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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


東京崩壊レシピ
 探偵、草間 武彦(くさま たけひこ)は、報酬代わりに手に入れた不思議な針の力で義妹、草間 零(くさま・れい)の力を暴走させてしまう。手に負えなくなった武彦は、この道のスペシャリストに声をかける所から話は始まる。

 ○

「自分で解決しろ!」
 甲高い怒鳴り声と、鈍い音が廃工場に響く。
「黒・冥月(ヘイ・ミンユェ)、口より先に手が出る癖……何とかならんか」
 武彦のうめき声交じりの嫌味に、鉄拳で返答する冥月。黒一色を全身に纏った冥月は、拳を振るわせる。
 普段は冷静沈着の冥月、武彦に対しては感情的だった。
「一番かわいそうなのは零ちゃんよ。時間も無い、今は零ちゃんの為に力を合わせましょ」
 クールビューティの呼び声高い幽霊作家、シュライン・エマが二人の間に割って入る。
 人形をくすねた際に傷んだ箇所を補修。煩抜きの針にキャップを被せた。
「とりあえず、このいかがわしい針と人形は車のトランクに入れておくわね」
 エマはトランクをあけると、サイドミラーにぽつりと浮かんだ少女の姿を確認した。
「私のお人形返して……」
 零だった。廃工場プラントから、うつろな瞳でエマを見つめている。時計を見つめる、既に約束の時間を過ぎていた。
「こんにちは零ちゃん。私に提案があるんだけど―」
「お人形返してぇぇぇぇ!」
 零は背中から凝固霊を瞬時に噴射、エマとの距離をみるみる内に縮めていく。エマは多少のダメージを覚悟して跳びずさる。
―瞬間
 砂埃をあげて、零はあさっての方向へと吹き飛んでいった。
「カルシウムの足りない子には生霊弾が一番ね」
 女子高生セレブ、藤田 あやこは純白の羽を広げて優雅に降り立つ。対戦車ライフルのコッキングレバーを引き、弾丸を装填。その際、薬室から舌打ちが聞こえた。
 冥月は地面に落ちた薬莢を拾う。
「どのタイプの生霊を混成した」
「ニート。あ、草間! 報酬は対象の怒気でいいから。よろしくね!」
 あやこはピクニックに来た子供の様にはしゃいでいる。
 瓦礫を吹き飛ばして起き上がる零。あやこはすぐさま照準を零に合わせて追撃。零ははじき返そうと腕を振るうも、スライム状の生霊(ニート)はねとりと零の腕にしがみつき怒気を吸い上げる。
「どんどんいくわよ!!」
 あやこは追撃の手を緩めず、ニートの生霊を混成した手投げ弾、迫撃砲と火力全てを用いて零に叩きつけた。
 砂塵で前方が確認できない。
「やったかな? もうニ、三発―」
「待て……」
 冥月があやこの手を遮る。何かがおかしい、暗殺者の本能が警戒心を掻き立てる。
 冥月は咄嗟に深遠の影を全員の足もとに展開、全員を胸元まで沈めた。
「勘の良い方がいるようですね」
 前方にいるはずの零。しかし、声は冥月達の後ろから。
 車のルーフが音を立てて崩れる。どうやら、知覚出来ない速度を以て、自分たちの背後へと回ったようだ。本能に従わなければ全員首から上が無かっただろう。
 零は右手に何か掴んでいる。
「やっべ……」
 武彦が言葉の意味をその場の全員が理解した。零がトランクに入れたはずの人形を手にしている、これで躊躇なく全力で攻撃してくるだろう。
「兄さん、何か見出せましたか?」
 視線が武彦に集まる。武彦は頭を掻いて笑った。
「いやぁ、もうちょっと待ってくれると兄さん嬉しいなぁ」
 おどけた発言が零の感情を逆撫でしたのだろう、零の焦点が合わなくなる。
(馬鹿! 怒らせてどうするの)
 あやこが小声で怒鳴ると、武彦のわき腹を突付いた。
(冥月みたいに男っぷりなコメントでも言えと?)
 反射的に武彦のどてっぱらに一発ぶち込む冥月。歯軋りして、くたばれと吐き捨てた。
 宙に浮いた零がゴマ粒程に離れた頃、零の全身の霊力が右手に集中する。
「皆さん、さよなら。一千万人は道連れにしますから寂しくないですよ」
 エマは動転した武彦を抱きしめ、脳漿に湧き上がる策という策を絶えず検討する。隣で冥月の顔がひきつっているのは承知の上。あやこはライフルで応戦するものの、距離、風の干渉もあり命中は難しかった。
「さよなら、皆さん」
 零が直径数十メートルの霊の塊を振りかざす。
「そうは、させません」
 落ち着いた青年の声が、零の更に上空から聞こえる。
「ブルーノ M!」
 エマから安堵の声があがる。武彦はこんな助っ人まで呼んでいたのか。
「すいません、遅れました。でも、もう安心ですよ」
 冥月とは対照的に白一色の聖服に身を包み、ほほ笑みかける。
 ブルーノが地上へと降りてくる。途中、零とすれちがう時に会釈をして武彦の前へと舞い降りた。
 目の前のバチカンの対霊鬼兵用兵器は、零に対抗して造られた最強の兵器と言ってもいい。最高の策を提案してくれるのかもしれると、期待を一心に受けたブルーノは武彦の手を取った。
「草間さん、ひどいじゃありませんか!」
 全員の目が点になる。
「零さん、あんなにストレスをためていたなんて、僕知りませんでした」
 武彦に顔を近づけるブルーノ。
「一言相談して頂ければ、少しはお力添えできたはずです。僕にはそれが残念でなりません」
「ちょ、ちょっと待って! あなた、そんな事言う為に降りてきたの?」
 あやこの問いに、ブルーノは振り返り。
「そんな事ではありません! 元凶である資金難を悔い改めてもらおうと―」
 その場の全員あっけに取られる。
 上空から凝縮霊の塊が降り注ぐ、ブルーノはすぐさま手袋を外すと両手をかざして凝縮霊を相殺した。
「嘘……、あのサイズの凝縮霊を」
 エマの驚きを余所に、凝縮霊はブルーノの聖力によって浄化されていく。時折、凝縮霊からラブリーマネーだの、金、金、金だのと金銭に執着した単語が飛び交っている。
 飛散した浄化霊は周りの施設を道連れに天へと昇っていく。凝固霊が跡形もなく消える頃には工場周辺数キロが更地になっていた。
「凄まじい力ね、これじゃ無力化できても一千万は道連れ」
 エマは、凝固霊の性質を見抜き全員に囁く。
 その後、あやこが零を見上げ。
「ほら! 私と勝負しようよ!」
 あやこが、わざとらしく両手で口をふさぐ。
「ごめんなさい! あなたみたいな貧乏人に、高貴な私のポリシーには沿えないわよね! そこにいていいわよ、貧乏人」
 上空から、針の天井が迫りくる様な圧力を感じる。あやこは、かかってこい貧乏人とどこまでも油を注ぐ。
 零は即トップスピードまで加速してあやこに突撃。
 あやこに手が届く所まで迫ると、すぐさまブルーノにすり替わる。ブルーノと零の両手が組み合うと、霊力と聖力が拮抗。
「今です!」
 ブルーノの叫びと同時に冥月が影の世界を展開、全員を四方黒の世界へと誘った。
「ここなら暴れても大丈夫! 思う存分やるわよ!」
 エマのゴーサインが下ると、ブルーノは力を解放。エマの知力を活かした指揮の元、あやこと冥月の援護によって徐々に零を追い詰めていく。
「どけ!」
 冥月が前線へ飛び出ると、何かを握って零の頬をはたき、零は倒れこんだ。
「やった?」
 あやこが冥月に歩み寄る。冥月は零の前で膝を折って、札束を目の前に突き出した。
「ほら、奴の煙草代と事務所の内装は私がもつ。欲しい物何でも買ってやるぞ」
 冥月の言葉で零からみるみるうちに凝固霊が飛散していくのが見て取れる。零はへたりこんで、何か呟いている。
「なんだ? 聞こえんぞ」
「お肉の入ったすき焼き……食べたい……です」
 武彦が零に走り寄って抱きしめる。
「ごめんよぉ、クライアントが金を払ってくれないばっかりに」
 溜息をついて、顔に手をあてる冥月。
「ったく、これじゃ先が思いやられる」
 呆れる冥月の肩を叩くエマ、どこか憂いを帯びている。
「本当に入ってこないのよ……この事務所」
 事務所の手伝いをしているエマには痛いほど分かる。
「その原因を究明しないと、また同じことが待っていると?」
「かもね、それまで出資してくれるかしら?」
「これからも男気ある援助期待しているぞ」
 冥月は持っている札束を武彦に投げつける。
「お金を無下に扱ってはいけません!」
 ブルーノの常識観がやたら新鮮に聞こえる。現実世界に戻ると、エマ達の前には中年男性でひしめきあっていた。
「施設の破損代金支払ってもらうぞ!」
 あやこは私たちが東京を救ってあげたのにと不遜な態度で請求書を取り上げると、瞼を限界まで広げる。
「五千八百億!」
 冥月は、武彦と零の訴える眼差しをひしひし感じる。表情は、天から地からきりきりと引っ張られた様にひきつっている。
「そ、そのくらい―」
 うんうんと、二度頷く草間兄妹。
「払えるか、ボケェ!!」
 冥月の中で何かが弾け、武彦を馬乗りにして殴る殴る。
「よほどストレス溜まっていたのですね」
 ブルーノの言葉にエマはくすくす笑う。
「恋愛対象があれじゃね」
「え?」
「何でもない」
 エマはくすりと笑うと、目の前の凄惨な現場を微笑ましく見つめていた。


 【了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【零零八六 / シュライン・エマ / 女性 / 二十六 / 幽霊作家】
【二七七八 / 黒・冥月 / 女性 / 二十 / 現アルバイト探偵&用心棒】
【七零六一 / 藤田・あやこ / 女性 / 二十四 / 女子高生セレブ】
【三九四八 / ブルーノ・M / 男性 / 二 / バチカン対霊鬼兵用兵器】


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■         ライター通信          ■
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