コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


裏・漢魅せます編集長(アレーヌサイド)
 アトラス編集部、三下 忠雄(みのした ただお)は、編集長、碇 麗香(いかり れいか)から無茶な要求を突き付けられ、編集部から追い出されてしまう。その行為を勘違いした三下は報復とばかりに、碇への集団ストーキングを開始する。
 ※ミリーシャ編を先にお読みすることをお勧めします。

 ○

 アトラスビルの屋上、空中ブランコの世界的トップスター、アレーヌ・リシフェルは向かいのビルにいる碇ストーカー軍団を監視していた。
「下品で粗野で女心の風上にもおけない連中は、体で分らせてあげませんと」
 アレーヌは、赤のジャケットに忍ばせたナイフを指の間に挟み臨戦態勢に入った。

 ○

 時計の針が六時を指す頃、碇がアレーヌの助言通り改造車で出てきた。外装は一般者と何ら変わりないが、エンジンルームと足回りはレーサーも唸る仕様だ。
 碇の車通勤ですら慌てふためく三下共、アレーヌはくすりと笑って、状況を見渡す。
 碇がビルから走り去っていくと、一台のバイクが後を追っていくのが見える。ツナギにはバイク便のラベル張り付いている。自分は気質(かたぎ)だとアピールしているがアレーヌは偽装だと見抜いていた。
 当の本人の物腰に隙は無く、バイクは察するにレース仕様、そしてシートで覆われている謎の装備。アレーヌは鼻で笑って無線を手に取った。
「碇さん、威嚇行動も兼ねて作戦を発動しますわ。次の信号、捕まって下さる?」
「分かったわ、出来るだけお手柔らかにね」
 交信の後、案の定三下達は碇の車を取り囲みシャッターを下ろし始めた。
 距離は数十メートル。この程度の距離、なんてことはない。
「ふっ!」
 強く息を吐いてナイフ投射。勿論全弾命中、目の前の状況に物おじしないバイク便に殺気のおまけつきでナイフを投げつけてみる。
「やっぱり!」
 アレーヌは嬉しそうに声をあげた。バイク便はプロの人間だ。こちらの位置を一瞬で把握して回避運動をとるとグレネード弾を発射してきた。
「っく!」
 袖からワイヤーを発射して壁に命中させると振り子の要領で三つビルを飛び越す。
「とんでもない奴ね、でも面白そう!」
 凄まじいスキール音が聞こえる。碇とバイク便のカーチェイスが始まったのだろう。
 アレーヌは地上に着地して、目の前の碇と同じ車に乗り込むと首都高速へと向かった。

 ○

 首都高速、運転する車のバックミラーには碇の車が小さく映っている。無線で交信が飛び交う中、的確に碇死守派に指示を与え続けるアレーヌ。アレーヌの指示により、一般者を装った死守派の人間の妨害が機能、ミリーシャとの距離を的確に広げつつあった。
「碇さん、三十秒後にプランAを決行します。貴方が国際Aライセンスクラスの技量をもっていて成せる作戦ですわ」
「褒めてくれて嬉しいわ。貴方程ではないにしろ」
 アレーヌも最初はそう考えていたが、ここまでカーチェイスの経過を見てアレーヌも感心せざるおえなかった。ドライビングテクニックなら、この天才にもひけを取らないだろうと。
「三! 二! 一!」
 アレーヌのカウントが降りると、碇は一般者に紛れ込み、後部の口が開いたトラックに収納。そして、一般者に紛れていた碇と同型機、アレーヌの車が車線を飛び出た。
 無線が入る。
「碇です。無事トラックに収納したわ」
 無線のチャンネル中から、歓声が入り交じる。
「皆さんのお陰です。特にアレーヌさん、今回は本当にありがとう」
「まだこれからですわ」
 碇の控え気味の笑いが聞こえる。
「緊迫した状況を引き継いだのに楽しそうに言うものだから気づかなかった」
 とうに碇達とは離れ、バイクとのバトルが始まっているがアレーヌの耳はしっかりと無線を捉えている。
「碇さん、ちょっと聞きたい事があります。そう、私だから気づいた事―」
 無線が一瞬途絶えるも、すぐに碇から交信が届く。
「チャンネルを限定しました。聞いているのは私だけです。どうぞ」
 ぬかりの無い人だと笑うアレーヌ。
「今回の件、私三下が黒幕だと思えないの」
「アレーヌ、チャンネルを限定したと言ったのよ。回りくどい言い方はよしましょう」
 バックミラーを見やるアレーヌ、バイク便の様子が変だ。何かを取り出そうしている。
「そう、なら単刀直入に言うわ。貴方の思惑通りに三下に経験を植えつけるために、私はこれからどうすれば?」
「そこまで分かっているのに、この余興を手伝ってくれる理由は何?」
 質問を質問で返すあたり、お互い食えない相手だと思っているだろう。
「分かった、私から言うわ」
 碇の声が幾分優しく聞こえた。仁義を通す人間は嫌いではない。
「貴方達の戦闘を見せて欲しいの、演習じゃなくてとびっきり危ない奴」
 凄い要求を突きつけてくるものだ。
「私ただのサーカス団員よ? そんな下品な事―」
「チャンネルを限定しているわアレーヌ」
 余計な手間は省きましょう、私はちゃんと調べをつけた上で聞いているの。そう聞こえる。
「分かった、こっちの世界を見せてあげる。次は私の番ね」
「ええ」
 碇は短く返事をした。
「後ろのバイクとても興味があるの。身のこなし、判断能力、身体能力。どれをとっても」
「トップ、いえアレーヌクラスかしら?」
 そうね。そう、言いかけてアレーヌは口を噤んだ。それだけは誰であろうとも言うつもりは無い。プライドを先行させ、それを守りきることで常に世界のトップに君臨できる。
 認めるのは心の中だけで結構。
「久々に退屈しないで済みそうなのよ。勝手に戦闘でも何でも撮りなさい」
「ありがとう。記事も写真も悪い様にはしないわ。相手の情報を掴んでいるの知りたい?」
 無言でハンドル操作するアレーヌ。
「ごめんなさい、野暮だったわね」
「感謝するわ碇」
「どういたしまして、何かあったら言って頂戴。出来るだけ協力するわ」
 アレーヌは、オーバー(了解)と答えると無線を切った。
 バックミラーを見ると、こちらに銃を向けている。長い長いストレート、どうやら確実に命中するタイミングを伺っていたらしい。
 タイヤを狙うのかと身構えていたが、リボルバー六発ともリアバンパーに命中するだけ。
 だが、アレーヌにはそれが何か察知できた。スピードを落としていくバイクを確認して再度無線を入れた。
「碇! パーティの場所を教えるわ! うまく三下をそこへ誘導してあげて!」
 嬉々とした声音だと自分でも分かる。
「分かったわ。健闘を祈ります」
 随時位置を報告しながら、港へと車を走らせる。
「アレーヌ、バイク便の配達さんね。何故か途中スーパーに寄って納豆と梅干を買っていったって情報が入ったんだけど」
 納豆と梅干。嫌な単語だ。
「オートマチックにでも装填するのかしら?」
「勘弁願いたいわ」
 心の底から冗談ではない。
「アレーヌ、港についた。GPSで位置を教えるから、後はご自由に」
「了解」
 エンジンを切って、助手席に身を潜ませる。
 かかっておいでなさい、ミリー。私が唯一ライバルとも言える貴方に引導を与えます。完璧に、そして徹底的に。
 無理難題とも言える宣言を心の中で念じ、強く掻き立てていく。
 そう、私だって相手が誰か分かっている。ミリーシャしかここまで来れるはずがないのだ。
 アレーヌは武者震いをおこしていた。
「パーティのスタートですわ」








□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【六八一四 / ミリーシャ・ゾルレグスキー / 女 / 十七 / サーカスの団員/元特殊工作員】
【六八一三 / アレーヌ・ルシフェル / 女 / 十七 / サーカスの団員/空中ブランコの花形スター】



□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

 ども! 吉崎です。
 アレーヌより先にミリーシャのお話を読んで頂けたら話が魅力的になったかなと思いますが、逆でも楽しんでいただけると思います!
 さて、今回プレイングで指摘していただいた通り、話の展開は「碇が意図的に三下を動かし、戦力として鍛える」話を考えておりました。
 しかし、アレーヌというスーパーレディのお陰でそれを越えた部分からお話を展開できるのではないかと考え、三下ではなく碇に付き合ってあげる天才コンビのライバル関係に主旨変更しました。
 完璧に筋を読んで頂いた上で読まれるより、ベクトルを変えたほうが楽しく読んで頂けるのではないかと吉崎なりに考えた上での変更ですのでご了承ください。
 アレーヌの洞察力を以って、利害を一致させ、ミリーシャの技術によって碇と三下の仲を独特な方法で取り持つ。
 絶妙で個性的コンビだと思います。
 では、また!