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<東京怪談・PCゲームノベル>


鴉の濡羽色



 背中からかかった声。
 振り向くとそこにいるのは真っ黒い、鴉の濡羽色のような印象の人だった。
 彼は、自分は凪風シハルと空海レキハの先生だと言う。
 その佇まい、その雰囲気。
 静修院・刀夜のもとに現れたその人。
 刀夜は眉を一瞬、顰めた。
 何かが、引っかかる。
「二人がお世話になってます。ちょっと話がしたいんですけど、時間は大丈夫ですか? 教え子たちによくお会いしているようで」
「教え子……ねぇ……」
 それは本当に、といぶかしむような視線。
 だがただ見ているだけでは、わからない。
「まぁ、いいだろう。話をしようか」
「ありがとうございます。近くに公園がありますから、そこで」
 そう言って、歩いて行く背をみる。
 うさんくさい、そんな思いを胸に抱きながら。
 そして向かった公園で改めて退治する。
「申し遅れました、片成シメイと申します。静修院刀夜さん」
 シハルからあなたのことは聞いています、と言う。
「どんな風に、言われているのか気になるな」
「色々と、ですよ。先日、一緒に仕事をしたというのも聞きました」
「へぇ……」
「シハルは、なんだかんだ言いながらもそれなりに心許しているみたいですね」
 シメイは言って、目を細める。
「あなた、二人をどう思っていますか?」
「どうとは?」
 好き嫌い、その程度でいいのです、と答えが返ってくる。
「レキハはよく知らないからどうも思っていないな……」
 会ったのは一度、その時お互いの距離を縮めるような話をしたわけではない。
 どんな姿かと言われればしっかり思い出せるか出せないか、微妙なところだ。
「では、シハルは? あなたのことはレキハからは一度も聞いていない。でもシハルの口からはよく出てきますから」
 その答えは何となく予想していたのだろう。
 何も言わない。
「彼女は……シハルは面白そうな子だと思っている」
 ちょっとしたことで、すぐに表情を崩す。
 きっと今まで、こんな風に接されたことがなく、どうしたらいいのかわからないだろうと、感じる。
 どう対処するかは、そのうちきっと見つけるだろうが、それまではからかっているつもりだ。
「あなたにどう接するか、あの子はかなり困っているようでしたよ」
 苦笑するような声。
 そして、間が空く。
 どちらが先に何をいうか、図っているような状況だった。
「一つ、お願いがあるんです」
 お願いというよりも忠告かもしれないと付け足して、シメイは刀夜をみる。
 何を言ってくるのか、ふと身構える。
 穏やかに話をしているようで、気が抜けない。
 何かあればいつでも対処できるように、
気を張る。
「二人に関わるのをやめていただけませんか?」

 にこりと笑顔で言う。
 なんだそんなことかと思う反面、それを願われて、笑ってしまう。
 関わらないなど、できる気がしない。
「それは無理だ。二人がどう関わるか変わらないから約束できない」
 自分から関わることをやめるということは言わない。
 シハルとの関わりを断とうとは、思わない。
 自分で進んで、彼女に関わりに行くであろうことはなんとなく自覚していた。
「偶然もありますから、絶対にというわけではないんですが……いやならばそれはそれで」
 まぁいいか、と言う。
 どこか含みがあるような言い方だった。
「用はもう終わりました、時間とらせてすみませんでした。ありがとうございます」
 言いたいことだけ言って、帰るかのように背を向けたシメイ。
 ふっと風が二人の間を抜ける。
「ちょっと待て。一つ、聞きたいことがある」
 刀夜は、呼びとめる。
「難しい質問じゃない、すぐ答えられるようなものだ」
「なんですか?」
 立ち止まり、肩越しに顔を向けられる。
 早く言ってください、と無言でその表情は言っていた。
「二人を囲って何か、たくらんでいたりしないか?」
「たくらむ、ですか? そんなこと……」
 ないとは続かない。
 うやむやにするように言葉を切る。
 そして逆に、どうしてそんなことを思ったのかと問い返される。
「そんなに、先生には見えませんか?」
「二人とも人殺しまで請け負う何でも屋にしては余りにもアマチュア臭い」
 油断しているのではないのかと思うこともあった。
 本当にやっていけるのかと思うほどに。
「その、今までの口ぶりからすると……二人を見て楽しんでいるとしか見えない」
「楽しむ……二人の成長を見るのは楽しいですよ」
「そういう、楽しみではないような気がするんだが」
「気のせいですよ。あなただって、シハルをみて楽しんでませんか?」
「それは楽しんでいるが、きっとあんたと同じ楽しみ方じゃないと思う」
 そうですか、と笑いを含んだような声。
 少し、刀夜は眉をひそめた。
「また会うときがあれば、お会いしましょう」
 もう話は終わりですね、と言うように肩越しに向けられていた視線が消える。
 刀夜は、遠ざかるその背をみていた。
 なにか、これからありそうだと、感じながら。
「それにしても、シハルはどう俺のことを言ったのかな」
 今度会って、このことを覚えていたら聞いてみようと、心に留め置いた。




 静修院刀夜。
 凪風シハル、空海レキハ。
 そして片成シメイ。
 面白いと思う相手、よく知らないからまだわからない相手。
 そしてその二人の先生という者。
 ここがきっと第一歩。
 踏み込む、踏み込まないはまた、次に持ち越し。
 次に出会う時の関係は?
 それはまだ、わからない。



<END>



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】

【6465/静修院・刀夜/男性/25歳/元退魔師。現在何でも屋】


【NPC/片成シメイ/男性/36歳/元何でも屋】

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■         ライター通信          ■
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 静修院・刀夜さま

 今回は無限関係性三話目、鴉の濡羽色に参加いただきありがとうございました。ライターの志摩です。
 ぴりぴりとそれぞれ腹の探り合いしつつというイメージで進めていたのですが、その雰囲気がうまく出ていたらいういなぁと思います。
 またこれから、次からどーんと踏み込みの一歩です。どう転ぶか、また刀夜さま次第でございます!
 このノベルで刀夜さまが少しでも楽しんでいただければ幸いです。
 それではまたご縁があり、お会いできればうれしいです。
 ではでは、またお会いできれば嬉しく思います!