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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


【In innocent summer】

 青空と白い雲の下で、朝顔や向日葵が揺れている。
 パネルと造花で作り出された夏の光景の下、鮮やかな色彩が花を咲かせていた。
 赤青黄に白黒、あるいは水色ピンク。
「どうかな。これなんか、可愛いくない?」
「う〜ん……もうちょっと、アレな感じがええかも。それより飛鈴は、これなんかいいんと違う?」
 様々な色の中から、梢・飛鈴と平泉・雪華はハンガーにかけられた水着を選び取っては胸に当て、アレコレと品定めに余念がない。
 その様子は、少し年の離れた仲の良い姉妹のようでもあり――。
「飛鈴のサイズやと、コレは小さいかな」
「わわっ、雪華!? いきなり胸……っ」
 ――ちょっと違うようでもあり。
 背後から手を伸ばし、飛鈴のバストサイズを『直接』確かめていた雪華が、半ば置いけぼりな響・カスミの様子に気付く。
「何ぼーっとしてはるん? 迷うてはるなら、選ぶの手伝うよ」
「先生だったら……こういうの、良くない?」
 ショートパンツスタイルで、フェミニンなフリル付ビキニを飛鈴が手に取った。
「え……いえ、それはちょっと……」
「そやけど飛鈴、折角ええプロポーションしてはるんやし、もっとアグレッシブなんはどうやろ」
「じゃあ、これとか。こっちもどう?」
 相談しながら、飛鈴と雪華はカップの中央をリングで繋いだビキニや、レザー調のローライズビキニなど、次々と目ぼしい水着をキープしていく。
「あの、ほら。私は仮にも教職者ですし、ね?」
「ん〜……迷うてはるみたいやし、全部試着してみる?」
「うん、いいね!」
「え……ええっ!?」
 言葉を挟む暇も、そして言葉を挟んでも聞き入れられる余地もないまま、カスミは二人に両脇を固められ。
「梢さん、平泉さんっ。ちょっと待っ……待ってぇぇぇーっ!」
 抵抗虚しく、ずるずると彼女は試着室へ引き摺られていった。

「ありがとうございました」
 笑顔の店員から、レシートとおつり、そして店のロゴの入った紙袋を受け取る。
「ええ買い物、できたね」
「うん。これで、いつでも遊びに行けるね」
 嬉しそうに話す飛鈴と雪華に、強引に買い物へ巻き込まれたカスミは微笑ましそうに……僅かに複雑な表情混じりながらも微笑ましそうに、見守っていた。

   ○

 時間は少々遡る。

 夏休みに入って間もない神聖都学院は、耳を覆いたくなるような蝉しぐれに包まれていた。
「毎度、ありがとうございまーすっ!」
 蝉に負けない張りのある声が、傾く夕陽が差し込む人のいない廊下に響いた。
 一礼して扉を閉めた飛鈴は、近くの玄関から外に出ると、傍らに止めた自転車の荷台に空の岡持ちを固定する。それから自転車を押してスタンドを跳ね上げ、座り慣れたサドルに腰を落ち着け、校門へ向かってゆっくりペダルを漕ぎ出した。
 ひと漕ぎふた漕ぎしたところで、見覚えのある後姿が彼女と同じ方向へ歩いているのが目に入る。
「あれ? 雪華ーっ!」
 名を呼びながら自転車を寄せると、黒髪を揺らして雪華が振り返り、どこか眠気の漂う表情で彼女を待った。
「なんやの、飛鈴。学校きてたん?」
 自転車と服装から見て取った友人に、「うん」と飛鈴は笑って答える。
「出前届けたところで、店に戻ったら今日は終わりかな。雪華は?」
「うちも仕事が終わったとこ。暑いし、どうやって時間潰そうかなって考えてたんよ」
 手にしたハンカチで雪華が顔を仰ぎ、飛鈴は自転車から降りた。そうして、二人が足を止めていると。
「梢さんじゃない。お仕事、ご苦労様ね」
 校舎脇を歩いてきたカスミが、気安く声をかけてきた。その手に通勤用のバッグを提げているのを、何気に飛鈴は見て取った。
「先生、もう仕事終わりです?」
「ええ、そうだけど?」
 その返答に飛鈴と雪華が顔を見合わせ、意味ありげな笑みを交わす。二人のアイコンタクトに取り残されたカスミは、笑顔の中に疑問符を浮かべていた。

 かくして、学校で偶然にもバッタリ顔を合わせた彼女らは、これからが盛りの夏に向けて、新しい水着を買おうとショッピング街へ繰り出したのだった――。

   ○

「かんぱーい」
 居酒屋の喧騒の中、三つのグラスが涼やかな音を立てて打ち合わされる。
 ビールにチューハイ、そして烏龍茶。
「あたしも、お酒がいいな〜」
 恨めしそうな飛鈴が、成人女性二人のグラスをじーっと凝視した。
「梢さんは、ダメよ。まだ、未成年なんだから」
「お酒なんか、水みたいなモンなんだけどな〜」
 釘を刺すカスミに、なおも飛鈴は目で訴え、食い下がる。
「そやね。飲み屋さんで先生が一緒ついてて、生徒にお酒を飲ませたなんて事になったら、先生の立場も悪ぅなるから」
 カスミの側についた雪華が、とろんとした瞳に悪戯っぽい色を含ませて飛鈴を見やった。それから、これ見よがしにチューハイのグラスを傾ける。
「あ〜、今日も一日暑かったから、お酒が美味しいな」
「雪華……」
 これ見よがしな仕草に飛鈴が唸り、つまみに箸を伸ばす雪華は友人へ笑顔を返した。
「どうしたん、飛鈴。烏龍茶が温もってしまうで?」
 渋々、氷の浮かんだ烏龍茶に口をつけた飛鈴は、あまり減らないカスミのグラスを見、それから視線をめぐらせて店内で食事に興じる客達のテーブルを窺う。
「先生、あたしがお酌してあげるから、瓶で頼もう!」
「……え?」
 突然切り出しされたカスミが、訳の判らない顔で眼を瞬かせた。そんな彼女の様子もお構いなしに、飛鈴は手を挙げて店員を呼ぶ。
「すみませーん。ビール、瓶で一本お願いしまーす!」
「あの、梢さんっ!?」
「え? 一本じゃ足らない?」
 満面の笑顔で飛鈴がカスミへ聞き返し、その間に店員がビール瓶を持ってくる。
 カスミを酔い潰す気満々の飛鈴に、雪華は忍び笑いながらも止めず、グラスを傾けるのみだった。

   ○

 夜が更けても気温はさして落ちず、漂う空気はいつまでも熱気を帯びていた。
「あっつーい!」
 文句を言いながら、ぱたぱたと飛鈴は手で顔をあおぐ。
「ホント……暑いわねぇ」
 髪をかき上げて頷くカスミだが、彼女の場合はそれだけではないだろう。すっかり回ったアルコールで、耳まで上気したように赤味を帯び、足取りも少しばかり危ない。酩酊の、一歩手前といった感じだ。
「ね。近くまで来てるし、暑いから寄って行こうよ」
「そうやね。酔い覚ましには、ええかもしれへん」
「……へ? どこへ行くのぉ?」
 二人の会話は、思考の鈍ったカスミはついていけず。聞き返せば、答えの代わりにぐいと腕を引かれた。
「新しい水着も買ったし、涼みにね」
「行ったら、判るから」
 状況のよく判っていないカスミを誘導しつつ、彼女らは神聖都学院の門を再びくぐった。

「そーれっ!」
 かけ声と共に、水飛沫が上がる。
「もう、冷たいって」
「涼しくて、いいでしょ?」
「ほな、飛鈴も涼しゅうしたるわ」
「ひゃっ……雪華ーっ」
 楽しげな応酬と飛んできた冷たい水滴に、眠たげなカスミは目をこしこし擦った。
 改めて見回せば、湛えられた水の表面が電灯の光を反射し。
 水着姿の飛鈴と雪華が、蛇口に繋いだホースで水を掛け合っている。
 そんな様子を、ぼーっと眺める事しばし。
「……こ、ここは!?」
「学校だよー!」
 我に返ったカスミへ、飛鈴が笑顔で答えた。
「学校って……それに、あなた達……っ」
 慌てて立ち上がり、駆け寄ろうとしたカスミだったが。
 つるり。
 どぼーん。
「あらあら……先生、プールサイドは走ったらあかんよ? それに、お酒飲んではるんやから、泳いだら危ないって」
 暢気に雪華がたしなめるが、水に落ちた当の本人へは届いていない。おそらく。
「……飛鈴、うちの仕事が増える前に、助けたってくれる?」
「仕方ないなぁ、もう」
 浮かんでこないカスミの様子に雪華が促し、飛鈴は嘆息しながら濡れた長い三つ編みを背中へぽんと放った。
 そしてスタート台から、綺麗なフォームで水へ飛び込む。
 すぐに水面へカスミが押し上げられ、飛鈴に雪華が手を貸した。
 プールサイドに引き上げられたカスミは、思いっきり水にむせて咳を繰り返す。
「人工呼吸は……せんでもええみたいやね」
 背中をさする雪華の言葉は、何故か少し残念そうに聞こえた。
「よかったね、先生。水着に着替えてて」
 そんな様子を見ながら、プールサイドに肘をついた飛鈴が明るく笑う。
「じゃあ、飛び込んだついでに少し泳ごうかな」
 まだ遊び足らないのか、文字通り水を得た魚の如く、飛鈴は身を翻し。
 広いプールを思うさま、独占した。

「このままやったらあれやし、ついでに先生を家まで送っていかへん?」
 すっかり『酔い覚まし』を満喫した雪華が、髪を拭く飛鈴へ声をかける。
 確かに、プールへ落ちたものの、覚束なげに着替えるカスミの酔いは完全に覚めたわけではなく。
「私の家に来るの?」
 話が見えずきょとんとするカスミに、飛鈴が笑って頷いた。
「うん。ついでに、シャワー借りれたらいいなーって……ここの、止まってるし」
「そうね。別にいいわよ」
「やった。それなら途中でコンビニでも寄って、お菓子と飲む物と買っとく?」
「三人で飲み直すのも、ええねぇ」
 ほんわりとした雪華の一言に、カスミの手が止まる。
「家に来るのは構わないけど、お酒はダメよ。梢さん」
 まだ残っている酔いでヘロヘロになっているカスミが、それでも教師として釘を刺すのは忘れず。
「あ〜、判ったから」
 適当に返事をしながら全く聞いていない飛鈴へ、雪華が片目を瞑ってみせた。
「だっから、ダメだからねぇ〜っ!」
「……はいはい」