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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


バッド・テンパー・ジラウバ

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0.オープニング

異常なまでに続く猛暑。
夏だと実感せざるを得ない。
別に、暑いのは嫌いじゃない。
寒いのより、ずっとマシだ。

俺と同じように暑さを満喫する人で、ごった返す湖。
どうして、こうも人々は同じ思考なんだろうか。
他所に行けば良いのに…。
一人でゆっくりしたかった俺としては、少し不愉快だ。
まぁ、仕方ないか。


訪れた湖で、人目を避けるように。
木陰に腰を下ろして煙草に火をつける。
その瞬間。
「きゃーーー!!!」
響き渡る悲鳴。
悲鳴が飛んできた方向を見やって、俺は溜息。
まぁ、これも仕方のない事。
人の多い場所には、妙なモンも寄ってくる。
自然な事だ。
「…休息なんて、とれやしないな」
俺は煙草を踏み消して。
湖を真っ黒に染めた妖の討伐に向かう。

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1.

異界祭りで味を占めた萌。
私は萌に付き添い…いや、半ば連れてこられて。
異界にあるバカンスの名所である湖にやってきた。
萌から”凄く綺麗な所だよ”と何度も言われ、
どれほどのものかと。大して期待はしていなかったが。
正直、驚いた。
異界にも、こんな美しい場所があるのだなと。
美しく揺れる湖面。揺れる木々。
まるで、別世界に飛び込んだかのようだ。
ただ、一つだけ。
「…すごい人だな」
サングラスを胸ポケットから取り出しつつポツリと呟くと、
萌は上着を脱いで楽しそうに笑った。
「そりゃあ、そうだよー。名所だからね、名所っ」
湖といっても、半ば海のようなものだ。
湖畔には水着姿の女や、カキ氷や飲み物を売る店。
天気も良いしな…。人がたくさんいるのも、当然っちゃあ当然か。
まぁ、折角来たんだ。楽しんでいこうか。
サングラスをかけ、強い日差しの下、髪を束ねる私。
すると萌は、ジッと私を見やる。
何も言葉を発さずに、ただ、ジーッと。
私はフンと鼻で笑い、前かがみになって萌に胸を見せ付ける。
「そんなに羨ましいか?」
「う、うん」
「はは。素直だな。珍しい」
「う、うるさいっ!今のは嘘だっ。羨ましくなんてないよっ」
店で買ったラムネ瓶を手に、私の手を引き駆け出す萌。
そうそう。お前の、そういう態度が好きだよ。私は。



…折角の休みだってのに。
何だって、妖魚の討伐なんぞやんなきゃならないんだ…。
どんだけ真面目だ。俺って奴は。
銃を構え、黒く染まった湖を見やる俺。
黒く染まっているのは、まだこの辺りだけのようだな。
だが、妖魚の動きから察するに、
湖全体が黒く染まるのは、時間の問題だ。
これだけ人がいるんだ。収拾がつかなくなる前に何とかしねぇと…。
…ったく。何だってんだ、お前はよ。
俺の貴重な休みを、奪うつもりかって…。
ドンッ―
威嚇の一発。
湖から顔を出して漂う妖魚は一瞬ピタリと動きを止めた。
そうだ。大人しくしろ。
何か、不愉快な事があったなら、何とかしてやるから。
どうにか出来る事だったら…だけどな。
俺は苦笑しつつ、もう一発。
妖魚を大人しくさせる、とどめの威嚇を放とうと銃を構える。
すると、そこへ。思いがけず邪魔が。
「何しとるんじゃあ!おぬしはぁっ!!」
ドカッ―
「っ…!?」
ドンッ―
突如、俺に飛び掛ってきた老婆。
その老婆の所為で、俺の手元は狂い。
銃弾は、見事…妖魚の片目にヒット。
痛みから、妖魚は大暴走。
飛沫を上げながら、湖を真っ黒に染めていく。
何て事しやがる…この、くそババァ。

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2.

「な、何だ何だ!?気持ち悪ぅっ!」
突如、真っ黒に染まった湖と、
湖で大暴れする巨大な魚を前に大騒ぎする萌。
私は眉を寄せ、溜息混じりに辺りを見回す。
数分前までとは、まったく異なる光景。
”撹乱”その言葉が、ここまでハマる光景は、そうそうない。
とりあえず、混乱している人々を非難させなくてはな。
この現象の意味を調べ改善を図るのは、それからだ。
そう思い影を放とうとした時だった。
ふと視界に飛び込む、見慣れた姿。
萌も、それを発見し、叫ぶ。
「ディテクターだ!!」
何だって、奴がこんな所にいるんだ。
不思議に思いつつも、私は探偵の元へと駆け出す萌について行く。

「何やってんのさ、ディテクター!」
息を切らしながら問う萌。
探偵は少し驚いた顔をしたが、すぐに落胆して。
「…こっちの台詞だ」
そう言い、ガックリと肩を落とした。
探偵の手には、いつもの銃。
そして、傍らには、いきり立った老婆。
…何となく、事態は把握できる。
面倒な事になったみたいだな。不憫な事だ。
「頑張れよ。ラムネ一本なら、差し入れてやるから」
苦笑しつつ言うと、探偵はガシッと私の腕を掴んで。
「…手伝え。薄情者」
そう言って湖で暴れる巨大な魚を見やった。
アレを始末するのか?なかなか骨の折れる仕事だ。
確かに、お前でも一人じゃキツそうだな。だが。
「私達は遊びに来たんだ。その貴重な時間を潰すなら、それなりの代償が必要だぞ」
フンと鼻で笑い言う私。
すると萌は湖で暴れる魚を見やりつつ言った。
「ねぇ、あれさ。ジラウバじゃないの?殺しちゃマズイよね」
「…そうだ。だからこそ、手伝えって言ってんだ」
落胆しつつ言う探偵。
萌は大きな仕事に、やりがいを見出したのか。
持っていた上着をポィッと、そこらに投げやって不敵に笑う。
私はガッと萌の頭を掴み、耳打ちする。
「無償で手伝うのは、勿体無いだろう」
「…冥月。あんた、鬼だね」
ポツリと呟き苦笑する萌。
「とりあえず、あいつを大人しくさせるのが先決だ。協力してくれ」
銃を構え、老婆を木の陰に隠れるよう促しながら言う探偵。
まぁ、仕方ないな。その意見は、ごもっともだ。
とりあえず、事を済ませてから。
報酬うんぬんに関して、じっくりと話そうか。


巨大な妖魚。それはジラウバという名の守り神。
普段は湖底に潜み、滅多に姿を現さないという。
それが何故。湖面から顔を出し、湖を黒く染め出したのか。
ただの気まぐれにしては、少し奇怪だ。
今、飛沫を上げて暴れているのは、探偵の銃弾が目に的中した痛みからだろうが。
如何せん、奴の巨体だ。
暴れる度に上がる飛沫の量が、半端ない。
もはや、降りしきる大雨だ。
殺せば早いと心から思うのだが。
探偵が叱咤されたように、
ジラウバは、あくまでも守り神。
殺めてはいけない存在らしい。
まったく…面倒だな。
私は呆れつつも萌と探偵に指示を飛ばした。
二人にはジラウバへの威嚇を続けてもらい。
その間に、私が人々を安全な場所へと非難させるのだ。
影を使えば、それは容易い。
まとめて非難させる事が可能だからな。
だが、逃げ惑う人々は撹乱しており、判断力を失っている。
それ故に、うまくいかない事もある。
「きゃああああ!!」
暴れるジラウバのすぐ傍で。
転び、逃げる事さえ諦めた女が一人。
私は舌打ちしつつ女にダッと駆け寄り、
ヒョイと女を抱き上げて、離れた位置へ移動する。
「…あ、ありがとうございます」
腕の中で頬を染める女。
まったく…手間かけさせやがって。…何だ、その顔は。
私は顔をしかめつつ、女を湖から離れた場所へ放って。
探偵と萌の元へと戻る。

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3.

「冥月、こっから どーすんのっ?」
ジタバタと暴れつつ言う萌。
探偵も、ジッと私を見やっている。
何なんだ。萌はともかく。貴様は…。
協力しろって言っておいて、まかせっきりじゃないか。
理解っているだろうが、報酬は高くつくぞ。
あぁ、楽しみだ。
私は苦笑しつつ影を放ち、
ジラウバの痛みの元である銃弾を引き寄せて取り除く。
すると、それまで見境なしに暴れていたジラウバは大人しくなり。
両目が湖に漬からぬ位置まで潜水して、ジッとこちらを見やる。
こうなれば、もう解決は目の前だ。
後は、奴の言い分を聞いてやるだけ。
何故姿を現し、湖を黒く染めたのか。
その理由を、聞き出すだけ。
私は影の帯でジラウバを雁字搦めにして動きを完全に封じると、
真っ黒に染まった湖にザブザブと入って行って、
ジラウバの目の前で腕を組み問う。
「お前の目的は何だ?」
私の問い掛けにジラウバは数回、ゆっくりと瞬きをした。
すると黒く染まった湖が、みるみる元に戻っていく。
その時、私は、とある事に気付いた。
美しいと思った湖に、ユラユラとゴミが漂っているのだ。
ジラウバは大きく口を開け、そのゴミを吸い込む。
…なるほど。
ここへ遊びにきた人間が、ゴミを湖へ捨てていくのだな。
湖底に沈んでくるそれを、お前はいつも吸い込んでいると。
ここ数日、猛暑で涼みに来る者が多い所為で。
湖を汚すゴミの量も、増えたと。
あまりのゴミの多さに嫌気が差してしまい。
見えぬように黒く染めてやった…と。
そういう、事だな?
心で思いつつ見やると、ジラウバは悲しい眼差しで私を見やった。
そうだな、これは明らかに人間が悪い。
こちらに非がある。
涼みに来て、癒され、ここを満喫しようというのなら。
個々に意識の改善を図らせねばな。うん。
だが、見えぬように隠してしまおうとするとは。
守り神も、案外大胆な事をするものだな。
まぁ、本気で見て見ぬふりをするつもりではなかったとは思うが。




「なんでゴミとか捨てるかなぁ〜。ほんとにも〜」
文句を言いつつ、ゴミを拾う萌。
探偵も黙々と動作業をしている。
私はというと、影を駆使してゴミ処理。
ジラウバが姿を現し、湖を黒く染めた理由を知った私達と、
この場に居合わせている一般人で協力し合い、
湖のゴミを拾い集める。
綺麗だと思っていた湖だったが、実際のところゴミだらけ。
ジラウバが湖底に意図的に沈め、処理しようとしていたゴミの量に、
私達はゲンナリとせざるを得ず…。
私が放った影は、丸々一つ、ゴミで埋め尽くされてしまう。
気が遠くなりそうな作業は、夕刻まで続いた。

作業を終え、私達が揃って抱くのは”達成感”
いつまで続くのかと、心無い奴等に腹が立ったものだが。
こうして綺麗になると、やはり清々しいな。
「つ〜か〜れ〜たぁ〜…」
どちゃっと、その場に座り込む萌。
私も萌の隣に腰を下ろして、フゥと一息。
探偵も、さすがに疲れたようで、額に滲む汗を拭いつつ溜息を漏らす。
私は、そんな探偵を見上げながらフッと不敵な笑みを浮かべて言う。
「さぁて…報酬の話をしようか?」
私の言葉に顔をしかめる探偵。
そんな顔しても無駄だ。
見てみろ。もう、すっかり夕方。
私達が、ここに来たのは昼前だっていうのに。
強制的に連れてこられたものの、
折角来たのだから、楽しもうと思っていた矢先に、この事件だ。
それに、私のお陰で早急な解決ができたと言っても過言じゃないだろう?
見合った報酬を貰わねばなぁ。
ただ働きしてやるほど、私は甘くないんだ。
「あはははー。何くれるのかなぁ?」
疲れ笑顔のまま、私と同じように探偵を見上げて言う萌。
探偵は私達からサッと目を逸らして言った。
「…ラムネ一本で、どうだ」
その言葉に苦笑しつつ、手元にあった小さな石ころを探偵の足に投げつける私。
「ふざけるな」

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■■■■■ THE CAST ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

2778 / 黒・冥月 (ヘイ・ミンユェ) / ♀ / 20歳 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒

NPC / ディテクター / ♂ / 30歳 / IO2エージェント

NPC / 茂枝・萌 (しげえだ・もえ) / ♀ / 14歳 / IO2エージェント NINJA


■■■■■ ONE TALK ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


こんにちは。いつも、発注ありがとうございます。心から感謝申し上げます。
気に入って頂ければ幸いです。また、どうぞ宜しく御願いします^^

2007/08/24 椎葉 あずま