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<東京怪談・PCゲームノベル>


【D・A・N 〜ミッドナイト・ティータイム〜】


 月夜の散歩に出た樋口真帆は、その途中でとある人物と再会した。
 月明かりに映える白銀の髪に、宝玉のような血色の瞳。
 『ナギ』と名乗った、ビスクドールのような少女だった。
 彼女は真帆に気づくと、一度ゆっくりと瞬きし、それからぴょこんと頭を下げた。
「こんばんは、樋口さん」
「こんばんは」
 挨拶を交わす。はにかんだように笑うナギは大変に可愛い。
「お散歩ですか?」
「そうです。月夜にはよく散歩するんですよ」
 問われて頷く。ナギは何かを思案するように少し首をかしげ、それから再び口を開いた。
「でしたら、これからちょっとお茶とかどうでしょうか。樋口さんは夜の眷属のようですから大丈夫ですよね?」
 『夜の眷属』――とは夢魔の血を引くからだろうか。否定はしないが…どうして分かったのだろう。
 ライルが教えていないのに名前を知っていたことといい、彼らには不思議なところがある。
 それはともかく、『お茶』。
 ナギとお茶をするのはいい。むしろ大歓迎だ。
 しかし。
「この時間じゃ、開いてるお店はないんじゃないかなー…」
 半ば無意識に呟く。瞬間ナギは「そういえば!」とでも言うような顔をして、「うええ、ええっと、その、あの……」と手をパタパタさせながら意味を成さない言葉を発している。
 そんな彼女にちょっと噴き出しそうになりながら、真帆は代替案を出してみた。
「だったら、私の家に来ます? 私の入れたお茶で良ければ、ですけど。一応、紅茶にはちょっと自信があるんですよ」
 軽く上目遣い気味で誘えば、ナギは「喜んで…!」と大きく頷いたのだった。

  ◆

 真帆の家は極々普通の一戸建て住宅だ。もちろん家族と同居している。
 極々普通とは言うが、ウッドデッキなどあったりもするのでややカントリー調と言えるだろう。
 「夜分遅くに大丈夫ですか?」と少々不安げだったナギには大丈夫だと太鼓判を押し、せっかく月も綺麗なので、庭で月夜のお茶会と洒落込むことにした。
「アッサムティーにしてみました。クセがないので飲みやすいですし…」
「ありがとうございます、樋口さん。アッサム好きなので嬉しいです! 樋口さんは紅茶にお詳しいんですか?」
 湯気の立つティーカップを差し出しながら言う。ナギは礼を言った後、訊ねてきた。
「まあ、普通の人よりは確実に詳しいと思いますけど……ハーブティーとかも詳しい方ですよ。ナギさんはどうですか?」
「ハーブティーよりは紅茶の方に造詣が深いと思います。でもたぶん基本的な感じのことしか分からないと…。ライルは紅茶に関して何かこだわりがあるらしかったですけれど、わたしはライルが淹れてくれるのを飲むばっかりでしたから」
 えへへ、と笑うナギ。彼女の言葉で真帆はある事を思い出した。
「そうでした、ライルさんと言えば、どうして私の名前を知っていらっしゃったのかナギさんは分かりますか? 言ってないはずなんですけど…」
 言えば、ナギはちょこんと首をかしげて考え込んだ。
「ライルが教えてないはずの名前を知っていた、ですか…。ええと、名前を言われる前に、身体が触れたとかありましたか?」
 何故そんなことを問うのだろう、と思いながら真帆は答える。
「いえ、ありませんでしたけど」
「じゃあ、何か樋口さんに『繋がる』もの――というのは分かり辛いでしょうか、その、思い入れのあるものとか、以前に身近に置いたことのあるものとか、そういうものをライルが手にしたりとかは?」
 ライルとのやりとりを思い返してみる。その中で自分と関わりのあるものに触れていたか、と言えば――。
「以前借りたことのある本を取ってもらったんですけど…それが何か関係あるんですか?」
 真帆の問いにナギは頷く。
「たぶん、それから『辿った』んだと思います。その、ライルの能力っていうのが、『辿る』能力で…人や物の記憶などを辿ったりできるんです。普段はあんまり使わないようにしてるはずなんですけど…よっぽど樋口さんが気に入ったんですね」
「? 気に入った、って…」
「気を惹きたかったんだろうなってことです。ああ見えて、結構子供っぽいんですよ」
 そう言って、ナギは微笑む。けれどその瞳はどこか悲しげに見えた。
 しかしその瞳の色はすぐに消え、そのことについて触れさせないタイミングでナギは真帆に問いかける。
「あ、そうです。ちょっと気になってたのですけれど、樋口さんはどんなお力を持ってらっしゃるんですか? わたしもライルも能力者は何となく判別できるんですけど、その能力までは分からないんです。もしかしたらライルは『辿った』ときに知ったかもしれないんですけど…。よろしければ教えていただけますか?」
 垣間見えた憂いについて訊ねようかと思った真帆だったが、タイミングを逃してしまったために促されるまま質問に答えることにした。またこれから訪ねる機会もあるだろう、と思ってのことだ。
「私の能力、ですね。えっと、私の家系は『夢見の魔女』と呼ばれていて、夢や幻を紡ぐことができるんです。私はまだ見習いなんですけど。それと、精霊術の基礎くらいなら使えます」
「そうなんですか〜。なんかいいですねぇ、『夢見の魔女』って名前。それと、能力も。使い方にもよるでしょうけど、面白そうです。…あ、私だけが聞くのはちょっとフェアじゃないですね。樋口さんは何か質問とかあります? 答えられる範囲なら答えますけれど…」
 問われて、真帆は考える。ナギに質問――というか単純に知りたいことは結構ある。とりあえず、先日は突き詰めて質問できなかったことを訊いてみるべきだろうか。
「この間会った時には訊かなかったですけど、ナギさんとライルさんってどんな関係なんですか? さっきの話からすると、もともとそういう…体質?じゃなかったみたいですけど」
 ナギがライルの淹れた紅茶を飲むことがあったということは、身体が別々であった可能性が高い。
 問いを受けたナギは困ったように眉根を寄せた。
「関係、となると…そう、ですね。今は昼と夜とで身体を共有する――この言い方が正しいのかはちょっと分からないんですけれど――そういう関係ですが、そうなる前は、兄妹のようなものでしたね。うちの一族はライルの一族と対になっていて、その関係でわたしはライルといつも一緒に居たので…」
「そうなんですか……」
 今のような関係になったきっかけに触れないところからするとあまり聞かれたくないことなのだろうと思った真帆は、話題を変えることにした。
「あ、じゃあライルさんはナギさんの兄のような存在ってことですよね。何歳くらい離れてるんですか?」
「ええと、7歳差です」
「結構離れているんですね。ナギさんっておいくつですか?」
 その真帆の問いに、何故かナギはへにょっと眉尻を下げた。
「え、と。……秘密、じゃ駄目ですか?」
 上目遣いで訊ねられて、思わず真帆は頷いた。
「いえ、秘密でもいいですけど…」
 そんなに答えづらい質問だっただろうか。自分よりも少し年下に見える程度の女性が年齢を気にするとも思えないが――。
「ところで、樋口さんって先日も今日も可愛らしい服を着てらっしゃいますよね。そういう服、わたし結構好きなんですけれど、オススメのお店とかってありますか? 出来れば教えていただきたいなぁ…とか、思ったりしちゃったりするんですけれど…」
 返答について突き詰めて考える前に、ナギが問いを投げてきた。しかも照れくさそうにちょっと頬を染めつつ。
 照れ隠しなのか、俯き気味に髪をちょこちょこと弄っているのが可愛い。
「オススメの服屋さんはありますけど――」
 そこまで言って、ちょっと真帆は考えた。そして再び口を開く。期待の目で見てくるナギに微笑む。
「どうせなら、一緒に行きません?」
 するとナギは目をぱちくりさせたあと、どこか恐る恐ると言った体で真帆に訊ねた。
「それって、一緒にお買い物ってこと、ですか?」
「そうですよ?」
 頷けば、ナギはうろうろと視線をさまよわせて何か言いたげに口をパクパクさせた。
 挙動不審なその様子に疑問符を浮かべる真帆。
「…どうしたんですか?」
「えっと、その、実は、わたし……誰かとお買い物、とかしたことないんです。だから、なんというか、その、驚いちゃったというか、嬉しかったというか」
 ちょっとつっかえつつ言うナギはもう、なんというか犯罪的に可愛かった。
 かわいいなぁと思いつつ、真帆は再び言う。今度は、確認の意味を込めて。
「一緒にお買い物、行きましょうね」
「……はいっ!」
 そして、ナギは嬉しそうに――幸せそうに笑ったのだった。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【6458/樋口・真帆(ひぐち・まほ)/女性/17歳/高校生/見習い魔女】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、樋口さま。ライターの遊月です。
 「D・A・N 〜ミッドナイト・ティータイム〜」にご参加下さり有難うございました。

 ナギとのお茶の時間、如何でしたでしょうか。
 『女の子同士な感じでほのぼのわいわい』……になってますでしょうか…。
 なんか『わいわい』ではない気がしますが、ナギ自体わいわいやるタイプじゃないので仕方ないかなーと思います。
 でもナギにしては結構浮かれ気味かもです。この後連絡が取れるようにメアドなんか教え合いっこしてたら可愛いなぁ、とか。
 
 ご満足いただける作品に仕上がっているとよいのですが…。
 リテイクその他はご遠慮なく。
 それでは、本当にありがとうございました。