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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


バッド・テンパー・ジラウバ

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0.オープニング

異常なまでに続く猛暑。
夏だと実感せざるを得ない。
別に、暑いのは嫌いじゃない。
寒いのより、ずっとマシだ。

俺と同じように暑さを満喫する人で、ごった返す湖。
どうして、こうも人々は同じ思考なんだろうか。
他所に行けば良いのに…。
一人でゆっくりしたかった俺としては、少し不愉快だ。
まぁ、仕方ないか。


訪れた湖で、人目を避けるように。
木陰に腰を下ろして煙草に火をつける。
その瞬間。
「きゃーーー!!!」
響き渡る悲鳴。
悲鳴が飛んできた方向を見やって、俺は溜息。
まぁ、これも仕方のない事。
人の多い場所には、妙なモンも寄ってくる。
自然な事だ。
「…休息なんて、とれやしないな」
俺は煙草を踏み消して。
湖を真っ黒に染めた妖の討伐に向かう。

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1.

お洒落して。デートの待ち合わせに。
仕事がたてこんじゃって、時間…ちょっとマズイ感じね。
遅刻しても、怒りはしないだろうけど。
折角のデート。
時間を無駄には、したくない。
髪を結わえ直しながら、足早に歩く私。
すると、何やら騒々しく…。
ふっと見やったそこは、異界の隠れ名所である小さな湖。
映る、目の錯覚かしら…と疑う光景。
巨大な魚が、飛沫を上げて暴れまわっている。
逃げ惑う人々の悲鳴…。錯覚じゃないわ。何あれ。
呆然としながら、眼鏡をかけると。
更に目を疑うような光景が、目に飛び込む。
湖が、みるみる…真っ黒に染まっていく。
その不気味な光景は、爽やかな日和に、酷く不似合いなもので。
ハッと我に返った私は、バタバタと事件の現場へ向かう。
武彦さんに、一言。
”ごめん、ちょっと待ってて”
そうメールを送って。


一体、どういう事かしら。
あの巨大な魚…怒ってるみたいだけど。
湖を黒くしてるのも…あの魚みたいね。
危険な事は理解るんだけど…何だか、妙ね。
意図的に人を襲いにかかってるって感じじゃないような…。
何ていうかな…ただ、何かが不快だと暴れて訴えているだけで、
巨体故に、上がる水飛沫も凄まじくて。
それが、人を襲ってるかのように見えているだけ…のような。
飛んでくる飛沫を浴びて、既にズブ濡れの私。
あぁ…折角、ない時間を駆使して御洒落したのに。
台無しだわ。御化粧も、緩んできちゃってるし。んもぅ…。
湖畔でサンダルを脱ぎ、巨大な魚を見やる私。
悪意があるわけじゃなさそうだから。
話ができれば、早急に事態の収拾がつきそうね。
…さて。どうやって話そうかしら。
腰に手をあて思案していると。
見慣れた姿が、視界に飛び込んだ。
降り注ぐ雨のような飛沫の中、
銃を構えている探偵さん…。
どうして、彼がこんなところにいるのかしら。
あっ、要請があったのかな。
何とかして来い、って。
でも…見える探偵さんの表情から察するに、
そういう感じは見受けられないわね。
嫌々っていうか…ウンザリしてるかのように見える。
何とか、おとなしくさせようと。威嚇しようとしてるんだろうけど。
これだけ大騒ぎになって、人が混乱している中で。
銃なんて構えちゃ、誤解を招きかねないような気が…。
不安に思っていると、その予感が的中。
突如現れた、お婆さんに飛びつかれて。
探偵さんの照準が大幅にズレる。
ド パンッ―
銃弾は、巨大魚の片目にヒット。
そんなつもりは、なかったんでしょうね。
探偵さんは、纏わり付くお婆さんを引き剥がしつつ、ゲッとした表情を浮かべている。

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2.

片目に銃弾を浴びて、痛みから更に暴れる巨大魚。
これは、マズイわ。早く、何とかしなくちゃ。
私はタッと探偵さんに駆け寄り、手短に挨拶を済ませる。
「ご苦労様」
「…何やってんだ、お前。こんなとこで」
「その台詞、そのまま お返しするわ」
クスッと笑って言うと、探偵さんは苦笑を返して。
銃を懐にしまい、暴れる巨大魚を前に煙草を咥えた。
煙を吐きつつ、半ば呆れた表情を浮かべる探偵さんに、
怒りを露わにするお婆さん。
「お主は、何様じゃ!ジラウバに銃を向けるとは!」
持っていた杖で、ポカポカと探偵さんの背中を叩く お婆さん。
私は、お婆さんの腕を押さえ、詳細を聞いた。
ジラウバ。それは、あの巨大魚の名前。
湖底に潜む、湖の守り神だそうで。
滅多に姿を現す事はないという。
私は、お婆さんを非難させる意味合いも込めて。
ジラウバの傷を癒す医療道具の準備を頼んだ。
お婆さんが去り、探偵さんはハァと溜息を落とす。
ご苦労様ね。ほんと。
理解ってるわよ、私は。
あなたは、始末するつもりで銃を構えていたわけじゃないのよね。
見境なしに暴れるものは全て始末する。
そんな殺人鬼のような人じゃないもの。あなたは。
それにしても、妙よね。
お婆さんの言ったとおり、滅多に姿を見せない守り神が。
どうして姿を現したのか。
そして、何故、湖を黒く染めて暴れだしたのか。
わからない事だらけだわ。
「黒く染めたって事は…何か、見られたくないものがあるんじゃないかしら」
私が示す可能性に、探偵さんは煙草を踏み消して返す。
「例えば?」
「…例えば。子供を育ててるとか…?」
ハッと肩で笑う探偵さん。
確かに、子供を育てる過程で、暴れたり。
湖を黒く染めたりする必要は、ないかもしれないわ。
でも、可能性が全くないとは言えないと思うの。
違ったなら、また作戦を練り直すって事で。
とりあえず、私の感に任せてみて。


私は黒い湖に入っていき、水中に腕を差し入れて目を伏せる。
震える水面。振動で探る。可能性の手掛かり。
鯨やイルカのような哺乳類とは違うけれど、
湖を黒く染めたりする能力を持っている不思議な魚なら。
特別な音を、発しているかもしれない。
そう思った私は、水を振動させ。
何らかの反応、応答といった返しがないかを確認する。
落ち着いて話ができるような状況ではないから。
交流手段に、音が存在するのなら。
私の出番でしょう。
手探りのまま進む作業。
その最中、私の手は 振動の返りを確認。
二つ確認できたそれは、
一つは、酷くヒステリックなもので。
もう一つは、とても小さなもの。
私の予想は、あたった。
姿を確認する事は出来ないけれど。
確かに、存在している。
湖底に。小さな命が。

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3.

湖の守り神ジラウバが、子供を育てている。
ジラウバは今まで、繁殖能力を持たずに永久なる命を誇る存在として崇められてきた。
その言い伝えを、覆す事実。
あの お婆さんを始め、ジラウバの存在を知る人々は、
明らかになったその事実に、驚きと喜びを示した。
何の事はない。
子育てする人間の母親が、ナイーブになるように。
ジラウバもまた、そうであっただけ。
暑い日が続く中、湖は涼みにくる人で毎日賑わっていた。
はしゃぎ声や笑い声。
普段は、それを暖かく見守っているけれど。
子育て中に耳に入るそれは、心をヒステリックにしてしまう不快なものだったようで。
「良かったわね。これで、おちついて子育てできるわ」
お婆さんの提案により、
暫く湖は、進入禁止になった。
静まり返った湖。
黒く染めた湖を元に戻して、ジラウバは満足そうに湖底へと帰っていく。
「…お前が来てくれて良かったよ」
湖底へと沈んでいくジラウバを見つつ苦笑して言う探偵さん。
また、そんな事言って。
私が来なかったら、強硬手段に出てたとでも言うの?
そんな事、絶対にしないくせに。知ってるんだから。
そうやって上手いこと言って、
また私に頼みごとしやすい環境を整えてるって事くらい。


折角誘ってくれたのに。デート、潰れちゃって。
申し訳ない事しちゃったわ。
この穴埋めは、いつか必ず。近い内に。
させてもらわなくっちゃ、気が済まないわ。
混乱が静まり、落ち着いた頃を見計らって。
武彦さんに事の詳細を告げた私。
暫くして、異なる世界の入口まで私を迎えに来た武彦さんは、
ズブ濡れの私を見て、大笑いした。
そんなに笑わなくてもいいじゃない…。
大変だったんだから。もう…。

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■■■■■ THE CAST ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

0086 / シュライン・エマ / ♀ / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員

NPC / ディテクター / ♂ / 30歳 / IO2エージェント


■■■■■ ONE TALK ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


こんにちは。いつも、発注ありがとうございます。心から感謝申し上げます。
気に入って頂ければ幸いです。また、どうぞ宜しく御願いします^^

2007/08/24 椎葉 あずま