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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


『人喰い街路樹』

――ゴーストネットOFF掲示板――

投稿者:るり 11:21
例の辺りで、また一人消えたんだってー。

投稿者:菖蒲 14:34
嘘ー怖いー。私毎晩通ってるのに。

投稿者:ボン 14:56
街路樹が人を食ってるって噂だぜ。

投稿者:kei 18:12
なんか、変な注連縄してある木、あるよね。あれが原因?

投稿者:匿名 19:11
その縄が最近外れたらしくてさー。それ以降失踪者が相次いでるんだ。

投稿者:隣のオヤヂ 19:43
そんな木、切ればいいじゃん。

投稿者:wet 19:52
切ろうとした業者、次々と倒産してるらしいぜ。

**********

「ふっふっふっ、面白そうじゃん!」
 ゴーストネットOFFの管理人瀬名・雫は、掲示板を見ながら目をきらきら輝かせた。
 とはいえ、雫は無力な女子中学生。一人では調査に行けない。
「そこのアンター! あたしとミステリアスでスリリングな夜を過ごさない〜?」
「へ!?」
 雫の指の先にいたのは、店に入ってきたばかりの少年であった。雫とは初対面である。
「ねえねえ、名前はー? あたしは瀬名雫!」
「俺は高瀬隼人だけど……」
 言いながら、隼人は雫が見ていた掲示板の書き込みを読む。
「人喰い街路樹??」
「そうそう、ここで会ったのも何かの縁だし、一緒に調べに行こう〜っ」
 目を輝かせながら、雫は隼人の手を引っ張った。
「うーん……切ろうとした業者が次々と倒産ね。よくある話だけど失踪者が相次いでるってのは、やぱっり見逃せないな」
「でしょでしょ、面白そうでしょ!?」
「いや、面白いとかじゃなくて……」
 雫はぐいぐい隼人の腕を引っ張る。
「行こー行こー行こー!」
「わかったよ……」
 隼人は吐息をついた。
「女の子一人でそんな危ない所に行かせる訳にはいかないし、俺も一緒に行くよ。その代わり今度何か奢りね」
「やった〜!」
 雫は手を叩いて喜ぶ。
「じゃ、今からいこっか」
「今から!?」
「もっちろん!」
 隼人はそのまま雫に引っ張られるように、ネットカフェを後にした。

**********

 もう一人。同日に掲示板を見て、噂の街路樹を訪れた女がいた。
 片手に派手な団扇を持ち、仰ぎながらの登場だ。
 彼女を乗せた社用車には『(株)倒変木』と書かれている。
 続いて、現場に現れたのは、クレーン車だ。同じく『(株)倒変木』の社名が記されている。
 クレーンの先には電動鋸がついていた。
「それじゃ、ゾンビさん達、お願いね」
 車に向かってエルフ姿の女社長――藤田・あやこはウィンクをする。
 クレーン車の中から現れたのは、ゾンビの軍団だ。クレーン車のくせに、保冷装置までついているらしい。
 一山当てて、大金持ちになったあやこは、妖怪の芸能プロダクションなども経営している。この程度の手配は容易いものだ。
 ゾンビ達の手には注連縄が握られている。あやこの命令に従い、ゾンビ達は問題の街路樹に近付いた。
 ゾンビ達が縄を巻きつける。
 ……。
 何も起こらない。
「えー! 面白そうだから会社まで作ったのに。なんにもナシ? デマ? つまらないじゃない!」
 あやこ社長は不満気である。
「ゾンビ達、もう戻ってよし」
 仕事を終えたゾンビ達は、よたよたとクレーン車に戻ってゆく。
「でも、一応切り倒しておかなきゃね」
 あやこは運転手に指示を出し、自分が乗ってきた車のアクセルに仕掛けを施す。
「よし、やってちょうだい!」
 あやこの指示に従い、運転手は車を発進させる。無論自分は降りた状態で。
 無人の車が速度を上げて、木に突っ込んだ!
 爆音と衝撃が走る。
「なになになにー!」
 音を聞いて、少女が急ぎ駆けつけてきた。雫である。
「危ないってば!」
 少女に引っ張られながら、ついてきた少年は隼人だ。
 車は炎上するが、木は立ったままである。深く抉れてはいるが、倒れはしなかった。
 注連縄は衝撃で外れてしまっている。
 あやこは携帯電話を取り出すと、株式会社倒変木の事務所に電話を入れる。
「……ふふ、やっぱり倒産決定? やってくれるじゃない」
 不敵な笑みを浮かべながら、街路樹を見る。
「でも、そろそろ弱ってきたでしょ?」
 あやこは予備の注連縄を取り出し、木に投げつけた。
「ちょっと待って。確認したいことがある」
 呪文を唱えようとしたあやこを制し、隼人が前に出る。
「キミはここにいて。絶対動いたらダメだ」
 雫にそう言って、隼人は街路樹に近付いた。

 さわ……
 風が吹いた。
 木の葉が柔らかなリズムを生み出す。
 隼人はまた一歩、樹に近付く。
 二人の女性は腕を取り合いながら、好奇心溢れる目で隼人を見ていた。
「人間の仕業ってことは、無いと思うけれど……」
 隼人は街路樹に手を当てた。
「人を取り込むのはやめてくれ」
 その言葉の続きは、言葉ではなく思念を送った。
 だけれど、街路樹から帰ってきた想いは拒絶であった。悲しいイメージが浮かび上がる。昔は御神木として皆に大切にされていた木のようだ……人が恋しかったのだろうか。
 100年以上、生きている樹のようだ。
 昔、この場所は公園だったらしい。
 子供達が元気に走り回っている。
 明るい光景。
 だけれど、次第に訪れる人々が減り。
 都市開発が進んで、ついには――。
 そして、隼人の中に更なるイメージが浮かび上がる。木の思念ではない。これは、自分の日常……!?
 辺りは静まりかえっている。
「小学生じゃなーい!」
 そんな中、突然叫び声を上げた隼人に、雫とあやこは驚いた。
「そ、そんなの分かってるよ。隼人ちゃんは中学生でしょ!」
 雫が言うが、実はそれも違う。隼人は童顔だが、高校生だ。
 ……それはともかく。
「犬!? 来るなぁー!」
 隼人は訳の分からないことを叫んでいる。
「幻影を見ているようね、一刻の猶予もないわ!」
 言って、あやこが呪文を唱え、魔法を発動する。
 冷気が木を覆う。
 投げた縄を結びに、あやこは慎重に近付いた。
 矢先、あやこの脳にも映像が浮かび上がる。
 昔の自分の姿、だ。
 女子大生だった頃の自分――。
 つい、手を伸ばした。
 その姿が、突如崩れる。砂人形のように崩れてゆく。
「ダメー!」
 叫びながら、頭を抱え、あやこは歯に仕込んであった薬を飲み込んだ。
「社長ー! 倒産です。ブティックもプロダクションも潰れましたー!!」
「何ですって!!」
 あやこは一気に目が覚めた。
 見回すが、雫以外だれもいない。
 株式会社倒変木のメンバーは倒産処理の為に既に帰ってしまったようだ。クレーン車も見当たらない。あっさりしたものだ。
「さあ、あなたもこの薬飲むのよ!」
 あやこは予備に持っていた特効薬『社会の荒波』を「子供じゃなーい」と頭を抱えている隼人に飲ませた。
「なんだって! 落第!? 小学生からやりなおしー!?」
 隼人が叫ぶ。
 現実の厳しさをみせる薬で、隼人を襲う幻影を吹き飛ばす。
「ってああ、夢か」
 隼人は息をついて、頭を振りながら一旦雫の元に戻った。
「どんな夢見てたの〜」
 笑いながら、雫は隼人を呼び寄せる。
「ふ……いつもどおりの光景さ。って、そんなことより、あの木! どうする? 確かになんらかの力を持ってるみたいだけれど、車衝突させても倒れないとなると……」
 言いながら、隼人は護符を取り出した。やはり。封印するしかないだろう。
 問題を先送りにするようだが、以前注連縄を巻いた人物もまた、対処法がなかったのだろうから。
「えええー、もっと楽しもうよ。ちょっと食べられてみてよ!」
 相棒がとんでもないことを言っている。
「てゆーか食べられかけてはいたけどね」
 マジですか!?
 隼人が驚きの表情で雫を見ると、雫はにこにこ笑っていた。
「腕半分、木の中に入ってたよ〜。でも、目が覚めた途端、戻ってた。残念」
「いや、残念とかじゃなくて!」
 助けろよ、と言いたいところだが、助ける手段などなかったのだろう。せめてもう少し準備してからこれていれば……。
 ため息をつきながら、隼人は木に向き直る。
「ぎゃー」
 注連縄を締めていたあやこの片腕が、縄の内側に入っている。自分で自分の腕まで締めてしまっている形だ。
「一度はホームレスという、人生のどん底を味わった私をなめるなよ!」
 あやこは何を思ったのか、髪に手を伸ばすと、思いっきりむしりとった。
 ……。
 隼人は唖然として言葉が出なかった。
「あははは、あははは、あははは、ズラだズラ!」
 対照的に雫は大笑いだった。
 あやこがむしりとったのは、カツラだ。彼女のあたまはつんつるてんであった。
 笑う雫をキッと睨んだ後、あやこは携帯電話を開き、ネット検索の上、お経を読み始める。
 拍子が抜けたという表情で、隼人は街路樹に再び近付く。
 今度は歯で、口の中を噛みながら。
 もう、幻影なんかに惑わされたりしない――。
「レベル8エルフの僧侶が調伏じゃ〜喝!」
 あやこが叫び、注連縄を強く結ぶ。
 同時に、隼人は護符を木に張り、念を込めた。

**********

「これで当分は安全……かな?」
 隼人の言葉に、雫は不満気だった。
「うーん、連れてくる相手間違ったかなー。年下っぽかったから、もっと恐怖を演出してくれると思ったんだけどなー」
「だーれーがー年下だって!?」
 雫を睨みつけるが、雫はにこにこ笑っている。
「はい。これ奢りだよ。遠慮しなくていいからね!」
 渡されたのは飴玉だ。恐らくネットカフェにおいてあった飴だろう。
 隼人は再びため息をつく。
 まあ、誰も傷つかなくてよかった。
 ……自分の心以外は。

 あやこは一人、徒歩で帰路についた。
 携帯電話が鳴る。
「え? その事業も傾いてるの!?」
 どうやら倒産したのは、株式会社倒変木だけではないようだ。
 とはいえ、自分にはまだ資産があるので、大丈夫だ。
 また立て直せばいい。
 今回は高い遊びだった。
 街の平和も守れたし!
「うん、大丈夫!」
 多分、きっと……。

 数日後、行方不明になっていた人々は、無事家族の元に戻ったという。
 しかし、倒産した会社の、倒産したという事実はなくならない。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【7061 / 藤田・あやこ / 女性 / 24歳 / 女子高生セレブ】
【7213 / 高瀬・隼人 / 男性 / 16歳 / 高校生】

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■         ライター通信          ■
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人喰い街路樹にご参加ありがとうございました。
あやこさんは、ホント波乱万丈な人生を送ってらっしゃいますね。
まさかセレブになってるとは!
この事件をきっかけに、またどん底に突き落とされたりしなければいいのですがっ。