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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


草間兄妹の海水浴 2日目

 青い空
 白い雲
 そして、空飛ぶ鯨。
 それが、深淵海水浴場の世界だ。
 それは、陸地から見ての話であり、あまり海深くには潜っては居ない。
「と、いうわけで、人魚達と話して海底神殿観光と言うことにした。」
 草間が朝食のとき全員に言った。
 まあ、色々遊ぶことを考えていたが、超常能力者と常人とはえらい違いになるため、競技も結構問題である。
 泳いで遊んで、そして、あまり見ることのない海の世界を見てまったり過ごすのが良いだろう。
 皆と何かを共有する時間も必要なのだと、思うわけで。
 影斬は問題ないというように、笑っている。
「きれいな神殿なんですよ。」
 零が言う。
 確か行った記憶があるのだ。

  

〈午前〉
 草間の計画からだと朝は自由行動である。そして相変わらず草間はビーチにパラソルを立てて、二度寝を決め込んでいた。
 男は簡単に着替えることが出来るので、すでに砂浜にいた。
 草間はもう、眠り込もうとしている。
 しかし、
「かなり、焼けますよ? たぶん、ステーキみたいに。」
「都会の日差しよりは幾分ましですけど……。熱中症など大変ですよ?」
 影斬や宮小路皇騎に言われる。
「いや、焼きたいから良い。男はやっぱりたくましく無くちゃダメだろ?」
 夏にはやっぱり焼きたいというのか?
「というか、織田。おまえ、神格化して紫外線は大丈夫なのか?」
「はは、これでも、“生身の人間”ですから対策は取ってますよ。」
 影斬は苦笑した。手には日焼け止めクリームがあった。
 こっちの異界では温暖化の被害は全くないらしい。何という好都合不条理。まあ、空鯨の夢の中というのだから、といってしまえばおしまいだ。
「そか、まあ、普通に遊ぶが良いだろうよ。俺は寝る。」
 何のために来たか。草間武彦。

「では、温かい飲み物の用意お願いしますね。」
「はい、任せてください。」
 仲居の夏美にシュライン・エマが頼んでいたものは、海底旅行のあとの対策だった。温度変化によって、風邪を引く可能性が高い。人造の零や、影斬とか天薙撫子あたりは別として(この神様夫婦は、もう普通の病気には完全耐性あるだろうし)、他の人はそうでもない。特に不精者の旦那さんが。
 ゆっくりと準備したのだが、妹の零も手伝ってくれたので捗った。なので、自分の時間も作れたのであるが、予想通り朝から、パラソルの下で眠っている草間武彦を発見する。仕事で疲れているのは分かっているけど、泳がないのはどうなんだろうと思う。たぶん、この数回彼が元気に泳いでいたことは記憶にない。
「また、寝ているの?」
 と、シュラインは彼の頬をつつく。
「おれは、此処では寝ることに決めて居るんだ。ビールに、つまみ。それで良いじゃないか!」
「せっかく、こうしているのに?」
 シュラインも実のところそれほど泳いではない。
 今回は、グラデーションのビキニに、カバーアップを上だけ止めている格好であった。
「……。」
 草間、硬直。
「動かないと本当に、運動不足になるわよ? 零ちゃんもほら、手を振ってるわ。」
「……。」
 今度は頬を引っ張ってみる。
「分かった。泳ぐ。」
 渋々、草間は起きあがった。
「そうでなくっちゃ。」
「お兄さんが来た!」
 こうして家族サービスをする羽目になる草間であった。
 シュラインも、彼はずぼらだが、今回昼の段取りだけはしっかりしているはずだと信じていた。

「なでしこお姉様〜〜ぁ!!」
 ハートマークな瞳で叫び、天薙撫子に飛びつくのは、水着姿の内藤祐子。ヒト呼んで、めいどのあくま。メイド服しか着ないが、今回は水着姿であるため新鮮だ。白のハイネックワンピースである。
「落ち着きなさい!」
 すんでの所で、保護者の隠岐明日菜が彼女のポニーテールを引っ張る。
 首あたりから、何か不気味な音がした。
「きゅう。」
「すみません。いつも、この子がご迷惑を。」
「好かれていることは嬉しく……思います。明日菜さん、あまり気にしないでくださいね。」
 撫子と影斬は、苦笑していた。漫画タッチだと、大粒汗が頭から出ていると思う。
「はっ、お姉様に抱きついても良いじゃないですかー! 明日菜サンの意地悪!」
 めいどのあくま、覚醒即反抗。
「だれが、お姉様?」
 撫子は首をかしげる。というより、戸惑う。
「いや、たぶん、撫子のことだろう……。」
 どんどん勢いをます、祐子。
 彼女を止められるのは桜の花だけか?
 明日菜にずるずる引っ張られて、他のグループに無理矢理入らされる祐子であった。
「しまいには、砂の中からでそうな勢いだったな。」
「エエ……。」
 影斬は、先を予想して苦笑する。ちょっと困ったなぁとおもう撫子。
「撫子は、優しいから。人見知りの激しい子も心を開くんだとおもう。それは良いことだ。」
「義明さん。其れも度が過ぎると、困りものです。」
「まあ、確かにアレははしゃぎすぎだな。」
 今度は二人で微笑む。
 と、おもえば、アリスが居ないと撫子は気付く。
 あたりを見れば、ああ、草間家族に混じって、遊んでいるようだった。
 彼女に感謝していた。
 ――こうして二人っきりになれるのも、彼女のおかげだとおもうのです(ちょっと、お邪魔が入りましたが)。
 そして、皆が賑やかに遊ぶところから離れて散歩する撫子と影斬は、撫子が少し波打ち際に立ってから、「えいっ」と影斬に水をかけるのだ。
「いきなりなんだ! この」
 と、二人だけでもこんな簡単なことが楽しく感じる朝の日差しであった。

 祐子の強烈なスマッシュが、アリス・ルシファールの顔面を直撃していた。
「きゅう。」
「ああ、ごめんなさい!」
 素で魔剣を持ち上げる怪力なので、そのスマッシュは弾丸並みだ。空気抵抗がかなり懸かるビーチボールでも時速100kmは夢ではないともいう勢いである。零がアリスを起こして、怪我がないか尋ねると、アリスは笑って、「大丈夫です」と、笑う。
 シュラインと草間は、腰から肩ぐらいの深さで泳いでいたり、ビーチフロートに乗って並に揺られていたり、その光景を眺めていた。不思議に遠くに流される不安がない。
「宮小路と長谷、奉丈と因幡はデートか?」
「まあ、いいじゃない。」
「俺もそうありたいけどな。」
「それだと、寝るだけなじゃいの?」
「む。」
 この夫婦も、シュラインが主導権を握っている。
 途中から遮那と恵美が加わり、普通なビーチバレーのトスに変わっていた。
「こっち! はい!」
「大きくはずれちゃうよ! それ!」
 子供達はしはしゃぐ。
 明日菜も、アリスも祐子も、遮那も。
 シュラインや他の大人達はアリス達の笑顔が、とても純粋に見えた。彼女が、心から、本当に心から休まることはなかったのだろうと、女の勘で分かったのである。
 一方、義明と撫子は其れを近くで眺めては、おとなしい波打ち際に足を浸している。さすがに白浜は熱くなってきた。
「皆さん楽しいそうですね。」
「そうだな。」
 一寸、寂しそうな顔の影斬だった。
「どうかしました? 義明さん。」
「場所が変わっただけで、私がしているのはただぼうっと隠居している感じがしてね。まだ扱い慣れてなかったことも思い出していた。」
「もう、こういう所では、暗い顔をしないでください。」
「ああ、済まない。……うわ!」
 と、影斬の哀しい表情に海水がかかる。
 撫子が悪戯っぽい笑みを浮かべ、海水をすくって、又、愛する人にかけようとしている。
「っつ、あ、この、やったな!」
 影斬が撫子に海水をかけ返した。
「きゃ!」
 しばらく、かけ合いした後、二人も草間のある付近まで近づいて、ビーチフロートの波乗りを楽しむことにした。ちなみに、大きな波でひっくり返されたのは撫子が多かった。その次に草間であった。
「きゃふー。」

 奉丈遮那は因幡恵美と、海岸を歩いていた。草間達の輪に紛れるも良かったのだが、あまり、彼女との二人の時間が少なかったため、いまでもそうしたかった。恋人として当然の想いだろう。
「向こうでは皆さん楽しんでますね。」
 恵美は、遠くを見る。
 草間達が楽しんで泳いだり、ビーチバレーで楽しんでいたりしている風景が見える。
「ええ。」
 二人は手をつないで、眩しくても都会の其れより暑くない、日差し。
 遮那は、何か言おうと思っていたが、いざ二人っきりになると、言葉が出ない。そう、何か緊張して。
「どうかしたの?」
 恵美は、遮那の顔をのぞき込む。
「いいえ、何でもないですよ。」
 赤面する遮那。
 ずっと一緒にいたいという気持ち、しかし、こそばゆい感覚が同時にあり、緊張していた遮那だった。
 その気持ちを知っているのか、恵美は、うむと考え、自分より一寸可愛く見える、彼氏の手をもう一度握る。
「私も遮那君と一緒にいる時間が大事。そしてこれからも。遮那君が落ち着けるように、私はそばにいるから」
 と、言うのであった。
 その言葉が、遮那にとって緊張は薄れる応援だったようだ。
 ――恵美さんに勝てないなぁ。
 と、おもいつつも、笑顔で、
「どうする? 二人だけも大事だけど、皆と遊ぶのも大事ですね。」
「はい♪」
 朝は、出来るなら誘ってくれた大本、草間の周りで遊んだ方が良い。それから、でも遅くない。
 ずっと一緒に入れる自信が其処にあるのだから。

 宮小路皇騎は茜にあらゆる端末を没収され、使用禁止の札を貼られる。
「あのー。茜さん?」
「此処にバカンスで来ている以上仕事の話はなし! なので封印!」
 ふくれ面の茜が恋人に言う。
「でも、天空剣での付与したほどの封を施した符を使わないでも……。」
 その言葉に茜に何かオーラが出たので、皇騎はおとなしく、
「わ、わかりました。」
 と、言うしかなかった。
 しばらく沈黙していたが。
「どうする? 皆、遊んでいるけど、よしちゃんは撫子さんデートしているから。」
 甘えたいし、甘えられたいとお互いの気持ちがいっぱいの表情で茜は言う。
 その笑顔が可愛いので、皇騎は微笑んで、
「ちょっと、元“祠”に散歩しに行きますか?」
「いいね♪」
 と、茜は彼の腕に密着するように抱きついて、旅館と反対側にあるガケを目指す。その間に、昨日のこと、前にあった出来事、デートの思い出話に花を咲かせるのだった。


〈海底神殿〉
 皆が思い思いに遊び、熱中していること。
 宿の方から、正午10分前のチャイムが鳴った。サイレンでは無いので、びっくりするモノではない。
 昼食を摂り、一度休憩してから、本命の海底探検に向かうのである。
「僕は行ったことがないので楽しみです。」
「私もですよ。」
 実のところ、アリスと零以外は、その海底神殿まで行ったことがない。
「とても綺麗な場所です。」
 零とアリスは目を輝かせていった。
「楽しみだな。」
 草間はタバコに火をつけようとすると、いつの間にかいた少女姿の空鯨がにらむ。
「む、まさか禁煙か!?」
 空鯨は、頷いた。
「ああ、愛煙家の居場所はどこにあるんだぁ!」
 草間は天を仰いで、心の底から叫ぶのであった。
「禁断症状でなきゃ良いけど。」
 シュラインは、一寸心配になっている。
 もう一つ気がかりなのはあった。
「ねえ、武彦さん。」
「なんだ?」
 涙目の草間。
「海中でも、サングラスつけるつもり?」
「……。」
 草間から汗がでていた。
 ――そのまま行こうとしていたのね……。
 シュラインは彼のグラサンを外して、くすくす笑った。

 人間側は下準備が出来ている。浜辺には大きなウミガメが数頭待機している。普通のウミガメより4〜5倍ありそうな大きさだった。海の方には、美人さんがいる。腰から下は海で見えなかった。
「いよう。」
 口調が、なにか、何処かのアレに似ている。
「お待たせ致しました。これからあたし達の海底神殿を見て回って頂きますね。」
「お久しぶりです。」
「草間様にシュラインさん、アリスさんに零さま。おひさしぶりです。ごきげんよう。」
「はい、ごきげんよう。」
 去年あの事件で、ここに来ている人は、彼女と顔見知りである。
 遮那は、人魚の美しさに、ぼうっとしていたため、隣にいた恵美が小突く。そして我に返った遮那は、恵美に言い訳をしている様な姿を皆に笑われてしまった。彼がぼうっとした理由は、別にその女性が綺麗という意味ではない。幻想が現実に見られる純粋な感動だったのだが。
「ま、いい。このクスリ飲め。」
 空気を読みそうにないのは亀。甲羅の一部がどうもトランクになっているらしく、そこから、「水中呼吸」と「水泳強化」のクスリを入れているらしい。
 各々が、クスリを飲み、亀に乗る。
「あの、祐子さん。」
「ふへ?」
「私にだきつくのは、その。」
「え……。」
 撫子の後ろに、めいどのあくまが抱きついていた。早速明日菜が彼女を撫子からひっぺがえして、別の亀に乗せた。苦笑するしかない。
 撫子は、義明に密着して抱きついていた。
「ちょっとドキドキします。」
「そうか。」
 なんか無表情な影斬。まあ、この状態の彼は、そう言うモノだと思っている。
「“義明”さんでいてほしいです。」
「む、其れを言われると……こまったな。」
 何が困るのか、疑問はあります。
「じゃれついてないでささっと行こうぜ。」
「そう、ささっといくなり。」
 大人の草間とシュラインは、若者の甘酢っぽい想いとかそういうのは別であった。シュラインも、彼の腰に手を回しても綺麗な座り方で亀に乗っている。

 亀が海深く潜っていく。
 水の“風”を受け、皆は同じ考えに至った。
 ――浦島太郎もこんな気分を味わったのでは?
 と。
 日本各所、まず沖縄あたりまで行かないと見られない、あの蒼い海。透明度は、海底をしっかり見せていた。異界と言うことを知っているが、これが“東京近郊”なのかと思うぐらいの透明度なのである。
海の蒼で、実際の視界距離は制限されるが、かなりよく見える。また、亀の周りに飛んでいるように泳ぐ人魚達。
「もしかしてアレですか?」
 遮那が尋ねた。
 指さした方向に、パンテオン神殿のような、厳かで美しい建築物。
「はい、そうですよ。私たちの里です」
 ガイドの人魚が答えた。
「これは本当に凄い。」
 海に潜っていない人は感動していた。
 呼吸と、水圧による窒素酔いもなく、かれらは降り立つ。
「では、人間でのバスガイドみたいなことはあまりしないことが、私たちの流儀なので、あまり離れずに、散策をして頂けると嬉しいです。」
 ガイドの人魚さんはそう言うと、皆を見守るように海を飛んでいる。
「ま。歴史などを調べるとかそう言うのじゃないし。」
 草間は言うと、撫子がにらんだ。
「わたくしとしては、この貴重な体験は是非レポートを!」
「そうよ!」
 どこから取り出したのか、レポートと筆記道具にデジカメを持っている撫子と明日菜だった。
「おいおい、バカンスなのにそれはないだろ。肩の力抜いていこうよ。」
「義明さん。むう」
 学生としての性が動いたか。周りの人は笑う。そして、撫子も照れ笑いするのだ。
 実はアリスも持っていて、すぐに背中に隠していたが。

 歩きながらのスキューバーダイビングという奇妙な経験も、慣れると、とても心地よい。なにしろ、重たい装備無しで気ままに動けることが開放感を増幅させるだろう。海底の岩の狭間や、自分たちの近くに、綺麗な魚、貝などの生物が、踊る。なついているような魚は、頬にキスをしてくれるちゃめっけもあり、分からないことを聞けば、ガイドの人魚は、楽しそうに教えてくれた。

 遮那はこの幻想的な風景に圧巻されている。もちろん恵美も。ちょうど、ベンチになりそうな横倒しの柱に並んで座っている。お互いの手を重ね合って。
「凄いですね。」
「ええ。」
 他の人は、別のモノに興味があるようで、離れている。
「こうして、綺麗なものをみて、心が洗われるね?」
「はい。」
 お互い、頬を朱にそめて話している。ゆっくりと。
「でも、こうして綺麗だと思うモノより、いや、綺麗と感じさせるのは……。」
「はい?」
 遮那の言葉に、首をかしげる恵美だが。
「それは、僕にとって、恵美さんが一番綺麗だから。恵美さんと一緒にいると全てが美しく見えるからです。」
 と、真剣な眼差しで、言うのだった。
 恵美は、耳まで真っ赤になる。
「えっと、その、それは、……。」
 どう答えて良いか分からないが、自然と、恵美と遮那は見つめ合って、目を閉じ……。


 其れは幸運なことに、誰も見ていない。
 綺麗な幻想世界を見ている残り一行も、各々で楽しんでいるからだ。
「草間さんがグラサン外した顔は初めて見る気がします。」
 影斬が言う。
 夢の中の学園生活でならば、草間はグラサンを外している。しかし、今とその“若くなった”彼を見比べるのはおかしいとも思われた。とにかく、グラサンなしの草間はレアである。
「ホント新鮮よね。」
「いやだから、海を見ろよ。」
「みているけど、レア度からすれば。ふふっ、冗談よ。」
 此処でもシュラインにからかわれる。
 彼女がそうした一面を見せるのは、リラックスしている証拠だ。草間も意地を張らずに、この神秘的な景色を眺め、シュラインとともに散策していた。
 興味から、人魚たちの生活を尋ねる皇騎と撫子、影斬に茜だが、それでも楽しんでいる。純粋に研究者気分の明日菜は別として。アリスと零が、祐子の面倒を見ていた。
「わーわー! このおさかなすごい!」
「あまり、先に行かないデぇ!」
「ウツボって怖いけど……え? かみつかないからさわっていいの? わーい。」
「おおきなヤドカリだー(からの大きさ2m)」
 本当に子供のようにはしゃぐ祐子の方が、人魚達や海の生物に人気が集まっていた。のそのそと歩く巨大ヤドカリに乗せてもらい、祐子はご機嫌であった。

 そろそろ、陸に上がらないと行けない時間になった。が、それでも、余韻を楽しみ、亀に乗って、此処はこうだった。あのお魚は可愛かったと、歓談して戻るのであった。
 ひとまず、この企画は大成功だろう。
 余談だが、デジカメが壊れる心配はなかったようである。「こんな事もあろうかと」も対策も練っているだろうし。


〈花火のとりは線香花火〉
 陸に上がって、先に体を暖める。そうしないとさすがに頑丈でも風邪を引く。
 そうして、ゆっくりと体調を整える休憩をするため、縁側を並んで過ごした。すでに皆は風呂を済まし、熱いお茶にお茶菓子で、夕日を見ていた。
 あかね色。その光がとても綺麗で、少し哀しい。
 そう、明日には、また日常に戻るのだから。すこしだけ、遊んで行けるのだが。
 皇騎と茜は、仲むつまじく、茜が皇騎に甘えて皇騎が膝枕していた。彼女も又色々緊張することがあったのか、すやすやと眠っている。シュラインが、微笑みながらタオルケットを掛けてあげていた。
「長谷さんも、色々大変だったんでしょうね。」
 若くして継承者になっているから、責任は重いのだ。
「皇騎さん、しっかり守ってあげなさいね。」
「はい、分かっています。」
 こういう和やかさにも、別の方では馬鹿にぎわいが。
「さあ! 草間さん、ぐいっと!」
「おお! うめぇ!」
 夕日を肴に、酒盛りしているのは明日菜と草間だった。
「もう、明日菜さんも兄さんも夕ご飯がまだですよ!」
 ロマンティックと、親父臭さの境界線にいたのが、アリスと祐子だった。
「大人のつきあいも、大変そうです。」
 祐子はアリスが可愛いので抱っこしている状態である。
 混沌とした休憩であった。

 幸い誰も風邪の初期症状を起こしていないので、夕食は又盛り上がっての宴会。大きな羽目を外すことなく、楽しく過ごす。
 そして、花火を楽しむ。
 今回の参加者は、危ないことをする人がいないため。花火も又平和であった。盛り上がりに欠けるかもと言うのもあるが、打ち上げタイプを連発で打てば、其れも吹き飛ぶ。
 派手な色合いを出す、手持ち花火で、どれだけ長い花火の火柱を上げ、長く持つかを競うことぐらいであった。もし、人に向けていこうモノなら、草間と影斬が怒っているだろう。シュラインより先に。
 そして、少し沈黙が訪れる。水を張ったバケツには様々な花火の燃えかすが入っている。其れは、見向きもしていない。
 風よけしている火種近く、お互いが好きな人同士となりに座って、線香花火の儚い灯火を眺めているのだ。
 大きい玉、小さい玉、光も其れによって様々。まるで、皆が住むこの世界のありよう。ただ会話もなく、この美しくもおとなしい、光を見ているのだ。

 最後の光が、地面に落ちて消えたら其れが合図。
 今日は、本当に楽しんだ。明日への英気を……。
「さて、しっかり片付けよう。」
 草間が手を叩き、合図をする。
 賑やかに花火の片づけをして、宿にもどった。
「蚊かまれてない?」
「大丈夫。」
 また風呂入ろうか、酒のこっているし一緒に飲もうと言う人もいるが、それもまた一興。

 あした、此処を去る。遊んで、ぐっすり眠るのだ。


 明日は良い天気になってほしい。そう願うのは誰も同じである。

3日目に続く

■登場人物
【0086 シュライン・エマ 26 女 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【0328 天薙・撫子 18 女 大学生・巫女・天位覚醒者】
【0461 宮小路・皇騎 20 男 大学生・財閥御曹司】
【0506 奉丈・遮那 17 男 占い師】
【2922 隠岐・明日菜 26 女 何でも屋】
【3670 内藤・祐子 22 女 迷子の予言者】
【6047 アリス・ルシファール 13 女 時空管理維持局特殊執務官/魔操の奏者】


■ライター通信
 滝照直樹です
 このたび、「草間兄妹の海水浴」に参加してくださり、ありがとうございます。
 今回もゆったりとした時間を過ごした、お話になりました如何でしたでしょうか?
 大きく離れての行動がないため個別的な差異などありません。

 3日目は午後から帰宅になります。其れのフリープレイになるでしょう。
 クーラー直ってなかったかもしれないですが。
 では、今回は此にて。3日目にお会いしましょう。

 滝照直樹
 20070912