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<東京怪談ノベル(シングル)>


介抱と自問自答

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あいつらときたら、本当…とんでもない。
人に無理矢理 頼みごとをして、
恥ずかしい思いをさせて。
挙句、放置。
”後は奴に任せよう”とだけ言い残し、
そそくさと揃って店を去っていきやがった。
店主だろうが、貴様はっ。
店を放り出すなんて、何を考えてやがるっ。
イラ立ちはするものの。
今の私は、酷く不恰好だ。
動けない。
立ち上がる事さえ、できぬほどに困憊している。
それも当然だ。
あんなに、恥ずかしい思いをしたのだから。
なかった事にしたい。そう、心から思うが。
肩に乗り、ピィピィと可愛らしく鳴く夜色の小鳥が…。
それを阻む。逃れようのない現実だと、言い聞かせる。
ガックリと肩を落として溜息を落とした時だった。
カランカラン―
店の扉が開く音。
私はパッと顔を上げて扉を見やる。
すると、そこには草間がいて。
「あっはははは。マジでヘタッてんのな」
笑いながら私を見やる。
本当に迎えに来るとは思っていなかった。
私は慌てて立ち上がり逃げようとするが。
力が、入らない。
「無理すんな」
苦笑しつつ、私に歩み寄る草間。
「く、来るなっ!近寄るなっ!」
自分の情けなさに嫌気がさし、
気恥ずかしさも重なって、心ない言葉を放つ私。
けれど草間はヘラッと笑って。
「何か、色っぽいんですけど」
そう言いつつ私を背中に背負う。
「は、離せっ」
背中でジタバタと暴れるも。
草間は苦笑するばかりで、離そうとしない。
確かに、離されたところで、今の私は、どうしようもない。
床に落ちて、そのまま動けなくなるだけだ。
…っくそ。
私は舌打ちをしつつ、草間の首に手を回す。
ギュッと、少し強めに。
「うぉぃ。殺す気か」
苦しそうに笑う草間。


草間に背負われ、店を後にする私。
道中、纏わりつく小鳥の可愛らしいこと…。
羞恥を誤魔化そうと、私は草間に言う。
「重いだろう」
けれど草間は、ケラッと笑って返した。
「いや。全然。寧ろ、心地良い重みですよ」
「んなっ…」
「胸と太股の感触が、たまりませんわ〜」
「…!」
どこのエロオヤジだ、貴様はっ。
ヘッドロックをきめる私。
草間は笑いながらギブギブ、と私の太股を叩いた。




夜色の小鳥は、何故か草間に懐き。
草間の頭にとまって羽を休めたり、
草間に話しかけるように鳴いたり。
そんな小鳥に、草間は笑って。
何度も「こいつは素直だなぁ。誰かさんと違って」と呟いた。
は、話を逸らさねば。
身がもたない。
そう思った私は、報酬として貰った指輪を取り出し。
それを草間の目の前に持っていき、言う。
「身のこなしが軽くなるそうだ。お前にくれてやる」
「何だよ、それ。俺が動き鈍いみてぇな」
「鈍いだろう。最近、煙草の吸い過ぎと歳の所為で」
「………」
苦笑しつつ肩を竦める草間。
知っているんだぞ。
ちょっと動いただけで、息切れしている事くらい。
フンと勝ち誇ったように鼻で笑う私。
すると草間はパッと指輪を私の左手から奪い、
そのまま、私の左手薬指に。指輪をはめた。
「どっ…どこ、はめてっ…」
カッと頬を染める私。
ハハハと笑う草間に、覚える苛立ち。
何なんだ、貴様は。
何なんだ、私は。
まるで、掌の上で転がされ弄ばれているような感覚に。
私は、わけもわからず、ギュゥッと。
奴が苦しいと根を上げる位。草間に全力でしがみ付いた。


最近のお前は、ほんと可愛いよな。冗談ヌキで。
ほんとに、そう思う。心から。
いつからだろうな。
お前が、俺に。やけに素直になったのは。
お前を、俺が。やけに惑わすようになったのは。
「わ、私の家は…こっちじゃないぞ」
ギュッとしがみつきつつ、小さな声で言う冥月。
俺はヘラッと笑って、返す。
「家に帰す気は、ねぇよ?」
「…は?」
「可愛すぎるから」
「…は?」
「テイクアウトします」
「なっ……」
ほら。また。まただ。
お前は、キュッと目を閉じる。
目を閉じて、俺にしがみつく。
更に、力を強めて。
昔なら…っつっても、そんなに昔じゃねぇけど。
知り合った頃なら、ありえなかったよな。
こんな事言ったもんなら、問答無用で、はっ倒されてただろ。
ふざけるな、とか何とか言ってよ。
もう、原型を留めないくらい殴られてボッコボコだったんじゃねぇか、俺。
うん。お前は、変わったよ。
今、そう実感した。確信っつーか。うん。
変わった。
お前は、認めないかもしれないけれど。
確かに、変化を遂げてるよ。
その変化に、戸惑っているんだろうな。
お前は。認めたくないが故に。
別にさ。それが悲しいわけじゃない。
悲しいわけじゃねぇんだ。
俺だってな、そこまでガキじゃない。
お前の戸惑いも、戸惑う理由も。
わかってんだ。そう、頭では。
だからこそ。焦らないように焦らないように。
そう心がけてるつもりなんだけど。
いざとなると、難しい。
お前が、誰かさんを愛した事実と、
今も。そいつえお愛してやまぬ事実の前では。
理性も何もかも。ブッ飛んじまいそうになるんだ。
馬鹿げた話だよ。
色んな奴に女を紹介されたりして。
自分で言うのも何だけど、
それなりにモテる俺が。
今や、年下の女に翻弄されちまってんだから。




今まで、恋愛をしてこなかったワケじゃない。
それなりに数はこなしてる。
色んなタイプの女に関わってきた。
でも、お前は。
今まで関わった、どのタイプの女とも被らない。
だからこそ。俺は苦戦する。
培ってきた恋愛経験が、こうも役に立たねぇとは。
お前には…いや。絶対に誰にも言えねぇけど。
笑けて仕方ねぇよ。必死な自分が。
俺は苦笑しつつ、おもむろに携帯を取り出すと、
パカンとそれを開いて、再生。
音量レベル最大で。
再生される、冥月の羞恥なる姿。
「!!ばっ…」
驚き慌て、携帯を奪おうとするも、
冥月の手は、携帯に届かない。
俺はクックッと笑いつつ、呟くように言う。
「永久保存だ」
「……もぉやぁ」
肩に顔を埋め、篭った声で嘆く冥月。
あーあー。困ったもんだ、俺も。
お前を、こうして戸惑わせる事ばっかやって。
挙句、その姿に満足感さえ覚えるようになっちまってんだから。
ったくよー…。好きな子をイジメる、小学生か。俺は。
本当に見たいのは、お前の困った顔なんかじゃねぇってのに。
「ねぇ、何でもするから消してよぉ…お願いだから」
篭った声のまま、乞う冥月。
もう、駄目だな。救いようがない。末期だ。
お前の、その言葉を聞いて。
真っ先に思ってしまったんだから。
”じゃあ、俺を好きだと言え” だなんて。
強制的に言わせても、意味ねぇのに。
それでも聞きたいと思う。
どうしてくれんだ。お前はよ。
みっともねぇだろ、こんな男。
愛の言葉を欲しがる男なんて。
何て女々しさだ。
みっともねぇ以外の、何ものでもねぇ。
俺は自分に呆れつつ。
また、お前を惑わせる。
「何をやっても、消してやんない」
いつものように。
悪戯な笑みを浮かべて。

やれやれ。
いつまで、こんなん続ける気なんだ。
俺って奴はよ…。


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■■■■■ THE CAST ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

2778 / 黒・冥月 (ヘイ・ミンユェ) / ♀ / 20歳 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒

NPC / 草間・武彦 (くさま・たけひこ) / ♂ / 30歳 / 草間興信所所長、探偵


■■■■■ ONE TALK ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


こんにちは。いつも、発注ありがとうございます。
気に入って頂ければ幸いです。また、どうぞ宜しく御願いします^^

2007/08/22 椎葉 あずま