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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>


アリアとプール
●オープニング【0】
 冷夏だ猛暑だと言われつつも、夏はとにかく暑い。気温が体温以上になった日にゃ、もうやってられない。
 そんな時、人は涼を求めるものである。その1つに、プールというものがある。
 炎天下、青空の下であっても、水の中に浸かっていると気持ちいいのは何故なのだろう。
 ともあれ、暑い日が続く中、プールへ行こうと考える者が出ることは何ら不思議ではない。
 問題は、妙な提案をしてくる者も出てくるということだ。
「あの、プールというものに誘われたのですが……」
 と、アンティークショップ・レンの店主である碧摩蓮に話すのは、居候であるアリアだ。どうやら誰か客に誘われたらしい。
「いいじゃないか、行ってくれば。何でも経験さ」
 しれっと言い放つ蓮。容易にアリアのプール行きを認めるのだった。
「まあ……とりあえず、カメラには気を付けるんだね」
「はい?」
 蓮の言葉にアリアが首を傾げた。カメラが何か危険なのだろうか?
 ともあれ、アリアと一緒にプールへ行くのです――。

●待ち合わせ【1】
 当日――空は雲一つない快晴だった。広がる青空がとても目にまぶしい。
「ふう……今日も暑くなりそうだわ」
 サングラス越しに空を見上げ、小さな溜息混じりにシュライン・エマはつぶやいた。こういう空なら雨の心配はないけれども、逆に日射しが心配である。
「もう暑いのでぇすよ……」
 シュラインの隣では、ぐでんとした様子の露樹八重の姿があった。さすがに今日は普段の大きさではなく、小学生ほどの大きさになっていたが……ちっちゃいと暑さに弱いのかもしれない。
「水浴びにはちょうどいいわよ。入ったら気持ちいいでしょうね」
 と返すシュライン。今日は朝一番で草間興信所に顔を出し、草間武彦に『今日はプールに逃亡する』旨を伝えて待ち合わせの場所へ来ていたのであった。
(いいタイミングでのお誘いだったしね……)
 そう心の中で思うシュライン。ほんの数日前に関わった事件で何だか気持ちがしんみりとしてしまっていたので、プールへの誘いは嬉しく感じたのである。まあもっともプールへ行こうと提案した者は、どういう訳か急用が入ってしまって、自分が行くことが出来なくなってしまったのだが……。
「あ、アリアしゃんでぇす♪」
 こちらへ向かうアリアの姿を発見し、ちょっと元気になる八重。ぶんぶんと手を振ってアリアに存在を知らせてみる。それに気付いたアリアは歩みを早めて、2人の所へやってきた。
「お待たせしました」
 ぺこんと頭を下げるアリア。肩からは蓮に持たされたのだろうか、大きめのバッグが提げられていた。
「いーえー、あたしたちもさっき来たとこなのでぇすよ」
 八重がにこーっと笑ってアリアに伝えた。実際2人がここに着いたのは数分前のことだから、八重の言葉に嘘はない。
「これで全員ですか?」
 ぐるり辺り見回してアリアが尋ねた。アリアを含め計3人、ちと寂しい気もするが、小回りが利くという点ではこれもよいのかもしれない。
「そうね、これで全員。ところでアリアちゃん、屋内と屋外どちらがいい?」
「プールは外にあるのじゃないのですか? 近くの小学校のプールは外にありましたよ?」
 シュラインの質問に、不思議そうに返してくるアリア。……まだ屋内プールの存在を知らなかったようである。
「あー、じゃあ今日は外にしましょうか。屋内は冬でもあることだし……」
 屋外プールへ行くことを決めるシュライン。一応、日焼け止めを入れてきているから屋外でもそう問題はなく。
「分かりました」
 アリアがこくんと頷いて言った。
「さ、早くプールであそぶのでぇす♪」
 八重がアリアの腕をくいくい引っ張った。こうして3人は屋外プールへ向かうのであった。

●落ち着けるプールがよいでしょう【2】
 3人が向かった屋外プールはそんなに大きくはない所だった。プールの種類は大プールと子供用プール、そして普通の25メートルプールという3面のみ。だが、何故かウォータースライダーが1つある。大プールの一角をフェンスで区切っていることから、後で作られたものなのだろう。
「むー……おイタなひとたちはいないようなのでぇす」
 一足早く着替え終えて更衣室から出てきていた八重は、プールサイドをきょろきょろと注意深く見回していた。この施設の大きさゆえか、さほど混んでいるようには見えない。またそういう場所だから、カメラで盗撮しようなどと不埒なことを考える輩も足を運ばないのかもしれない。
「お待たせ」
 そうこうしているうちに、シュラインとアリアが連れ立って出てきた。2人とも頭の上でちゃんと髪をまとめていた。八重より遅くなったのは、この手間で時間がかかったからなのだろう。
「あ、やっと来たでぇすか」
 振り返る八重。シュラインはグラデーションビキニに、シックなワンピースタイプのカバーアップを羽織っていた。そしてアリアは幾何学タイプの柄の、競泳用らしき水着に身を包んでいた。
「どうでしょうか?」
 自らの水着姿を前後左右確認するアリア。これでよいのかどうか判断がまだ出来ないのだろう。
「うん、似合ってると思うわよ」
「あたしもどーかんなのでぇすよー♪」
 アリアらしい水着ゆえ、シュラインも八重もそのように答えた。これでもしアリアが悩殺ビキニとか、Vの字の紐みたいな水着をまとっていたならば、その水着を用意した奴ちょっとそこまで顔を貸してもらおうかということになっていただろう。
「そうですか、よかったです」
 ほっとしたように答えると、アリアの視線は八重の方に向いていた。
「小学校で見たのと同じですね……」
 ぼそっとつぶやくアリア。八重の水着はそう、スクール水着であったのだ。胸の所に『つゆきやえ』とか書かれた白地のゼッケンがあったなら、より一層らしく見えたことだろう。
「あたしは910歳でぇすけど……」
 むう、となる八重。
「910歳なのにすくーるみずぎー……」
 さらに頬が膨れる八重。いやまあ、これでもし八重が悩殺ビキニとか、Vの字の紐みたいな水着をまとっていたならば、倫理的に色々とよろしくない状況になることは間違いないので、これで正解だといえよう。
「ええと、あちらに行けばよいのですか?」
 人が居るプールサイドの方を指差し、歩き出そうとするアリア。それを慌てて八重が呼び止めた。
「あ! アリアしゃん!」
「はい? 何でしょうか?」
「プール前には、消毒層やシャワーに入ったりするでぇすよ?」
「そうなんですか?」
 アリアがきょとんとした様子で尋ね返す。
「そうなのでぇす」
 胸を張って答える八重。その後にシュラインが言葉を続けた。
「ほら、皆で使うプールだから。汚れなんかを最小限にする意味合いもあるのよ」
 まあ風呂に入る前のかけ湯と同じようなものだ。あれも不特定多数で使うことが前提になっているから、予め汚れを落としてから入るという訳だ。
「で、プールの後には目や喉も洗ったり、もう一度シャワーをあびてプールの水を洗い流すでぇすよー」
 八重がそう付け加えた。これは逆に、プールでの汚れなどを落とすためだ。
「確かシャワーはすぐそこよね」
 と、場所を確認するシュライン。シャワーなどの場所は、アリアが向かおうとした逆方向にあった。
 かくしてシャワーをちゃんと浴びてから、3人はプールサイドの方へ向かうのだった。

●あそびますでぇすよ♪【3】
「アリアしゃん、いーっぱいあそぶのでぇす!」
 プールサイドに移動して場所を確保するなり、八重はアリアの手を引っ張って大プールの方へ向かおうとした。
 八重とシュラインの顔を交互に見るアリアであったが、送り出すように手を振るシュラインに見送られ、結局は八重と一緒に大プールの方へ向かったのだった。
「誰かしら、荷物の番をしておかないといけないものね」
 シュラインがぼそっとつぶやく。タオルとか、意外と荷物はあるのだ。それに来る道中、保護者的立場になるかなと薄々予想はしていたが、見事その通りになった訳で。
 まあそれでも、後で荷物番を交代してもらって、一泳ぎはしようとシュラインも考えているのだが。
「まずはこっちからあっちまでおーふくするでぇすよ♪」
 大プールに入るなり、八重がアリアに言った。大プールの端から端まで往復しようというのだ。
「分かりました、往復しましょう」
 即座に応じるアリア。そして2人は連れ立って泳ぎ始める。
 最初のうちは2人とも順調に泳いでいた。が、ここはプールである。泳いでいるのは何も2人だけではないのだ。つまり、自分の前に突然誰か他の客が現れるということもあるのだ。
 アリアはさすがに上手く避けていた。しかし八重の方は――。
「はぁうぅっ!」
 3度目に誰か人が前に現れたのを、変な避け方をしてしまって思いっきり水を飲んでしまったのである。そうなると泳ぎ方も変になり……一瞬八重の身体が頭まで水中に沈んでしまったのだった。
「八重さん!?」
 驚いたアリアは急いで八重のそばへ近付いていった。そのアリアに何とかつかまり、八重の頭が水中から再び出てきた。
「ふ……ふふぅ……大人プールはゆだんするとあぶないのでぇす……。アリアしゃんも……気をつけるでぇすよぉ……」
 濡れた髪を額に張り付かせ、強がる八重。アリアは無言でこくこく頷いていた。
 そんなハプニングもあったため、往復するはずだったのを急遽片道で休憩を挟むこととなった。その代わり、そこから近い場所にあるウォータースライダーを楽しんでみることとなった。
「これもくるくるまわってすべってこわくてあぶないのでぇすよ」
「そうなのですか?」
「でもそれが楽しいのでぇす♪」
 そう言う八重に引き連れられ、ウォータースライダーのスタート地点へ着いたアリア。八重を前に、そして八重の身体をしっかりつかんだアリアが後ろとなり、準備を行う。
「カウントとどーじにスタートするでぇすよ、アリアしゃん」
「はい」
 どうやら八重がスタートのタイミングをはかるべく、カウントダウンをするようだ。
「3・2・1・行くでぇす!!」
 その八重の声と同時に、2人の姿はウォータースライダーの中に吸い込まれていった。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ♪」
「あーーーーーーーーーーーーーー?」
 2人の声はウォータースライダー内に反響し、所々空いた場所から外にも聞こえていた。ちなみに楽しそうな叫び声が八重で、不思議そうな叫び声がアリアである。
 そしてものの2、3分でウォータースライダーの出口に大きな水しぶきが上がる。八重とアリアが滑り落ちてきたのだ。
「どうでぇすか、楽しかったでぇすか?」
「えー……あー……何だか凄かったです」
 プールから上がり、笑顔で尋ねた八重に対し、少し困惑した様子でアリアは答えていた。

●25メートル1本勝負【4】
 それからもう少し遊んだ後、八重とアリアはシュラインの所へ戻り、休憩を取ることにした。で、少し休憩を取ってから、今度はシュラインがアリアと連れ立って泳ぎに行くことになった。
「じゃあ八重ちゃん、荷物番よろしくね」
「まかせるのでぇすよ♪」
 シュラインの言葉にそう答える八重。手には大盛りのかき氷のカップが握られていた。これがあれば暑い中での荷物番など苦ではない。
「行きましょ、アリアちゃん」
「はい、分かりました」
 そして歩き出すシュラインとアリア。後ろから八重の声が聞こえる。
「あっ、プールサイドは走ってはいけませんなのでぇす! 転ぶと大変なのでぇすよ。それとあと、お耳の中に水が入ったら出しておかないと、後で耳の中が痛くなることがあるのでぇす」
 諸々の注意事項である。と、アリアがぼそっとシュラインに言った。
「さっき八重さんが、首を傾げて片足でぴょんぴょん飛んでいましたけど、あれは何をしていたのか分かりますか?」
 なるほど……耳に水が入ったんですね、八重さん。シュラインは苦笑しながらアリアに説明してあげた。
 シュラインたちが向かったのは25メートルプールの方だった。シュラインはそこで少し流して3往復くらいしてから、何気なくアリアに言ってみた。
「ね、競争してみる? 25メートル、あっちから向こうまで」
 シュラインがそんなことを言ったのは、きっとプールサイドから見ていた限り、アリアが普通に泳いでいたからだろう。ひょっとしたらアリアが本気で泳いで、プールに渦でも発生するんじゃないかと危惧していたのだ。が、どうやらそういうことはなさそうであった。
「分かりました、受けて立ちます」
 きっぱり答えるアリア。そして2人は25メートル泳ぎ始めた。
 最初の数メートルはシュラインが頭2つ分ほど先行していたが、中盤で逆転されてしまい、最後は身体1つ分ほどの差をつけられてしまったのだった。
「ふう……やっぱり負けちゃった」
 ゴールしてそう言ったシュラインの表情はすっきりとしていた。もとより勝てるとは思っていなかったのだろう。
「こちらこそありがとうございました。……いいものですね、プールって」
 シュラインにぺこんと頭を下げてから、アリアが静かに言った。シュラインはその言葉を聞き逃さなかった。
「何度も通えば、もっと面白くなると思うわよ」
 シュラインはそう返して、プールから上がった。頭上には相変わらずの青空が広がっていた――。

【アリアとプール 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0086 / シュライン・エマ(しゅらいん・えま)
     / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員 】
【 1009 / 露樹・八重(つゆき・やえ)
          / 女 / 子供? / 時計屋主人兼マスコット 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全4場面で構成されています。今回は皆さん同一の文章となっております。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・大変お待たせさせてしまい申し訳ありません。未だに暑い日が続きますが、ここにプールでのアリアとの1日の様子をお届けいたします。とりあえず、場所がよかったのかカメラを持った妙な輩は居なかったようです。
・このシリーズで色々と経験しているアリアですが、この次はいったい何を経験することになるのでしょう。リクエストなどありましたら、ファンレターなどでお願いいたします。
・余談ですが本文に出てきましたプール、実は高原が昔行ったことのあるプールがモデルになっていたりします。いい具合にのんびりしたプールだったように記憶しています。
・シュライン・エマさん、126度目のご参加ありがとうございます。さすがにアリア、自然とセーブしていたのか、渦が起こるようなことはありませんでした。で、予想通りに保護者的な立場に落ち着きましたね。ちなみに、最後の競争は軽く判定してみた結果です。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。きちんと目を通させていただき、今後の参考といたしますので。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。