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[ rowdy watermelon!! ]
『冷蔵庫荒らしを捕まえた、子供の癖にどうやら常習犯らしい。俺の貴重な食料が――じゃ、なくてだ……』
全ては又…とでも言うべきか、草間武彦より入った一本の電話から始まった。
『いろんな人に会って勉強がどうたら言うんだが、まぁ問題はそんな所じゃ――ちょっ、お前ら待て!? 零、止めっ…』
――――プツッ‥ツーツー..。
通話は一度そこで切れる。しかし、勿論草間興信所ではこの後あらゆるものをひっくり返すほどの騒動が巻き起こっていた。
「だぁああっ、それを開けるな中身を持ってくな!!」
「兄さん、そんなに声を荒げて怒ったら……あっ」
武彦の怒声をよそに、小さな二人の侵入者は冷蔵庫の中で冷えていた小玉のスイカ二つを箱ごと持ち、興信所を飛び出していく。
「ああっ、依頼の謝礼が持ってかれ…たっ……折角今日食べようと…っ」
「美味しそうなスイカだったのに……残念ですね、兄さん」
「………………っ!!!!」
そして武彦は再び受話器を取った。
『冷蔵庫荒らし(妙な子供二名)がスイカ二玉を強奪、現在逃走中。捕まえてくれた奴には一割くらいは……くれてやる、取り戻してくれ!』
秋を目の前にした草間興信所、そこはもはや季節問わず…毎度食べ物に悩まされる場所である。
一方、まんまとスイカを手にした子供二人は
「スイカ割りー!! やってみたかったんだ、海辺でぱかーんって!」
「……スイカ…でも、勝手に持っていっちゃっ……それに何か、変だよ」
「変?」
「だってほら…手足が――――」
二人が覗き込む箱の中身、それは確かにスイカなのに。
そこには確かに手足と顔が存在した。二人にとってはあまりにも衝撃的な初体験であり。
「坊主に嬢ちゃん、そんなに浜辺でオレらと遊びたいのか?」
「割れるもんなら全力で割ってみな、このアタイらをね」
それは同時に興味をも持つ。
しかし 海まではまだまだ遠い……。
□□□
武彦から電話を受け取りはしたものの、ビーチバレーの試合を間近に控えていた彼女――藤田・あやこ(ふじた・―)は、そんな現場の騒ぎとは離れた海に居た。正しくは砂浜だ。
マリンブルーのビーチバレービキニをその身に、暑い夏、灼熱の太陽の下での白熱した戦い。普通であれば、他の何も眼には入らないだろう。
しかしソレは、あやこがすっかり試合に熱中し、電話の事など忘れた頃に突然やってきた……。
その時ばかりは試合中にも関わらず、思わずボールから目を離してしまうほど奇怪な光景を見たとあやこは思う。視線の先には走るスイカを追いかける妙な格好をした人物が二人。
「もしかして――――まさか、アレが?」
予感はやがて確信へと変わっていく。スイカを追いかける姿は、揃って紫の髪と似た和服を着た双子。恐らく武彦が言っていた子供二人というのに違いない。ただし、手足のはえたスイカという話は全く聞いた覚えが無かったが……。
あやこは現在進行中の試合を急いで勝利で終えると、その姿を見失う前に急いで後を追いかけることにした。
「ちょっと、あなたたち?」
「……はい?」
「なに?」
あやこの言葉に二人は足を止めすぐ振り向いた。すると、先を走っていた西瓜もピタリと足を止める。なんとも奇妙な光景だ。武彦はあんな西瓜を取り戻せと本気で言っているのかと、半ば疑いたくなるような物だった。
ただそればかりはあえて声には出さず、あやこはスイカを取り戻すためにまず双子の気を惹こうと、その場にしゃがむと手招きする。
「あんな西瓜なんか放置してこっち……」
そう言いながら、興味津々に近寄ってきた二人に、クーラーバックの中身を取り出しそれを見せる。
「当カフェバー特製の西瓜パフェ、コレを食べない? あんな動いてる西瓜より、こっちの方が絶対美味しいし!」
それは自分のおやつにと持参していたものだった。勿論味には自信も保障もあってのこと。ただ、二人はそれをジッと見た後目を合わせ、再びあやこを見た。
「うーん、でもあたしたち食べるより今は割りたいし! 割ることに意義があるの。だからいらない。あ、でもおなかは空いてるから、もらえるならほしいかも……あそこの事務所冷蔵庫、このヘンなスイカしかなかったし…」
まず口を開いたのは少女のようだ。ただその意思はしっかりしており、簡単にスイカを返す気も無ければ、挙句には奪い取ったものを割るという行為まで考えている。
しかし、その少女に対しもう一人――少年は、少し気弱そうな声で小さく少女に話しかけた。
「ヒコボシ……そうじゃなくて名前も全く知らない人から物を貰うのはあまり…それにもうあの西瓜二時間は捕まえられないし…そろそろ割ることは諦めて――」
「ダーメ、これくらいで諦められないの! ぱかーんっていくんだからっ」
ヒコボシと呼ばれた少女は、言いながら両手を振り上げスイカ割りをする仕草をする。
「……割ることがそんなにお好みなの?」
「もちろんっ」
「そう……でも、ただ追いかけてるだけじゃ拉致が明かないんじゃない?」
あやこの言葉には、すぐさま少年が同意した。
「僕もずっとそう言ってるんで――」
「それはそうなんだけど、そう言うからには何かいい案でもあるの?」
少年の言葉を遮ったヒコボシの台詞は、子供の割には挑発的だ。あやこは一瞬言葉に詰まるが、次の言葉が出るまでにそう時間は掛からなかった。
「案ならいくらでも。ただ、あんなの見たことないから何がどう成功するかは分からないけど、二つ三つは成功するでしょう」
自信満々の言葉と声色に、ヒコボシが思わずヒューと口笛を吹いてみせる。どうやら彼女からすれば悪くは無い話らしい。ヒコボシたちにはそれまで案という案が無かったせいだろう。少年は少年で、あやこの登場によりこの事態が終わるかもしれないと、早くも僅かながら安堵したように見えた。
そんな二人を見て、あやこはようやく自己紹介をする。
「遅くなったけど、私は藤田あやこ。あなたたちは? って言っても、女の子の方はヒコボシでいい?」
「そう、あたしがヒコボシでこっちはオリヒメ、よろしく」
ようやく紹介されると、少年はあやこを見ると頭を下げ小さく言った。
「よろしく…おねがいします」
「うん、よろしく」
協力の証しと言わんばかりに握手をすると、三人の後ろからまだあやこの聞いた事の無い声が届く。
「おいおいなんだ? オレらに許可無く参加者が増えるのか?」
振り返ると、視線の先には何も居なかった。ただ声だけが――。
「ま、何人増えようがアタイらの敵じゃぁないけどね。しかもなんだい、力のなさそうなオンナじゃないかい」
否、それはもうあやこのすぐ足元に居た。勿論さっきから双子が追いかけ続けていた、二玉の動くスイカだ。
「うわっ、妖怪西瓜!?」
思わず漏らしたあやこの言葉に、一玉が明らかに機嫌を悪くした。その声は女のもので、あやこを見る目つきは鋭い。
「なんだいこのオンナは、アタイらただのスイカに向かっていきなり失礼だね」
どこが『ただの』なのか、突っ込みたい気持ちを抑えながらも、あやこは不適な笑みを浮かべた。
「いつまでそう言ってられるか…今の状況で三対二だし、こっちには大人が入ったんだから負けるわけ無いでしょ?」
「まぁ、どれだけ増えようがオレらの敵じゃねぇことに変わりはない」
あやこと女の声を発するスイカ、その女同士の醜い争いが始まる前に、男のスイカが間に入り進行していく。
「で、ルールだな。そこの嬢ちゃんに坊主はもう二時間、オレらを捕まえられずにいる。そこで、ネエチャンも二時間以内でオレらを捕まえられない、もしくは割ることが出来なければ負けだ」
「負けって…え、どういうこと?」
あやこの問いに、スイカは手を組み強気な口調で言ってみせた。
「オレらは他の人間の元へ行き、より強い者に割ってもらうことにする」
「えええええ、それって、もうあたしたちは割っちゃダメって事!? そんなの言ってなかったじゃん!」
スイカの言葉には、あやこが何か言うよりも先に、ヒコボシの怒声に近い声が反論する。
「嬢ちゃんがやりたいなら好きにすれば良い。此処はオレらの最も得意とする舞台、砂浜だ。そんな場所で出来るもんならよ」
「………………」
「ふんっ、どうだい、やっぱり怖気ついちまったかい」
黙りこくったあやこに、再び女のスイカが噛み付いた。しかしあやこは、足元で早くも勝った気で居る二玉のスイカを見下ろすと、一度双子を見、そして笑みを浮かべスイカに言い放つ。
「ううん、役不足で物足りないくらい」
かくして、海辺での奇妙なスイカ割りが幕を開けたのである。
□□□
「二時間なんて掛からずとも、あっという間に終わらせるんだから」
そう意気込むと、あやこは鞄の中から水鉄砲を取り出しスイカに向けて発射した。とにかく始めの内は攻撃し続け、勢いを自分のものにしてしまうのが大事だと思ってのことだ。
「おっと!」
「ん、なんだいコレは?」
その勢いのお陰か、片方のスイカは走りながらも軽々避けて見せたが、もう片方のスイカは見事その足元にソレが命中する。
「え、え? 何、アレ何やったの!?」
ヒコボシが興味深そうにあやこに問い、彼女は嬉しそうにそれに答えた。
「液体トリモチ! これでまず一つ足止め出来たで――」
「甘いねぇ。考えてもみな、此処は砂浜だよ。足に多少ヘンな液体が掛かろうがくっ付くのは砂くらいさ」
しかしあやこの台詞を遮りスイカはそう言うと、再び砂浜を走り出す。確かに、その細い足に付いたトリモチには既に大量の砂が付いていて、その砂のせいでトリモチ本来の効果が薄れてもきている。
「ううーん……意外に強敵?」
「あたしが二時間かけても捕まえられなかったんだからな、当たり前!」
スイカの片割れを追いかけるヒコボシが、あやこを見てはそう叫ぶ。
「っ、分かってる。次!」
言うや否や、あやこはスイカの居る方向とは間逆へと走り出した。
「あ、あのっ……! に、逃げてしまったんでしょうか…」
「もー! オリヒメもスイカ捕まえるの手伝う!」
そう言って両手に持っていた棒の一本をオリヒメに放り投げる。勿論それで割れという意味だ。
一方のあやこは、双子とスイカのもとを離れると最初の場所に戻った。ビーチバレーの試合をしていた場所だ。朝から行われていた試合は、太陽が真上に昇ってくると同時、熱中症対策にと一時停止となる。そのコートからネットを拝借すると、急いで元居た場所へと戻った。
それほど時間を要したつもりは無かったが、既にヒコボシは息を切らせ、オリヒメは日陰に入り背中で息をしている。よくも考えてみれば、二人はこの前からスイカを追いかけ続けていたのだ。
「もう限界ってところかな……」
呟き、ネットを握る手に力を入れる。
「なんだい、またしょぼい武器を持ってきたもんだね。そんなもので捕獲しようってのかい? 少しは頭を使いな?」
あやこの姿に気づいたスイカが挑発的な言葉を口にする。しかしそんな言葉は相手にせず、あやこは携帯電話を取り出した。
「なんだなんだ? この期に及んで助っ人でも呼ぼうってか? ま、二時間以内で間に合うならば良いけどよ。どうせ二対一になっちまったしな」
もう一玉のスイカの言葉さえも無視したあやこは、電話帳から一つのメモリーを探し出し表示させると、通話ボタンを押す。何度かコールが鳴るものの、すぐ留守番電話に繋がりそうにはなく、根気よく電話の相手が出るのを待った。やがて、ようやくコールが終わる。
「あ、もしもし――うん、今大丈夫? ――…そうそう! 海岸にいるから、よろしくね」
電話を切ると同時、あやこはスイカに人差し指を突き刺しながら言う。
「ふっふっふ…時期に助っ人が来る、それまでに私がどちらか片方でも捕まえるか割れれば……勝負は付く!」
「あやこちゃーん!」
「え、早っ!?」
声は数分と経たずして聞こえた。見れば、遙か彼方からSHIZUKUが走ってくる。
「ヘンなスイカ見たって情報聞いて、この近くで丁度ロケしてたんだ。もしかしてアレがそうなのかな?」
興味津々な所はどこかヒコボシと重なって見えたものの、かぶりを振るとあやこは改めて今までの経緯と今後の作戦を事細かに説明した。するとSHIZUKUは少し考えた後、顔をあげあやこに言う。
「――そっか…ちょっと車に色々取りに行って来るね。すぐ戻ってくるから」
「なんか助っ人来たならあたし休んでる……」
そして来て早々その場を去ったSHIZUKUを見て、ヒコボシは弱弱しくもオリヒメが休む日陰へと避難して行った。
戻ってきたSHIZUKUはその手にマイクを持っている。
「もう滅多に無いんだけどね、車の中にあってよかったよかった!」
コードのついたマイクである。そのコードを投げ縄にして捕獲しようというのがあやこの考えだった。
声に出さずとも、互いに見詰め合うと頷き、同時に地を蹴る。最初に大きく動いたのはSHIZUKUの方だった。
「全く、女ばっか増えて嫌だね。どうせならこう、若いオトコってもんをだね!?」
言いながら、向かってくるSHIZUKUに眼を向ける。
「よいしょ!!」
ステップを踏むと、SHIZUKUは手にしたマイクのコードを手早く輪にしてスイカに投げる。スイカはそれを空中回避であっさり避けるが、いつの間にか羽を広げ上空に移動していたあやこがそれを阻止した。
「っ、飛べるのかい!? 卑怯なっ!」
「卑怯も何も、何も禁止されてないっと!」
上空へと逃れてきた女のスイカ、それを先ほどのネットで手早く捕らえると、「まずは一つ!」とSHIZUKUにピースサインを出して見せる。
「畜生…このアタイがオンナに捕まるなんてね……せめて食べられるならあの坊やか、他のイイオトコにしてお…く――」
最後まで言い終わらずして、女のスイカは意識を失った。それは手足や口も無くなり、ただのスイカに戻ったことをも意味する。しかしながら、まだ片方のスイカはその意識を持ったまま。ただ、予想もしない事態に複雑な表情を浮かべているのは分かった。
「残り一時間ちょっと。数も有利だし、私たちに勝算あるんじゃない?」
早くも勝利の笑みを浮かべたあやこだが、此処からは思いの外時間が掛かってしまったかもしれない。
既にSHIZUKUとあやこの連携は見破られたのに加え、完全捕獲が出来るネットはもう手元に無い。ここからは捕獲よりも、割ることを優先して考えた方が良いのかもしれなかった。その証拠に、日陰で少し休み元気になったのか、ヒコボシが帰ってきては一本の棒をあやこに差し出す。
「これで割るといいから」
「ん、ありがとう?」
見ればヒコボシはもう一本棒を手にしている。もしやと思い問えば、やはりヒコボシも再び参戦すると、棒を握る手に力を込めた。
そこからはあやこの魔術も含め、砂浜が崩壊するのではないだろうかという勢いの戦いが巻き起こる。無数にあけられた落とし穴や、突如巻き起こされる竜巻。周りの海水浴客はとっくに避難し、辺りにはもうあやこたちしか存在しなかった。
それでも最後まで地上からはヒコボシとSHIZUKUが、そして上空からはあやこが諦めやしない。
「「「絶対割る!!!!」」」
三人の気持ちは一つとなり、残りのスイカに襲い掛かる。
決着は、空が夕焼けに染まる前……勝負の制限時間よりも早くつくことになる――。
□□□
「……それで?」
「それでって?」
陽は沈み、場所は草間興信所。
「俺のスイカはどうしたんだと聞いている」
苛立たしげに火の点いていないタバコを銜えたまま、武彦はソファーで寛ぎながら報告をしてくるあやこに問う。
「三人で一気にスイカに襲い掛かったですよ。まずSHIZUKUが破れかぶれな投げ縄で…それでもそれが見事にスイカの片脚を取って、私が上空から突くと、下からはヒコボシが!ってそれはもう素敵な連携プレイで、最後のスイカも見事に割ってみせたんですよ」
得意げに話すあやこに、机をトントンと叩いていた人差し指がピタリと止まった。
「だから、スイカは!? どうして此処に無いんだ……っ」
珍しく威圧的な態度の武彦から、食べ物の恨みがどれだけ大きなものか誰もが理解するだろう。しかし、試合で勝ち上機嫌だった上でのデザート確保にホンの少し、浮かれていたのかもしれない。
「だから結果的にはヒコボシが割って、そしたら双子が凄い勢いで食べ始めちゃって。対抗して皆で食べたって、さっきから言ってるじゃないですか」
「…………俺は捕まえて取り戻せと…言ったはずなんだがな。何も、無いんだな……?」
ゆっくりと上げた武彦の顔。あやこはそれを見て笑顔で言う。
「まぁ、終わったことはしょうがないじゃないですか。そんなにスイカが欲しいなら、当店の西瓜パフェくらいなら奢りますから」
――――ぷちんっ。
と、何かがどこかで切れる音。
「おまえはああっ――!!!!」
続いて響いた恨みの声は、近隣のあらゆる場所へとこだましたらしい…‥。
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
[7061/ 藤田・あやこ /女性/24歳/女子高生セレブ]
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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初めましてこんにちは、ライターの李月です。
このたびはご参加ありがとうございました。舞台が頭から海ということで、個別で、途中からはSHIZUKUとの共同戦+ヒコボシとの連携になりました。お届けが大変遅くなってしまい申し訳ありませんでした。
かなりじゃじゃ馬寄りになってしまったかな?というのと、口調に多少不安が残る所ですが、少しでも楽しんでいただければ幸いです。
それでは、又のご縁がありましたら…‥。
李月蒼
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