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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


夏休みの楽しいはかい工作



 社長室。その黒髪の輝きがそのまま映るような磨きあげられた机の上で。
 藤田・あやこは頭をかかえていた。
 こめかみに指をあてる。少し痛む。
 ひとつ大きくため息をついてみても、頭痛の種は、その声はなりつづけた。
「買ってー。買ってよぉ」
 声の主は三島・玲奈、いろいろとあって、それはもう色々とあって、現在あやこの長女である神聖都学園の生徒である。
 あやこが黙すれば黙するほど玲奈は机をたたき、ソファをたたき壁を叩き懇願した。
「買って! 買ってよ……艦載機!」
 端正な顔立ちをくしゃくしゃにしての嬌声を通り越しての叫び声。
 それはもう、一女子学生が母親にものをたのむ態度としてはかなりの勢いである。
 頼み込み方も。また頼んでいるモノそのものも規格外だ。
「あのねぇ、なんで艦載機なのよ……」
 あやこはようやく一語をしぼりだした。
「よくぞ聞いてくれました! 授業で空母機動部隊の運営やったのよ」
「授業って……IO2の隔離授業で?」
「そう。真面目にうけたよ、空母主体の機動部隊の戦力は艦船そのものより、その艦載機の能力に」
 はいはい、と手を振って中断させあやこは答える。
「真面目に授業聞いてるのはいいことだわよ? でもあんた艦載機って……いくらかかるかわかってるの?」
「お母さん社長でしょ。ナントカしてよぉ。いざとなったらあたしの船で作ればいいじゃない」
 IO2が開発した新型航空戦艦。
 その末端である玲奈を支援する衛星軌道上の船は、スプーンから宇宙船までの超生産能力をもっている。
 その故あって玲奈はひとり神聖都学園で隔離授業をうけているわけだが、またその内容が規格外すぎる。
「いや、生産自体はなんとかなるわよ? でも開発費はどうするのよ、んなもんさすがに単独運用できないわ。各種機体、装備要員込みで国が一つ傾くわ! さすがに無理」
 傭兵会社社長の藤田あやこをして無理といわせるのもいたしかたないこと、艦載機とひとくちにいってもその用途は幅広い。
「いい? 早期警戒機、警戒管制機でしょ、それにあわせた管制体制と指揮所、さらに主力の、戦闘機と攻撃機。なんとか機体はマルチロールにするとしても搭載電子機器は別物になるしソフトウェアも別もの。その他もろもろ」
 さとすようにあやこは続ける。
「武装も戦術構想、規格決定から独自開発しなきゃなんないし艦隊自体の編成も搭載機の能力次第で変わってくる。整備要員、損耗をかんがえて……。無理よ無理。国が一つじゃ足りないかもしんない」
 正論も正論、これをたたきつけられると流石に玲奈は黙った。
「でも。だって……課題提出日はとっくにすぎてるんだよ」
「は? へ、課題? 学校の宿題なの?」
「そう、宿題。夏休みの工作、艦載機にするつもりだったのに」
「工作はわかるけどあなた、艦載機は……うーん」
 あやこは困った。
 母親として学業を疎かにさせるつもりも毛頭ないし、課題となればなにか提出させなければならない。
 だがしかしそんなもの作っていると夏休みどころか何回も夏をすごさなければならない。
「艦載機、艦載機〜!」
 床をころげまわる玲奈。
「はぁ、どうすりゃいいのよこの状況……」
「艦載機〜」
「いやさすがにそれは」
 うー、と床で唸っていた玲奈ががばと飛び起きた。
「つくってくれないならいい、あたしなんとかするもん!」
「ちょ、ちょっと玲奈?」
「もう頼まないよーだ、おかーさんのバカ!」
 上着をひっつかみ涙を散らしてどこへいくか部屋をでていく玲奈。
「ちょっとま……。ああ、もう!」
 これも母の役目と、癇癪をおこした娘の背中をあやこは追う。



 東京防霊空軍基地。
「いや〜今日は平和だねぇ……」
 とばした紙飛行機を広いながら、日野・ユウジは髪を掻き揚げる。
 天気は快晴。敵は大抵夜降りてくる。
 司令とオペレータも今は留守にしていた。留守番ともいえるが、今日は自分がここの王というわけだ。
 どさっとソファによこになると彼はうとうとやりだした。
「こんな日は思いっきりだらっとするのがいいんだよなぁ」
 だから突然鳴り出したそれがなんなのか一瞬わからない。
「うるさいなぁ、何。って……警報!?」
 警報が鳴っている。しかも緊急度が高いやつだ。
 彼はあわてて管制卓につく。
 戦術管制部の情報コンピュータが激しく点滅し悲鳴をあげている。
≪基地内に脅威検出。データ照合、アンノウン。空軍の人間による目視データを入力せよ。滑走路ファランクス及び警備火器、目標を捕捉。このまま指示無き場合、内部破壊の恐れありとして発砲する≫
「こちら日野、対空対人火器、待機せよ。目標を確認する」
 了解、即時実行せよ、の表示を確認。
 なんだってんだこの誰もいない時に。
 カメラで目標をさがす。どこをどう突破したか、ハンガー前に航空宇宙戦艦らしきものが鎮座している。
 撃て、とまさに喉からでそうになった彼の背中に間延びした声がかかった。
「御邪魔しますぅ〜」
「う……え。」
 振り向くととんがった耳にセーラー服の少女。
「は、きみ誰」
「あたし家出少女〜」
「はぁ。なに? っていうかマジあれで来たの?」
 カメラに映るどでかい戦艦をゆびさすと少女はこくりと頷いた。
「うん。ちょっとかくまって」



 そういってにこり笑う姿は一応悪人には見えないが……。あんなものでやってきてかくまうもなにもない。
「なにこのマジすかな状況。マジすか」
 すると足音がもうひとつ増える。駆けて来る。
「ちょっと、玲奈! 待ちなさい!」
 すると少女は日野の後ろに素早く隠れた。
「きた、あれからかくまって!」
「ちょ、マジ!?」
 あんな戦艦に勝てない相手を自分にどうしろというのか。
「マジすか。って……あやこさんじゃないスか、誰かとおもったら」
 何が襲い来るかと身構えていた日野は拍子抜け。
 飛ぶ戦艦を走って追ってくれば無理もない、そこには息をきらせて藤田あやこが立っていた。
「はぁ、はぁ。どこにいくかと思ったらこことはね。玲奈、帰るわよ」
「艦載機〜」
 ハンガー奥へ飛行機求め入り込もうとする娘の耳をつまんであやこは制止する。
「どうもお騒がせしました」
「いや、たしかに大騒ぎなんすけどそれはいいとして」
 コンピュータを落ち着かせて通常の監視状態にもどす。
「帰るわよ、玲奈」
「いやだ、艦載機貰って帰るもん! 乗って帰る!」
「だーめ、あれは売り物じゃないの」
「お母さんのバカ! 買ってくれなきゃ万引きする! ていうか奪って帰る!」
「せ、宣戦布告!?」
 ドン引きする日野を尻目に親子の引っ張り合いは続く。
「かーえーるーわーよー」
「痛い痛い耳は痛い! 噛み付くよ!?」
「まぁまぁちょっと二人とも落ち着いて下さいよ」
 むくれる玲奈と腕を組んでため息をつくあやこ。
 仕方ない。どの道機体は調達しなければならない。
 母としては我儘を聞いてしまう結果になるが。
「しょうがないわねぇ……ミストラル開発、やってみるか」



「エンジンから開発すると何年もかかっちゃうのよねぇ」
「そりゃそうですねえ」
 とりあえず三人は、玲奈の航空母艦工場と空軍のコンピュータをリンクさせる、というところから初めてみた。
「これ、もうつながってるんすか」
「オーケー。つながったよ」
 玲奈はたのしそうにタッチペンで戦闘機のラフを書き始めた。
 そのとおりに部品が即時加工されていく。
「こんな感じがいい!」
「おお、かっけえ!」
「どれどれ」
 とあやこが覗き込む。
「ダメ! ボツ!」
「えー。なんでよ」
「なんでって……どうみても艦載機に向いてないじゃない」
 各部からいろんな羽がとびだしたそれは確かに高機動にみえるが。
「整備性が大事っすからねぇ」
「たしかに艦載機はそうね……ていうか推力なんだけど、ここの灼魂機関借りられるかしら」
「ライセンスはだせないです。俺の独断では……でも試作機につんでみるぐらいならいいんじゃないすか」
 空軍機の中でもイズナのエンジンはユニットごと下にすんなり抜ける構造であったのでそれは可能だった。
「エンジン〜エンジンもらう〜」
「こら玲奈、機密を強請っちゃいけません」
「エンジン〜」
 またもや引っ張り合いを始める親子をよそに日野ユウジは大きくため息。
「司令が帰ってきたら大目玉だな、俺……」
 



 三人は頭をよせあつめて『自由工作』のアイデアスケッチをねる。
 もっともそのスケッチは直結された母艦の生産工場によってどんどん加工されているわけだが。
「やっぱそれなりの大きさは必要なのよ」
「とりあえず邀撃、雷撃、爆撃、格闘戦か。戦術偵察も?」
「玲奈やりたい〜」
「わがP.M.Cは戦場のことならなんでもござれがモットーよ、やるわ。となるとやはり双発ぐらいはないときついわね」
 あやこはエンジンオブジェクトをふたつならべるとぐりぐりと周辺を製図。
「同時に大爆走を可能にする推力……フライトコントロールはダイレクト信号入力含め三系統」
 機体に対してわりと大きなクリップドデルタを描く。
「ま、こんな感じかな。あとは……と」
 素材だ。コレまで以上に軽くて強くなければならない。
 あやこは自社の材料製作部門にかけあって最新のものを玲奈の母艦に持ち込ませる。
 玲奈はソレを即時設計に反映させ加工準備。
 この二人はもうほとんどオーバーテクノロジー即時生産タッグだ。
「こいつで自重と強度の問題はクリアーね。対地ミサイルぶらさげまくりよ!」
「そんなにタフにするんすか?」
「やっぱし戦闘機ってのは弾ぶち込んで、帰ってくるまでが本分よ」
「玲奈、あたまがいい戦闘機がいい!」
「ああ、その問題もあったか……」
 アビオニクスにかけあって搭載コンピュータの系統をねる。
「スタンドアローンはきびしくないすか?」
 アイスを食いつつ日野がのんびり聞く。
 そのノリはまさに夏休み自由工作。
「そうね、けど独立性がそこなわれてもいけないから……」
「ここはむずかしいっすね」
 協議の結果、高度な艦載機間通信回線を搭載。
 位置情報、敵脅威位置などをダイレクトに出撃機の間で共有できるようにする。
 これにより編隊戦闘時の総戦闘力が大幅にアップ。
 余剰部分で音声通信回線も確保。
 ミストラルは個々でなく、出撃したミストラル群全体でひとつの戦闘意識をもち、互いをバックアップする。
 そしてそのメインコンピュータ権限も各機がもち、損耗時も迅速な指揮系統の移行を実現。
 早期警戒機、警戒管制機はあくまで外部からミストラルそれぞれへの脅威を監視。
 直接干渉での誘導は行わない――というよりこのシステムでは不要だった。
「強いな……これ。強いっすよ」
 日野は防霊空軍機との模擬訓練を提案。
 能力的には互角以上だが、ミストラル側の武装及び役割分担によって防霊空軍機は相当苦戦するだろう。
 ミストラルは今、あやこが用意した数値空間のなかをとびまわっている。
「よし! とばすわよ!」
「わーい」
 面食らう日野。
「え、今とばすんすか、もう? マジすか?」
「そりゃそうよ。数値上とぶだけじゃね。実際、ソラの空気をめいっぱいすわせてやらないと」
 三人は外へ駆け出す。



「そろそろでてくるよ〜」
 と玲奈。
「これが晴れて試作一号機ってわけね、日野くん」
「はい?」
「フライトスーツとヘルメットもってきて」
「了解!」
 ふたりして、航空母艦をみつめる。
 親子協力しての自由工作結果のおでましというわけだ。
 そしてそれはゆっくりと、母艦の下に着地、親へ寄り添う小鳥のように二人の下へと無人ですすんできた。
 シンプルながら未曾有の可能性と性能を秘めた翼。
 ミストラル。
「あーもう、我慢できないかな。乗るわよ、玲奈!」
「はーい、おかーさん」
 後席に玲奈をのせて、あやこはまだ誰も触ったことのないスティックをなぜる。
 タキシング。
「離陸準備、完了」
 と後席が告げる。
「よし、いくわよ初飛行! ミストラル、テイクオフ!」
 スーツとメットを手に日野が滑走路へ戻ってきたとき、すでにそこは轟音で満ちていた。
 影が、なんども彼のあたまの上を交差する。
 飛んでいる。
 バンクさせて光るコクピットにあやこと玲奈の影がみえる。
「おーい!」
 日野が手を振ると、それぞれが応える。
 ミストラルが雲の間に切り込んで見えなくなるまで。
 日野は地上から手を振り続けた。


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■         ライター通信          ■
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またこうしてお会いできるのを嬉しく思います。
変わらぬ元気なお姿で、基地連中は相変わらず潤されてばかりです、ありがとうございます。
本来ならシチュノベには通信をつけないのですが告知のようなもの&お任せ部分の感想をお聞きしたく付け加えてみました。
ミストラルの性能諸々については拙WR裁量となりましたがご満足いただけたでしょうか。

異界にシチュノベ形式シナリオを追加しております。
また遊びにきていただける際はそちらをご利用いただくと隊員総出でお出迎え可能です。

また、イラストレーター・渡会 敦朗氏とのコラボレーション企画が進行中です。
空軍での日常、ドッグファイトシーン、愛機をバックに……などなど、思い出を残してみませんか?
フォトスタジオ・渡 【渡会 敦朗】
http://omc.terranetz.jp/creators_room/room_view.cgi?ROOMID=2362

注:現時点での描写対応機体はA:イズナ となっております。


それでは、またお会いできる日を楽しみにして。

あきしまいさむ拝