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月下集会への招待
一枚の招待状が、ひらり、森の中に舞い落ちた。
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「そう言えば…決着、着いてないよな」
宴の帰り道、はたと何事か思い出したのか…若い天狗、天波慎霰は呟いた。懐から一枚の小さな、紅く色づいた葉を取り出す。上手く絆されたのか、むっと…心なしか慎霰の眉間に小さな罅が入る。そして、思い立ったが吉とばかりにくるりと踵を返した。
勿論、向かうは狐の巣窟、あの小さな社へ。
所変わって、慎霰が向かっている社では狐が一匹大きな欠伸をして、社の屋根の上に陣取っていた。偉そうに尻尾を振り、社の上から既に地上に近い場所まで降りた月を見下ろしている。
「今宵の宴は、天狗のお陰で賑わったのう…認めたくは無いが」
ぽつりと小さな呟きを森に投げ掛け、狐は又尻尾を揺らした。ふわふわと周りに狐火が漂う。…ぴたり。狐火の漂いが止まった。そして、少し遅れて狐…喜三郎がゆっくりと振り返る。
「何じゃ、小天狗。何の用じゃ?」
まだ暴れたりんと申すか。
冗談半分に、喜三郎は笑いを含んだ声音で慎霰へと言葉を放った。慎霰はその言葉をきっちり受け止め、にやりと笑う。
「まだ、着いてないだろ?決着」
「……観客も居らんのに、勝負などする気が湧かん」
「何ッ!」
肩透かしを食らって、思わず慎霰は声を荒げた。どうやら、先ほどのやる気はギャラリーが居たから…と、言う事らしい。いかにも狐らしい、その理由に天狗の慎霰としては憤懣やる方なしと言った風で、ぱくぱくと口を何度か開け閉めしていたが、終いには考え込みだしてしまった。そんな慎霰の様子に目もくれる事無く、暮れ行く月を喜三郎は和やかに観月している。
「…じゃ、どうすればやる気を出すんだよ」
「わしは狐じゃ、夜行性じゃ、今を何刻と思っておる」
……空は白んで、むしろ、青空が朝焼けを侵食しつつある空。夜行性だと言う狐に、この空では、恐らく何を言ってもやる気を起こしはしないだろう。…喜三郎は、見せ付けるように慎霰の目の前で大きな欠伸をして、帰れ帰れと片手を振るっている。
「用はそれだけか?わしはこれから眠るのに大忙しじゃ、はよう帰……?」
喜三郎の言葉が止まる、照らされていた社に段々と影が出てきた。落ちていったはずの月が再び、よいせよいせと昇ってくる。山のふもとの町にも灯りが灯り、木々の間を蝙蝠が飛び交い、星は月の傍に鎮座して、きらきら揺らめきだしている。社の傍にある灯篭には、すでに深紅な天狗の灯が灯り、暗がりを照らしていた。その仄かな明かりの中で、慎霰は口端を上げ挑戦的な笑みを作る。
………あっという間に
夜の世界へと、喜三郎は招待されていた。
「夜行性の狐さんよ、コレで満足かい?」
にやり、慎霰は調子を取り戻した笑みで喜三郎へと笑いかける。
喜三郎も目を細め、ふふりと笑った。
「良い度胸…、折角じゃ、買うてやろ」
懐から、あの金扇を取り出し、ぱんと開いた。昨日の夜と同じく、星の煌きを模した模様は美しい。
「狐好きしそうな派手柄だな」
「天狗が地味なだけと違うか?」
慎霰はにやりと口端を持ち上げたまま、腕を伸ばし数珠をじゃりと握り締めた。再び色づき始める木々、虫の声音も高く天へと上り始める。喜三郎が扇を扇いで葉を散らせ、木々の隙間隙間にすすき野を作り上げ、全ての灯篭に狐火が灯り、まるで何かしらの祭りの様に青い提燈が社の空を埋め尽くした。
「…舞台は整ったな、今宵はどんな幻術を見せてくれるんだい、お狐さま」
「小天狗には勿体無いほどの、雅な世界をご覧に入れよ」
…くっくと、天狗と狐は互いに笑い合う。
さあさ、皆さんお立会い。
勝負が着くまで、飽く事無い夜が深けて行く。再び呼び起こされた月は、星々と上空からの観戦を決め込んだ。観客は月に星に、蝙蝠、森の木々と満員御礼。
さて、勝つのは狐か、若い天狗か。
化かしあう二人の影に、騙されているのはどちらなのか。
…一等、騙されしは観戦している月やも知れぬと、蝙蝠たちがせせら笑った。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【1928/天波・慎霰/男性/15歳/天狗・高校生】
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■ ライター通信 ■
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■天波・慎霰 様
こんにちは、ライターのひだりのです。此度は発注有難う御座います!
色々とありましたが、二度目の幻術勝負!と言った風になりました。
幻術の描写、大変楽しく描かさせて頂きました!
天狗と狐の対戦と言うのが中々凄そうです。
慎霰さんも楽しんでいただければ、幸いです!
これからも精進して行きますので、機会がありましたら
是非、宜しくお願い致します!
ひだりの
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