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切り倒されたご神木
私がまだ12歳のころの話だった。
シュライン・エマという名前を親に授かり、普通の女子中学生をやっている。
私が帰り道にはいつも「死体ロード」を通る。
あそこは家への近道なのだ。
もっとも友人はそこを通りたくないと言っていたので、
こんな所を通る怖いものなしは私くらいだろう。
死体ロード?そんなの昔の話である。
いまでは建築会社が土地を買占め、ビルが建つんだってさ。
今日はとうとう神社の取り壊しのようで、大がかりな機械を乗りこなし
ガシャンガシャンと取り壊ししている。
そこでなぜか事情聴取をしている女がいた。
青い瞳にブロンドの髪。完ペキに欧米人だ。
私は野次馬根性で聞いてみることにした。
刑事は現場監督と思われる人物にこう聞いていた。
「どういう風に人物がいなくなったか、わかります?」
やがて現場監督と思われる年の喰ったオヤジが、
「いや、仕事させていたら、いつのまにかふっと消えるんですよ」
「ありがとう。取り調べは以上よ。でも一つだけ」
女刑事は一呼吸置いて、
「そのビル、建てない方がいいわよ」
女刑事は早足で歩いていき、自転車を止めて見物してた私を一目見て去って行った。
家に着いた私はずっと工事現場のことを考えていた。
神社を取り壊して何か祟られたりしないんだろうか?
これは何か事件の始まりのような気がして、しばらくは工事現場を
観察することにした。
やがて取り壊しの最後の仕事、ご神木の取り壊しを開始した。
チェーンソーを使って少しずつ切っていく。
他のメンバーは切り倒されるまで、作業待ちとなった。
その様子もまた、自転車を止めて見守っていた。
……
あれ?
なんか声が聞こえたような気がする。小さいけれどか細く、不安な声。
気になったので耳を澄まし出所を探してみた。
どうも工事現場から聞こえるみたいだ。
「こんにちは」
とりあえずあいさつしてみた。
「こんにちは」
と、小さい声で帰ってきた。決して工事現場の男の声じゃない。
よし、思い切って中に入れてもらおう!
そう決心して声をかけやすそうな人をざっと探してみた。
しかし年の喰ったおじさんか、やんちゃそうな若い男しかいない。
私は直感でこの金髪のお兄さんに話しかけることにした。
「お兄さん。ちょっとだけ入れてもらえないでしょうか?」
振り返った男は金髪だけど、どこか芯の通った真面目さがあるように見えた。
やばい。
このお兄さん、マジでカッコいい。
それに身体全体から出るオーラが私の心臓をゆさぶってくる。
恋したかもしれない。しかも叶いそうにない恋。
「危ねーからやめとけ」
その兄さんも口を開けばチンピラ風なしゃべり方だった。
好感度マイナス20ポイント。
「それでも入りたいんです」
「しゃーねーなぁ」
そう言うと金髪の男は中に入れてくれた。
私はそこで耳をすます。
すると小さい声でこう聞こえてきた。
「悪い気をさえぎってた物がなくなったから風通しを良く……人が死ぬ前に……」
どうも木は悪くないみたいだ。更にもう一つ声が聞こえた。
「……上階から生きてる人の声…何だか怖い声」
とそこで声は途切れた。
「ねぇ、お兄さん。建設会社の社長室に行けない?」
「馬鹿やろー!俺バイトだから出入りできねーって!」
「でも危険な気がするの」
結局私はこのお兄さんと二人は急いで本社に行くことになった。
私は自転車なのにお兄さんは原付。でもお兄さんは私の自転車の速度に合わせてくれた。
「お前、名前はなんだ?」
「シュライン・エマです」
「いい名前だな。俺の名前は草間武彦」
やっとのことでビルに着いた時は遅かった。警察が既に来ていたのだ。
しばらくして、毛布にくるまった社長の死体と、
前に見かけた金髪の女刑事が外へ出てきた。2人は女刑事に詰め寄った。
「これは一体…」
すると女刑事が口をはさんだ。
「一応、死因は心不全だけど、これはどう見てもご神木の呪いだわ」
女刑事がバックからタバコを取り出し、ふーっと煙を吐いた。
「今から行きましょう。ご神木の場所へ」
3人はご神木のあった場所に再び訪れた。
するとここでも死傷者が存在した。
ご神木が思わぬ方向に倒れて、そこにいた作業員が被害にあったのだ。
「あそこに倒れることはどう考えてもないはずなのに……」
私は驚いてつい口にしてしまった。
すると女刑事は、
「私、ご神木と話します」
それを聞いた私は、
「あなたは何者なんですか……?」
「エル・レイニーズ。霊能力を持った普通の刑事よ」
そう言うとそっと切り株に耳をあてようとしたが……。
「待って!!」
私は思わず声に出してしまった。
「最初は私に声をかけてくれたわ。私が話をする」
そうして私は切り株になってしまったご神木に耳をあてた。
「ありがとう。私の話を聞いてくれて。元々この場所は悪い気が溜まりやすい場所で、
神社や神木を植えることで悪い気を浄化していたの。そこにビルが建つとどうなるか……
わかるわよね?」
「ええ。わかるわ」
「それを回避するには一つしかない。私を切り株のまま残して、公園にするの」
「わかった。そう頼んでみる」
この会話の内容を2人に話したものの、アルバイトの武彦さんや女子中学生の私、
刑事であるエルさんにもどうしようもなかった。これには大人数での訴えが必要なのである。
お仕事のある武彦さんやエルさんに頼むわけにはいかないので、私が近所に大量の
ビラとアンケート用紙を配布した。ビル建設によって日が当たらない家になるのを
不快に思う人も多いだろう。
案の定、たくさんの反対のアンケートをいただけた。
そして武彦さんがこっそり根回ししてくれたらしく、同じ系列学校の四菱グループの娘さんに
この出来事を書いて、土地の買収をできないかという手紙を渡していたみたいだ。
やがて今の建設会社はこの土地から手を引いて、四菱グループが引き受けることになった。
ご神木のあったところはちびっこ公園として残している。
側には4階建の小さいマンションだけ建てているようだ。
その工事が終わった時から武彦さんとは音信不通になってしまった。
あの頃の小さなときめきのことが初恋だったんだろうなぁ。
そうしているうちに私は18歳になっていた。そろそろ就職する時期なので探しているのだが、
最終学歴・中卒・大検合格では、なかなか難しい。この際アルバイトでもいいから
ないものかと街の中を歩いていた。街を歩いてると時々、「アルバイト募集」の
ビラが貼ってあるし、求人フリーペーパーも外を歩けばたくさん置いている。
ふっと見た小さなビルの看板には信じられないことが書かれていた。
「草間興信所」
草間ってあの建設現場にいた武彦さんの草間?
吸い込まれるように階段を上って行き、ドアにはなんと「アルバイト募集」の文字が。
私はそれが本物の武彦さんであっても違っても、この扉を開けないと後悔する。
私の手がドアノブに触れる。その手にはほんのりと汗ばんでいた。
ガチャンと開けた後、下をみつめながら、
「あの…アルバイトをしたくて来たのですが……」
すると懐かしい声で、
「じゃあそこのソファーに座ってくれないかな?」
私は少しずつ顔を上げる。その男は金髪ではなく茶髪になってはいたが、
あの時の武彦さんに間違いなかった。
「私の名前は……」
「シュライン・エマだろ?覚えているよ。変わった中学生だなと思って」
武彦さんが私のことを覚えててくれた……。思わず涙が出そうになったが、
クールで通っている私に涙は似合わない。ぐっと我慢した。
「履歴書は書いてきたか?最もそんなの書かなくても、お前は合格だがな」
こうして私は草間興信所で働くことになった。
出会ってから今までの、そんなお話。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【0086 / シュライン・エマ / 女 / 12歳(当時) / 学生 】
【NPC / 草間武彦 / 男 / 16歳(当時) / 学生 】
【NPC / エル・レイニーズ / 女 / 18歳(当時) / 刑事 】
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■ ライター通信 ■
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初めまして^ ^ この「ゲームノベル」は既成のNPCを中心に描いてはいけない
という決まりがあるのを後で気づき、武彦の扱いが非常に悩みましたね。
最初は3人称で書いたのですが、誰が主人公かわからなくなったので、
少なくともPCさんが中心でなくてはいけないと思い、
めずらしく一人称で書いてみました。ご依頼ありがとうございます<(_ _)>
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