|
□ お空の下で大勝負! 〜にくきゅう大行進3〜 □
【 opening 】
夏の強い日差しにも慣れてきた頃。
涼しげな小川では子供達が小石を投げたりして遊んでいる。
力一杯遊んで、親たちが子供を迎えに来た後、彼らの時間は始まるのだ。
「ふっふっふっ、今日こそ負けないにゃ〜ん!」
「甘い、甘いでござるよ!」
小川の縁に立ち、2匹が胸を反って威張りながらいう。
一方は、草間興信所のご近所猫又一族のマーブル王子。
もう一方は、この辺りの小川に昔から住む河童一家の川太郎。
「いっせーの、にゃっ!」
「えいっ!」
ぶんっ、と振り回し川に落としたのは釣り竿の先。
先には餌が取り付けられている。
ぽちゃ〜ん、と流れに揺られて待つ事しばし。
「釣れないにゃぁ……」
「辛抱が足らんでござるよ」
余裕綽々の川太郎に、マーブル王子はしっぽをぴん、と立てた。
「にゃ……!?」
「どうしたでござる」
「静かにするにゃ!」
マーブル王子が釣り竿を地面に置き、川太郎を引っ張って草むらに隠れる。
「何か来るにゃ」
男が二人、現れると木の下を靴先で掘り始め、ある程度の空間が確保された後は、壺に入った何かを埋め始めた。
草むらに隠れるマーブル王子と川太郎に気づかないまま、男達は去っていく。
見つかったとしても、猫又と河童である。
何か夢を見たのだろうと、信じるとは思えなかった。
「どうするでござる」
「掘り出すにゃ」
柔らかな土を掘り出し、のぞき込む。
「何か生き物が入ってるにゃ」
「待つでござるよ。これは大昔からある呪いの物に違いない」
川太郎は壺の蓋に触ろうとするマーブル王子に注意を促す。
「おお〜、さすが川太郎。物知りなのにゃ。でもこの壺が近くにあると、いい気がしないのにゃ。魚も寄って来ないと思うにゃ」
マーブル王子の最重要課題は、川で魚を捕る、と言う事につきた。
「ふむ……我らではどうにも出来ないでござるよ」
川太郎が、再び土に戻し、位置を覚える。
「いい人がいるにゃ。任せるにゃ!」
マーブル王子は、とある人物を思い出し、提案する。
それは、とても良い案に思えた。
該当人物にとってはいい迷惑でしかないのだが。
「で、又来たわけだ」
頬杖をつき、煙草を銜えた草間がいう。
「宜しく頼むにゃ!」
えへん、と胸を反らしていうのはマーブル王子。
後ろで疲れたように見えるのは、ノアとブラン。
「また、お前達か」
「ご近所のよしみでお願いしますにゃ」
【 1 にゃんこと調査員 】
マーブル王子、ノアとブランが居る所にやって来たのは、暇つぶしをしようと雑誌を片手に草間興信所にやって来た黒冥月だ。
お茶を用意しに給湯室にいたシュライン・エマが人数分のお茶を入れて戻ってくる。
冷たく冷えた麦茶が入ったコップが直ぐに汗をかく。
室内の温度が高いからだ。
申し訳程度に扇風機が室内の温度を下げようと頑張っている。
王子達は暑くないのだろうかと心配そうにシュラインは様子を見るが、別段暑そうにしていない所を見ると、猫又一族は暑さに強いのかも知れない。
「今回は珍しく王子が居るな」
そう、今回は最初からマーブル王子が居るのだ。
いつも、騒動の元になって姿を消している事が多いというのに。
「冥月おねーさん、お仕事引き受けてくれるにゃ?」
「ふむ、今回はノアとブランを困らせているわけではなさそうだな。話してみるがいい」
話を聞こうという時、ちょうどやって来たのは、柴樹紗枝と白虎轟牙だ。
人好きのする表情を浮かべた紗枝は、しなやかな身体を揺らして歩く轟牙を伴っている。轟牙はサーカスで猛獣使いをしている紗枝のベストパートナーだ。
「みなさん、こんにちは!」
帽子を取り、丁寧に挨拶をする紗枝に習って、轟牙も挨拶をする。
「ガウ……(邪魔するぞ)」
「にゃ……!?」
轟牙の姿に驚いた猫たちは素早い動きで、ノアとブランはシュラインに、マーブル王子は冥月の後ろへと姿を隠す。
「大丈夫ですよー、轟牙はあなたたちを食べたりしません」
紗枝はノア達と同じ視線の高さにすべく、しゃがみ込む。
轟牙は紗枝の言うとおり、床に座っている。
「虎もおまえ達と同じ猫科だ。お仲間だろう。多少、大きいからといって怖がることはない」
冥月がおかしそうに笑いながら言う。
「食べないにゃ……?」
「大丈夫ですかにゃ?」
ジッと見つめるマーブル王子達に、轟牙が頷いた。
「ほら、轟牙はちゃんとみなさんの事をわかっているのです」
「綺麗な毛並みねぇ……。ちょっと触ってもかまわないかしら?」
思わず、真っ白なふさふさ毛並みを持つ轟牙を見て、シュラインが言う。心なしか目がきらきらとしている。
「構いませんよ」
「ガウ……(構わんぞ)」
「きゃ、気持ちいい……」
声は小さかったが、それはもうウットリとした声だ。
「ついでに肉球も……」
「ガウ……(そんなものでよければ)」
「大きな肉球ねー」
にゅっと出した太い轟牙の前足の肉球をふにふにふにふに。
「おい、シュライン……」
思わず戻ってこーいと、デスクの向こうから声をかける草間。
「……はっ! いけないいけない。つい気持ちよくて」
「こんにちはー!」
元気よくドアを開けたのは藤田あやこ。手広く事業をやっている元気娘で、時折気が向いた時に草間興信所へとやってくる。
「はい、これ、差し入れね」
紙バッグをローテーブルに置く。中身はクッキーのようだ。
ありがとうと、シュラインは草間に代わって礼を言うと、給湯室へとバッグを持って行く。戻ってくる時にはあやこの分のお茶を盆にのせていた。
「何、何か依頼でもあるのかしら? 話してみなさい、私が解決してあげる」
そう言って、どさりと身体をソファに沈め、マニキュアの塗られた指を膝の上で組んだのだった。
マーブル王子が身振り手振りで話すのを聞いたあと、気になった事柄を聞いていく。
「壺の中身は見なかったのね?」
「見てないにゃ。中でごそごそ音がしたから、危ないと思ったにゃ」
あけると危ないと思う辺り、マーブル王子はそれなりに危険回避能力があるらしい。というより、川太郎の予感が的中したのだが。
「それってやっぱり……」
「蠱毒だな。どこの誰だ、そんな物騒な事をするのは」
「マーブル王子は埋める所を見たのですね」
「そうにゃ」
「では、破壊してしまってから、埋めた人々を退治してしまいましょう」
「ガルル……(協力するぞ)」
「川辺にゴーね」
草間に留守番を頼むと、早速川太郎の住まう川辺に向かったのだった。
【 2 にゃんこと調査員と怪しい人々 】
「ふむ、平和そうに見えるが……ここか」
掘られた跡の側に立ち冥月が言う。眉間にしわが寄っているのは、壺を掘らずとも、その禍々しさがわかるからだろう。
呪いの品と言うのは、呪が完成していなくとも、すでに発動し始めたもの、悪意を持って作られたものというのは、総じて辺りに負のエネルギーを放出しているものだ。
「こういう物の扱いには慣れているから、私が処分しよう。少し離れているといい」
冥月はそう言うと、皆が距離を取ったのを確認してから、影を自在に操る能力を使い、地面へと潜らせる。
そして、蠱毒の壺を粉々に破壊した。
「あまり気持ちのよい物ではないが、放っておくとろくな事にならないからな」
「終わりましたか」
「ガルル……(しばらく臭いそうだな)」
「ちょっと見てみたかったかな」
残念そうに言うのはあやこ。科学的手法で解決をと考えていたのだが、呪は進行中なので中身を採取となると、調査を任せる研究所の人間が一般人であるのを思い出し、ちょっとそれは危ないかも、と諦めたのだった。
「壺は無事に破壊できたのね」
そういって現れたのはシュライン。少し遅れたのには訳があった。
川辺に来る途中、良く川辺にやって来る人々に聞き込みをして居たのだ。
「マーブル王子が見たのは2日前で、昨日もここに現れていたみたいだから、隠れて待ち伏せすれば時間になればやって来そうね」
周囲を見渡せば、川辺は隠れる場所はなかったが、生い茂った草むらに紛れていれば大丈夫そうだ。
「ここは私に任せてください」
紗枝が胸元で手をあて、轟牙を見る。
「ガルル……(大丈夫だ)」
いよいよ本領発揮である。
陽が陰りを見せ始めた頃、現れたのは二人の男性。手慣れた動作で靴先を使い土を掘り始めるが、さくっと土が中へと陥没したのに目の色を変えた。
その時。
ぴしっと地面を叩く音と同時に轟牙が男二人へと襲いかかる。同時に倒れる様にと角度を考えた襲撃だ。
「ガオォォォォ!(覚悟するが良いっ)」
「う、わぁぁぁぁ! と、と、虎……!」
念のために冥月が影をのばし、男一人を引き受けようとするが、紗枝が見事な鞭裁きで締め付けた。
「くぅっ! 何だ、おまえ達は!」
「離せっ」
轟牙に背中を押さえつけられた男は、轟牙をどうにかしようとするが、さすがにどうにもならない。形勢逆転は夢の又夢だろう。
「あなたたちの目的は何ですか?」
紗枝が鞭でぎりぎりと締め付ける。
「早く言っちゃいなさいよ」
魚釣りが気になっているあやこは、少し苛つきながら言う。
「……」
黙ったままの男に、シュラインが言う。
「この辺りの土地を買い占めようとしている人からの依頼かしら」
物騒な職業の人々の組長の息子が野球少年でその練習場にとこの辺りの土地が候補に挙がったのを、シュラインは聞き込みでわかっていた。
良く通い慣れた土地でも、危険な事があれば直ぐに足が遠のく。まして、夜になれば人気のない川辺は特に。
「ぐっ……」
どうしてそれを、と言いたかったのだろう。だが、言葉にしてしまえばそれは認めてしまう事になる。
「もう、仕方ないわね」
シュラインは冥月に耳打ちすると、凄みをきかせた笑みを浮かべた。
「我々は警察ではないし、呪物を証拠としてつきだしても信用はされないだろう。だが、こういったもの対処できる能力がある我々だ。今度、この場所で再び蠱毒を仕掛けるようなことがあれば……分かっているな? 次回は今回の様には行かないぞ」
「ガルルルル……(覚悟しておけ)」
ドスのきいた低音域の声で轟牙が唸る。
「容赦しませんから」
紗枝はすっかり衝撃波でぐったりした男を見て言ったのだった。
【 3 にゃんこと調査員と川太郎とキャンプ 】
この辺りの土地にも手を出さない様に脅したあとは、川辺でキャンプ開始である。
命からがら逃げ出した男達を見送った後、安全になったのを確かめたマーブル王子は河童の川太郎を呼んだ。
川辺に着いた時、なぜ呼ばないのだろうと思っていたら、マーブル王子は大切なお友達なので解決するまで呼ばないのにゃ、と言っていたからだ。
猫又一族もだが、河童一族も戦いに向かない一族らしく、此と言って強い攻撃手段を持っているわけではなかった。そんな身で、調査員である彼らの負担になってはと、ちょっとは足手まといかも、と自覚はあるマーブル王子は思ったらしい。
「川太郎ー! でーて来るにゃー!」
晴れておおっぴらに川太郎の名を呼ぶ。
川の底で待機していたのだろう、直ぐに川辺へと現れた。
「マーブル王子、2日ぶりでござる」
「いつもマーブル王子がお世話になっているのですにゃ」
ノアとブランも挨拶。
いろいろとご尽力ありがたく、と川太郎から丁寧な礼をされた面々は、大事にならなくてよかったと、気を取り直してキャンプを開始した。
「これ、よかったらどうぞ」
そういってシュラインが差し出したのは、川太郎への差し入れだ。包みを開けば、新鮮な胡瓜が現れる。
「おお、かたじけないのでござる」
早速、と一本をしゃりっと囓る。
残りの胡瓜は網かごに入れて、川で冷やす。そうすれば、数時間で冷えて食べ頃になるのだ。自然の冷蔵庫だ。
「あなたたちには、鰹節ね」
一本ずつ手渡すと、うっとりと両手で受け取る。
「良い香りにゃぁ……」
リュックになった布袋になおすと、釣り開始だ。
ご飯のメインは焼き魚。
食事にありつけるかどうかは皆の手にかかっていた。
調味料はシュラインが興信所から持参済みだ。
「たくさん釣れたら、一夜干しにして保存食に出来るわ……」
可成りせっぱ詰まった食糧事情な草間興信所である。
「ん、釣れたぞ」
冥月が、的確に魚の居るポイントへ釣り針を投擲し、魚を釣り上げていく。ものの数分で3匹も釣り上げた。
「おぉぉぉぉ、すごいにゃ!」
マーブル王子が、尊敬のまなざしで見ている。冥月は満更でもない様子で話す。
「昔、師匠と山ごもりした時に、これで飢えを凌いでなぁ……。魚は気配に敏感だ。食う気満々だと逃げるぞ」
「そうなのですか」
釣りを始めた紗枝と轟牙。紗枝は釣り役、轟牙は釣り上げた魚を焼く役だ。
手先の器用な轟牙は、焼き具合を見つつ、くるんと魚の棒を回転させる。
「ガルル……(良い焼き具合だ)」
「よし、頂くぞ」
いつの間にか、現れた草間はちゃっかりと一番最初に手をつけて食べている。
「いっぱい釣るわよー!」
あやこが、調子を上げて魚を釣り上げていく。
焼くのが追いつかなくなってきた魚は、シュラインが捌いていく。
「どうしてこんなに釣れるのかしら?」
「こういう日もあるでござるよ」
どこか意味深な川太郎に、シュラインは納得する。
(今日の豊漁は川太郎さんのお陰なのね)
普段は運任せで魚釣りをしているのだろう、だが、今日は特別。
川太郎の皆へのお礼でもあるようだった。
「今日の分は確保完了。これから勝負にゃ!」
にゃーん! と胸をはり、マーブル王子が宣戦布告する。
「勝負、受けて立つわ!」
「面白そうです」
「ガルル……(紗枝、応援しているぞ)」
「私も混ぜて貰おうかしら」
「ふっ、良いだろう」
「よーい、ドンにゃ!」
ノアとブランのかけ声で始まった勝負は豊漁でなかなか差が出来ずに、勝負が長引いたようだった。
End
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【受注順】
【2778/黒・冥月/20歳/女性/元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒】
[キングにゃんこ玉×1]
[にゃんこ玉×1]
【6788/柴樹・紗枝/17歳/女性/猛獣使い&奇術師?】
[にゃんこ玉×1]
【6811/白虎・轟牙/7歳/男性/猛獣使いのパートナー】
[にゃんこ玉×1]
【0086/シュライン・エマ/26歳/女性/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
[にゃんこ玉×3]
【7061/藤田・あやこ/24歳/女性/女子高生セレブ】
[にゃんこ玉×1]
【公式NPC】
【草間・武彦】
【NPC】
【マーブル王子/男の子/猫又一族の王子・白黒斑猫・冒険心旺盛】
【ブラン/男の子/猫又一族の白猫・苦労猫】
【ノア/男の子/猫又一族の黒猫・苦労猫】
【川太郎/男の子/河童/ちょっと時代がかった喋り方をする】
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■ ライター通信 ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
初めましてのPC様、再び再会できたPC様、こんばんは。
竜城英理と申します。
今回、ノベルが遅れてしまいました、申し訳ありません。
にゃんこ玉を皆様にアイテム配布しております。
5つ集まった方には、キングにゃんこ玉を。
文章は皆様共通になっています。
では、今回のノベルが何処かの場面ひとつでもお気に召す所があれば幸いです。
>黒・冥月さま
キングにゃんこ玉獲得おめでとうございます!
もう一個あるので、にゃんこ玉も健在です。
並べて飾ってやってください。
>柴樹・紗枝さま
初参加ありがとう御座います。
本来は猛獣使い用ですのに、鞭を存分に使って頂きました。
にゃんこ玉は5個集めるとキングにゃんこ玉になります。
>白虎・轟牙さま
初参加ありがとう御座います。
アクションが少なめでしたが、機会があればその時にでも。
王子達は、大きな猫さんだと思っている様です。
にゃんこ玉は5個集めるとキングにゃんこ玉になります。
>シュライン・エマさま
川太郎とにゃんこ達に差し入れありがとうございます。
すっかり懐いています。
魚の保存食大量にストックできた模様です。
>藤田・あやこさま
初参加ありがとう御座います。
元気娘さんなイメージでしたので、このような感じに。イメージが外れていなければよいのですが。
にゃんこ玉は5個集めるとキングにゃんこ玉になります。
|
|
|