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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


ブラザー・ソウル(後編)

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0.オープニング

尾行る、尾行る。妹を。
端から見りゃあ、妙な光景。
同行する共犯者も、そりゃあ苦笑い。
理解ってるさ。
ちょっと、異常な事くらい。
理解ってるさ。
プライバシーの侵害だっつぅんだろ?
理解ってるって。
でも、仕方ねぇんだ。
知る権利くらい、俺にもあんだろ。
妹が、どんな男と付き合ってんのか。
そうさ、これは兄として。
妹を案ずる兄として。
ちょっとした、お節介だ。
微笑ましい、お節介だ。

…そんな目で見るなよ。

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1.

零ちゃんのデートの尾行。
気乗りはしないけど、言い出したら聞かないのよね。武彦さんってば。
ちょっと、心配しすぎなんじゃないかなとも思うけど。
それだけ、零ちゃんを大切に思ってる証拠よねぇ。
まぁ、私も気にはなるし。
何だか、悪い気がして、心がモヤモヤはするけど…ね。
変装らしからぬ変装をした私達は、
公園の噴水前、手鏡を見ながら前髪を弄る零ちゃんを木の陰から窺う。
こうしてみると、本当…普通の女の子よね。
可愛いなぁ…。
私は、そう素直に思って微笑むけれど。
武彦さんは、そうはいかないみたい。
やたらと前屈みになって、顔をしかめてる。
さっきから、ずっと。
私はクスクス笑いつつ、武彦さんの背中を、どうどうと撫でて抑える。
「そんな怖い顔しないの」
パシンと背中を叩くと、武彦さんはクルリと振り返って。
私の目を見やり、切なそうに呟いた。
「…だって、お前。あれ、気合入れまくりじゃんか」
「そりゃあ、そうよ。好きな人に会うんだもの」
「………」
顔をしかめ、再び零ちゃんに視線を戻す武彦さん。
と、その時。
零ちゃんの彼氏が、やって来た。
えぇと…名前、何ていったっけ。
あ、そうそう。浩太くん。
浩太くんは、犬を連れてきている。
なるほど。あの犬が、いつも彼が連れてくるっていう愛犬ね。
柴犬だぁ。可愛いなぁ。


零ちゃんが身だしなみに気を使い、気合を入れてきたのと同じく。
浩太くんも、気合を入れてきたみたいね。
この間とは、随分違うわ。雰囲気が。
ハーフパンツに、Tシャツ。羽織る、グレーの半袖パーカー。
うーん。爽やかねぇ。
「犬もいて、良かったじゃない?」
ニコリと微笑み言う私。
武彦さんは、頭を掻きつつ苦笑するばかり。
そんな微妙な反応返しちゃって…。
素直に言えば良いじゃない。
はい、ぶっちゃけ 安心してます、って。ふふ。

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2.

零ちゃんと浩太くんのデートは、
見ていて自然と笑顔になっちゃうくらい微笑ましいもので。
散歩をしながら、おしゃべりしたり。
疲れたら芝生に座って、空を仰いだり。
浩太くんの愛犬も、零ちゃんに、とっても懐いていて。
零ちゃんは、すごく楽しそう。
何だか、懐かしい気分になっちゃうな。和むわぁ…。
ほのぼのとしつつも、私は仕事をキッチリとこなす。
急ぎ過ぎる武彦さんの足を、ふみっ!として抑えたり、
心を落ち着かせる為に、飲み物を渡したり。
デートの邪魔は、絶対にしちゃ駄目。
気持ちは理解るけど、それだけは絶対に駄目なんだから。
そんなこんなで尾行を続けて、数十分。
和やかなデートに、ほんの少しのスパイスが。
浩太くんが、躊躇いつつも。
零ちゃんの手を握った…。
「わぁ」
思わず漏れる言葉。
何だろう、これ。は、恥ずかしいなぁ。人事なのに。
妙に照れ臭くなってモジモジっとする私。
その隣で、武彦さんは眉を寄せて。
駆け出そうと一歩、大きく前に出た。
ハッと我に返り、私は武彦さんの腕を掴んで。
それを、止める。
「………」
振り返らずに、何とも言えぬ表情をする武彦さん。
まったくもう、油断も隙もありゃしない。
飛び出していって、どうするのよ。
手を握るな!とか言うつもり?
そんな事言う権利、ないのよ。私達には。


手を繋ぎ、仲むつまじく歩く零ちゃんと浩太くん。
二人が手を繋いだ瞬間から、武彦さんの様子がおかしい。
最初っから不機嫌だったけど…何ていうか。
不愉快不機嫌最高潮…みたいな。
私は、暴走を抑える為に繋いでいた手の、
握る力を少し強めて言う。
「ね。そろそろ戻ろ?」
私の言葉に、武彦さんは不愉快そうに返す。
「何でだよ」
「もう、いいじゃない。十分でしょ?」
「………」
納得いかないって雰囲気を、プンプンかもしだす武彦さん。
何だかなぁ。そこまで思い詰めた表情されちゃうと、切ないわ。
尾行の偽装に私も連れてきたんだろうけど…。
一緒に歩くの、少しも楽しくないの?
零ちゃんの事ばっかり気にして。
私と手を繋いで公園を歩いてる事には、
何の感情も湧かないの?
そんな事を思いつつ。私はふと気付く。
私の機嫌が悪くなったら、案外…冷静になるかも。
あーぁ。ほんとに何だかな。
いつものパターンよね、これ。
武彦さんって、私が不満を抱いてふてくされてたり、
ご機嫌斜めになってる事に、気付くの…ちょっと遅いのよねぇ。
はぁ…。
溜息を落としつつ、繋いでいた手を唐突にペッと離して。
私は、一人スタスタと帰路につく。
そこで、ようやく。
私の様子がおかしいと気付く武彦さん。
「お、おい。シュライン…」
慌てて追いかけてくる武彦さんの声を背中に受けつつ。
私は苦笑した。

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3.

引き上げるのが、少し遅かったわね…。
興信所前で、私達は、零ちゃんと浩太くんに遭遇してしまう。
尾行されていた事に気付き、苦笑する零ちゃんと、
恐縮そうにペコリと御辞儀をする浩太くん。
浩太くんは、並んで立つ私と武彦さんに歩み寄って。
ニコリと微笑み、挨拶をした。
「こんばんは」
「はい、こんばんは」
小首を傾げ、優しく挨拶を返す私。
そんな私とは裏腹に。
「おぅ」
武彦さんは、ただ一言そう言って、サクサクと所内へ戻って行ってしまう。
素っ気ない武彦さんの態度に、
ションボリと気落ちする浩太くん。
まったくもう…子供なんだから。
私は浩太くんの肩にポンと手を置いて言う。
「少し、入っていかない?」


リビングのソファに並んで座る零ちゃんと浩太くん。
私は二人に紅茶を差し出しつつ、謝罪を述べる。
「ごめんね。勝手な事して」
私の言葉に零ちゃんはクスクスと笑って。
「いいですよ。気付いてましたから。ね?」
そう言って、浩太くんを見やった。
はにかみ笑いを浮かべる浩太くん。
んー…そっか。気付かれてたか。
何ていうか…まだまだねぇ。私達も。
って、そんな事どうでもいいわね。
「ねぇ、浩太くん」
「…は、はい?」
「武彦さん、自室にいるから。ちょっと二人で話してきたら?」
「え、えぇっ?」
「お互いに、一個人としてよ。零ちゃんを介さずにね」
「…そ、そうですね」
ビクつきながら席を立つ浩太くん。
武彦さんの部屋に向かう浩太くんを心配そうに見やりつつ、
零ちゃんは呟く。
「大丈夫かな…」
「大丈夫よ」
確信から、即答する私。
武彦さんはね、ヤキモチをやいてるだけなの。
大切な妹を、突然奪われたみたいで。
寂しくなってるだけなのよ。
理解ってはいるの。浩太くんは、何も悪くないって事。
ただ、羨ましいのよ。
零ちゃんに、必要とされてる浩太くんが。
自分は、もう必要ないんじゃないかって思うから、余計にね。
そんな事、あるわけないのに。
まぁ…簡単に言うなれば。
零ちゃんは、めいっぱい愛されてるって事よ。


話を終えて、興信所を去っていく浩太くん。
彼の表情から、どうやら話した事で、蟠りが解けた事が窺える。
完全に、とはいかないだろうけれど…。
話した時間は、絶対、無駄にはなってないと思う。
私は武彦さんの部屋に行き、
暖かいコーヒーを渡して、微笑み尋ねる。
「どうでした?」
妙にかしこまった私の口調に、武彦さんは苦笑して。
「まぁまぁ…」
肩を竦め、素っ気なく返した。
ほんと、素直じゃないんだから。もう。
私はストンと武彦さんの隣に座り、
クスクスと笑いつつ、彼の手をそっと撫でやる。
唐突に手を離したりして、ごめんね。
その思いを込めて。
…まぁ、何ていうか。
大変ね。お兄さんも。
ごくろうさまです。

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■■■■■ THE CAST ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

0086 / シュライン・エマ / ♀ / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員

NPC / 草間・武彦 (くさま・たけひこ) / ♂ / 30歳 / 草間興信所所長、探偵

NPC / 草間・零 (くさま・れい) / ♀ / --歳 / 草間興信所の探偵見習い

NPC / 神崎・浩太 (かんざき・こうた) / ♂ / 16歳 / 零の彼氏


■■■■■ ONE TALK ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


こんにちは。いつも、発注ありがとうございます。心から感謝申し上げます。
気に入って頂ければ幸いです。また、どうぞ宜しく御願いします^^

2007/08/29 椎葉 あずま