コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>


brilliant cold

【 01 : can you help me ? 】

 信じ難いことに暦の上では既に秋。地を這い身に纏わり着く猛烈な暑気を、夏の名残と言い張る此処、魔都・東京の片隅で、毎度お馴染み「アンティークショップ・レン」は今日もひっそりと店を開けていた。
 ────が。

「……暑いですね、蓮さん」
「……お言いでないよ、余計に暑くなる」
 薄暗い店の奥、カウンターを挟んで向かい合わせに店主・碧摩蓮と銀髪のヒトガタ・嵯峨野ユキは、今にも脱水症状を起こしそうなほどげんなりした顔を突き合わせていた。
 二人の手には、新聞配達員から無料で貰った団扇がパタパタ握られている。カウンターの上には、ついさっきこしらえたばかりのかき氷が、既にくたびれ溶け始めている。
 そもそも、曰く付の古物を扱う「レン」であるから、店を開放的にしておくわけにはいかない。大体この季節に扉や窓を開けたら、容赦ない熱風がこぞってウェルカムである。
 人情として、当然閉める、閉め切る。そして冷房をつけるのが、現代東京における正しい夏の過ごし方であるとは誰に言っても過言ではない。
 が。
 だがしかし。
 本日の「レン」では、その手段を講じることが大変困難になっていた。────何のことはない、今朝突然、クーラーが壊れたのである。

 要は、とても、暑い。
 猛暑を通り越して、激暑。

「蓮さん……涼しくなる話をしましょうか?」
「ああ? じゃあ、はい、言ってご覧」
「店の裏に食堂が出来たんです。裏に飯屋……うらめしやー」
「…………」
 ふう、と蓮の魂がエクトプラズムの様に立ち昇りかけた。
 涼しくなるっていうよりも寒い、というか、正直勘弁。
 このままでは埒が明かない、干物になってしまう。そんな危機感でユキは一念発起したらしい、溶けた氷を一口スプーンで啜ると。
「……仕方ありません。どなたかに、ご助力を願いましょう」
 ぐったりしている蓮を横目に、カウンターの電話へと手を伸ばしたのだった。


【 02 : cool 】

 そんなこんなで、“ヘルプ・ミー!”。

「暑っ! 何よこれ、お客に対する嫌がらせとか試練じゃないわよね?」
 扉を開けるなり、そのもわあっと立ち昇る蜃気楼の様な熱気に慄いて、嘉神しえるは早速秀でた眉を顰めた。
 その後ろ、彼女の両肩からひょいと顔を覗かせたのはシュライン・エマとセレスティ・カーニンガムのご両人。呼び出された時点で、待ち受ける惨状は凡そ把握していたものの、いざ蒸し風呂の蓋を開けてみればさすがにこれは……外より暑い。
「うちの事務所もサウナ状態だけど、ここも酷いわね。あ、もう汗が滲んできちゃった」
「お二人とも不憫な。私も暑さは苦手ですからね、同情します」
 思わず手団扇のシュラインに、絹のハンカチでそっと額を拭うセレスティ。
 と、そのさらに後ろ。最後尾にいた榊紗耶が、陶器の様な頬を動かすことなく、楚々とした仕草でパタン──日傘を閉じた。
「さあ、中に入ろうか」

 店の奥のカウンターには、蓮とユキとが折り重なるようにしてぐったり倒れていた。その姿、まるで砂浜に打ち上げられた海草か軟体動物かという体たらく。何とか意識を取り戻させ、気付けとばかりにシュラインが、出がけに薬屋で仕入れてきた保冷剤をタオルに包んで額や足裏に巻きつけてやる。
 残りの人員で、文字通りの焼け石に水なれどせめて、と回し始めた扇風機。上に向けたほうが熱を散らせて良い、ということで、カタカタ揺れながら頑張って首を振っておりますアンティーク。
「成る程、事情はよっくわかったわ」
 一通りの処置を済ませ、カウンター前のテーブル周りへと着席する面々。しえるが言いながら腕を組み、うんうんと頷く。惨状理解しないでか、主に、視覚と体感温度から。
 先ほどよりは幾分持ち直したユキが、汗で額に張り付いた髪を気だるげに払いつつ。
「まったく、美しい方々を前にしてこんな姿を披露しなければならないとは、主様の最高傑作として何とも心苦しい限りです。しかしいきなり壊れるんですから酷いですよねクーラー、これはもうお客様コールセンターに苦情の電話百回の刑とか実行しなければなりません。訴えて代替品でしかも慰謝料です」
「それだけ口が滑らかなら一先ず大丈夫そうだね」
 紗耶の至極的確な感想に全員同感らしい。
「あら、でもこれってきっと霊障よ。うちの事務所も妙な霊気が反発するからか、エアコンてやつは毎年毎年毎年壊れるのよね。経費も馬鹿にならないって言うか正直痛手って言うか、家計簿に赤ペン使うこっちの身にもなってほしいわっていうね」
「え、じゃあこれ人災ですか。ちょっと蓮さん、アンティークショップなんてやってるからこんなことになるんですよ。もうこれを機会に『百均ショップ・レン』とか『メイドカフェ・レン』とかに転向しては如何ですか」
「……アンタ、アイデンティティって言葉を知ってるかい?」
「ちなみに後者だと蓮さんが『お帰りなさいませご主人様、ちゃは☆』とお出迎えするわけです。猫耳はオプションです」

 ────各自ご想像ください。

「……ダメよ、ユキ。その時点で企画倒れになること必至だわ」
「そうですね、財団を使ってバックアップすることも吝かではありませんが……やはり少々人選に難がありかと」
 しえるとセレスティの相槌に、暑さとは違う熱波に襲われて蓮はまたしても机に突っ伏した。両隣りに座るシュラインと紗耶が、額に保冷剤を当ててやりながら顔を見合わせる。
 ────早めに、次に行ってあげよう。


「こういう時にはこれを朗読すれば良いのよ、はい♪」
 しえるが営業スマイルにっこりで、テーブルの中央に一冊の文庫本を置いた。覗き込むそれらの目に映るタイトルは、『絶対零度ギャグ集』。
「……さて、何となく続きが読めてしまった気分なのですが」
「……ええ、私も多分、同じ光景を頭の中に描いてると思うの」
 セレスティとシュラインが微かな偏頭痛を抱えているのを気にもせず、何か相通じる物を感じ取ったらしいユキの紫電の瞳がキランと光った。
「嘉神さん、これは私への挑戦……と受け取っても宜しいでしょうか?」
「ああら可愛いお人形さん。ここは手ぬるい特攻ではなく、店長サマ自らご出陣願いたいところよ?」
 2人の手により、文庫本は蓮の目の前にずずいと差し出された。

Round 1.
「……『ハイジャック犯へ挨拶。Hi!Jack』」
「ごめんなさい。私にはよく……わからないんだ」

Round 2.
「……『校長先生が、今日はぜっこうちょう』」
「蓮さんが涙目で仰っている、という点が愛らしいですね」

Round 3.
「……『豊島区に住む年増』」
「……自分で言って自分で涙を噛み殺さないで、蓮さん」

Round 4.
「『掃除機の、葬式』」
「あ、ちなみにこれ、私の趣味じゃないから」

「ねえ、蓮さんの顔がむしろ蒼褪めてきたんだけど、冷やしてあげるべきなのかな?」
「……そっとしておいてあげましょう」
 と言いつつ、シュラインが「これは罰ゲームになるわ」とジョーク集をメモっていたのはこっそり秘密である。
「ええ、勿論某事務所には告げ口しませんとも。この嵯峨野ユキ、夜空に光る主様の星に誓いますよ!」
「……その星、流れ星じゃないわよね?」


 釜茹でのような暑さが脳髄を蕩かしてしまわないうちにと(いや既に沸いてしまっているとも言えるが)、面々はシュラインの陣頭指揮のもと物理的に涼をとる作戦を開始した。
「まずは簾ね。お店の前に簾やひさしを垂らして、そうそう、長いものがあるなら余裕をもたせた紐にレンガなんかをつけて重石にすれば、風に揺らせていい感じだわ。それで、斜めに付けて地面に日陰を作るの。照り返しを遮るだけでも、随分違うから」
 一応男手のユキが力仕事に精を出し、室内ではしえると蓮とかが窓に厚手のカーテンを掛けていく。暑さをまず陽射しから防ごうという考えらしい。
 と、しえるがふと思いついた表情。傍らでかかとを浮かせレーンへと手を伸ばしていた蓮に、流し目なんて粋なことを。
「ねえねえ。店の品物を壊してみたりすれば、背筋が寒くなりそうよね?」
「……アンタ今真顔で言ったね真顔で、真顔で!」
「いやあね蓮サンたらそれこそ真顔で3回も。冗談よ、ジョーダン。ね?」
 天使のスマイルで小首を傾いだしえるに、額に保冷剤を巻きつけたままの蓮がある意味寒さでぶるぶる。
 その肩を、紗耶がぽんと叩く。差し出したのは、どこから見つけてきたのか風流な花火柄の団扇と扇子。(ノット新聞配達員からの無料団扇)
「はい、進呈。どっちがいい?」
 そこに、ひょい、としえるが首を伸ばす。
「団扇で思い出したけど、蓮サン。古物を扱っているというのなら、水団扇なんてものはなくって?」
「水団扇?」
 鸚鵡返した紗耶にしえるは説明する。
 水団扇とは、雁皮紙という特殊な和紙を用いた団扇で、大変薄い紙のため向こう側が透けるほどだという。昔はそれに水をつけ、その気化熱で涼をとっていたのだとか。
「うぅん……生憎、うちでは扱ってなかったと思うよ」
「あら、そ。残念ね。一時は生産が中断されてたらしいし、なかなか本物を手にする機会がないから、と思ったんだけど」
 小さく肩をすくめたしえるに、紗耶が「ふうん」と相槌を打つ。
「水の団扇、涼しそうだね」
 何かを納得した風情、踵を返して奥のキッチンへと向かったらしい。それを横目に見送り、テーブル周りの片付け係となっていたシュラインが蓮を呼び寄せる。
「テーブルの上に氷を置こうと思って。お皿と、あとあったらザルも。液体に触れてると早く溶けてしまうから、器の上に置いたほうが良いのよね」
 さすがの知恵袋。伊達に普段から着火した家計を預かっていないねと、蓮は感心交じりに苦笑した。
「それじゃあついでに、麦茶も出そうか。そろそろ休憩するだろう?」
「そうね、お願いするわ」
 蓮が奥へ行くのと入れ違いに、セレスティが戻ってきた。
 手には総帥専用の携帯電話。屋敷に少々、と中座していた用事は済んだらしく、シュラインが整えた椅子の一つにふわり、優雅に腰を下ろす。
「実は、水物を持ち込むのは如何なものかと躊躇していましたが……杞憂でしたね」
「ということは。何か、持ってきてくれるの?」
「ええ。私も、毎年何とか涼しく過ごせないかと色々趣向を凝らして、試していますからね。ひんやりとして、見た目も楽しく。如何ですか?」
「あら、素敵じゃない?」
 美人と佳人が顔を見合わせ含み笑い。
 その横で、カタカタカタと音を立てながら扇の羽が回り続けている。セレスティはそちらについと目を遣って、そうそう、と何か思い出したらしい。
「昔は、実際に団扇を取り付けて回していた扇風機がありましたね。アンティークショップであるここならば、ともすると商われているかもしれません」
「気になるなら、探してみる?」
「そうですねえ……いえ、やはり留め置きましょうか。その労力でまた暑さが戻ってしまいそうですからね。手で団扇などを仰ぐと、それだけでエネルギーを消費して熱を発する、と聞きます。夏の日中は、怠惰……というと聞こえが悪いですが、屋内で寛いでいるのが一番ですね」
 シュラインは少し上目で視線を逸らし、心の中でこう呟いた。────サスガ、ユウカンセレブリティ。
「ねーえ」
 と、棚の向こうから声が飛んできて。誰かと見遣れば、陳列品の隙間からしえるが顔を覗かせていた。後ろには簾仕事を終えたらしいユキの姿もある。
「カーテンは終わったわ。それで、ちょっと出てくるわね。買ってきたいものがあるの」
「そう、わかったわ。あ、もうすぐ蓮さんがお茶を出してくれるそうだから、早く帰ってきてね」
「そーれーなーら、さあユキ、荷物持ちについてらっしゃーい」
「折角のお誘いですが、日に2度も重力以上の力を加えられたら、私の細くしなやか白魚のような手が耐えられませ……って、引っ張らないでください、ちょちょちょちょちょ!」
 遣り取りが戸口から遠ざかり、どうやら引きずられていったらしい人形に2人こっそり心の中で手を合わせたり十字を切ったり。ナムアミ・アーメン。
「そういえばさっきの話だけど、労力を使わず簡単に熱を冷ませる方法ならあるわよ」
「それは是非伺いたいですね」
 立ったままだったシュラインに、セレスティは隣の席をすすめる。彼女はそこに座ると、脚を軽く組んで。
「化粧水に浸したコットンをタッパーに入れて、冷蔵庫で冷やすのね。それで置いておいたもので、耳の後ろなんかをパッティングするの。とりあえず、スッとするわよ」
「わかりました。ふふ、女性の知恵ですね。帰ったら早速試してみましょう、まだまだ、夏はこの邦を去り難いようですから」
「ええ、まったく」
 戸外からは、これを最期と鳴き盛る蝉の輪唱が聴こえてくる。
 あの音色は、やがて鈴虫のそれへととって代わり、風の清けさと共に人へと、秋の訪れを文字通り音で知らせるのだ。
 ならば、この時雨の様に振り来る無限の音の五月雨も、はや今日か明日かに聴き納めか。そんな感慨に捕らわれたのか、2人の間に暫し沈黙の帳が降りた。

 紗耶の静かな足音が聞こえてきたのはそんなときで、あら、と振り向き様、シュラインは眉間に皺を寄せる。
 彼女が持っているのは団扇の扇子。いやそれはいい、別に構わない。気になるのは、何故にそれから水が滴っているのかと。
「水の団扇、と聞いたから。出来る限り濡らしてみたけれど……どうかな」
「ど、どうかしら?」
 何か紙がどろっとしていて骨の部分も変色しちゃって、しかもぽたぽたってむしろそっちがどうなのかとええとちょっと問い詰めたい気分満載。
 そんな反応に困っているところへ、蓮が盆にグラスを載せて戻って来た。
「ああ、蓮さん。涼しくなるかな?」
「へ?」
 ブンッ、と紗耶にしては実に大胆にそれらを振った。さながら、火焔を消す芭蕉扇の様に。
「…………」
 ────まあその結果、蓮の顔やら服やらに、びっちゃあああっ、と水が飛んでしまったわけで。
「涼しくなった?」
 悪びれずに訪ねる紗耶に、蓮は半泣きでこくんと頷いた。


【 03 : cold 】

 凛、と涼やかな音色が戸口から響く。
 窓のみならず扉の上にもひさしを作り陽光を遮って、店の奥にささやかながら風が入るようにと通り道を開いた。
 日中は熱波だが、時刻が少し夕刻に近づいたのでやや暑さ緩んだ風が、そより吹き込む。その上に、セレスティが屋敷に連絡して持って来させた風鈴をひとつ、ゆるやかに靡くようにと取り付けて。
「クーラーで冷え切った室内も良いけれど、こういう仄かな涼しさも……良いよね」
 ぽつりと呟く紗耶の手の中、グラスの麦茶に浮かぶ氷がカランと溶ける。その音もまた、清。
 氷、とは実はそれだけではない。
 シュラインが片付けたテーブルの上に聳え立つ高さ1メートルほどの、文字通り氷の城は、先ほどセレスティの指示で届けられたばかりだ。熱にその身を濡らしながらも、同時にひやりと心地良い空気を辺りに放つ幾本もの塔に、漸く保冷剤を外した蓮が、本日初めて安堵の表情を見せた。
「こういうのを待っていたんだよ、まったく……」
 そんな蓮に、奥から盆を持って現れたしえるが、「まあ」と声を上げる。
「失礼だわ蓮サン。他ならぬ私が、あの手この手で何度も涼しくしてあげたでしょ。もう忘れて?」
「だからあれは涼しくっていうか血の気が失せるっていうかねえ……!」
「滾らない滾らない、ほら、またさっきのジョーク集読ませるわよ?」
「……(言いたいことが喉の上にまでのぼってきているものの、ここが我慢のし所・女の見せ所と必死で拳を握って耐えるの図)」
 しえるはテーブルの上に硝子のボウルをひとつ置く、それから取り皿にお箸と一式を配り、ドレッシングを数種類脇に添えた。ボウルに盛られているのはトマトや胡瓜といった夏野菜が中心のサラダだ。先ほどの買出しは、どうやら近くのスーパーマーケットに用事だったらしい。
「夏バテにも効くし身体も冷えるし、旬のものって言うわよね。さあどうぞ、召し上がれ」
 美味しいわね、とはシュラインの感想。セレスティも生鮮なそれを口に運ぶ。
 と、テーブルを挟んだ向こう側、氷の城の向こうに座す紗耶と目があって。
「貴方のは、天を突く塔の様」
「私の、は?」
 意味を含む言い回しに、こくん、頷きながら、紗耶は何処から取り出したのか、小さな円柱をことりとテーブルの上に置いた。
「私のは、地に咲く光の様」
 首を伸ばして覗き込む全員の注視を受けた“それ”は、セレスティが用意した氷細工と同じく透明な凍り、なれど、内側にまるで陽だまりの様な黄の花を閉じ込めていた。
 花氷、と紗耶は言い添える。流れという時を止められた水中に咲いているのは、ヒメヒマワリ。
 花の愛らしさに綻んだのか、それとも紗耶の言葉に興を惹かれたのか。セレスティは頬に落ちかかった髪を軽く後ろへ流し、淡く微笑んだ。
「冷たさを感じ、見て、また聴いて、そして味わい、時に愛でる。こういった暑さの凌ぎ方も、あるのですね」
「うん。今よりも万能ではなく、しかし知恵をもっていた古人の、避暑方法だね」
 凛、と再び風鈴が身を揺らす。
 一堂は暫し、汗ばむ肌を撫でていく諸々の清涼さに、身と心とを委ねた。


【 04 : critical 】

 当初の目的は果たされ、やがて解散の運びとなった。
 外に出てみれば、思ったよりは陽射しが穏やかになっている。そろそろ暮れなずんでいこうとしている西の空、東からは群青と紫に彩られた宵が上り始めている。
「そういえば」
 見送りに出たユキと蓮へと、半歩先を歩いていたシュラインが肩越し振り向いて。
「今思いついたのだけど、『レン』ならではの涼しくなる方法があったわ」
「と、言いますと?」
「品物に憑いた霊を自分に憑けちゃえば、一番冷えるんじゃない?」
 ダーツの様にさらっと言ってのけたシュラインに、蓮は前を向いたまま高速で後ずさるという離れ業を披露した。
「じょじょじょじょじょじょ冗談お言いでないよあんたねえっ! そんなんだったら干乾びて燻製になってヒラキになって食べられたほうがマシってもんだよっ!」
「ま、思いの外過剰反応」
 意外だわ〜、と目をぱちぱち瞬くシュラインに、ユキがこっそり耳打ちした。
「蓮さんはですね、以前花婿の霊に憑かれて以来、その手の話がトラウマになっているようですよ」
「あら、そういえばそんなことがあったわね。懐かしいわ」
「その節も、それから今日も、私たちのために尽力くださいまして感謝の念に耐えません。ご助言の通り、『レン』は霊障を被らない方向に改装を検討いたしますよ」
「んー、どちらかというと、霊障で身も心も凍るような思いをして、うちの事務所にお払いを頼みに来てくれたほうが嬉しいかしら。あ、消費税分くらいは割引くわよ」
 ────ユキがアルカイック・スマイルのまま頬を引き攣らせた。
「……商才に優れた伴侶をおもちで、まったく、所長殿に妬いてしまいますね。……ああでも、所長殿が甲斐性がおありかどうかは気をつけてくださいね。無かったらそれこそ……甲斐性が、無いっしょう」
「…………」
 シュラインは一瞬遠い目をした後、おもむろに先ほどメモを施した手帳を取り出し、ペンを執ると。

「……ダメだわ。イマイチ過ぎて罰ゲームにも使えない」
「!!」


 了


□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0086 / シュライン・エマ / 女性 / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【1711 / 榊・紗耶 / 女性 / 16歳 / 夢見】
【1883 / セレスティ・カーニンガム / 男性 / 725歳 / 財閥総帥・占い師・水霊使い】
【2617 / 嘉神・しえる / 女性 / 22歳 / 外国語教室講師】

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

 こんにちはこんばんはおはようございます、辻内弥里です。
 この度は「レン」にご参加くださいまして誠にありがとうございます。暑さにうだっていた時に閃いたネタですが、皆様から色々な避暑方法を伺えてむしろライターがほくほくしておりました。(笑) ギャグというよりは、ほのぼのになったと思います。
 なお、「04」が個別部分になっております。

 >シュライン・エマ様
 お久しぶりです。お元気なお姿を拝見できて嬉しいです〜。
 最も実用的な避暑方法をありがとうございます。ぶっちゃけ来年は絶対やります! 化粧水でパッティングとかいいですね〜実は母にも勧めました。(笑・本当に実話)
 最後のあのギャグ…というかオヤジギャグは…捨て身だという心意気だけは汲んでやってください…。

 それでは今回はありがとうございました。