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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


ブラザー・ソウル(後編)

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0.オープニング

尾行る、尾行る。妹を。
端から見りゃあ、妙な光景。
同行する共犯者も、そりゃあ苦笑い。
理解ってるさ。
ちょっと、異常な事くらい。
理解ってるさ。
プライバシーの侵害だっつぅんだろ?
理解ってるって。
でも、仕方ねぇんだ。
知る権利くらい、俺にもあんだろ。
妹が、どんな男と付き合ってんのか。
そうさ、これは兄として。
妹を案ずる兄として。
ちょっとした、お節介だ。
微笑ましい、お節介だ。

…そんな目で見るなよ。

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1.

強引に手を引かれて尾行る、零の後。
気持ちが急くのであろう、草間はズンズンと前に進もうと踏み込む。
私はグイッと奴を引き寄せ、それを阻む。
もう、何度目になる。これも…。
呆れつつ見やると、零が噴水の前でピタリと立ち止まった。
木の陰に隠れ、同じくピタリと静止する私と草間。
まったく、何だってこんな事をせねばならないんだ。
放っておいてやるのが愛ってものじゃないのか…。
そうは思うも、私は、それを口に出せずにいる。
隣で、眉を寄せて鬼気迫る顔で零を見やる、
こいつを見てたら、そんな事…言う気も失せる。
噴水前で待ち合わせているのだろう。
零は腕時計を確認しつつ、手鏡を見ながら、しきりに前髪を弄る。
そわそわと落ち着かない、その様は。
とても初々しく、可愛らしい。
自然と笑顔になる私。
ところが草間は、神妙な面持ちで言った。
「女を待たせるとは、ロクでもねぇ男だな」
「………」
苦笑する私。
それを、お前が言うのか。
説得力皆無だぞ。
それにな、おそらく男は遅刻していない。
零が、早く来すぎているんだ。
時刻は十三時、二十分前。
どう考えても、待ち合わせ時刻は十三時だろう。
理解る、その気持ち。
わかってはいても、早く来てしまうんだよな。
妙に懐かしく、優しい気持ちで見守っていると、
ようやく。零の彼氏が姿を現した。
思い描いていたとおり、爽やかで。
まだ、あどけなさの残る、可愛らしい少年だ。
将来的には…どうだろうな。
もしかしたら、化けるかもしれん。
目をみはるほど、イイ男に。
零の彼氏は犬を連れて来て。
犬は、零に、やたらと懐いている。
それから察するに、今日、初めて連れてきたというわけではないようだ。
普段、どんなデートをしているのか。
それだけで理解に至る。
実に、微笑ましい光景じゃないか。
私は、そう思うが。
草間は、そう思えないらしい。
「動物を利用するとは、気にいらねぇなぁ…」
…どんだけ卑屈なんだ。貴様は。


合流した零と、零の彼氏は、それから。
ゆっくりと公園内を歩いて回る。
零の歩幅に合わせて歩いているのが理解る。
気の利く男だ。
こいつにも、爪の垢を煎じて飲ませてやりたい。
爽やかな風が吹く公園内。
歩く、可愛らしいカップルと。
それを尾行る、異様な私達。
何だか、ものすごく嫌な気分になる。
帰りたい…。

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2.

”手を差し伸べられたら、素直に受け取ってやれ。下手に驚くと、男は傷付く”
事前に、アドバイスしていたとおり。
零は、彼氏に手を差し伸べられて、
少し恥ずかしそうに俯きながらも、彼氏の手をとった。
見当違いの方向を見つつ歩く、零と彼氏。
何て初々しさだ。見てるこっちが恥ずかしくなる。
クスクス笑う私の横で、閻魔大王のような顔をしている草間。
「あのやろう……」
今にも駆け出して、二人を引き剥がそうとしそうな勢いだ。
私はパシッと草間の背中を叩いて、落ち着けと促す。
クルリと振り返り私を見やる草間の眼差しは、
まるで、捨て犬のようで。
私は苦笑しつつ、よしよしと草間の頭を撫でてやった。
すると調子に乗った草間は、私に抱きついて。
「慰めて」
そう言って、胸に顔を埋めた。
私は肘を草間の頭に落として言う。
「調子に乗るなっ」


どこから見ても。誰が見ても。
零と、その彼氏のデートは”爽やか”そのもので。
粗を探す事の方が難しい。
手を繋ぎ、彼と歩く零は、とても幸せそうで。
見ていて、嬉しくなる。
「いい笑顔だ」
微笑みつつ、呟くように言う私。
落ち着き、何かを思い出すかのような私の口調に。
草間はジッと私を見て、言う。
「何、思い出してんだよ」
私はフッと笑い、草間の額をペシッと叩いて返す。
「内緒だ」
離れた位置で、幸せそうに微笑む零と。
そんな零を愛しそうに見やる、彼氏。
とても可愛らしい二人に抱く。
暖かく柔らかく。それでいて、くすぐったいような…不思議な優しい気持ち。
同時に抱く、懐かしい感覚。
ところが、二人を見やるそんな私の眼差しに、草間の態度が変わる。
「………」
突然歩みを止め、ぶすっとしだしたのだ。
「…何だ。どうした?」
キョトンとする私。
尾行なんて野暮な真似をやめて、
おとなしく帰る気にでもなったか?
そう思ったが、どうやら違うらしい。
草間は腕を組んで、フイッと、わざとらしく私から目を逸らす。
…何だ。さっぱり理解らん。
何故、急に不機嫌になったんだ。
理由がわからず立ち往生して、困りつつ頬を掻く私。
すると草間は言った。
「手、繋ごうぜ」
「…は?」
「そしたら機嫌直るかも」
「………」
何なんだ。貴様は。
それが目的で、ふてくされたフリをしただけなのでは…。
などと思いつつも、このままでは、こいつはここを動かない。
早めに戻らねば、尾行ていた事がバレてしまいかねない。
そうなったら、また面倒だ。
私は先を見通し。
ハァと溜息を落として苦笑しつつ、草間の手を握った。

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3.

まったく…意味不明にふてくされやがって。
貴様の所為で、興信所に戻るのが、だいぶ遅れたじゃないか。
零と彼氏は見失うし…踏んだり蹴ったりだ。
そもそも、貴様が尾行るなんて言い出さなければ。
こんな気苦労を負う事もなかったんだ。
「せめて、もう少し、誇れる兄の態度を取れないものかな」
興信所へ向かうまでの道、
私は呆れつつ草間の背中に問いかけた。
草間は、華麗にそれをスルー。
…まだ、機嫌が直っていないとみた。
面倒くさい奴だなぁ。本当に…。
嫌な事と同じように。面倒事は、重なるものだ。
興信所で、ハプニング発生。
出くわしてしまった。
帰ってきた零と…。
零の隣には、彼氏もいる。
何て事だ。色んな意味で、面倒の境地だ。
頬を掻きつつ、どうしたものかと思っていると。
「…何、してるんですか」
零が苦笑しつつ言った。
その笑顔は、尾行られていた事を悟ったものだ。
「…まぁ、その、何だ。これは…」
困り笑顔を浮かべつつ、言う私。
何故、私が一人で気苦労を背負わねばならないんだ。
そう思い、草間を睨みつけるも。
草間は、見当違いの方向を見やっている。
…無責任にも、程があるぞ。貴様。
異様な雰囲気の中。状況を察したのか、
零の彼氏は、草間にペコリと頭を下げて挨拶をした。
「あ、あの。はじめまして。神崎 浩太といいます。零さんとは…」
ところが草間は、零の彼氏の丁寧な挨拶を邪険に扱う。
「おぅ」
ただ一言、そう言い残して、スタスタと一人興信所へ入って行ってしまった。
興信所の前、取り残された私達。
気まずそうに頭を掻く零の彼氏を見て。
私は肩を竦めて苦笑した。
どうにもならんな。あいつは。


「すまなかったな。零」
溜息交じりにいうと、零は苦笑を返して。
彼氏に、私の紹介をした。
「浩太さん。この方が、冥月さんよ」
零の彼氏はパッと姿勢を正して。
私にペコリと頭を下げて。
「御話は聞いてます。はじめまして。挨拶が遅れて、すみません」
丁寧な口調で言った。
第一印象っていうのは、やはり大切だな。
今の挨拶だけで、かなりの好印象だ。
まぁ、柔らかい口調と、優しい目から。
根っからの良い奴である事は理解るが。
私はスッと手を差し伸べ、返す。
「あぁ、よろしくな。聞いているのなら言う必要ないかもしれないが…零の、姉のようなものだ」
私の手を取り、ニコリと微笑む浩太。
すると零が、浩太に微笑みかけて要らぬ補足を加えた。
「お兄さんの、彼女さんですよ」
「余計な事言うな」
ガッと零の口を塞いで苦笑する私。
閉まった興信所の扉をジッと見やって、複雑そうな顔をしている浩太。
私はフッと笑い、零に告げる。
「今日は、帰ってもらえ。追い討ちは、さすがに可哀相だ」
「…そう、ですね」
コクリと頷く零。
今、中に入れて一緒にお茶でも飲もうものなら。
壮絶に気まずい雰囲気になるだろうからな。
まるで、そう。
娘をくれ、と父親の元に男が来たかのような…。
今だに不安そうな表情を浮かべる浩太。
私はポンと浩太の肩に手を置いて言う。
「後日、改めて遊びに来い。馬鹿は、私が抑えるから」
「…は、はい」
戸惑いがちな笑顔を向ける浩太。
「お兄さんは、冥月さんには逆らえないんですよ」
また余計な補足を加える零を小突きつつ。
私は言う。
「彼に話がある。お前は先に中に入って…あの馬鹿を慰めてやれ」
私の言葉に、零はコクリと頷いて。
浩太に手を振り、扉に向かう。
手を振り返す浩太に向かって、
扉に手をかけながらクスクス笑って。零は捨て台詞を吐く。
「冥月さんも、お兄さんを拒めないから…もしかしたら、お兄さんの味方かもしれません」
「いいから、さっさと入れっ」
パッパッと手を払って、促す私。


「やれやれ…」
腕を組んで、閉まる扉を見届ける私。
そんな私を見やりつつ、浩太はクスクスと笑った。
私が、普段どれだけ。あの兄妹に翻弄され手を焼いているかを理解したのだろう。
私は扉から、浩太へと視線を移し。
ジッと彼の目を見つめて。唐突に質問した。
「お前、本気で零を好いているのか?」
突然の質問にも、浩太は動じなかった。
目を逸らさずに、ハキハキと、一言。
「はい」
そう返した。
その言葉を聞き、安心した私は浩太の頭を撫でやって。
諭すように言う。
「それなら大丈夫だな。あいつも、何れ納得するはずだ」
お前の存在を疎ましいとか、そういう事を思っているわけじゃないんだ。
あいつも、あいつで戸惑っている。
いつかは、こういう時がくるかもしれないと。
心のどこかで思い、それなりに心構えもしていたはずだ。
けれど、あまりにも、その時が来たのが突然だった。
日増しに変化していく妹を前に、
余計に戸惑ってしまっているのだろう。
焦りにも似た、複雑な心境。
あいつもあいつで、大変だ。
この先、どうなるか。
浩太と零、二人の想いの強さは勿論の事。
あいつも、大人にならねばならない。
それが、一番…難しそうだがな。
先の苦労を案じ、苦笑を浮かべる私を。
浩太はジッと見つめて言った。
「零さんの、お兄さんの恋人が味方だなんて。心強いです」
「ばっ…。こ、恋人じゃないっ」
慌てて、それを否定する私。
そんな私を見て可愛らしく、無邪気に笑う浩太。
その笑顔に、私は思う。
…どことなく。草間に似てるな。

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■■■■■ THE CAST ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

2778 / 黒・冥月 (ヘイ・ミンユェ) / ♀ / 20歳 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒

NPC / 草間・武彦 (くさま・たけひこ) / ♂ / 30歳 / 草間興信所所長、探偵

NPC / 草間・零 (くさま・れい) / ♀ / --歳 / 草間興信所の探偵見習い


■■■■■ ONE TALK ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


こんにちは。いつも、発注ありがとうございます。心から感謝申し上げます。
気に入って頂ければ幸いです。また、どうぞ宜しく御願いします^^

2007/08/24 椎葉 あずま