧が付け根から漂っている。
「おや、随分と直すのに手間取っているな。あまり時間がかかるのは待っていられんぞ?」
「ひ……!」
 ようやく、少女は目の前にいるものに対して本気になった。だが、それは攻撃ではなく本気の逃走。
 霧散した四肢を必死に寄せ集め、形を取るのを待つ余裕もなく少女は目の前に立っているものから逃げ出した。
 だが、その逃げ先は草間と、そして翠がいる方向だった。
 おそらくふたりを人質として逃げようというつもりだったのだろうが、ヴィルアはそれを見て目を細めて冷たく笑う。
「愚か者め。私に敵わない貴様が翠に敵うわけなかろう」
 そんな声は少女の耳には届かない。少女の思考にはすでに逃げるための手段しか浮かんではいなかった。
 だが、その身体は翠の結界の前に無様に弾き飛ばされることになった。その姿を翠が冷たく見下ろしている。
「愚かな。ただの陰陽師とでも思ったか? 残念だが、ヴィルにも敵わぬお前ごときで破れる結界ではないぞ」
 友人を手にかけようとしたような者にかける慈悲など翠には一切持ち合わせていない。
 だが、すでに恐怖のため思考が麻痺しているらしい少女は形を取ることも忘れた手や足であったものを結界に何度も打ち付けては弾かれ、その度に残された身体は更に削られていく。
 その様子は滑稽な芸を見ているようでもあった。
「何度やっても同じだ。お前にこの結界は破れん」
 まるでない爪を必死に立てようとでもしているように、何度も何度も手であったものを伸ばし足掻く姿を哀れむ気も翠にはない。
「ヴィル、遊んでやるのはもうやめろ。これ以上こいつとやり合うのも面倒臭い」
 圧倒的な存在感を放っているヴィルアに対し、翠はいつもと変わらない口調でそう言い捨て、戦うことも逃げることも叶わなくなったものは断末魔の悲鳴をあげる猶予さえも与えられなかった。

「まったく、どうしてひとりで深入りしたのだ」
 ヴィルアの封印を再び施し、結界を解いた後何事もなかったかのような翠の言葉に、だが草間はすぐに返事をしなかった。
「武彦、どうした?」
「すまんが……少し時間をくれ」
 見れば、草間の顔色は少々悪い。
「なんだ? お前、あれしきのことでよもや気分がと言うのではあるまいな」
「あれしきって、翠お前な……」
 先程までの戦闘を含め翠は平然とそう言ったが、草間にしてみればあんな惨状を見る機会などおいそれとあるものではない。
「ああいう目に会いたくなければ、最初から私たちに相談すれば良いことだろう」
「……そういうわけにはいかない事情があったから言わなかったんだろう」
「なら、その事情を説明しろ」
 やはり何事もなかったかのようなヴィルアの言葉に、草間は大きく息を吐いた。
「話はする。するがな……場所を変えよう。此処にこれ以上長居するのは御免だ」
 草間がそう主張するのも無理はなく、先程まで対峙していた少女の姿をしていたものの姿は肉片ひとつ血の一滴も残さずヴィルアと翠の手によって一掃されてはいたが、草間の目にはアレの最期の姿が脳裏から当分離れそうにない。
 そこまでの意を汲み取ってかどうかはともかく、ヴィルアと翠にしたところでこの場所に長く留まったところで益はないという考えは同じだった。
「では、気分直しに飲みながら話でもするとしようか」
 あることを思い出し、ヴィルアがそう提案すると翠もそれに賛同した。
「話をするには打ってつけだな。零殿には式で兄上の無事をとりあえずは伝えておけば安心できるだろう」
「おい、ちょっと待て。飲みに行くってのは何処に行く気だ」
 話についていけない草間には行けばわかるとだけ言い、三人は連れ立って洞窟を後にした。


4.
「おや、これは驚いた。まさか彼を連れてきてくれるとはね」
 扉を開き中に入った途端、いつもと同じ何処か人を馬鹿にしたような声がかけられた。
 ヴィルアと翠が草間を連れてきたのは馴染みとなった黒猫亭であり、そこにはまるでふたりの帰りを待っていたかのように黒川の姿もある。
 ただひとり、草間だけは通ってきた道や店自体、そしていま目の前にいる礼儀というものとは縁がなさそうな男に対して怪訝な顔にはなっていたが、すぐに腹を決めたらしくヴィルアたちと一緒にカウンタ席に座り、そんな草間の様子に黒川は愉快そうにくつりと笑った。
「さて、ではもう話してもらおうか。今回、どうして誰にも事情を言わなかった? お前、何を頼まれた」
 まったく普段通り酒を注文しているヴィルアと翠に促され、やはり店の空気に違和感を覚えながらも草間は今回の一見に関してようやくその口を開いた。
「要するにだ、『犯人』にゲームに誘われたんだよ。誰にも知られずに標的を見つけることができるかどうかってな」
 草間のところにその招待が来たのは数日前。入っていたのは少女の写真とメモだけだった。
 メモには期限内に写真の少女を見つけ出せれば草間の勝ち。誰かに気付かれたり、期限までに見つけられなければ負けだというただそれだけしか書かれていなかった。
 この場合の負けという意味が草間には少女の命が失われることだと判断した草間は、慎重に調査を始め、そして『少女』に辿り着けたのがヴィルアたちが草間を見つけ出したあの日だった。
「……ところが、当の少女がゲームの招待主だった、というわけか?」
 少し考えればわかるような筋書きに、翠は呆れたような目で草間を見た。ヴィルアもやれやれと肩を竦めている。
「犯人を守るために命がけになっていたわけか、お前は」
「しかたがないだろ。狂言の可能性も考えなくはなかったが、標的に子供を使われちゃ下手な動きはできなくなるもんだろ」
「……どうやら、キミはそのゲームのルールを根本的に間違えていたんじゃないかな?」
 と、黙って聞いていた黒川がくつりと笑いながら、突然そんな茶々を入れてきた。
 言われた草間のほうは黒川の口調と言われた内容に眉を顰めていたが、ヴィルアと翠は互いの顔を見て何かに納得したように頷いた。
「成程な」
「そういうことか」
「おい、何がそういうことなんだ?」
 当事者でありながら事態を把握できていない草間がそう尋ねると、翠は「まだ気付かんのか」と呆れたような溜め息をついてから草間に向かって口を開いた。
「お前は、負けの意味とゲームの主旨自体を勘違いさせられたまま巻き込まれていたのだよ。少女を見つけろとは書いてあったが守れとは書かれていなかっただろう? 鬼ごっこの鬼探しだ。自分を狙っている『鬼』のありかを探ってそれを倒せればお前の勝ちだったんだ。つまり、メモに書かれていた負けの場合失われるのは……」
 そこまで言い、翠は草間のほうを指差した。
「もしかすると、あの山にいた連中はゲームの敗者たちだったのかもしれんな」
 その言葉にヴィルアもありえることだなと頷いてから草間を見た。
「よかったな、武彦。あの連中の仲間入りをせずに済んだようだぞ?」
 からかうようなその言葉に、草間は勘弁してくれと頭を抱え、その目の前にまるで気分を休めるためにとでも言うように現れたグラスを見て大きく溜め息をついた。
 そんな草間の様子にヴィルアと翠、そして黒川は愉快そうに笑った。





□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)       ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

6777 / ヴィルア・ラグーン / 28歳 / 女性 / 運び屋
6118 / 陸玖・翠 / 23歳 / 女性 / 面倒くさがり屋の陰陽師
NPC / 草間・武彦
NPC / 黒川夢人

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信                    ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

ヴィルア・ラグーン様

いつもありがとうございます。
この度は前後編となりました草間興信所での依頼に参加していただきありがとうございます。
事件自体が結局どういうものだったのか前半ではきちんと書けなかったため、今回のラストで草間氏に大まかには説明してもらうという形で書かせていただきましたが、これで事件の概要が掴めるものになっておりますでしょうか。
興味を持っていたからということで草間氏を黒猫亭に連れてきてくださったことは嬉しく思います。
戦闘シーンではヴィルア様の能力を最大で使用するということもあり、珍しく戦闘、そして相手を精一杯曲者にできるよう努めさせていただきましたが封印解除後のヴィルア様の戦い方含めお気に召していただければ幸いです。
またご縁がありましたときはよろしくお願いいたします。

蒼井敬 拝