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<東京怪談・PCゲームノベル>


-ドッグファイト- 通常要撃戦闘

「まさかハイヤーでご登場とはの、おそれいったわい」
 そういってゆっくりとシガリロに火をつける。
「前回はご挨拶できず。オペレータ、高月・サキです」
「あらよろしく。まあね、私はいまや……セレブよ、セレブ!」
 藤田・あやこはフレアスカートを軽く揺らし胸を張る。
 今日はその妖精の羽が背中に露わだ。
「しかし。こりんやつじゃの、坊主あたまにもなって」
「そこよ、今のあたしがあるのもある意味おじ様のおかげ。それで」
 次々と撮影機材が運び込まれる。
「CMのロケーションにここが最高だった。てわけよ」
「ふむ。しかしおっさんからおじ様に格上げとは」
 泰蔵は苦笑い。
「では、機の用意をさせようかの」
「待って!」
「ん? キャノピ付近が映せれば、それでいいか? 今はCG技術がすごいというから――」
 ちち、とあやこは指をふる。
「あたしが望むのはそんな甘っちょろい映像じゃないわ、おじ様」
「まさか、おい」
「そう。そのま・さ・か。実戦映像を撮らせていただくわ!」



 書類の雑多に散らばった机に三人でつく。
「しかし、そう都合よく奴らあらわれるとは限らんぞ?」
「わかってるわ、それまでゆっくり待たせてもらう。あ、おーい、それはハンガーにもってって」
 巨大なトラックが次々と基地内に乗り入れ、地下へエレベータでおりていく、その様子をあやこはニヤニヤしながら見つめた。
 ハーブティーが無言であやこのまえにおかれる。
「一体どうしとったんじゃ、ここ最近」
「よくぞ聞いてくれました。よよよ。なんちゃって。ネットカフェ難民から一躍セレブへの大転進!」
 あやこは冗談まじりに経緯を語る。
 ホームレスにまでなっていたこと、蛾の羽模様に戦闘機をあしらったファッションブランド『モスカジ』プロディースで一躍セレブの仲間入りを果たしたこと。
「ほんと、大変だったんだから。おいしいわね、このハーブティー。これも売り出そうかしら」
「CMか。CMなぁ。勝てさえすればまあ、空中戦を撮るぐらいならいいがな?」
「なに、信用してないわけ? この前の戦闘見たでしょ」
「万一ということがあってはいかんからな」
 ティーをすすりつつ、あやこは不敵な笑みを浮かべる。
「任せてよ。理系の、しかも大学院生を舐めてもらっちゃこまるわ。元、だけど。おじ様の戦闘機に負けず劣らぬ秘密兵器、お持込み済みよ」
「なに! マジかそりゃ。見せてくれ」
 同じ機械屋根性が刺激されたのか、泰蔵は身悶えている。
「それはだめね……フフ。お楽しみってやつ」



 突然の警報。
 サキが普段の静けさから想像出来ぬ駆け方で管制室にとびこんでいく。
《CIC『シュヴィンデルト』より各員へ。早期警戒機から警報。敵襲です。小隊レベル反応、戦術管制準備》
「きたわね! おーい、撮影班こっち! 音声班、まずは離陸のエンジン、ちゃんと録音しといてね」
 嬉々として撮影スタッフを指揮しだすあやこ。
「なんか楽しそうじゃな……」
「なんせまたイズナに乗れるからね」
「ふむ、とにかく出撃準備に入ってくれ。わしは対空火器管制に入る」
「あら、なんで? 出ないの?」
「背景にド派手な対空砲火をプレゼントしてやるわい」
「オーケイ。じゃあ撮影もあるし、低空で迎え撃つ。シートは私専用の奴に換装してある?」
「すでにやっとるわい」
 そういってにやりと笑う泰蔵に、あやこは親指を立てる。
「ふふ、上等! さってと、誤射したら後でゆるさないかんね!」


 
 イズナの翼下にはあやこが持ち込んだ特殊ミサイルを2機抱いている。
 灼魂機関点火、マスターエンジンオン。パーキングブレーキ、オフ。
 クリアランス、確認。
「さーて、いい絵とらなきゃ。華麗にのしてやる」
 タキシングの振動を楽しみながら滑走路へ。
 キャノピ越しの太陽がまぶしい。
「よし、絶好のロケ日和だわ。藤田あやこ搭乗、ミストラル、離陸開始位置到達。でる!」
 滑走。
 はじかれたようにイズナが離陸。
「このへんからかっこよくいかないと!」
 ぐいと機首をもたげる。
 ほぼ垂直上昇、さらに連続ロール。翼端から白い螺旋を空に描いていく。
 その様子をカメラが地上から追う。
《CICよりミストラル。離陸確認、交戦ライン設定。進路スターボード側へ13度、エンゲージまで36秒》
「ミストラル、ラジャー。マスターアーム、オン。さて、ちゃんと動くかな」
 上昇、敵軍との相対高度を優位にとる。
「よっしゃ、試作品の登場ね。ジャーン。霊界ラジオ組み込み済み、フェイズドアレイレーダー!」
 全方位、索敵開始。
 タッチ式のディスプレイを操作、アクティヴレーダーレンジを広範囲で表示させる。
 敵位置、降下速度を把握。
「おーおー、ちゃんと動いた動いた。けっこうクリアじゃん、流石は私ね。ミストラルよりシュヴィンデルト、どーぞ」
《こちらシュヴィンデルト》
「管制はいらないわ、敵位置はすべて把握した」
《シュヴィンデルト了解……あたしの仕事減りますね……》
「これぐらいでおどろいてちゃもたないわよ? よし、いくかっ」
 霊界ラジオをFCSと連動させる。
「最初にレンジにはいるのは……こいつらか」
 ミサイルに誘導情報入力。
「OK、シーカーの動きも動画で保存しとこ。いけっ」
 通常ミサイル4基リリース。
 その卓越した視力で、ミサイルの白い尾を追う。
《モスキート4、撃墜》
「あんたら、CMなのよ! こう、気合入れて落ちなさいよ!」
 スロットルを叩き込む、吼えるエンジンに高ぶる心と呼吸。
 それらを押し殺してガンレティクルをみつめる。
 周囲で地上から発射されているのだろう、高射砲弾の破片が派手に敵群に襲い掛かりだした。
 爆風吹きすさぶ中を飛ぶイズナとあやこ。
「いい絵になってるなってる。よーし、外側からやるよ!」
 敵群と本格的にコンタクト。
 視認。さらにミサイル攻撃。
 そのとき、ペストの群れが一斉にあやこへレーザー照射。
「あ、やばい!? 外れろぉぉっ!」
 その瞬間、――彼らにとって不幸なことに――突風が吹き荒れ、それらが黒いペスト達を強く煽る。狂う照準。
 高密度のレーザーの束が回避機動中のイズナすれすれの空気を貫いていった。
「あ。」
 機体にかすかな振動。
 あやこは――これまた不幸にも――うっかりガントリガーを引いてしまっていた自分に気づく。
「あーあ、無駄弾つかっちゃったよ」
 表示残弾数が12ほど減っている。
 ため息をつき機を加速させるあやこ。
 その背後には、偶然宙にはじきだされた機関砲の弾に――不幸にも――ズバリ命中を食らい、炎上する妖魔達。
 さらに奇妙な不幸は空に起こりつづける。
「指揮官は、ガーゴイル級はどこかしら」
 Gに耐えながら首をねじまげ必死でさがすあやこ。
 これまた不幸なことに――さっきの流れ弾がガーゴイル級のまとっていた光学ジャミング装置の中枢に偶然命中。
 空中にその黒い姿が突然出現したかのように露わになる。
 突然のことになにが起こったかわからない有翼妖魔はとりあえず距離をとろうと反転。
 しかしイズナのポート側を通過しようとするそれをエルフの目と耳は見逃さない。
「あ、いた! 本番中に! 迂闊なのよっ!」
 エアブレーキ拡張、急旋回。
 胸の潰れるようなGを感じつつ、背後に回りこむ。
「後ろをとればこっちのものよ……ち、距離がありすぎる。よーし」
 武装選択。
 自分で開発した、人魂プラズマ空対空ミサイルを選択。レディー。
「じゃじゃーん。私のオリジナル兵器から逃れられると思わないでよ……」
 呪念波照射開始。
 ガーゴイルの位置、その反射波をミサイル弾頭の人魂がとらえた。
「もらったわ。せいぜいあがいてみなさいな……無駄だから! ファイア!」
 人魂プラズマ弾頭AAM、発射。
 輝きながらガーゴイルクラスに迫る弾頭。
「あたれっ!」
 近接信管作動、一発目がその背を焼く。
 身悶え悲鳴をあげつつ妖魔は加速、離脱を試みる。
「いまのいいわね、キャッチコピーをカットインさせようかな、編集で」
 そう呟きながら、2基目をリリース。
「とどめよ!」
 くるくると旋回を続け逃げ回るガーゴイルクラスに、誘導情報を受けつづけるミサイルがどこまでも、どこまでも食いついていく。
 あやこは機首を調整し照射波を当てつづける。
「フフ、もはや時間の問題ね」
 あやこは余裕の笑みをたたえる。そしてその時は来た。
 黒焦げになった妖魔のひく長い断末魔が、ゆっくりと東京の空を落ちていった。



「おっさん、もといおじ様! コンピュータ借りるよ!」
「別にいいが……うおっ」
 撃墜マークを手渡そうと地上でまっていた泰蔵を突き飛ばし髪を揺らして、あやこは端末の前に座り込み、撮影班をよびもどす。
「うん、いい、いいよー。カッコよくとれてるじゃん。よし、ここはこことつなげて流して、と」
 何の合図か、あやこは手を2回たたく。
 するとなぜか持ち込まれるグランドピアノ。
 なぜか突然現れ華麗なピアノ連弾を始める音楽家二人。
「これは思った以上にいいCMになりそうね……よし、ここでエンジン音がフェイドインよ、うん。いい感じ」
 音楽にあわせてあやこはノリノリで編集をすすめていく。
 そんな彼女を基地の二人が呆然と眺める形になった。
「すごいバイタリティですね」とサキがぽそり。
「撮影のための出撃、か。いや、飛ぶのに理由はいらないといったところかの」
 そのとおりよ、と答えてあやこは立ち上がる。
「そだ、おじさん、いやもといおじ様、人手不足なんでしょ? 私、傭兵会社を立ち上げようかなっ」
「傭兵会社?」
「そ。空中妖魔退治の傭兵会社。それで――それで私もいつか専用機を試作するの。機種名は、そうね」
 人差し指を唇にあて、あやこは宙を仰ぐ。
「『ミストラル』……いい名前でしょ?」
 そういってフレアをくるりと振ってみせる、背中の羽は今日も日差しに美しく透き通る。


-end-

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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7061/藤田・あやこ/女性/24歳/女子高生セレブ

NPC3583/高月・泰蔵
NPC3587/高月・サキ
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■         ライター通信          ■
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まずはこうしてご挨拶できることを嬉しく思います。
重ねての発注を頂きましてありがとうございます。
前回のようなノリで書かせて頂きましたがいかがだったでしょうか。
ミストラル量産化の暁にはこの異界に加えてみたいとか、僚機傭兵NPCを作ってみたいとか(許可がいただければですが)私としても夢のふくらむ内容で楽しく執筆できました。
ちなみに詳しい方からそうでない方まで楽しめるよう、防霊空軍機はすべてウェポンベイ方式弾丸無尽蔵としておりましたので、翼下部分はフリーであります。
いろいろくっつけて遊んでいただけると幸いです(笑)


あきしまいさむ拝