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漢魅せます編集長(ミリーシャサイド)
アトラス編集部、三下 忠雄(みのした ただお)は、編集長、碇 麗香(いかり れいか)から無茶な要求を突き付けられ、編集部から追い出されてしまう。その行為を勘違いした三下は報復とばかりに、碇への集団ストーキングを開始する。
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雑居ビルの屋上、三下は匍匐(ほふく)体制でカメラを握りしめていた。もうすぐ、碇が自社ビルから出てくる時間。屋内に繋がる扉を開くと、掲示板に反応した猛者が何人も待機していた。
全員碇に心酔した男たちかと思いきや、女性が一人。
「君は?」
女は瞳だけを動かして返答した。自らをミリーシャ・ゾルレグスキーと名乗り、これからの動向を三下に報告するとミリーシャは姿を消した。
サーカスの団員、そして元特殊工作員のキャリアを活かした作戦なのだが、内容を把握するには三下は素人だった。
―その頃
ミリーシャはビルの地下駐車場に用意していたレーサーレプリカバイク(NSR500)にキーを差し込むと、待機ポイントへと向かっていた。
途中、ビル屋上から見慣れた姿が視界に入るも、捨て置いて路地裏にバイクを停めた。
ミリーシャは、バイクに跨ったまま手持ちのオートマチックに弾丸を装填すると静かに息を吐いた。
○
時計の針が六時を指す頃、碇は珍しく乗用車(FD3S・RX―7)でアトラスビル地下出入り口から出てきた。ミリーシャはフルフェイスヘルメットを被り、ツナギのファスナーを胸元まであげる。
いつもは車通勤しない碇に、向かいのビルにいた集団は慌てふためいている。碇死守を謳った面子がネット上に現れた時点で、碇があの掲示板を見ていないとでも思っていたのだろうか。ミリーシャは車間距離を十分に取って追跡を始めた。
数分後、信号に捕まった碇の車を左右の車線から三下軍団の車が挟む。窓から身を乗り出してファインダー越しに碇を覗き込む男たち。しかし、そのことごとくが上空から降り注いできたナイフによってカメラを破壊されていった。
三下軍団は悲鳴をあげてその場から離れようとするが時すでに遅く、タイヤをパンクされ行動不能に陥っていた。
ミリーシャはメット越しに視線だけを動かしてナイフを凝視した。見覚えのある柄。彼女が碇を護衛する理由を考えるも推測の域を出ない。ただ一つ言えるのは、もしナイフの持ち主が彼女ならばかなり厄介だ、相応の覚悟を以て挑まねば。
―殺気
ミリーシャは前輪を浮かしてバイクを急発進すると、数瞬遅れてミリーシャが停車していた位置にナイフが突き刺さる。ナイフの射角を計算したミリーシャは、ベルトに備え付けていた携行ランチャーを腰だめに構え、スモーク弾をビル屋上に発射。ビル屋上は瞬く間に白煙に巻き込まれていった。
事態が動き始めたことを察知した碇は、アクセルを床まで目一杯踏みつける。ミリーシャもスロットルを限界まで振り絞って後を追った。
首都高のバイパスを通過すると、本格的なカーチェイスが始まった。
「……うまい」
第一コーナーに突入するFDを見てミリーシャは呟いた。ミリーシャも全身全霊ライディングに集中するもバイクと車では、一般車に紛れて見失いかける程に分が悪い。コーナーではスリップぎりぎりまで車体を寝かせ、立ち上がり加速で必死に碇にへばりつくも、少し長めのストレートでたっぷりと差をつけられてしまう。
スピードメーターは時速二百を既に振り切っている。
「このままじゃ……逃げられる」
ミリーシャの額に汗が浮かぶ。雑誌編集長がトッププロクラスのテクニックを保有しているとは予想していなかった。バイク便変装に相まって万全を期したつもりが、目の前のOLは三段も四段も上をいってくれる。
そう、相手はOL……。
「……!」
ミリーシャの中で何かが弾ける。素早く作戦を切り替えると、ポシェットから素早くリボルバーを取り出して車に発射。
リアバンパーに全弾命中するも、パンクさせることは叶わずそのまま逃がしてしまった。
バイクを端に寄せて端末を取り出す。電源を入れると緑色の液晶に赤い点が明滅を繰り返して北へと向かっていた。
ミリーシャは、装備を確認して再びバイクを走らせた。
○
ミリーシャは港に来ていた。車に放った特殊弾丸から電波を受信、端末の表示するとおり追いかけてきていた。
周囲に気を配り、徐々に車へと近づいていくミリーシャ。埠頭に乗り捨てられたFDを発見、銃口をFDに向け思わぬ名を口にした。
「アレーヌ・ルシフェル……君でしょう」
返答は無い。だが、ミリーシャは一つの確信を抱いてにじり寄る。
「納豆嫌いでも……車……乗れたのね」
途端、FDのドアが吹き飛びミリーシャを襲いかかるがミリーシャは難なく避けた。
だが、ドアを盾に接近していたアレーヌのかかと落としがミリーシャを追撃。不意の一撃を捌くと、なんとか距離を取った。
「納豆は関係ないでしょ!」
よっぽど納豆が嫌いな様だ。アレーヌはきっ、とミリーシャを睨みつけるとレイピアをミリーシャに突きつけた。
「ミリーとは一度真剣勝負してみたかったのよね」
切っ先をふらふらと動かして、ミリーシャを挑発する。
「碇 麗香……どこ?」
「わたくしに勝てば教えて差し上げてもいいけど……未来永劫無理ですわ」
「納豆……嫌い……なのに?」
レイピアの切っ先がぴたりと止まる。
「納豆は関係ないって言っているでしょう!」
銃口を自分に向けられているにも関わらず、アレーヌは最短で距離を詰める。手加減など出来る相手ではない、ミリーシャはためらいなくトリガーを引いた。
金属の擦れ合う音が聞こえ、自分とアレーヌの間に火花が散る。レイピアで弾丸を弾いたのだろう。刹那の間に、もう一度トリガーを引こうとするも。
「私の勝ちよ!!」
アレーヌのしなる右脚がミリーシャの脇腹をはたき、地面に叩きつけた。
すぐさまミリーシャは地面にバウンドした反動を利用して立ち上がるが、ダメージが肺にのぼり、大きな咳を二回地面にはきつけた。
アレーヌの勝ち誇った表情がミリーシャの感情の奥底を煮えたぎらせる。
「ほら、今なら逃がしてあげるわ。尻尾まいて逃げなさい」
ミリーシャはアレーヌの挑発を受け流して唇をつりあげて笑顔を作った。
「納豆パック……潰れた」
ミリーシャがツナギのポケットから納豆(三パック)を取り出して、アレーヌに突き出した。
「セール品……どうしてくれるの」
「ネ、ネバネバを……よくも私の美脚に」
アレーヌは右脚をスカーフできつくぬぐうと、ヒステリックな声をあげた。
「ミリー! わざと、脇腹空けてたな!」
首を横に振るミリーシャ。
「疑い……精神衛生上……よくない」
「許さない!」
「構わない……」
天才同士の攻防を数百メートル先からフィルムに収めている人間が一人。
碇だった。カメラの三脚が無い為、三下が足場になってカメラと碇を支えている。倉庫のトタン三角屋根の先でシャッターを下ろしているため、少しでもバランスを崩せば数十メートル下のアスファルトに直撃、ひきにくの出来上がりだ。
「そんな写真も面白いと言えば面白いわね」
碇の呟き一つ一つに心臓が締め上げられる。
「そ、そんな!」
「動くな! 芸術にも匹敵する戦闘が見えない」
全身から吹き出る汗、三下はそろそろ限界だった。碇は表情を崩すと三下を屋根の中央までひきずって、三下にカメラを投げよこした。
「現像まわして明日九時までにレポートと一緒にデスクに持ってきなさい。いいわね」
「え、あ! はい! じゃあ、編集部に戻ってきても……」
腕を組んで溜息をつく碇、どこか残念そうだ。
「まぁ、面白くいものが転がってきたから。今回は特別よ」
瞳をうるませる三下。
「ありがとうございます」
「さっさと行く。時間ないわよ」
三下は急いで港を後にしたのを確認すると、屋根に座ってミリーシャとアレーヌを見つめた。
「あの二人、正反対もいいとこだけど仲良いのね」
碇は続けて二人の戦闘を面白そうに眺めていた。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【六八一四 / ミリーシャ・ゾルレグスキー / 女 / 十七 / サーカスの団員/元特殊工作員】
【六八一三 / アレーヌ・ルシフェル / 女 / 十七 / サーカスの団員/空中ブランコの花形スター】
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■ ライター通信 ■
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ども! 吉崎です。
今回は如何でしたでしょうか? ミリーシャが三下側についた理由は、恵美の男日照りを解消するためだと書たかったのですが、展開や主旨、制作の都合上やりとり等泣く泣くカット……。
恵美とミリーシャのコンビは、アレーヌ・ミリーシャコンビ並に魅力的でつい出したくなります。
そしてアレーヌとの最強コンビを書くのは絶対楽しそうだと思いながら執筆。二人の最強コンビネーションをいつか表現できればと願っています。
では、またいつか!
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