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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>
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ノストロカーデ・クッキー
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0.オープニング
へぇ、なるほど。
この民族には、そんな風習があったのか。
古書を読みつつ、一人頷く あたし。
まぁ、ありきたりっちゃあ ありきたりだけど…。
場合によっては、楽しいかもしれないね。これ。
一旦手を止め、時計を見やり時刻を確認。
うーん。どうだろうね。暇してるかねぇ。
とりあえず、呼び出してみようか。
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1.
「いらっしゃい。悪いね、急に呼び出して」
カウンターで淡く微笑んで言う蓮さん。
私はニコリと微笑み返す。
「いいわよ。楽しそうだもの」
蓮さんから、突然の呼び出し。
それはもう、慣れたものだけど、
今回は、いつもと ちょっと違う内容だった。
魔物を始末してくれ、とか。
面倒な事になったから協力してくれ、とか。
いつもなら、そういう内容なんだけど。
今回は。
一緒にクッキーを作らないか?って内容だったの。
珍しいじゃない?そんなお誘い。
作るクッキーも、一風変わったものらしいし。
色んな意味で、興味湧いちゃったのよね。ふふ。
「一緒に御菓子作りなんて、初めてよね」
微笑んで言うと、蓮さんは一冊の古書を広げて見せた。
「そうだね。で、作るのは、これなんだけどさ」
蓮さんが見せてきた古書には、
ノストロカーデという民族の事が書かれていた。
掲載されているイラストを見る限り、
異国の…どうやら北欧の民族のようだわ。
「へぇ…こんな民族の逸話があるのね」
初めて見る異国の逸話を食い入るように見やる私。
ふむふむ、ちょっと変わった民族なのねぇ。
民族衣装なのかな。黒いローブみたいのを纏ってる。
何だか、妖しい民族ね。こういう雰囲気、嫌いじゃないけど。
で、蓮さんが作りたいクッキーっていうのが、これね。
ノストロカーデ・クッキー。
願いを託した聖紙”インゼ”を込めて焼く…と。
へぇ〜…。日本にもあるわよね、こういう おまじない。
あれ?あれって、どこから伝わったものなのかしら。
もしかして…元祖は、これ?
そうだったら、嬉しいかも。
ちょっと、賢くなれちゃうじゃない?
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2.
「作り方は、普通のクッキーと一緒なのね」
「そうだよ。簡単だろう?」
せっせとクッキー作りに勤しむ私と蓮さん。
ノストロカーデ・クッキーを作る!と言っても、
作り方は、普通のクッキーと何ら変わらない。
違うところを挙げるとするなら、
願いを託した紙を入れる事くらい。
まぁ、古書には”聖紙インゼに願いを託す”って書いてあるけど、
私達が使うのは、普通の紙。
聖なる紙なんて、持ち合わせてないもの。
それと、香り付けにノストロカーデ民族は、
願いを託す紙と同じ名前、インゼという花の蜜を使っていたようだけど、
私達が使うのは、普通のバニラエッセンス。
聖なる花なんて、持ち合わせてないもの。
そんなこんなで、実在していたかもわからない伝説的民族の、
クッキー作りの風習を真似ていく私達。
そして、いよいよ。
願いを託す時がやってきた。
これよねぇ、このクッキー作りのメインは。
「何を託すんだい?」
手を洗いながら微笑んで言う蓮さん。
その表情から、蓮さんの目的がコレだという事を実感する私。
「うーん…」
私はペンを持ちつつ、四角く切った小さな紙と睨めっこ。
願い事かぁ…そういわれると、パッと浮かばないのよね。
私って、こうしたい、ああしたいっていう願望が元々ないから。
そういうのは、自分で何とかするものだと思ってるから。基本的にはね。
でも、私も一応女の子ですから。
こういう、おまじないチックなの嫌いじゃないのよね。
とはいえ、願い事かぁ…どうしようかな。
思い浮かぶのは、やっぱり武彦さんの事なのよね。
でも、武彦さんとの事は、
自分で頑張れる事は、極力自分で頑張っていきたいから…。
うん、じゃあ…こんなのは、どうかしら。
”武彦さんに、幸運を”
思いついたまま、サラサラと紙に願いを託す私。
蓮さんはヒョイと、それを覗き込んで笑った。
「控えめなんだろうけど、貪欲とも取れるね」
…そう言われてみれば、そうかも?
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3.
願いを託した紙を、見えないようにクッキーの中に入れて。
オーブンの中へ。あとは、焼きあがれば、完成。
フンワリとバニラエッセンスの香りが漂う店内。
私はフゥと息を吐いて、軽く伸びをする。
意外と楽しかったわ。
蓮さんと料理…っていっても御菓子作りだけど、
そういうの初めてだったしね。
手際がよくて、ちょっとビックリしちゃったわ。
意外って事はないんだけど…。
蓮さんも、料理上手なのね。
「何だい。人をジロジロ見て」
私の視線に苦笑する蓮さん。
私はハッとして、首を左右に振る。
「ううん、何でも。楽しみね、仕上がり」
「そうだね」
「ところで、蓮さんは、どんな願いを託したの?」
「………」
私の質問に、フイッと顔を背ける蓮さん。
「あ、ずるい。自分ばっかり。教えてよ」
しつこく聞き出そうとするも、
蓮さんはスルーの一点張り。
あまりにもしつこい私に呆れたのか、
「そのうちね」とは言ってくれたけれど…本当かしら。
さてさて、焼きあがりました。ノストロカーデ・クッキー。
そんなつもりはなかったっていうか、
作ってる時は、全然そんな形じゃなかったのに。
焼きあがったクッキーは、見事にハートの形をしていた。
「うわぁ…あからさま」
焼きあがったクッキーを一つ手にとって苦笑する私。
「わかりやすくていいじゃないか」
蓮さんは、クッキーを瓶に入れつつ言った。
うん、まぁ、確かに。
大切な人に食べてもらう事で願いが叶うって事は、
武彦さんや零ちゃんに食べてもらうって事だから。
ハートの形でも、全然問題はないわ。
けど、何だろう。この感じ。
妙〜に、くすぐったいのよね。こういうの。
「あぁ、シュライン。言い忘れてた事があるんだ」
突然真顔になる蓮さん。
「なぁに?」
首を傾げて返すと、蓮さんは妖しく微笑みながら言った。
「食べた奴の魂を利用して願いを叶えるものなんだよ、これは」
「……え?」
「ほら。ここに書いてあるだろう?」
さきほど見せられた古書。
蓮さんは、それをパラリとめくって言った。
次のページにも、ノストロカーデ・クッキーの事が書かれていて。
そこには、確かに。
愛しい人の魂を借りる…的な事が記されていた。
「こ、これ…大丈夫なの?」
不安気に問う私。
だって、不安じゃない。
魂を借りる、だなんて。
その人の魂を変容させたり傷付けたりする可能性も否めないんじゃ…。
伝説民族の逸話とはいえ、そんなクッキーなら、
食べてもらう事なんて、できないわ。気分的に…。
しょぼんとする私を見て、蓮さんはケタケタと笑いつつ。
「そんなに気にする事ないだろう。ほら」
私に、瓶詰めされたクッキーを差し出した。
差し出されたクッキーを、躊躇いつつも受け取る私。
複雑そうな表情を浮かべる私に、
蓮さんは何度も言った。
「ただの、まじないだよ」
そうかもしれないけど…。うーん。
何だか、不安だなぁ。
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■■■■■ THE CAST ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】
0086 / シュライン・エマ / ♀ / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
NPC / 碧摩・蓮 (へきま・れん) / ♀ / 26歳 / アンティークショップ・レンの店主
■■■■■ ONE TALK ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
こんにちは。いつも、発注ありがとうございます。
気に入って頂ければ幸いです。また、どうぞ宜しく御願いします^^
アイテム『ノストロカーデ・クッキー』を贈呈いたしました。
アイテム欄を、ご確認下さいませ^^
2007/08/29 椎葉 あずま
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