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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


イノセント・ライオンハート


 投稿者:さくら 0:14
 N市の森林公園に、夜になるとライオンの幽霊が出るってウワサがあります。
 人や動物を襲うことは無いらしいですが、公園の中をずっとウロウロしてるそうです。まるで迷子みたい……。
 もし悪い霊じゃないなら、成仏させてあげることはできないんでしょうか……。

「ふーん、迷子のライオンかぁ。しかもあそこでねぇ」
 瀬名・雫はコンピュータのモニターを見つめて愉しげに笑んだ。
 N市立森林公園といえば、戦前は動物園だった場所である。そこで過ごしていた動物の魂が地縛霊となって彷徨っていても不思議ではない。それに、動物の棲みやすい環境だからか、彼らを公園に捨てていく人間も多いと聞く。
 携帯電話を取り出した雫は、アドレス帳から親しい人物の電話番号を呼び出した。
「ねぇ、面白そうな話があるんだけど――」

 ★

 涼しい夜風に艶やかな黒髪が靡く。そこから覗く長い耳はエルフの証。
「ここが森林公園ね」
 雫からの依頼を受けた藤田あやこは、霊獣ペットの霊・ボッソと共に件の公園を訪れた。深夜のためか人気は無いが、時折鳥の羽音や犬の遠吠えが風に乗って聞こえてくる。
 コンクリートの舗道を歩んでみる。元動物園というだけのことはある広大な敷地だ。鬱蒼と生い茂る木々の影が、宵闇の深さを助長させていた。
「こう広いとライオンちゃん捜すのも時間かかりそうねぇ。ボッソ、それっぽいニオイ拾えない?」
 豹は小さく鳴いて地面に顔を近づける。幾度か鼻をひくつかせたのち面を上げ、あやこを導くように進み始めた。
「きゃー! 流石ボッソ、天才っ」
 大袈裟に褒めてついていく。道端にたむろする野良猫達の光る眼。それが蛍の光にも似ているなと思っていると、不意に開けた場所に出た。目の前には大きな噴水が鎮座していて、その中で透けた身体を持つ雄のライオンが水浴びを楽しんでいた。
「ライオンちゃん、発見!」
 あやこは早速豹に合図し、相手が悪霊か否かを探らせた。豹が唸る気配が無いので悪霊ではないらしい。
 持ち前の語学力を駆使し、霊語でライオンに訊ねるあやこ。
「ねぇ、どうしてこの公園をうろうろしてるの? 街で噂になってるみたいだけど」
 ライオンは立派な鬣を微かに揺らしてあやこを見やった。
『私は人間同士の戦争に巻き込まれ、この地で殺されたのだ。銃とかいう武器でな』
「そう……」
『しかしこの地も随分と様変わりしてしまったな』
 ライオンの唇から淋しげなバリトンがぽつりとこぼれる。公園を徘徊していたのは郷愁に浸っていたためか。あやこは明るく提案した。
「ここはもう動物園じゃないけど、良かったら一緒に遊びましょっ」
『む?』
 きょとんと目を瞬かせるライオンに、傍らの豹を紹介する。
「この子はボッソ、私のペットよ。遊び道具も沢山持ってきたし、気分転換に、ね?」
『……ふむ。久方振りの戯れも悪くないか』
 ライオンの微笑と豹の期待に揺れる尾を見比べ、あやこも嬉しげに笑んだ。

 ★

 あやこが用意した屠殺場の牛の地縛霊を、ライオンはぺろりとたいらげた。
「流石百獣の王、いい食べっぷりだわ。うちの妖怪俳優事務所の大部屋妖怪達が食べてるヤツなんだけど、気に入ってくれた?」
『うむ、良い肉付きだ。生きていた頃には食わなかった類だな』
「ボッソ、なに物欲しそうな顔してるの。出かける前に食べたでしょ」
 食後の休憩を取ってからはいよいよプレイタイムである。流石ネコ科というべきか、ライオンはあやこの操る特大ネコジャラシとボールに凄まじい勢いで食いついた。
「あはは、可愛いー!」
『むぅ……』
 若干照れたらしいライオンの表情がまた可愛いと思いつつ、あやこは豹を呼び寄せた。そして自分は服を脱いであらかじめ着ていたビキニ姿になり、荷物の中から鞭を取り出す。
「さあ、お次はサーカスごっこよっ」
 こうして傍から見れば妙な宴が催されている間にも、夜は着々と更けていった。1人と2匹が疲れを訴える頃には、空の端が白み始めていた。豹はすっかり睡眠態勢で、ライオンも重い瞼をかろうじて開けているようだ。あやこも眠い目を擦りつつライオンに問いかける。
「どう、ライオンちゃん。楽しめたかしら」
『うむ。なかなか刺激的な遊戯だった。ボッソとやらも元気があって面白いしな』
「良かった。でも意外だわ。人間に銃殺されたのに、私のこと警戒しなかったもの、あなた。まあ私は人間じゃなくてエルフだけど」
『人間も悪い者ばかりではないと知っている。私に付き合ってくれて感謝しているぞ、あやこ』

 ――この地で再び幸福を味わえたならば、悔いは無い。

 その言葉を最期に、ライオンは穏やかに瞼を閉ざした。
 呪文で眠らせるまでもなかったわね、と安堵し、あやこはライオンを手持ちの宝珠に宿らせた。
「おやすみ、ライオンちゃん。私も楽しかったわ」

 ★

 翌朝、あやこはライオンをアフリカのNPOに居る知人に葬ってもらうため、ポストにエアメールを投函した。
 彼が安らかに眠れるよう、逝く先で動物園の仲間と再会できるよう、祈りを込めて。



−完−



■登場人物(この物語に登場した人物の一覧)■
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
7061/藤田・あやこ/女/24歳/IO2オカルティックサイエンティスト

■ライター通信■
藤田・あやこさま
初めまして、蒼樹 里緒と申します。このたびはご参加有難うございました!
主にライオンとの遊びが中心となりましたが、いかがでしたでしょうか。ほのぼのなプレイングでしたので、こちらも書いていて楽しかったです。
よろしければまたお気軽にご発注下さいませ。