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<東京怪談ノベル(シングル)>


一昨日

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いやぁ、疲れた。
ひっどい人込みだったな。
予想はしてたけどよ。実際目の当たりにすっと、なぁ…。
まぁ、何だかんだで楽しかったんだけど。
俺はな。
シャワーを浴びてサッパリし、ソファにグタッと座って煙草をふかしつつ。
一人、余韻に浸っていると。
「はふ〜…」
同じく、シャワーを浴びてバスルームから出てきたシュラインが、
タオルで塗れた髪を抑えつつ、リビングにやって来た。
俺は「お疲れ」と労い、自身の隣を ぱむぱむと叩いて促す。
シュラインは自然な足取りで俺の隣にストンと座って。
化粧水やら乳液やらを肌に塗り始める。
そんなん、後でもいいだろうに。
そう思うも、俺は、それを口にしない。
以前、同じような事があって指摘したけれど、
即答されたからな。
”ケアを怠ったら、酷いんだから”って。
あの時の必死な顔ときたら…くくく。
思い出し笑いをする俺を見やり、
シュラインは不思議そうな顔をして言った。
「なによぅ」
「や。何でもねぇよ」

「楽しかったね。お祭り」
微笑み言うシュライン。
俺は煙草を灰皿に押し付けて返す。
「おぅ」
お前も、そう思ってるなら。何よりだ。
あいつに世話をやかれて、連れて行ったものの。
実際、ちゃんとしたデートなんて久しぶりだったからな。
正直、不安だったんだ。
お前が、ちゃんと楽しめているかどうか。
お前は気付いていないかもしれないけど、
俺は必死だったんだぞ。チラチラと顔色を窺ったりして。
何やってんだかな…って何度思ったことか。
「また来年も、一緒に行こうね」
ニコリと微笑み、言うシュライン。
その言葉の威力ってのは凄いもんで。
いつも、そうだけど。
お前が”また”っていう言葉を使うと、心から安心する。
実感できるんだ。不備はなかったんだな、って。
…どんだけ、必死なんだ。俺は。
苦笑しつつ、俺は飲み物を取りにキッチンへ向かう。
私がやるよ、と立ち上がりかけたシュラインを抑えて。
たまには、俺に何でもやらせてくれや。
今日は、折角デートを楽しんだわけだし。
最後まで、エスコートさせてくれっての。




飲み物を取りにキッチンへ行った武彦さん。
私は一人、ソファでフゥと息を漏らして余韻に浸る。
楽しかったな、ほんと。
最近、何かと忙しくて。二人でゆっくりデートする時間なんて作れなかったものね。
誘ってくれて、嬉しかったし。
お祭りも素敵で、文句なしよ。
百点満点、あげちゃう。なーんて。
キッチンから聞こえる、飲み物を準備する音。
グラスに氷を落とす武彦さんの姿が、僅かに見える。
静かな夜。
目の前に、愛しい人。
当たり前と化している日常に。幸せを見出す私。
微笑み武彦さんを見やっていると、
ふと私は、思い出した。
お祭り会場で、擦れ違った某店の店主さんと、武彦さんの意味深な遣り取りを。
…何だったのかしら。あれ。
武彦さん、楽しそうに笑ってたのよね。
楽しそうっていうか…何ていうか、こう。ニヤニヤしてたっていうか?
人込みと、お祭りの雰囲気に流されてしまったけれど、
そう。確かに、ちょっと変だったのよね。あれ。
一体、何があったのかしら…。
思い当たる節を探し始めて、ほんの数秒。
私はハッとする。
先日、某店で自分が話した内容を思い出して。
え。嘘。もしかして、アレ聞いたのかしら。
っていうか、それしか思い当たらないわ。
うわぁ…。
急に気恥ずかしくなった私はパッと立ち上がり、
武彦さんに何も告げず、パタパタと自室に逃亡。
予想が的中してて、聞いてたとしても。
どこまで聞いたかよねっ…。
で、でも…あの人の事だから、全部包み隠さず聞かせたに違いないわ。
…そうだとしたら。
武彦さん、あんまりにも普段どおり過ぎじゃないかしら。
あの話…未来に関して…その気がないとも取れちゃうわよね。
で、でもなぁ。
もしかしたら、もしかしたらだけど。
話を聞いた上で、何か突っ込もうとして。
デートに誘ってくれた、とも考えられるわよね。
って、これ、ものすごいプラス思考じゃない?
やだ。私、そんな…これじゃあ、期待してるみたいじゃない。
自室のベッドの上、コロコロと転がりながら枕をギューッと抱きしめて一人悶える私。


…何やってんだ。あいつは。
飲み物を持ちつつ、シュラインの部屋を覗き込んで苦笑する俺。
どこ行ったのかと思えば、自室で一人楽しそうにしやがって。
まったく…。
「楽しそうなところ申し訳ないが、入るぞ」
俺はクックッと笑いつつ言って、シュラインの部屋に踏み入る。
するとシュラインはガバッと起き上がり、
ベッドの上で正座をして神妙な面持ちで言った。
「ど、どうぞ」
何で、どもってんだよ。
笑いつつ、持ってきた飲み物をテーブルの上に置く俺。
用意された飲み物を見て、パッと明るくなるシュラインの表情。
やたらと気にいってたからな、お前。
星屑ワイン。
温くなっちまったから、氷に漬けて。
今夜も暑くて寝苦しいだろうからな。寝酒に、ピッタリだろ。
俺はグラスにワインを注ぎ、それをシュラインに渡す。
シュラインは、グラスを受け取りつつ、祭りの時と同じように。
キラキラと輝く瓶にウットリしている。
俺はシュラインの隣に座り、一方的にグラスをカチンと合わせて。
ワインを一口、口に運んで問う。
「何やってたんだ、さっき」
するとシュラインはハッと我に返って。
「ん。んー…?」
物凄く下手くそに、話をはぐらかした。
その姿に、ケラケラと笑う俺。
お前って、ほんと。わかりやすいな。
お前が、そうやって、様子がおかしくなる時。
そういう時は、確実に、俺が関わってる時なんだよなぁ。
そうと知ったら、はぐらかさせるわけにはいかねぇよ。
俺はグラスをテーブルに置き、
シュラインの顔をグイッと自身の方に向けて言う。
「何だよ。言ってみろ。ん?」
その口調から、シュラインは察する。
俺が、気付いている事に。
何に悶え、キャピキャピしていたかを。
シュラインは観念して。
俺の目をジッと見つめて小さな声で言う。
「えぇと…一昨日なんですけど」
「うん」
「何か、聞きました?彼女から…」
深刻な表情。
恐る恐る、探るような口調。
何を、そんなに臆病になってんだ。
俺はクックッと笑い、返す。
「聞きましたよ」
かしこまった口調を真似て。




全部、聞いたよ。
っていうか、聞かされた。
お前の想い、痛いほど伝わってきたよ。
お前も、ノロけたりするんだなって思ったよ。
嬉しくもあり、恥ずかしくもあり…だな。
でも、お前が気にしてるのは。
ノロけを聞かれた事じゃない。
その辺、オープンだからな。お前は。
聞かれりゃあ、喜んでノロけるんだろうさ。
だから、そこじゃない。
お前が、気になってるのは…。
アレだ。結婚うんぬん…その辺の事だろ。
ま、そういうのにガツガツしている女は、度を越えると醜いもんだからな。
お前が不安がるのも無理はない。
けど、俺はお前を醜いとは思わないよ。
寧ろ、驚いたんだ。
割とアッサリしてるお前も、そういう話をするんだなぁという事に。
ジッと俺の顔を見つめるシュライン。
その眼差しから受け取れるのは、
ささやかなる期待。
何も、不思議な事じゃない。
そういう願望が、全くナイ女なんていないはずだ。
困りはしない。
お前の事は、本当に大切に思ってる。
できることなら、ずっと。
お互いジジィババァになるまで、一緒にいたいと思ってる。
でも。
今じゃない。
未来を誓う言葉を放つのは、今じゃねぇんだ。
真面目だからな、俺。
こういう事に関しては、特に。
だから。
俺は、何も言わない。
お前は、何かを期待しているのかもしれないが。
言ってやんねぇ。
言うのは、簡単だ。
すぐにでも、言えるさ。
そういう心構えは、済んでる。
でもな、タイミングが。ちょっと違うからな。
俺はハハハッと笑い、シュラインの頭をワシワシと撫でやる。
突然笑い出した俺に、シュラインは不思議そうな顔。
残念そうな表情ともとれる。
悪ぃな。そんな顔されても。
今は、どうにもなんねぇよ?
っつか、お前の、その物欲しそうな顔。
いいね。
俺はヒョイッとシュラインを抱きかかえ、不敵に笑う。
「ワ、ワイン、まだ飲んでないの」
腕の中で、テーブルに置かれたワインを見やりつつ、恥ずかしそうに言うシュライン。
「もう、眠くてしゃーない」
俺は笑いながら、そう言って。
シュラインを抱きかかえて、自室へ運ぶ。


ほんと、お前は可愛いよ。
ちょっとした事で、ここまで困惑しちまうんだから。
まぁ、それだけ、俺の事を想ってくれてるって事だから、
嬉しいよ。あぁ、嬉しくて、仕方ない。
だから、お前が聞きたい言葉。
聞かせてやるよ。
今はまだ、口には出さずに。肌で。
涼しげな風鈴の音の中。
もう聞き飽きたと、お前が根を上げるまで。


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■■■■■ THE CAST ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

0086 / シュライン・エマ / ♀ / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員

NPC / 草間・武彦 (くさま・たけひこ) / ♂ / 30歳 / 草間興信所所長、探偵


■■■■■ ONE TALK ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


こんにちは。いつも、発注ありがとうございます。
気に入って頂ければ幸いです。また、どうぞ宜しく御願いします^^

2007/08/22 椎葉 あずま