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<東京怪談ウェブゲーム あやかし荘>


全知無能! その名は―
 あやかし荘管理人、因幡 恵美(いなば めぐみ)は奇奇怪怪な悩みを抱えていた。あやかし荘に住みついた座敷童、嬉璃(きり)によって恵美の男性付き合いのことごとくを邪魔されていたのだ。恵美の苦情を一切聞き入れない嬉璃。困り果てた恵美の元に、あの伝説の男が高笑いとともにやってくる。

 ○

 日は暮れ、短針は既に十六時を指していた。恵美は縁側から夕暮れを遠い目で眺めていた。
 手元には彼と恵美が笑顔で写った写真。
「どうしたらいいの……」
 夕日に黒いシルエットがやんわりと照らし出される。最初は気にも留めなかったのだが、そのシルエットは次第に姿を留めはじめ恵美の視界に入り込んでくる。
 少し嫌な予感がする。
 根拠はない、だから予感としか言えないけど。
「そろそろ、部屋に戻ろうかな」
 恵美は、縁側から立ち上がり木戸の取っ手に手をかけると。
「お嬢さん、何かお困りかね?」
「ひっ!」
 背後から聞こえるニヒルな問いかけに、恵美は思わず悲鳴をあげた。にやりと笑みを浮かべる目の前の中年男性。
「ぎ……、偽神 天明(ぎしん・てんめい)……さん」
 驚きのせいで息も絶え絶えに吐き出される名前、天明は左様と答えると天に向かって大笑いをあげた。
「うわーっはっはっは! 久しいではないか! ん? 因幡 恵美! 私に会いたかったのだろう!?」
 恵美の顔がひきつろうとも、天明の自信に揺るぎはない。
「勝手に現れて、勝手な事言わないで下さい!」
「ぐわ〜っははは! そう照れずとも良いわ! 人間素直が一番だというものだ!」
 町内に響き渡るだろう大笑いが鳴り響く。恵美はほとほと困り果てて、天明の笑いが止むのを待つことにした。
「して、お困りとは痴情のもつれかな?」
 天明は恵美が持っていたはずのツーショット写真をひらひらと見せびらかす。
「いつの間に!」
 慌てて写真を奪い取ると。恵美は天明をぎろりと睨んだ。
「天明さん、やっていいことと悪い事があります」
「ふむ、ならば良い事をしてみせようではないか」
 しかめっ面をする恵美。
「頭が回らないようだなワトソン。君の為にキューピッドになってみせようと言うのだよ」
 天明の言葉に顔を真っ赤にして首を振る。
「バ! バカな事を言わないで下さい。ただでさえ困っているのに、天明さんになんて絶対に無理です!」
 完全否定にも笑みを絶やさない天明。
「ほう、絶対と来たか」
「ええ!」
 二人の視線が交錯する。
「そんな言い訳が己に通る貴殿が羨ましい。せいぜい感傷に浸りたまえ!」
 かちんと来たのだろう、恵美の眉がくねりにくねる。
「言ってみたまえ。私の辞書には、不可解があっても不可能はない」
 恵美は感情をぶちまける様に、あったこと全てを天明に話した。天明は時折、親指を下顎を指して思案している仕草で聞き入っていた。

 ○

「以上、これが全部です」
 恵美の仕切り文句にも微動だにしない天明。
「偽神さん?」
 数分して。
「だぁ〜っはははは! これで万事解決だ! おめでとう! ワトソン君」
 爆発したように、大口をあける。つられて、ぽかんと大口を開ける恵美。
「安心し給え! 私のアドバイスを習えば君の人生はバラ色だ」
「そんな事言って……」
 あとの言葉を言い放とうとして恵美は口を噤んだ。何故か天明の漲る根拠ない自信にかけてみたくなったのだ。このまま諦めても成就しない恋なら、あがいてみせよう。
 普通なら前向きな姿勢に皆が賛同するのだが……。
「天明さん、アドバイスとは?」
「いいか、よく聞くのだぞ! 君の運命の相手は―」
 既に話のベクトルが間違っていないかと、首を傾げる。
「ずばり、アトラス編集部万年下っ端、三下君だよ!」
「はぁ!?」
 素っ頓狂な声を無視して続ける。
「そう、何故なら君の傍にいる座敷わらしは運勢を操る能力を思うがままに操っている。しかぁ〜し! 最初から運勢のどん底を疾走している男ならば問題はない! むしろ、操作ミスで向上する事がある位であろう」
 天明は大げさにトレンチコートを翻し。
「即ぁ〜ち! この天明! 三下を君の生涯の伴侶として迎えることを提案する!」
「そんな冗談よしてください!」
「うむ、冗談はここまでにしてだな」
 急な切り返しに思わずこけそうになる恵美。天明は恵美の額に指さして言った。
「同居人として問題があるのなら、君が部屋を移れ。いや、座敷わらしの干渉を受けない所に引っ越し給え。座敷わらしとて自縛霊の一種。追いかけてくることもあるまい」
「で、でも私は管理人として……」
 ためらいがちな恵美の額に指をずずいと近づける。
「通いながら勤めれば良いだけだ」
―確かにそう……だけど。
 言葉にならない。
「違うかね?」
 恵美はどうにも吹っ切れない。
「思考の荒波に揉まれれば平衡感覚を失う事もあるだろう。落ち着いた頃にもう一度聞きにも来よう。今日は失礼する」
 コートを再び翻し、門扉へと向かう天明。 ブロック塀に立っているのは問題の中核、座敷わらしの嬉璃。何かを内に秘めている感じが伝わってくる。秘めたるは今にも噴き出してきそうで、先ほどの嫌な予感の比ではない。
「おい、何を恵美に吹き込んでおる」
「座敷わらしか、お前さんの嫌がらせもこれまでだ」
 嬉璃の目が紫に光る。
「お! おぉぉぉぉぉ!」
 天明の体が浮き上がり、あしをじたばたともがく。
「ぐわ〜っははは! その様なたぶらかしに屈する私ではないわぁ!」
「なら、消えてくりゃれ」
 嬉璃が人差し指をこきりと曲げると、天明が急加速。上空彼方、夕陽へと消えていく。飛びながらも高笑いが聞こえる。三下、三下はいいぞぉ! と木霊となってあやかし荘へ届いてくる。
「ホント、冗談か真剣か掴めない方ね」
「恵美……」
 恵美は見下ろすと、気落ちした嬉璃が指をくわえている。
「ここを出ていくのかえ?」
 くすりと笑う恵美、ここで悪い冗談を吹きかけるのは、それこそしてはいけない。
「行きません」
 嬉璃の表情が一瞬で華やぐ。
「本当か!」
「でも、少しは私のお願いも聞いてね」
「しょ、しょうがない。少しだけじゃぞ」
 恵美は頷くと木戸を開けて、嬉璃と部屋へと入って行った。

 ○

「ぐわ〜っははは! 偽神 天明に解けない事件はないのだぁぁぁぁぁ!」
 木につるされ、何処ともつかない場所で天明の高笑いが木霊する。犬に吠えられても、警官に職務質問されても偽神 天明は偽神 天明! 不変・不偏・普遍の代名詞なのだ。
 全知無能の神、偽神 天明が君の前に訪れる日は近い。


                        【了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【五九七二 / 偽神・天明 / 男性 / 三十二歳 / 名探偵(自称)】


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■         ライター通信          ■
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 初めまして! 吉崎 智宏と言います。
 偽神 天明のキャラにずっと笑いながら執筆していました。全知無能のフレーズはありがたく使わせて頂きました。これからも各機会があればいいなと願っています。
 では、またお会いできる日をお待ちしてます。ではでは〜!