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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


神の剣 双子の宿命 【状況捜査・前編】

 神聖都学園屋上。
 風が強く吹くなか、そこに一人の少女がたたずんでいた。腰まで伸びる綺麗な黒髪に、深い緑の瞳。空をずっと眺めている。
「……。」
 校舎や運動場では賑やかな声がする中、彼女の周りだけ沈黙があった。
 何か考え事をしているかのように、ため息をつく。
 下を見る。
 運動場には見覚えのある、というとおかしいが、毎日顔を合わせている男子生徒が友人と遊んでいた。制服でサッカーをしているようだ。
「ほんと、気楽で良いよね。」
 またため息をついた。
 男子生徒は上を見上げると、少女を見つけ、手を振っている。
 其れを見た少女は、またため息をついた。

 放課後、彼女が校門を出ようとしたときに、
「姉ちゃんつれない。手を振ったのにー。」
 門にもたれかかって少年が声をかける。
「その言い方は止してと言っている。」
「そう簡単にかえられないよ。」
 少女に、少年。
 顔立ちが、似ている。
「いくら姉弟でも、あたしとあんたが一緒に帰る筋合いは無い。友達と帰りな。」
 さくさく進む、少女。
「そんなこといってもよー、ダチはバイトや部活で、帰るしかないんだよ!」
「そんなんだったら、あんたも部活はいればいいじゃん。」
「いやだ。」
「……。」
 似たもの同士というところか、あまり人と群れたくないかんじはお互いあるのだ。
「バイトは親父がダメって言うし。部活は縦関係嫌だし。なら帰るときは双子仲良くがいい。美香姉ちゃん。」
「だから、姉ちゃんと呼ぶな。」
 このシスコンめ。と少女は思いたくなった。

 草間興信所。
「私の権能は“光”なので、潜伏や尾行が苦手なのです。探偵のあなたの方が抜擢じゃないとおもっていましてね。」
「織田。どうして俺に怪奇現象を押しつける……。」
 草間武彦は自分より若いが圧倒的威厳のある、青年に向かってため息をついていた。
「他を当たれ。」
「当たれません。」
「お前の仕事だろう?」
「身元捜索や接触は探偵やその手に長じる方が良いのです。私は戦いに特化しているゆえ……。」
「………。」
 頭をかく草間。
「わかった。単にその双子の詳細と接触の手伝いなんだな? 織田、お前先輩なんだから、すぐに声をかければいいじゃないか?」
「そうもいきません。私が顔を出したときに、彼女たちの“力”が反応すれば、数年前の暴走者のようなことが起こりえるのです。」
「……。っち。」
 織田と呼ばれた青年は、茶封筒を、テーブルの上に置いた。分厚い何かが入っている。草間がその中を見ると、札束が入っていた。
「で、20万か? しけているな。」
「前払いで。あとは、状況で上乗せ。良いでしょうか?」
「……。分かった。」
 仕事が手にはいるのなら、やはり怪奇関係もやるしかないのかと、また草間はため息をついた。


〈助手〉
 草間は携帯から、この件に関して手伝える人物を捜す。そこで、手応えがあったのは、水滝刃と、御影蓮也、御柳紅麗、静修院刀夜である。
「つうか、なんかお前の腐れ縁が引っかかったぞ?」
「それもそれで、良いかと思います。」
「お前から話し付けるとスムーズじゃ?」
 草間が影斬にそう言うと、
 コーヒーを持ってきた、シュライン・エマが苦笑を浮かべて、
「ああ、織田君から通すと、“かなり危険な戦いの依頼”になるからじゃ?」
 と言った。
「ああ、そうか。面倒だな。定着した印象って。」
 草間自身も、印象や噂で、欲しくもないあだ名を戴いたのだ。そう、“怪奇探偵”だ。
 電話で読んだ人を待っている間に、予想より早く殺人ブザーが鳴る。
「やっぱり、いい加減買い換えましょう。武彦さん。」
 シュラインがジト目で草間を見ながら、玄関まで向かう。
 慣れてはいるモノの不意に、聞こえると耳を塞ぎたくなるのだ。
「五月蠅い程度のほうが良いんだ。」
「又妙なところで頑固ですね、草間さん。」
 影斬はコーヒーを飲んで微笑った。
「この音量に平然としているお前がおかしい。」
 何かむちゃくちゃね、とシュラインは苦笑してドアを開ける。
 やってきたのは、天薙撫子だった。
「あら、いらっしゃい。」
「所用の帰りに寄らせて頂きました。」
 玄関から、ふと見えるのは愛しい人の姿。
「あれ? 義明さん?」
「撫子。」
「なにか、お仕事でしょうか?」
「ええ、そうよ。話を聞く?」
 シュラインが訊くと、撫子は「はい。」と頷いた。

 そして、電話で来ると言っていた残り4人が集まり、影斬から詳しい話を聞いた。
「織田義明……いや、影斬が二人に会うと言うことで、二人の過剰反応を抑えるため、警戒心を解くというか、直接的だと危険度が増すのでという話らしい。俺は、幾度か神格を暴走して破滅した奴や一歩手前を見ているからな。アレは酷いものだ。」
 草間は最後に言う。
「つうか、俺が呼ばれた理由はどういう事だ。」
 呼ばれたのだが、どうして自分が此処にいるかということが疑問の御柳紅麗が言った。
「まあ、状況的にヤバイ場合の特攻役という方向で。」
「鉄砲玉か何かかよ。」
 草間の言葉で苦笑する。
 不確定要素を危惧して、調査以外に鳳凰院家の“敵”を見つけては調査隊と鳳凰院の方も、守る側でつれてきたという方向の予定だった、と、影斬も草間も言う。
「まあ、俺も義明が影斬になるまでの経緯を一部でも見ていたからな。そいつらも、やばいんだろ? 協力するぜ。でも、顔がわかんね。」
「大丈夫だ。写真ならある。」
 草間が、影斬から貰った資料の一部から、写真を見せた。
 写真を受け取って、紅麗は、
「ふうん。可愛いじゃん。」
 双子の片方、少女を見てつぶやく。
 彼の身の回りを知る、殆どの人の目が白くなっている。
「まて、何故そうジロッと見る? たんに、率直な感想を述べただけだろ!」
 いきなり、慌てて弁明する紅麗だが、蓮也は苦笑した。
「ほぼ同い年だから、接触しやすいのもあるだろう?」
「む。」
 影斬がフォローに言う。
 それもそうだ。あまり歳が離れすぎると、このご時世厄介なものだ。
「さて、調査する班決めの為に、個人的な指針、意見も聞きたい。それから、だ。」
 草間が仕切った。
 撫子は神妙な面持ちで、どうするか考えている。その心の中では、
(わたくしにお話してくださってもいいのに。)
 しかし、そう行かないわけがあるのだろう。と、個人で納得するしかなかった。
「ヒミコちゃんやカスミさんとか学園の知り合いに、鳳凰院さん達のことを尋ねてみるのも良いわね。」
 シュラインは、本業の用事で大学部に寄ることがあるので、都合が良かったみたいだ。
「わたくしも、大学部に用事がありますので。ご一緒してもよろしいでしょうか?」
 天薙がシュラインに聞くと、
「構わないわよ。」
 シュラインは頷いた。
「俺も、神聖都に向かって生徒達から、個人的に情報を集めます。」
 刃がそう言う。
「んじゃ、俺もその方向で行こう。」
 紅麗も刃と行動するらしい。
 影斬と蓮也が、紅麗を何か思う目で見ていると、
「ナンパじゃない! こぼれ話などを拾うためだ!」
 何か、反応する。
「何も言ってない。」
「……。」
 刃は紅麗の立場が何となく分かってきたようだ。
(弄られキャラか……。)
「さて、俺は退魔関係から当たってみたい。家の関係の裏付けなどな。」
「私もそうしようと思っていました。御影さん。高峰さんは何か含む人ですからね……。」
「あ、蓮也で良いですよ。」
 蓮也と刀夜は、家を調べる側につくそうだ。
 意見や行動を言うと、ごく自然に、班が分かれた。


〈学内調査〉
 シュラインと頼めずらしくワンピース姿の撫子は、学園内で影沼ヒミコに会った。ヒミコは“この手”に関して詳しい人物であるが、別に家系がそう言うわけではない。能力から得た勘で物事が分かる程度だ。
「鳳凰院さん、ですか?」
「何か聞いたことはないかしら?」
 うーん、と唸るヒミコ。
 ヒミコの親友SHIZUKUは今仕事中なので、彼女だけで不思議事件の調査途中だったのだ。
「弟さんの方は、結構普通の友達と遊んでいますね。3on3の出来る庭先とか、グラウンドで草野球とかしていますねぇ。でも、お姉さんの方かしら? 彼女は、人を避けているので、お話ししたことはないです。」
「そうなの。」
 シュラインは考える。
「あの二人は何かしたのでしょうか?」
「何をしたと言うことはないですよ。一寸会いたい人がいるけど……。」
 撫子がヒミコに言うと、ヒミコは目を輝かせる。
「え? もしかして、鳳凰院さんとおつき合いしたい人の……!?」
 不思議事件の次に女の子として注目な話題は、色恋沙汰である。
 まだ、目を輝かせているヒミコに、
「いや、それはないですわ。」
 きっぱり撫子は否定した。
「あら、残念です。」
 ヒミコは否定に一寸しょんぼりする。
 それでも、分かる範囲でならと、話を始めた。
「学校内では、二人は殆ど別行動のようです。たしか、お姉さんの美香さんは、一人で屋上に居る事が多いみたいです。」
 と。
「ありがとうヒミコちゃん。」
 礼を言って別れた。
 次は教師に尋ねると言う方向になる。響カスミに。
「あらいらっしゃい。」
 響カスミが優しい笑顔で二人を出迎えてくれた。机は明日の授業の資料集めで書類がいっぱいだ。彼女は人気が高い女教師。彼女なら鳳凰院姉弟について知っていることは多いかもしれないだろう。
 シュラインが上手に、仲が良さそうな姉弟を見かけたと言うことから、その姉弟について話を始めると、
「鳳凰院の双子さんのことですね。」
 と、カスミは嬉しそうに答えていた。
「紀嗣くんは、とても明るく楽しい子ですが……。」
「ですが?」
「美香さんのほうは、勉強は優秀なのですけど、人を避けているようです。理由は私には分かりません。」
 カスミは美香の状況を心配している。
 学業も交友もよい紀嗣。だた、クラブだけはしたくないので帰宅部だ。美香は学業や礼儀作法などは良く、受け身的には対応するが、あまり人と関わりたくない。
 住所などはすでに影斬の方から知らされているので、これ以上聞くことはない。
 ただ、カスミが言うには、
「彼女は本当寂しいと思うのです。でも、心が開けないのかも。音楽に其れが出ていますから。」
 しかし、カスミも彼女にどう接すればいいか分からないので、教師失格ですわと沈んでいた。
「音楽ですか。」
 同じ興味を持っている。それは音楽。
「今度、あのお二人を連れてきましょうか? 二人とも音楽には特に興味があって、センスも良いの。」
 と、カスミは言う。
「はい、出来ればお願いします。」
 そう言う約束を取り付けた。
 教員室から去って、二人は考える。
「近寄られたくないと言うことは、“力”に自覚があるのね……。」
 その答えが出た。
 しかし、それだけでは何かが足りない。
「わたくしも神格を封印して、美香さんと接触をどうしましょう?」
「あたしは、徐々に距離を縮めていきたいわね。」
 と、学校内の印象としては、二人の影は薄くない。しかし、問題児でもない。特に弟の紀嗣は、すぐに接触を図れそうな好印象だ。しかし、やはり此処は誰かに仲介が必要だろう。
 かたくなな美香をどうするかを考え始めた。
「紀嗣君には、すぐにあえそうよね?」
「でも、義明さんの話だと、あまり一人で居ないようですし。」
「タイミングよねぇ。」
 考え込む二人であった。
 校舎の窓から、写真で見た少年、紀嗣が数人の学友とバスケで遊んでいる。
 綺麗なドリブルで、相手をかわし、豪快なダンクを決めていた。ギャラリーからも歓声が上がる。
「義明さんも昔はああいう風に遊んでいたかったのかも。」
「そうかもね……。」
 なにか、引っかかる。そんな気分にさせた。


〈学外〉
 神聖都校門前では大げさなほどではないが、人だかりが出来ていた。
「で、御柳さんはもてるのですね。」
 刃が紅麗に言った。
「いや、そうでもないはずなんだけど……。あいつらにみられちゃ、困る、つうか。」
 紅麗は苦笑する。苦笑の奥には恐怖もあるようだ。
 校門まで二人が行くと、すぐに、女の子達に声をかけられる紅麗。それに唖然とする、刃であった。それも、何というか計算ミスというのか。予想しろという範囲だったかもしれないが。天空剣道場の門下生がこの学園にもいる可能性もある、と考えるべきだった紅麗のミスだえる。決して刃のミスではない。
「御柳さん! 織田先生はいないっすよ!?」
「紅麗さんだ! ね、ね! 言ったとおり格好いいでしょ?」
「わー! ホント! イケてる!」
 これが幸いなのか、色々情報が聞けそうだと、二人は思った。
「えっと、此処でたむろしていたら他の人に邪魔になることで、場所変えて話聞きたいんだけど良いかな?」
「いいよー。おいしい店あるんです〜。」
 刃も引っ張られる。
「いや、お、俺は。」
(ここは、彼らのペースで!)
 紅麗が刃にささやく。
 二人は、この女の子の群に囲まれながらも、しっかり、見ていた。今回の依頼の、目標であった鳳凰院美香の姿を。 なびかせる漆黒の髪が印象的だった。

 店では、賑やかになる。男女比率は6:4ほど。女性が多い。女性が好むような、可愛いケーキの喫茶店だった。そこかしこに、下校中に立ち寄った学生が見える。
「で、こういう事があって可愛いったら!」
「ほう。」
 とりとめのない会話をしながらも、神聖都の学園でのはやり、そして鳳凰院の姉弟が、興味を持っていそうな話を探ろうと必死に聞き逃さない様つとめた。
「あんたが有名人で良かった。」
 刃は、紅麗に率直な感想を述べる。
「それが良い意味での有名人なら良いけどな。」
 しかし、紅麗は苦笑する。
「あ、そうそう、一寸聞きたいけど。」
 紅麗が、しきり始める。
「はい?」
「鳳凰院姉弟ってどんなん?」
 その言葉で皆が凍り付いた。
 二人はしまったと思った。
 しかし、凍り付いた雰囲気なのだが、彼女や彼たちの固まった表情から嫌悪感はない。どう言って良い物か悩んでいる表情だ。しかし、天空剣門下生の1名が、何かを感じたのだろうか(実は彼も能力者だが隠している)、
「おまえ、あいつと良くつるむじゃん。そそ、紅麗さん達は、あいつらのこと知りたいんですよね?」
 と、隣の友人に話を促す。
 この凍り付いた間が無くなり、また元に戻った。
「あ、ああ。弟の紀嗣は明るく、楽しくおもしろい奴だよ。運動はぴかいちだね。」
「あ、そうそう、紀嗣くんは料理うまいんだよ。前に摘み食いして、怒られたけど。」
 女性との一人が言うと、
「な、なにぃ!?」
 友達全員が驚き立ち上がる。
 さすがに、刃も紅麗も引いた。
 料理がうまい男子っていうのは、今の時代あるものだ。ただ、集まった男女が、そこまで驚くことがおかしい。
「この〜抜け駆けはだめじゃない!」
「家庭科の授業に潜り込んで作ってた!」
「まじかよ」
 紅麗も刃も唖然とする。
「そんなに美味いのか? 紀嗣君の料理って?」
 刃が尋ねると。
「うちのクラスの三つ星シェフって言われてます。大げさだけど。」
 と、即答。
「まあ、あいつなんでか、クラブ入りたくないっていうんだ。縦関係が嫌とかで。」
「あぁ、俺は其れ分かるわ。」
 別の男子の言葉に紅麗は納得する。自分も(故郷の)縦関係で動いているので、そのつらさが分かるという感じだ。
「家庭科クラブに入れば、料理大会優勝も間違いないのに。」
 紀嗣の話で盛り上がり始める。
「じゃあ、姉さんの方は?」
 と、尋ねるととたんに沈黙する。
「ごめんなさい。彼女と関わったこと無いから、よく分からないです。」
 皆沈んでいた。
「近寄りがたいというのがあります。」
「ただ、静かなやつだと。暗黙の了解で、ごく普通に彼女に用事がある場合等しか、会話しないから。あまり親しくしないことが、うちらのクラスの決まりみたいに。あ、決していじめではないですよ?」
「向こうとの合意か?」
「ええ。……たぶん、そんな感じ。一度は他の女子グループといざこざがあったみたいだけど、彼女と紀嗣君が事を収めたみたいです。大事にならないぐらいで。人付き合いをしたく無いという理解を得たかったみたいですね。」
 何故なんだろうと、言う、哀しい気持ちが分かってきた。
「いや、いい話を聞いたよ。」
 刃が微笑んで答えた。
 場が暗くなるところだが、もう一人の門下生が、携帯電話を取りだした。
「あ、そだ、メアド交換してください! 刃さん」
 と、皆にもそうするように引っ張っていく。
 姉弟の関係などは何となく分かった。
 あとは、彼らが飽きるまでつきあうことにしようと、紅麗と刃は思う。しかし、其れも小1時間で解放されるので、さほど気にすることでもなかった。
「さて、気になったことを伝えに帰りますか?」
「そうしようか。」
 二人はこの話で分かったことは、
 ――美香は、人を避けている。その理由は自分の力にある。
 ということだ。
 刃は、ふと振り返ると、先ほどいた店の前でたたずむ、美香の姿が見えた。しかし、其れは儚くて、一寸した風でも消えてしまいそうな、か弱い炎に見えたのであった。
 ――今は接触しない方が良いか……。
「どうした?」
「なんでもない。」
 二人は歩きだした。


〈神秘家系〉
 出かける前に御影蓮也は影斬にこういった。
「最終的に、双子の二人の意思を尊重することでいいか?」
「そのほうが、良い。それで私に会わないと言うなれば、別の形で会う機会を得るだけになる。」
「戦い?」
 蓮也はその言葉を出したくはなかった。
「いや、予想もしない形で……と言うことだけだ。明確なことは私も分からない。」
 影斬、あっさり否定する。
「ふむ。出来れば意思を尊重しつつも、私たちが接触に成功する方が良いと。」
 刀夜が、言うと、影斬は頷いた。
 つまり、蓮也も影斬と初対面の刀夜も、彼が意図しているところが何か何となく分かってきた。
「任せろ。」
 蓮也は影斬の肩を叩いて、去っていく。

「とは言っても、私は家から勘当されているんですよね。」
 刀夜はため息をつくも、
「なら、俺が手はずしましょう。」
「御影から直接鳳凰院家に? それだと、草間さんの取り分が無くなります。」
「あ、一応俺が頭首代行って事で行きますよ。まあ、事務手続きは親父達に頼むことになるんだけど。」
「ずるいですねー。」
「まあ、使うときはほどよく使う程度でいいんです。」
 と、話は付いたようである。
 場所は興信所ではなく、蓮也の家にて情報を集める。
 しかし、二人とも鳳凰院家について名前だけを知っている程度である。その前に家の状態を調べることにした。
「鳳凰院家は、火に関する神や精霊をまつる一族のようですね。」
「特に朱雀や、鳳凰、似て非なるものだと考えて良いでしょう。名前が示すとおりだ。」
 つまり、火を神の1柱を据えていると言うこと。
 あと、やはり後継者が双子故、継承に困っていること。家としての事情が単純だが難しい状態にさせている。親子関係は分からないが、退魔関係の仕事では、火を鎮める、火に関する業に火をもって解く、治癒か破壊を司っているようだ。
「属性は“物事の循環・変化の一角”。そう感じません?」
「そうですね。ごく普通の神秘一族ですね。」
 不死鳥は灰になってから再生する。
 それが一つとなって初めて、成る。
 しかし、双子として別れてしまった。
 破壊と再生。
 弟の紀嗣が破壊、姉の美香が再生。
 紀嗣は何かの事件がきっかっけで、その力を使いたくないといい、退魔業から退いている。美香はいまでも治癒に対し巫女として仕事をするというのだ。
「アポを取るのは、もう少し待ちましょう。」
「どうしてですか?」
 刀夜の言葉で、蓮也は目を丸くする。
 調べた結果である。
「確かに私たちは家を調べた。しかし、今回来るのは美香さんだけという可能性が高い。」
「……なるほど。草間さんと義明の依頼は、“二人”だものな。」
「もう少し違う方向があれば、何か妙案が出るでしょう。」
「ですね。手前で止めておきます。」
 そう言う話に落ち着き、二人は一度興信所に戻ることにする。



〈数日後〉
 家の調べや、姉弟についての話をまとめるには2週間近くかかった。
「まとめた結果だが。学校内でやんわりと接触を図る方が良い。と、思うんだが。」
 草間が言う。
「退魔業だと、結局大がかりになるし、意味合いが置き換わってしまう可能性、紀嗣が来ない可能性で却下だな。それと、一番重要なのが興信所の取り分が無くなる。影斬も上乗せといってもまだ若いからそうたくさん出せないだろう」
 仕事なので可能な範囲で仕事をする。依頼料も重要な要素である
「そこ、問題……よね。」
 そのへん、財務担当のシュラインは否定できない。
「短い期間で、これだけ揃ったのは良い感じです。ありがとうございます。」
 影斬が礼を言う。
「あたし達が如何に好印象を与えるか、だけよね?」
「私もがんばります。」
 シュラインと撫子が気合いを込めていった。
「俺たちも、どう接触するかを色々考えないと。」
「あ、おれは遠くで見てます。場所の提供ぐらいはできるかも。」
 刃は言う。
「ふむ。」
「先日、帰りに、美香さんが人気のある店にただ立っていたんです。ほら、紅麗さんと学生と一緒に行った喫茶店。」
 刃が言うと、紅麗が、
「え? 俺は彼女を見てないぞ?」
 紅麗は驚く。
「ああ、最初は気のせいかなと、思ったんですが、気のせいではなかったんです。俺がもう一度、あそこにいたらまた居たので。」
「ふむ。その店は使えるか。」
 その店の評判と内容を調べると、二人きりなどで行くと噂になるようなところでもないが、一寸抵抗を感じるだろう。
「男子じゃあ、むりよね。」
 別々に接触を図って、話を聞く方が良いという感じになった。
 シュラインに電話がかかる。
「あ、はい。カスミ先生? こんにちは。ええ、あ、そうなんですか。」
 カスミの段取りで、双子が揃う為にわざわざ特別講習をもうけてくれたようだ。二人の二重奏での発表会が近々あるというのだ。クラブに入っては居ないが、別の発表会のための口実らしい。
「出逢う場所は、神聖都の音楽室よ。時間は17時。行く人はその準備よろしくね。」
 と、シュラインは言う。
「シュラインさん、撫子さん、ナイスです。」
 紅麗は親指を立てた。


〈本当の偶然〉
 撫子は、最初は作為的接触を試みようとは思った。しかし、それは何かずるい気がしたので口に出さなかった。
 しかし、商店街で一人の子供が怪我をして泣いている所を見かける。周りは無関心にすぎていく。
「これは大変。」
 急いで駆けつけてあやそうと思うが先に、横道から、美香が駆けつけて、泣いている子供をあやし始めた。
「どうしたの? 足痛いのね?」
 彼女の声は穏やかで、優しかった。
 子供は泣きやまない。
「迷子になったのかな? こまったわ。」
「どうしたの、姉ちゃん。あ、子供。」
「迷子みたい。」
「……探そう。」
「う、の……紀嗣、捜すのは……頼んだ。私はこの子……見てるから。」
「分かった。」
 紀嗣は、周りを見渡して、母親が居ないかそれともPTAが居ないかを探していた。時には声をかける。
 撫子は自然に、美香のところによる。
「お困りでしたら、手伝います。美香さん。」
 そう、美香に言った。
「……っ!」
 少し抵抗を感じたみたいだが、
「あ、あなたは……? は、はい。お願いします。」
 美香は頷く。
 撫子は紅麗とシュラインを携帯で呼び、迷子の子供の親探しを開始した。
 数が増えれば、母親がすぐに見つかった。
「どうもありがとうございます。」
「ありがとう、お姉ちゃん!」
 と、子供は笑顔で親と去っていった。
 其れを見守る、
「あの、何故私のことご存じで?」
 美香は撫子に尋ねた。
「前に一度だけお会いしたことがありますので。」
「すみません。私は覚えていません。」
 と、首を振った。
「そうですか。」
 すこし、心が沈む。
「済みません。手伝って頂いたのに。失礼なことを言って。」
 と、美香が謝った。
「ちょっと、立ち話もなんだから、休憩良いかしら?」
 シュラインが割り込むと、
「え……?」
 美香はその言葉に、戸惑いを感じた。
「いえ、わたしは、もう失礼します。本当にありがとうございました。」
 きびすを返し、少し鋭利な口調に変わる。
「姉ちゃん!」
 その場所を逃げるようにして、去ろうとする美香を止めるのは紀嗣だった。
「手伝ってくれた人に背を向けるのは良くないよ。」
「……。」
「優しいわね。二人とも。」
 シュラインは、微笑む。
 紀嗣は素直に照れるが、美香の方はうつむいているのでその表情が読みとれない。
「では、どこでお話ししましょうか? お姉さん達……と、あんた。」
 紀嗣は、シュラインと撫子に言う。
「あんたって、俺?」
 紅麗は自分を指さす。
「うーん、同い年ぽいし。たしか、有名じゃない?」
「あー、まー、なー。」
 遠くの方を見る紅麗だった。どっちで有名かは気になる。しかし、聞かないことにした。
 美香が気になっていた喫茶店で、少し話をする。美香はただ居づらそうにしていたが、紀嗣が、色々話して、相槌を打つぐらいは出来ていた。
(人見知りが激しいのかしら? それとも、怖がっている?)
 それでも、シュラインはケーキの話とか、自然に、美香に話しかけていく、撫子も話しかけて。
「はい、おいしいです。私は……此処でのケーキを食べて……みたかった。」
 と、答えた。
 その言葉に刺はなく、素直な気持ちの表れだと、シュラインと撫子は感じ取った。
 紅麗は、あまり近くに寄ることはしなかった。

 ここで、アイサインのような会議が行われていた。
(ここでは、織田君の話は控えた方が良いわね。)
(私もそう思います。)
(このまま言うと、紀嗣が逆に警戒しそうだ。俺の命が危ない。)
(どうして?)
(どうすてでしょうか? 紅麗様?)
(じゃ、普通に会話にしましょう。)
 と、結論付いた。
 紅麗はこの姉弟と別れた後にこう語るのだ。
「紀嗣、俺をにらんでやがった。『姉ちゃんを盗る虫か。もしそうなら……潰す。』……みたいに。」

 今回の偶然に、姉弟の電話番号だけは手に入り、又今度で会う約束だけは取り付ける。今度お礼がしたいと、紀嗣が言うからだ。美香は「わ、わたしは……教えても出ない。私は電話が……苦手だ。」とかたくなに拒んでいたが、結局弟に負けたようである。


「偶然か。」
 草間は驚いている。
「まあ、下地があったから、何とか行けたみたいですね。」
 連絡を受けた草間の答えに、待機していた刃が言った。
「影斬様は?」
「ああ、なにか、闇を“視た”から“斬り”に行った。あいつも忙しい。」
「……芳しくない闇のみを斬る人ですよね?」
「ああ、しっかりバランスは考えている。それと、あいつの口からでるだろうけど。」
 草間は、コーヒーをすすってから、
「別に様って付けるほど、あいつは、それほど“神様”はしていない。信奉者も皆無だろう。あ、門下生が仮にとはいえ、そうなるのか……。うむ。あいつの本当の仕事、つまり、退魔関係以外では、普通の人間でいてるから。」
「……そうですか。」
 確かに、昔からの友人らしき人からは、神様扱いという感じではなかった。
 門下生は親しみのある年上か、剣の師匠のようだったが……。熱狂的に信奉している感じではなかった。 刃は、双子のこともさることながら、影斬に対してどう接すればいいか悩むのであった。

 道は開けた。
 如何に、俺たちが、影斬をあの二人に会わせ、そのフォローをするかだ。
 と、それぞれがそれぞれの場所で、思った。


【状況捜査・後編】へつづく

■登場人物紹介■
【0086 シュライン・エマ 26 女 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【0328 天薙・撫子 18 女 大学生・巫女・天位覚醒者】
【1703 御柳・紅麗 16 男 死神】
【2276 御影・蓮也 18 男 大学生 概念操者】
【3860 水滝・刃 18 男 高校生/陰陽師】
【6465 静修院・刀夜 25 元退魔師。現在何でも屋】

 NPC
【草間・武彦 探偵 30 探偵】
【影斬(織田・義明)? 男 剣士/学生/装填抑止】
【鳳凰院・紀嗣 16 男 神聖都学園高等部】
【鳳凰院・美香 16 女 神聖都学園高等部】
【影沼・ヒミコ 17 女 神聖都学園生徒】
【響・カスミ 27 女 音楽教師】


■ライター通信
 どうも、こんにちは。
 滝照直樹です。
 このたびは『神の剣 双子の宿命【状況捜査・前編】』に参加して頂き、ありがとうございます。
 色々な鳳凰院姉弟を調べて、どう言った感想でしょうか?
 色々問題や障害を後編で解決していきたいと思います。上手に、影斬に姉弟を会わせるかが、鍵です。

 水滝・刃さま、静修院・刀夜さま、初参加まことにありがとうございます。

 では、また後編にお会いしましょう。

滝照直樹
20070918