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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


加登岬の遺産 緊急収集編 遺書

 曖昧な情報の中で、一つ驚くべき事実。
「いや、確証はないけどね。本当は、遺書は二つあるって話なんだ。」
 では、公開されたのは片方の?
 と、考えるべきか、もしくは別のものなのか?
 草間は紫煙をふかし、虚空を見る。ピースがつながらない。
 行方不明の従兄、悪い噂のある婚約者、命を狙われているという依頼人。
 零はがんばって、澪の役目を果たしている。それは助手からメールなどで、逐一聞いている。
 全財産と書かれているところが、気になるのだが、何かがおかしい。

「どうして、が色々でますね。」
 館で零がぽつりと言った。

「“何故”が多すぎる。何か忘れてないか?」
 遠くの方で草間が頭をかいた。

 無くなった(もしくは……の)遺書。其れを探すと何かを真相に一歩踏み出せるかもしれない。
「おまえ達は零を見てくれ。俺はこっちの助手と篤志探しに力を入れる。何か知っていると思うし、意外なことになるかもな。」
 と、草間は、零とともに館に潜伏できた助手に、伝えて、
「澪、他の場所を探すぞ。」
「はい。」
 零に扮している、依頼人加登岬澪にそういって、旅行鞄を持った。


 真相は……いったい?

〈謎を解く……〉
 別に遺書がある。では、あの公開された物なんなのだ?
 まずその疑問。
 そして、澪を狙うという犯人は、やはり沖野崎なのか? 遠く離れている場所でも、メールのやりとりは可能である。
 以下はメールのやりとりである。

 皇騎:こちらには不思議な事と言えば、携帯は圏外というのに、光回線だけはあることです。おそらく、この家にデータが残っていると思います。其れを調べるつもりです。
 シュライン:そうね、其れはかなり不自然よね。では、一つ情報お願い。沖野崎の写真を貼付で送ってくれるかしら?
 皇騎:分かりました、皇さんが、館周りで演奏会を開いて私が動きやすい様にしてくれるそうです。

 今の時代、科学技術という物は本当に便利だと実感する。
「昔の探偵も犯人も、色々苦労していたよね。」
 シュラインがつぶやいた。
「あ、まぁ、考えられない物だ。俺としては、タバコが自由に吸える時代が良かったんだがな。」
 草間はタバコが吸える場所が少なくて、苛々しているようだった。
 事件の当事者である、澪が思い出すために考え込んでいる。
 いつでも出発する準備は出来ている。しかし、まだ、ここの宿の女将に尋ねないと行けないことがある。それがどんな些細なこととしても。それは澪にも。
「ちょっと、女将さんと話してくるわね。」
 シュラインは席を外した。


〈皇茉夕良の憂鬱〉
 館から離れて、街の喫茶店。
「で、親に待ってほしいと?」
 宮小路は、皇とお茶をしながら会議をしていた。
 テーブルにはSDメモリ。そして色々な書類。
「私も、澪さんと同じような感じで逃げているから、ちょっと、ね。」
「仕事が終われば、話をするべきですよ。話せば色々見えてくるはず。」
「そうだと良いけど。それより、こんな物だけで良かったのかな?」
 宮小路はネットからの情報収集がメインなので、皇が足を使って手に入れた情報と照らし合わせていた。
「この自宅サーバ、そして、二つの家の関係、私は、このサーバを打ち破って真実につながる情報を手に入れたいと思います。」
「じゃあ、私はあれかしら? これぐらいのことしかできないけど。」
 大きな封筒から、色々出す。
「こっそり、篤志さんの部屋に入ってみたの。ちょうど零さんも捜し物していたみたいで。」
「見つからなかったですか?」
「ああ、零さんが上手く、執事達を追っ払ってくれたわ。で、これ、何かのメモね……。」
 と、メモを見せる。
 色々かかれている。しかし、なんと書かれているか解らない。
 メモはそう言う物だ。一言だけでとどめておくというものがある。 たとえば日にちしかなくても、本人にはそのときどんな用事なのか解る。一文字だけでも、何かの意味が分かってしまうのだ。しかしながら、時間がたてば、忘れてしまうこともある。
「ここから、何か得られればいいのだけど。あとは、また話をしましょう」
 宮小路は、皇の足で手に入れた情報を受け取って、一度戻るのであった。
 皇も又他の人に情報を引き出すため、一度部屋に戻り次はどうするか、考えることにした。


〈もう一つ〉
 篤志の捜索は行き詰まっていた。
「とらわれているのか、とんでもない情報を持っているから隠れている。この二つしかないわね。」
 シュラインは言う。
 まだ、あの男達が何か分かっているのか、聞き出せたらいいのだが、時間がない。沖野崎の写真を警察や記者に見せて、情報を貰ったことで、宮小路に送った。その結果は結構あっさりしていた。
「その線で洗うしかないが、沖野崎の方は狙っている物は財産だけで、“篤志の命を狙っていない”事が分かった。これ以上、記者や警察関係からは何も得られないな。向こうも仕事のなかの守秘義務があるし。」
 つまり、今の状況(篤志が居なく、このままだと澪に全権握る)がおいしいので沖野崎は、上手く動けば問題ない。ただ、今は零が変装しているので、あまりちょっかいは出してほしくないと言う感じだ。それでも、今の舞台にはこれ以上は、上がってほしくないので、宮小路に情報を託した。
「宮小路さん達が沖野崎のほうを止めて、真の敵を抑えてくれればいいけどね。……ねえ、澪さん」
「はい?」
 おとなしく待っている澪にシュラインが尋ねる。
「先ほど女将さんから色々聞いたのだけど、此って心当たりあるかしら?」
 女将から、祖父がどんな物が好き菜を尋ねてみたり、必ず出す料理を聞いてみたりした。そして、女将は、祖父はこう口に漏らしたそうだ。
 ――ほんとうに、あの子達には悪いことをした。金の話になると、醜くなるのだろう。できれば、無くしたい。
 ――孫達にあの場所を上げたい。
 ――わしの秘密基地を。わしの昔の思い出を。
「まさか。」
 彼女は、悲しい顔になった。または、懐かしい顔。今まで思い出せなかったことにも後悔しているのだろうか。
「分かるの?」
 シュラインが優しく澪に尋ねる。
 澪は
「一つ、海の他に、一つ、思い出の場所を、思い出しました。」
 それは、この海に通じる河を登れば必ず行き着く場所、山だった。


〈急転〉
 思わぬ展開は、どこにもある。此はある意味予測できる範囲であるが。
 澪が沖野崎淳二に詰め寄られていた。一寸遠くで、皇と宮小路が、其れを目撃している(位置は互いに正反対である)。二人とも、その場でどう出るか考えていた。
 今は霊ではなく澪。澪として立ち振る舞いをしないと行けない。護衛できているわけだが、そのギリギリのラインに立たされていた。
「あの、私は承諾した覚えはないのです。」
「しかし、澪さん。私の親とあなたと親とは話は付いています。それは紛れもないことですよ?」
「それに、遺産目当てでは?」
「……何を言うのですか?」
 はやり婚約に関して、不満があると言うことを、霊は不快感をあらわにしていた。
 沖野崎が霊の手を取る。
 遠くから見ている二人にもあの沖野崎に悪意があるとわかる。どうすべきか!
「ご隠居!」
 宮小路が符をつかい、ご隠居をだし、滑降させた。
 皇が走り出す。

 その瞬間だった。
 霊が、いとも簡単に彼をねじ伏せた様に見える。
「順序がありまして?」
「え? いや、だから。」
 沖野崎は目を白黒させた。
 宮小路も皇も、私たちは合気道を教えてはないですが? と、の感想。まあ、霊の素体に合気道も習得している術者をいれていれば、なせるという理論もあるが、澪にそのたしなみあったのか? と 記憶を巡らせ首をかしげたくなった。
「いた、なにを。いたたた!」
 決められた状態で痛がる沖野崎。
皇が近寄る。
「レディに対して、手をかけるのも良くなくて?」
 フクロウが近くにとまり、何かメモを持っていた。
「ふーん。そう言うことなのね……。沖野崎サン、あなた、とんでもない事していますね?」
「な、何のことだ!?」
 皇は、そのメモをみて、
 沖野崎の耳元にささやくと、彼は青ざめた。
「な、何故!?」
「相手側に知られたくなかったら、これ以上は止めろ。もし、此を知ったら、大スクープどころではなく破滅するぞ。」
 今度はご隠居の口からだった。
 ご隠居の口を通して、宮小路が言っている(利便性のある改良式神なのだ)。
 結局沖野崎は、慌てて逃げていった。
「あ、ありがとうございます。」
 零がお礼を言う。
「此が役目だからね。でも、おどろいたぁ。」
「?」
「合気道できるんだ?」
「うーん、一寸“力”使いました。」
 零はちょろっと、舌を出した。
「あ、そう。」
 合気道使いの怨霊でも隠し持っていたのかとか深いことは言わない。彼女の人生が大きく変わりかねない危険なときだったのだから。
「それって、何が書かれていたのですか?」
 零は、皇が持っているメモを見る。
 メモに書かれていたのは。
 親非公認の組と通じていること(それも仲が悪い方だ)。そして、愛人も居ること。あとは、一部事業が失敗して、焦げ付いている、様々な違法行為をなされて補っているという話だ。前者2つは、手打ちと、愛人と別れる手段があるとしても、事業失敗は、痛手である。親も知って居ない情報だったらしいと顔で分かった。
 シュラインが集めていた物と皇が集めていた物を、照合してみた結果だった。
「さすが、情報社会の申し子なのね。」
 感心する皇だった。
 宮小路はシュラインとのやりとりで、すぐに地方記者や、警察関係と接触し手に理恵太噂などを整理して、信憑性のある物を羅列していたのだ。一番真実みがあるのが事業の失敗だろう。
 これ以降、沖野崎は、あまり顔を見せなくなる。
 澪の親たちは、不機嫌と、すこしの安堵感があったようだ。その心情を、3人は想像か推測の中でしか、感じ取れなかった。


〈居場所〉
「山に小屋がある?」
「ええ、小さな丸太小屋です。」
 手入れがされていない雑木林を歩く。
 車を使ってかなりの時間走り、そしてこの山道を登る。
 何となく、何となくだが、懐かしい感じのする自然。
 草間もシュラインもそう思った。
「私はよく知りませんが、子供の時は秘密基地等って作った経験はあるのでしょうか?」
「あ、ああ、そう言うことか。」
 懐かしく感じるのはそう言うドキドキ感だったみたいだ。
 この地域全体が祖父の思い出の場所。否、故郷なのだとすれば? 故郷というか母方の方での実家があったとかだろうか?
 たどり着いた先は、小さな丸太小屋に、近くに沢のせせらぎだった。
「人の気配がする。」
 草間が制止した。
 音ではなく、勘で気付く。
 シュラインが耳を澄ませる。
 足音、そして、息。
「遠くに誰か来ている。声からは、あの時の!」
「分かった。澪とシュラインは隠れていろ。」
 しばらく、まつ。
 先日の男達だ。
「桑波篤志ってここにいるのかね? 周りを囲もう。」
 仲間が頷いている。
 シュラインと草間は何か探している連中と見たが、敵か味方か分からない。警察関係者でもない。残るとすれば……。もう一つ。
「ひょっとして、あれかな? あっちも探偵?」
「ん? もしかして。俺たち同業者?」。
 いくら何でも、行方不明のまま放っておくわけもない。
 幽閉か殺人なら居ない物として、扱える。
「篤志さん! もう鬼ごっこはよそう。」
「!?」
 やはり、そうだ。別口から頼まれているのだ。

 さてどうした物か。
「どっちも同時に見つけて事をまとめた方が得策よね。戦いは避けるべきだし」
 シュラインは言う。
「別の県などの同業者だな……。」
 全員の顔なんて知らない。
 名前を言えばすぐ噂だけでの話になるが、草間は其れを言いたくない。
「交渉しましょうか?」
「そのほうがいいか……。」
 と、澪は隠れて、二人だけで男達に向かう。

 話はあっさり付いた。ひとまず、別の探偵グループであると分かった。
 草間は不機嫌だ。
 それはもう、久々に聞いていない言葉を聞かされては不満も何もない。
 ――あの噂の“怪奇探偵”が普通の人捜しって、本当に珍しい(天変地異の前触れか?)。
 また独りは草間の顔をと怪奇探偵と聞いただけで、怯えてリーダー格に耳打ちしたのち、おとなしくしている。シュラインは、彼の“別の名前”を知っていたのだろうかと思う。
 お互い、家系の元から依頼は来ているが、その家の名前、依頼主は証せないという条件で、裏の情報交換であった(分家筋か、本家からか、実は沖野崎との提携している組か色々あるのだ)。
 分かったと言えば、依頼主は篤志が居ないと話にならないので、探しているのである。おそらく、桑名家と親しいところなのだろうなど。分家でも派閥は出来る物だ。

 小声で、シュラインは澪に聞く。
「ここで、あってる?」
「はい、秘密基地。ここです。」
 さて、この場所に何か意味があるのか?
 草間達だけに任せるように、彼らは去っていく。怪奇探偵とかぶると色々厄介なのだろう。
「ああ、俺も身を隠したい。」
 そうぼやいた。
 シュラインは、苦笑する。愚痴は後でも聞くからと思いながら。
「もしもし、篤志さん。桑波篤志さん?」
「篤志さん! 探しました!」
 澪も叫ぶと、丸太小屋の奥で音がした。
「澪? 澪なのか?」
 見つかった。
「よかった……無事で。」
「僕も、君が無事で良かった。」
 と、少しだけ再会を喜ぶ。
「どうして逃げていたの? やはり何かを……。」
 シュラインが尋ねる。
「はい。遺書に何かおかしいことがある。それが気になり……。」
 桑波篤志は答えた。
 今の遺書と、最初に用意されている遺書。2枚セットで意味をなすように書かれて、その一部を、篤志は知っている。
「破棄した者が居るのです。私の家に……。両親が……。」
 篤志は、苦渋の顔を浮かべている。
 つまり、総括しないとあの遺書は意味をなさないのだ。
「そこまでして、本家を、めちゃくちゃにしたいのかと。」
 今の篤志には話は聞けない。
 悲しみに押し潰されそうだった。
 もう少し、落ち着いてから話を聞こうという事になった。


〈護衛〉
 皇は零を守っていた。遠くでも近くでも。
 宮小路は、奥の手の精神のネットダイブを試み(もちろんその条件下における愛機と追加機材で)、アイストラップに重傷を負いながら、なんとか秘密を手に入れる。式神ご隠居との精神シンクロにて、零にその情報を渡した。さすがの彼の最終能力を持っても、最後のアイストラップは、心身共に殺せるほどの殺傷能力を持っていたようだ。
 ――どこのサイバーパンク小説なんだ?
 皇も神秘能力をもつので、多少勘や殺気感知できる。沖野崎が居なくなったことで、その気配が肌に刺さる。ああ、これは本当に澪を殺そうとしているんだ、と。
 宮小路は熱にうなされて、倒れ込んでいる。幸い今までの疲労の蓄積による熱。数日、全員がそろうまでゆっくり出来る。
「なるほど。これは、草間さん達に知らせないと。」
 零と皇が代わって、シュラインにデータを送ることにした。
 監視カメラの動画、会話の一部、そして、財産の正式配分計画。土地管理、別の分家の裏帳簿。様々な情報だった。本家側は灰色ぎりぎりだけで、本当に外道な違法商売ではないのはある意味救いだったが、沖野崎の祖父がかたくなにこの場所を守ると言うことに意味があったようだ。
 この村自体の危機にもあるということを宮小路は分かった(ただ、倒れているため、危機感情としてしか、伝えきれない。皇のような若い子が数字の羅列だけで分かるはずもない。おそらく、専門家ではないと分からないだろう)。
 遺書の正式な内容。それが、何とかそろった。
 篤志が隠れている理由。
 この家に何があるか。
 犯人は本家なのか、桑波なのか別の分家なのか?
 草間は車で急ぐ。
 皇は、其れまでに舞台を仕上げ、零を守る。


 先に見えるのは、暗雲だった。


解決編に続く。

 
■登場人物■
【0086 シュライン・エマ 26 女 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【0461 宮小路・皇騎 20 男 大学生・財閥御曹司】
【4788 皇・茉夕良 16 女 ヴィルトゥオーソ・ヴァイオリニスト】

■ライター通信■
 滝照直樹です。
 こんにちは、もしくはこんばんは。
 だいたいの話はそろえたはずの、緊急収集編。如何でしたでしょうか?
 現在伝えられる情報は出しました。あとは4話の「解決編」にて篤志が真相をある程度語り、
 犯人を確定捕獲し、この沖野崎家の遺産問題を解決する形になります。
 大けがしましたが、そのときには宮小路産は回復しているので大丈夫です。

 では、4話「解決編」でお会いしましょう。

滝照直樹
20070727