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<東京怪談・PCゲームノベル>


願いのノート

●何を書きましたか?
 来生・十四郎(きすぎ・としろう)は、取材の帰りに偶然『幽玄堂』を訪れた。
「何だよ、ここ。骨董品屋じゃねぇか。俺は、こんなものに興味ねぇんだが……」
 そう言いながらも、十四郎は煙草のフィルターを噛みながら店内にある骨董品の数々を見ていた。
 この壷、高そうだなぁと白磁の壷をじーっと見ていた時、店の奥から店主の香月・那智が現れた。
「いらっしゃいませ。お客様、当店は禁煙なのですが……」
 十四郎が銜えている煙草を見て、那智は申し訳なさげに言う。
「そ、そうか。すまねぇ。って、おまえ、那智じゃないか! ここ、おまえの店か?」
「はい、そうです。骨董品の他にも、お香も取り揃えておりますが。おひとつ、いかがですか?」
 いや、結構ときっぱり断ろうとしたが、禁煙の店で喫煙した非礼を詫びるため、何か一点購入することに決めた。
「この店で、一番安い商品は何だ? 喫煙の詫びに、何か買っていこうと思ってな」
「お気遣いは無用ですよ、来生さん。あ、お試し商品があるのですが使ってみませんか?」
 ちょっと待っててくださいね、と言うと、那智は店内にある机の引き出しから、赤い革表紙のノートを十四郎に差し出した。
「これは『願いのノート』という商品です。まだ実用化されていないので、正式な売り物ではありません。これに願い事を書けば、24時間、その願いが叶うというものです。いかがですか?」
「何でも叶うのか!?」
 制限時間内であれば、何でも叶いますよと、那智は微笑んで答えた。
「面白そうだな。それじゃ、早速……」
 十四郎は、胸ポケットから愛用のペンを取り出すと、サラサラとノートに願い事を書いた。
「来生さんの願い、叶いますように……」
 那智は目を閉じ、静かに祈った。

●十四郎の願い
 現在の自分と180度違う人間になりたい。
 これが、十四郎がノートに書いた願い事だった。
 真面目で穏やか、規則正しい生活と自己管理の出来るまともな大人になりたい。
(「まぁ、少しの間なら真人間になんのもいいかなーと……」)
 そう思って、何気なく書いた願いだったが、効果は早速現れた。
「これで、本当に俺の願いが叶うんですか?」
「早速、叶っていますよ。口調がいつもと違いますし」
「何だか、不思議な気分です……」
 真人間になった十四郎は、何気なく窓に映った自分を見た。
「こ、この格好は……!」
 普段着である汚れたシャツに膝の抜けたジーンズに、声を出して驚いた十四郎。
「このような格好でお邪魔して、大変失礼しました。まだ仕事が残っていますので、社に戻ります。お邪魔しました!」
 深々と頭を下げ、十四郎は幽玄堂を出て行った。

 職場である「週刊民衆」編集部に戻る前に、十四郎が真っ先に向かったのは理髪店だった。乱れた髪を整えるためである。馴染みの店だったので、理容師は彼の心境の変化に驚いたが、後で何を言われるのか怖くなったので何も言わなかった。
 次に向かったのは紳士服店。ここではスーツとネクタイ、革靴を購入。
 スーツに着替え、ネクタイを締めて服装を整えた十四郎は、急いで職場に戻った。

「ただいま取材から戻りました。遅くなってすみません」
 十四郎の姿を見た編集長をはじめとする社員達は、彼の変身振りに仰天した。
 十四郎は、取材をまとめるため、デスクに向かった。

 ヘビースモーカーであるが、仕事中は一切喫煙しない。
 行き詰ると、頭を掻く癖がない。
 大嫌いである事務処理を迅速かつ、丁寧にこなしている。
 普段の十四郎を知る人々は、何か悪いことが起きる前触れかも……と、内心怖がっていた。
「編集長、原稿できあがりました」
「あ、ああ……」
 丁寧に原稿を差し出す十四郎に驚く編集長。普段の彼なら「出来たぜ」とバサっと机に置く。

 手早く仕事が済んだので、定時に帰宅することができた。
「来生、一杯やってかないか?」
 同僚記者に飲みに行かないかと誘われたが、それを断り、まっすぐ帰宅することに。
「家に帰る前に、手土産でも買っていこう」
 何がいいかな? と考えつつ、近くのショッピングモールに立ち寄った。
 帰宅後、同居人に購入した手土産を手渡し、一緒に夕食を摂った。出されたものは、ひとつ残らず美味しく食べた。
 その後、部屋を掃除したり、テレビを見たり、読書をしたりと就寝時間までゆっくりと寛いだ。
「さて、明日に備えて早く寝るとしますか」
 布団を敷き、パジャマに着替え、翌日出勤の支度を整え終えると、十四郎は眠りについた。

●夢から覚めて
 翌日、目が覚めた十四郎は驚いた。
「な、何だよこれは!!」
 散らかっているはずの部屋は見違えるほど綺麗になっていて、ハンガーにはおろしたてといえるスーツがかけられ、机には、出勤準備が整えられていた。
「これ……俺がやったのか!? 夢……だよな……?」
 頬を思いっきりつねったが、痛かったので夢ではないようだ。
(「そうか、あのノート……!」)
 紙袋に詰められていたいつもの服に素早く着替えると、十四郎は出勤前に幽玄堂に向かった。

「那智、いるか!」
「はい、ここに。朝早くから何か御用ですか?」
 十四郎は、那智にノートに書いた出来事を話した。記憶に残っているのが恥ずかしい、と付け加えて。
「そのようなことを書いたんですか。それで、真面目になったご感想はいかがでしたか?」
「同居人は喜んでたが……俺自身は、非常に気持ち悪かった」
 今の俺が、一番俺らしい。十四郎は、心の底からそう思った。
「願いのノートですが、またお使いになりますか? お一人様一回、と決まっていませんので」
「もう結構だ! 俺はこのままで十分!」
 じゃな! と彼らしい手早い挨拶をし、十四郎は走って出勤した。

 願いが叶うノート、あなたも使ってみませんか?

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0883 / 来生・十四郎 / 男性 / 28歳 / 五流雑誌「週刊民衆」記者】

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■         ライター通信          ■
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>来生・十四郎様

 お久しぶりです、氷邑 凍矢です。
 『願いのノート』のご参加、まことにありがとうございます。

 普段とは違う十四郎様を書いたのは良いのですが、上手く変身させることが
 できたのかどうか不安です…。
 真面目な十四郎様も良いですが、普段の十四郎様が一番ではないかと。

 またお会いできることを楽しみにしつつ、ご挨拶を締め括らせていただきます。

 氷邑 凍矢 拝