コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>


ノストロカーデ・クッキー

------------------------------------------------------

0.オープニング

へぇ、なるほど。
この民族には、そんな風習があったのか。
古書を読みつつ、一人頷く あたし。
まぁ、ありきたりっちゃあ ありきたりだけど…。
場合によっては、楽しいかもしれないね。これ。

一旦手を止め、時計を見やり時刻を確認。
うーん。どうだろうね。暇してるかねぇ。
とりあえず、呼び出してみようか。

------------------------------------------------------

1.

突然の電話と、誘い。
シャワーを浴びた私は、濡れた髪を拭きつつ返す。
「生憎、私は暇じゃないんだ」
ところが電話の向こうで、蓮は断言する。
『いや。暇だね』
何なんだ、その自信は…。
呆れながら、私は続ける。
「願い事も、とくにない」
それなら仕方ない、他の奴に声をかけるよ。
普通なら、そういう展開になる確率が高いが。
こいつの場合は、そうもいかない。
『なら、あいつに言う事聞かせるチャンスだよ』
蓮は愉しそうに、そう言った。
顔は見えないが、ハッキリとわかる。
また、あの妖しい笑みを浮かべているのだろう…。
まったく、こいつは。
いつからか、私を弄る事を愉しむようになりやがって。
友人には、気に入られてる証拠だよとか言われたが…。
あいつに気に入られても、何のメリットもないだろう。
今日みたいに突然、暇潰しの誘いが飛んできたり、
頼みたい事がある、といいように使われたり。
それだけだ。
厄介な女に気に入られたものだと思いつつ。
何かしらの理由を挙げて断り続ける私。
けれど、蓮は一向に引かず。
あいつにさせたい事なんて、山ほどあるんだろう?とか、
好きな男が言いなりになるって、気持ち良いもんだよ、とか。
勝手な事ばかりをホザいた。
こいつは、根本的に勘違いしているな。
私が、草間に想いを寄せていると決め付けている。
もう、何度も言ってるが…。
私は、あいつの事なんて、何とも思っていない。
あんな、人を惑わせるような事ばかりする男を、
誰が好きになるか。好きになって、たまるか。
話している時間が無駄そのものだ、と悟った私は、
溜息交じりに、やむなく誘いに応じた。
最初から、理解ってはいたんだ。
断る事なんて、不可能だと。
悪足掻き?そうとも取れるな。
まぁ、久しぶりに菓子作りに勤しむのも。
悪くないだろう。

------------------------------------------------------

2.

「なるほど。こういう事か…」
カウンターに置かれていた古書をパラパラと捲り、納得する私。
「物分りが良くて助かるよ」
蓮は調理準備をしつつ満足気に言った。
ノストロカーデ。
異国の伝説的民族。
噂くらいは、聞いた事がある。
黒装束を纏い、右頬に『N』のタトゥーを刻む、
異国、北欧の民族だ。
この民族には、クッキーを焼く風習がある。
それも、まじない的な妖しげなものだ。
蓮は、これに食いついた。
まぁ…食いつかないわけがない。
願い事を託して、想い人に食べてもらうクッキー…というのだから。
私は呆れつつ古書を閉じ、調理準備を手伝う。
「お前って、暇な奴だよな…」
呟くように言う私。
蓮は私の肩をパシンと叩き、返す。
「付き合ってくれる、あんたも同類だろう?」
…言い返せないが。その言い方は、どうだ。
もう少し、感謝してくれても良いだろうに。
こんな戯事に付き合ってやってるんだから。


伝説的民族のクッキー作りを真似る。
とはいえ、作り方は、普通のクッキーと何ら変わらない。
願いを託す紙を入れる事くらいだ。異なるのは。
手際よく調理を進め、いよいよ。
願いを託す時を迎える。
「これをクッキーの中に入れて焼くのか…」
三角に切られた小さな紙を手に、なるほど、と頷く私。
「あんたの願い事は、何だい?」
ペンを渡しつつ言う蓮。
その愉しそうな顔。…感に触るなぁ。
自分は、何でも理解ってます、みたいな。
私はフイッと背を向け、蓮に見えぬように願いを託す。
託す…とはいってもな。さて、どうしたものか。
願い事か…そういわれても浮かばないんだよな。
蓮の言ったとおり、あいつに何かさせる…というのも、ちょっとな。
面白そうではあるが、自分の望む通りにして欲しいわけじゃない。
不満も文句も、数え切れないほどあるし、
口では散々、文句を言ったりするけど。
相手が相手のまま、ありのままで居てくれれば十分なんだ。
恥ずかしい事をさせる…のにも興味はあるが。
何の前触れもなく、そんな事させるのもな。
最近、あいつは零の事で気落ちしているし。さすがに不憫だ。
うーん…どうしたものか。
紙とペンを手に、思い悩み続ける私。
考えて考えて悩んで悩んで。
その結果、ふっと浮かび、辿り着いた答え。
何の面白味もないかもしれない、それは。
”私より、先に死なないで”
どんな人生を歩もうと、これさえ叶えば、他にはなにもいらない。
…って、これじゃあ、あいつと添い遂げるみたいだが。違うぞ。
もう、大切な人を失いたくないんだ。
…って、別に、あいつは大切な人なんかじゃないけどな。

------------------------------------------------------

3.

願いを託したノストロカーデ・クッキー。
焼きあがったそれに、私は苦笑した。
なぜ、ハートの形で焼き上がるんだ。
オーブンに入れた時は、そんな形じゃなかっただろう。お前は。
不気味というか何というか…妙なクッキーだな、しかし。
そんな事を思いつつ、クッキーを瓶に入れていく私。
ふと感じる視線に、見やれば。
蓮が、何ともいえぬ切ない表情で、私を見つめていた。
「何だ。気持ち悪いな」
瓶の蓋を閉めつつ、しかめっ面で言う私。
すると蓮は、何を言うわけでもなく。
私をキュッと抱きしめた。
「なっ、何だっ!?」
突然の事に驚き大袈裟に騒ぐ私。
手に持っていた瓶が、コトリとカウンターに落ちる。
蓮は、私の頭を優しく撫でつつ小さな声で呟いた。
「健気だねぇ…あんたってコは」
その言葉に、私は気付く。
こいつ、願い事…見やがったな。
自分のは頑なに見せなかったくせに。
卑怯な奴め。
心の中ではムカムカしつつも。
頭を撫でる蓮の手が、妙に優しくて。
私は何も言えず。
ただ、ジッと蓮に抱きしめられていた。
…何だかな。母親にあやされる子供みたいだ。


帰り際、聞かされたのだが。
このクッキーに託す願い事は、
クッキーを食した人物。
要するに、大切な人の魂を借りて願いを叶えるそうだ。
逸話の、まじないとはいえ…。それはどうだ。
私の願い事と、大きく矛盾するじゃないか。
…意味ないだろう。
私は苦笑しつつ、クッキーの入った瓶を懐にしまった。

------------------------------------------------------


■■■■■ THE CAST ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

2778 / 黒・冥月 (ヘイ・ミンユェ) / ♀ / 20歳 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒

NPC / 碧摩・蓮 (へきま・れん) / ♀ / 26歳 / アンティークショップ・レンの店主


■■■■■ ONE TALK ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


こんにちは。いつも、発注ありがとうございます。
気に入って頂ければ幸いです。また、どうぞ宜しく御願いします^^

アイテム『ノストロカーデ・クッキー』を贈呈いたしました。
アイテム欄を、ご確認下さいませ^^

2007/08/29 椎葉 あずま