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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>


幻影の鏡

●オープニング
 アンティークショップ・レンの店主、碧摩蓮の元に骨董品店『幽玄堂』店主、香月・那智が訪れた。
「こんにちは、蓮さん。あなたに引き取って欲しい代物があるのですが宜しいでしょうか?」
「……今度は何だい?」
 那智が持ってくるものにはロクなものが無いことを知っている蓮は、渋々聞いた。
 彼が手渡したのは、古びたデザインの大きな鏡だった。
「これは『幻影の鏡』と言いまして、鏡に映った人が念をこめると、その人の分身が出てくるというものなのです」
 もうひとりの自分がいたらなぁ、と思う人がいるでしょう? と、説明に付け加える。
 有効期限は1日限りだが。
「そんなもん、買い取る客がいるのかね? まぁ、商品としちゃあ面白いけど。わかった、うちに置くよ」
「ありがとうございます」
 那智は礼儀正しく挨拶すると、アンティークショップ・レンを後にした。

「こんなの、使いたがるのがいるのかねぇ……」

●眠れる美人社長
 モスカジで一山当てたことで、藤田・あやこ(ふじた・―)は男性向けミリタリーブランド、ブティック、ジャズカフェバー、蛾妖怪の芸能プロダクション等、24歳という若さで幅広く経営を手がける社長となった。
 本日も社員を率い、きびきび仕事をしているのかと思いきや……。
 現在、彼女がいるのは在庫室。徹夜の在庫整理で疲れたのか、大いびきをかいて熟睡中だ。
 濃紺のスーツをビシッと着こなし、白いハイヒールと女社長らしい服装のおしとやかなうら若き乙女が、これで良いのだろうか。明後日からの秋冬商戦で、キャンペーンガールを務めるというのに……。

 うっすらと目を開け、欠伸をしたあやこ。目覚めるのかと思いきや、夢の世界に逆戻り。
 気持ち良さそうに眠っていたのだが……バッチリメイクを施した端整な顔がやや歪み、額からは冷や汗が出ている。
「彼氏に贈りたいブランドがある秋冬商戦を展開すると言うのに、キャンペーンガールがこのザマでは……。女捨てちゃ駄目でしょう社長の私ー!!」
 余談。彼氏に贈るブランド、というが、コンセプトは『私をキャンプに連れてって』である。
「しゃ、社長が壊れたぁー!!?」
 在庫室から叫び声が聞こえたので、何事かと思い様子を見に来た男子社員の声に出た疑問を他所に、あやこは寝相を崩して完全熟睡している。

「ふあぁ……」
 在庫室から出てきたあやこは、眠たい表情をしながら化粧室に向かい、メイク直し念入りに行ってからから休憩室に向かい、自販機でブラック缶コーヒーを買った。
 これで眠気を覚まそうと思いながら口にしたその時、男性社員の数人が集まり、一軒のアンティークショップの話をしていた。
 どこにあるとも知れず、店自体が客を選ぶらしい。
 その店の名は『アンティークショップ・レン』。そこにある商品の全てが、曰く付きの代物、俗に言う魔法の物品や呪われた品物なのである。
 店主は、チャイナドレスに身を包んだ、ちょっときつめ美貌の素敵なお姉さん。姉御肌で少々気が強いところが魅力的とか。
「その店に、自分の分身を作り出すことができる鏡があるらしいんだけど、おまえら、本当だと思うか?」
 ソファに座って煙草をふかしている男性社員が、他の社員をからかうように聞いた。
「そんな鏡、マジであるんすか?」
「曰く付きの代物があるってんだから、本当にあるんでしょう」
「そんなもんどうでもいい、俺は美人と評判の店主に会ってみたい!」

 ――自分の分身を作り出す鏡……。そんなもの、あるわけないじゃない。

 馬鹿馬鹿しいと心でぼやきながらも、実際にあったら便利だろうなぁと考えたあやこ。

●困った時のレン頼み
 ブランド共同経営会社の社長との交渉を終えて会社に戻ろうとしたあやこは、男性社員達が話していた『アンティークショップ・レン』のことが気になったので探し始めた。話題になっていたあの鏡が気になり、どのようなものか見たくなったのだ。
「よ、ようやく見つけたわ……!」
 場所を聞いていなかったため、散々歩き回って迷い続けた結果、ようやく辿りつくことができた。
 店の入り口のドアを開くと、ドアにつけられた鈴がチリンと涼やかに鳴った。
「いらっしゃい、何か探し物かい?」
 年代物と思われる煙管を手にあやこに声をかけたのは、店主の碧摩・蓮(へきま・れん)。
 話通りのチャイナドレスに身を包んだ姉御ね、とあやこは思った。
「珍しい商品が置いてあるっていうから、見に来ただけなんで……」
「そうかい。ゆっくり見ていっておくれ」
 煙管をふかすと、蓮はカウンターの側にある木製の椅子に腰掛けた。
 店内を見回していると、この店の話をしていた男性社員にあった。
「キミ。仕事をサボってこの店の女主人に会いに来たのかな〜?」
 悪戯っぽい笑みを浮かべてからかうあやこに、ち、違いますっ! と顔を赤らめて前面否定する男性社員。
 そんな彼が後ずさりした時、背中に何かが当たった。
「何だ、鏡か……」
 曰くつきの骨董品かと思った男性社員は、胸を撫で下ろして安心した。
「それは、ただの鏡じゃないよ。『幻影の鏡』って言ってね、鏡に映った人間が念をこめると、その人間の分身が出てくるという代物なんだ。誰でも思うだろう? もう一人、自分がいたら何かと便利だろうなぁってさ」
 もう一人の自分。
 その言葉に、あやこの心は揺れ動いた。
「その鏡ですけど、誰でも使えるんですか!?」
「ああ。赤ん坊からお年寄りまで誰でもね。有効期限が一日、って欠点があるけど」

 それを聞いたあやこは、男性社員を店の奥に連れ出し、詰め寄って交渉を開始。
「これ経費で落ちますよね? つーか、落とせ!」
「経費で購入するんですか!?」
「モチのロンよ!」
 男性社員を強引に丸め込み、経費で鏡を購入することに成功したことにあやこは大喜び。さほど大きくないので、持ち帰るのは不便ではなかった。
「で、では請求書は当社のほうにお送りください……」
 がっくりとうなだれながら、男性社員は名刺を蓮に手渡した。

●あやこ改造計画
 鏡入手後、早速社長室でアンティークショップ・レンで(必要経費で)購入した鏡を使用することに。
「さて、取り出しましたる一つの鏡。これで私、藤田あやこの反面鏡師(正確には反面教師)を呼び出すのだ!」
 彼女の目的は、自分と正反対の分身を呼び出して自分の人格矯正を試みるというものだ。正反対の性格の自分が確実に出る、という保障はないのだが、試してみる価値はある。
 計画名は『必殺撫子ブートキャンプ』。
 どこぞのトレーニングですか!? と突っ込まない!
 こうして、社運を賭けたあやこの大博打が始まった。
 思い込みが激しく猪突猛進タイプの彼女の性格改善なるか?

 さあ、始めようか! と意気込んだのはいいが……どうやって念を込めるのかを聞き忘れていた。
「ええい、こうなったらこのテよ! 鏡よ鏡、鏡さん! 私の反面鏡師を出しなさい!」
 白雪姫に登場するお妃様調に念を込めてみた。
 こんなので出てこないかと、と思ったその時。
 壁に立てかけた鏡から、女性の頭がヌゥーっと出てきた。この後、ホラー映画の如くゆっくりと……のはずが、バッティングセンターにあるマシンからボールが勢い良く飛び出したかのようにハイスピードで出現!
 その勢いで激突したというのは言うまでもなく、大きな弾丸にブチ抜かれたかのように、壁に大きな穴がぽっかりと開いた。

「痛いですわ……」
 頭をさすりながらそう言ったのは、反面鏡師(以下反面)あやこ。
「やった! やったわ! 反面私出現成功っ!」
 喜んでいる暇は無い。
 あやこは早速、反面あやこを見て、自分の欠点を改善しようと努力する。
 少しでも欠点があれば容赦なく突っ込んでね、と反面あやこに言うあやこ。
「言葉遣いが悪いですわ!」
 スパーン!
 どこから取り出したのか、反面あやこはハリセンを持っていた。
 
 社長室の賑わいが気になるのか、何人かの男子社員が聞き耳を立てていた。
 事情を理解した社員達は、あやこの性格が治るか否か賭けた。
「俺、治らないに100ペソ!」
「僕は治るに200ルピー!」
「私も治るに500ウォン……」
 その後、社員たちの胸中を他所に、明け方近くまで『必殺撫子ブートキャンプ』が続いていた。

 秋冬商戦はどうなったかというと……。
 無事成功したものの、反面あやこのスパルタ指導により寝不足、肌荒れとあやこのコンディションは最悪だった。
「日頃からの努力が必要なのね……」
 
 鏡はどうなったかというと、収納庫に入れられたまま、二度と出されることはなかった。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【7061 / 藤田・あやこ / 女性 / 24歳 /  女子高生セレブ】

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■         ライター通信          ■
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>藤田・あやこ様

 はじめまして。氷邑 凍矢と申します。
 このたびは「幻影の鏡」にご参加くださり、まことにありがとうございます。
 納品が遅くなってしまい、申し訳ございません。

 初めて書くタイプの女性でしたので、上手く描写できたかどうか不安です……。
 好き放題弄って貰えると、とのことでしたので、自由に書いてしまいましたがいかがでしょうか?

 リテイクはご遠慮なくお申し出ください。

 またお会いできることをお待ちしております。

 氷邑 凍矢 拝