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<東京怪談ウェブゲーム 神聖都学園>


文化祭でライブ!

【プロローグ】
 それは、神聖都学園高等部の文化祭開催、一週間前のことだった。
 響カスミは、かかって来た電話の内容に、思わず目を剥く。
「ち、ちょっと待って下さい。文化祭は一週間後なんですよ? なのに今更、来られないって、そんな……!」
 だが、彼女の抗議など相手は聞く耳も持たない様子だ。勝手な言い分だけを告げて、一方的に切れてしまう。カスミは受話器を握りしめ、大きな溜息をついた。
「どしたの? そんな大きな溜息ついて」
 それへ声をかけて来たのは、たまたまカスミに用があって職員室に来ていたSHIZUKUだった。
「どうしたもこうしたもないわよ。来週の文化祭で演奏してもらうために呼んであった、コーカサスが突然、予定をキャンセルして来たのよ」
 カスミは受話器をデスクの上の電話に戻しながら、片手で額を押さえて答える。
 コーカサスは、最近プロデビューしたばかりのロックバンドだった。インディーズ時代から十代の若者たちの間での人気が高く、文化祭へ呼んでほしいアーティストのナンバーワンに輝き、カスミが事務所やマネージャーらと交渉した結果、三日間の文化祭開催期間の間、一日だけの二時間ライブが決定していたのだった。当然ながら、生徒たちは誰もが楽しみにしていたはずである。
 それがいきなりキャンセルされてしまったのだ。カスミが途方にくれるのも当然だった。
 事情を聞いて、SHIZUKUも溜息をつく。
「それは困ったよね。キャンセルされたって聞いたら、みんながっかりするだろうし」
「それもそうだけど……ライブ開催予定だった二時間の穴をどうするかも問題よ。パンフレットだってもう刷り上ってるし、体育館の使用日程もきっちり組まれてるのに、今から変更なんて利かないじゃないのよ」
 カスミの心配は、生徒たちの動揺よりもそちらの方らしい。
 SHIZUKUは幾分呆れたように肩をすくめた後、少し考え、言った。
「なら、響ちゃんがバンドを組んで演奏しちゃえばどうかな」
「はあ?」
 唐突な彼女の提案に、カスミは一瞬間抜けな声を上げる。それへSHIZUKUは続けた。
「ボーカルはあたしがやってもいいけど、他の楽器は募集をかけなきゃだめだよね。響ちゃんは、楽器はなんでもできるよね? ……とにかく、本番まで一週間しかないんだから、早く人を集めて、楽器と曲を決めて練習とかもしなきゃね。人集めは任せて! あたしが声かけたら、すぐに必要な頭数がそろうから」
「え、ええ……」
 いつの間にそんな話になったのだろうかと呆然としつつ、カスミはうなずく。
 こうして彼女――響カスミとSHIZUKUは、一週間後の文化祭でライブをやることになったのだった。

【まずは準備が肝心】
 翌日の放課後。
 藤田あやこは、神聖都学園高等部の校舎の一画にある音楽室に顔を出していた。SHIZUKUの呼びかけに興味を持ち、生徒ではないが名乗りを上げたのである。
 対してSHIZUKUとカスミは彼女を歓迎した。
 というのも、SHIZUKUの呼びかけに応じた者たちも、事情を知ると協力をしぶったせいで、結局人が集まらなかったからなのだ。もっともそれは無理もないかもしれないが。
 なにしろすでに文化祭のプログラムは刷り上っていて、今更変更は利かない。つまり、大半の生徒たちには当日までコーカサスの出演が取りやめになったことは知らされないままなのだ。これはどう考えても、代わりに演奏する彼女たちが針の筵状態になるに違いない。たとえその演奏がどれほど上手かったところで、「コーカサスではない」ことに変わりはないのだから。
 だがあやこは、あまりそのあたりは深く考えていなかった。単純に面白そうだし、SHIZUKUが困っているなら協力しよう、ぐらいの気持ちでしかない。
 ともあれ、まずは互いの顔合わせとミーティングを兼ねて、今日こうして放課後の音楽室に集まることになったのである。
「私、ジャズ喫茶でバイトしたことがあるから、歌はばっちりよ」
 誰が何を担当するかという話になったので、あやこは言った。
「私は、楽器ならだいたいなんでもできるわ。SHIZUKUさんは?」
「う〜ん。あたしは、キーボードぐらいならなんとかなるかな。ドラマとかバラエティー番組とかで、何回かやらされたことがあるから」
 カスミに問われて、SHIZUKUが答える。
「そういえば、曲はどんなのをやるの? 三人なんだし、それを決めてから担当を決めてもいい気がするけれど」
 ふと気づいてあやこは尋ねた。
「それなんだけど……コーカサスの曲をやるしかないんじゃないかって思ってるのよ。だって私たち、その代わりなわけだし」
「コーカサスって、たしかロックバンドよね?」
 カスミの言葉に、あやこは眉間にしわを寄せて再び問う。最近CMで流れている曲ぐらいなら知っているが、それほど詳しいわけではない。
「私としては、ノリノリのパワーポップが希望だったんだけど……ロックも似たようなものか」
 小さく溜息をついて言うと、彼女は肩をすくめた。
「でもそれ、三人でできるの?」
「問題はそこよ。かなりアレンジしないと、どうにもならないと思うわ。それに、二時間ずっと、私たちの演奏で持たせるのもちょっと無理がある気がするし」
 カスミが暗い顔で言って、溜息をついた。それへ横から口を出したのは、SHIZUKUだ。
「そのことだけど、響ちゃん。あたし、今日の昼休みにうちの社長に頼んで、コーカサスの所属事務所にせめてお詫びにメッセージとかなんかちょうだいって連絡入れてもらったんだよね。あたしとしては、プロモーションビデオとかそういうものがあるといいと思ってるんだけどね」
「ああ、そうね。コーカサスのお詫びのメッセージ入りビデオとかあれば、それを流して時間が稼げるものね」
 あやこもうなずくと、言った。
「わかったわ。私も声をかけてみる。たしかコーカサスの所属事務所って、もともとは小さかったのがコーカサスのおかげで大手にのし上がったって所よね。そういう所は、ちょっとつつけば案外脆いものよ」
「さっすが、たたき上げの女社長さん。頼りにしてるね!」
 頼もしげに言うとSHIZUKUが、あやこの肩を叩く。
「まかせて」
 あやこも笑って答えた。
 そんな二人の傍で、カスミだけが何やら不安そうだ。
 だがあやことSHIZUKUはそれには頓着することなく、どんどんと話を進めて行く。
 その結果、メインのボーカルはあやこが担当し、曲によってはSHIZUKUと二人、あるいはSHIZUKUだけで歌うことと、楽器はカスミがエレキギター、SHIZUKUがキーボードを担当し、曲はなるべくそれらの楽器だけでOKなものを選ぶことにした。
 練習する時間ももちろん必要なので、その日のうちに演奏する曲目と構成も決めてしまった。おかげで、だいたいのことが決まった時には、あたりはすっかり暗くなってしまっていた。
 そろそろ帰ろうかという段になって、ふいにSHIZUKUが声を上げた。
「あたしたち、大事なことを忘れてるよ。バンド名!」
「あ……」
 言われて初めて、あやことカスミは顔を見合わせる。たしかに考えてみれば、バンド名がないと不便だ。まさか、「コーカサスの代理です」でずっと通すわけにもいかない。だが、とっさにはそう簡単にいい名前も浮かばない。
 そんな二人に、SHIZUKUがまた言った。
「『A.K.S』ってどうかな」
「『A.K.S』?」
 あやことカスミが異口同音に尋ねる。
「そう。『あやこ』のAに、『カスミ』のK、そして『SHIZUKU』のSで、『A.K.S』」
 うなずいてSHIZUKUが得意げに言った。あやこはカスミと再び顔を見合わせる。
「悪くないんじゃない? 今だけのバンド……っていうか、即席ユニットなわけだし」
 ややあってあやこは、小さく肩をすくめて言う。
「そうね。わかりやすくていいと私も思うわ」
 カスミも賛成したので、彼女たちのバンド名は「A.K.S」に決定したのだった。

【お披露目】
 一週間は、またたく間に過ぎた。
 SHIZUKUとカスミは学校があるため、三人が集まって練習するのは、主に放課後である。幸い、防音設備の行き届いた音楽室を使えるので、その点は問題がない。楽器もカスミが音楽教師としてのつてをたどって手に入れて来たため、用意も万全だった。
 やがて文化祭も始まり、開催期間最後の三日目、午後一番に幕は上がった。
 会場となった高等部の体育館には、入りきれないほどの生徒たちが詰め掛けている。日曜日だからだろう。高等部だけでなく他の学部の生徒や、他校の生徒もかなりの数混じっていた。
 その彼らを前に、開演前、カスミが緞帳の下りた舞台に立って、コーカサスが来れなくなってしまったことを告げ、謝罪と変わりのバンドが演奏することを告げると、体育館はブーイングの嵐となった。
 それを緞帳の中の舞台で聞きながら、あやこは初めて自分がとんでもないことに参加してしまったのだと気づく。
(もしかして私……また、考えなしだった?)
 思わず自分で自分に問いかけてみるが、もはやここに立っている以上、どうにもならない。
 ちなみに今日の彼女は、入念にメイクを施し、ブルーグレーのシルクのドレスに身を包んでいる。ドレスはノースリーブで喉元を隠すようなハイネックだった。一見するとシックに見えるが、その実、背中は大胆に大きく開いていて、スカートも右側にかなり上までスリットが入っている。
 キーボードの位置に立つSHIZUKUはブルーグレーのチェックのミニキュロットとそろいのジャケットで、下は白いブラウスだった。そして、小走りに緞帳前からやって来てエレキギターを構えるカスミも、ブルーグレーのスーツ姿である。スーツといっても、スカートはタイトではなく巻きスカートのようなちょっと変わったデザインのものだ。
 三人がそろうと、ゆっくりと緞帳が上がり始める。最初の音を奏でるのは、カスミだ。それを追うようにSHIZUKUがキーボードを奏で、前奏が終わるとあやこは思いきり息を吸い込んで歌い始めた。
 コーカサスのボーカルは男だったが、女性の中音域と変わらないほど高いキーの声を出す。おかげで、どの曲もあやこにとっては歌い易いのがありがたかった。
 会場内は相変わらずブーイングが続いていたが、彼女が三曲続けて歌い終わるころには、それも半分ほどになっていた。
(あら。案外、私たちの演奏ってイケてるってこと? ちゃんと聞いてくれてる人もいるみたいじゃない)
 思わず胸に呟いて、あやこはホッとすると共に少しだけ気をよくする。
 三曲目が終わると、MCのためにSHIZUKUがマイクを手にした。
「みんな、ノッてるかい?」
 さすがに慣れた態度で元気よく声をかけるのへ、拍手と「SHIZUKUちゃ〜ん!」という喝采が飛んだのは、彼女たちの曲も悪くないと判断した観客か、それともSHIZUKUのファンだろうか。なんにしろ、野次とブーイングが飛び交う中では、それはずいぶんとありがたい。
「コーカサスの演奏を楽しみにして来たみんな、ごめんね! で・も。あたしたち、ただのコーカサスの代理バンドじゃないんだよ。ここには来れないけれど、お詫びの印にって、コーカサスのメンバーからプロモーションビデオを預かって来てるんだ。それをこれから上演するね!」
 SHIZUKUが明るいテンションで告げる。
 彼女の所属事務所の社長と、あやこがしつこく食い下がったおかげで、コーカサスの所属事務所が四十分程度のものだが、特別に編集したプロモーションビデオをよこして来たのだ。演奏部分はこれまですでに発売されているプロモーションビデオをつないだものだが、間に神聖都学園高等部の生徒らに向けた謝罪のメッセージと、一曲スタジオで歌っている風景を撮影したものが織り込まれていて、ファンにとってはこれはこれで貴重だろう。
 実際、SHIZUKUの言葉に会場からは期待の歓声が湧いた。
「藤田ちゃん、お願い」
 SHIZUKUの声に、あやこは一反木綿を飛ばして舞台上に巨大な空中スクリーンを出現させる。そこへMCの間に舞台袖に待機していたカスミが、パソコンからの映像をプロジェクターを使って投影するため、スイッチを入れた。
 もちろん観客の生徒たちは、誰もこの巨大な空中スクリーンが実は一反木綿だなどと気づいてもいないようだ。ただ、この予想外の仕掛けと画面に映し出されたコーカサスの姿に興奮して歓声を上げ、拍手喝采しているだけだ。
 それを見やって三人は顔を見合わせ、笑顔になる。
「それにしても、すごいわね。……あの空中スクリーンって、どういう仕掛けなの?」
 あやこに問うて来たのは、カスミだ。
「え? あれは一反――」
 一瞬きょとんとして言いかける彼女に、横からSHIZUKUが慌てて口の前に指を立てて見せる。その仕草に、ああそうだったとあやこは思い出した。
 実はこの一反木綿も、それからビデオ上映後に行うパフォーマンスに登場するもののことも、SHIZUKUの助言でカスミには内緒なのだった。あやこにはよくわからないが、なんでもカスミは心霊現象全般に恐怖感を抱いていて、そういうものに遭遇すると気絶してしまうのだそうだ。しかしこの状況で意識を失われては困る。なので、全ては内緒ということなのだった。
(心霊現象っていっても、全部が全部怖いことばっかりじゃないし……特に妖怪なんて、なんにも悪いことしないと思うんだけど)
 エルフ族の王女に肉体を交換されてしまって、いまや彼女自身が人間ではないあやこにしてみれば、カスミの反応は不思議でしようがないものだ。胸の中で首をかしげつつも、気絶されては困るので、慌てて言い直した。
「えっとその……仕掛けについては秘密よ。私が経営している芸能プロダクションで、時々、アトラクションなんかに使っているものなの」
「へぇ……。なんにしても、すごいわね」
 カスミの方は素直に感心して、再びそれを見上げる。それに安堵していると、SHIZUKUに腕を引っ張られた。
「この後のパフォーマンスも、ほんとのこと言っちゃだめだからね」
「わかってるわ。気をつける」
 鋭く耳打ちされて、あやこもうなずく。
 ともあれ、会場内はブーイングも収まり、変わって興奮が支配し始めていた。
 ビデオの上映が終わったころには、会場内はすっかりいい意味での興奮に包まれていた。
 もっとも、ライブの時間はまだ一時間近く残っている。その時間にどんなことが起こるのか。会場内はわずかながらに、期待のようなものが渦巻き始めていた。
「ねぇ。なんだか、いい雰囲気になって来たと思わない?」
 舞台袖で出を待ちながら、あやこは他の二人に声をかける。
「うん。このライブは成功するよ」
 うなずいて力強く保証したのは、SHIZUKUだった。
「こういうの、経験あるからわかるんだ。こんな雰囲気になって来たら、ライブは成功する。すんごい盛り上がるよ」
「そうね。私もそんな気がするわ」
 あやこも言って、SHIZUKUとカスミの肩をそれぞれ叩く。
「じゃ、そろそろ行こう」
「うん!」
「ええ」
 SHIZUKUとカスミからも、力強い答えが返って来た。それを合図に、三人は舞台上に駆け出して行く。そのまま、コーカサスの曲のメドレーに突入した。
 途中の何曲かはSHIZUKUが歌い、あやこはバックでパーカッションをやった。といっても、ただのそれではない。霊界ラジオとラップ音のパーカッションという、世にも珍しいシロモノだ。もっとも観客には、いったいそれがどうやって出したなんの音なのかは、判読不能だったに違いないが。
 一時間は、またたく間に過ぎて行く。
 途中、わずかに歌詞を間違えたり、ギターの音がずれたりした部分もあったが、それもご愛嬌である。いつの間にか観客の大半が立ち上がり、一緒になって手拍子したり体を動かしたりして歌っていた。
 そして、最後の一曲。
 あやこは、SHIZUKUとツインボーカルで歌った。SHIZUKUはキーボードの演奏もしながらである。そしてあやこは、周囲に七色の人魂を派手に飛ばした。それは一見すると七色のレーザー光線が飛び交う演出とも見えて、生徒たちの歓呼も凄まじい。会場は、たちまち興奮の坩堝と化して、そのまま冷めないかのようだった。

【エピローグ】
 「乾杯!」
 景気のいい声と共に、あやこたち三人の手にした缶ジュースがぶつかる。中身を一気に半分ほど喉に流し込み、あやこは大きく吐息をついた。
「美味しい! ただのコーラをこんなに美味しいと感じたことはないわね」
 すでにあたりは暗くなり、ライブが終わってから数時間が経過していたが、あやこはまだ興奮が冷めていない。観客からの拍手と歓呼が今もまだ耳の中で鳴っているかのようだ。体中の血がざわめいて、今にも勝手にどこかへ飛んで行ってしまいそうな気がする。
 ライブは、大成功だった。
 最後の曲が終わって緞帳が閉まっても拍手は鳴り止まず、そのうちアンコールの声が響き始めて会場を埋め尽くした。まさかアンコールがもらえるなどと思ってもいなかった彼女たちは、そのための曲など用意していなかったので、とりあえず最初に演奏した三曲の内から、少しだけメロウな曲調のものを選んで軽くプレイしたものだ。だがその曲が終わっても、アンコールの声は止まず、とうとうカスミが会場はこのあと、別の催しに使われるのでと説明してようやく収まる始末だった。
 あやこの言葉に、SHIZUKUとカスミも同感だとうなずく。ややあって、カスミが改まった様子であやこに頭を下げた。
「あやこさん、一週間、本当にありがとう。おかげでプログラムに穴が開くこともなく、生徒たちをがっかりさせることもなく、文化祭を終わらせることができたわ。全部、あやこさんのおかげよ」
「そんな、気にしなくていいわよ。私はただ、自分がやりたいからやっただけですもの」
 少し照れくさくなってかぶりをふるあやこに、カスミは言う。
「ううん。あやこさんの歌が素晴らしかったおかげよ。それに、空中スクリーンやパフォーマンスも、生徒たちの心を惹きつけたんだわ。本当にありがとう」
 そして、少しだけ不思議そうに続ける。
「でも、あのパーカッションやパフォーマンスは、どうやってやっていたのかしら。それとも、あれもそういうことは秘密なの?」
「ああ、あれはパーカッションは霊界ラジオとラップ音で、レーザー光線みたいなのは人魂なのよ」
 彼女には内緒だったことも忘れて、あやこはするりと口を滑らせた。
「しーっ!」
 SHIZUKUが慌てて制した時にはもう遅い。
「霊界ラジオ……? ラップ音ってあの……幽霊が立てる音だって言われている、あれのこと? それに、人魂……ですって?」
 みるみるカスミの顔が青ざめて行く。と思った時には、彼女の目玉がぐりるりと白目に返り、そのまま糸の切れた人形よろしくその場に昏倒していた。
「え? ち、ちょっと……!」
 突然のことに、あやこは訳がわからず声を上げる。それへSHIZUKUが溜息をついた。
「だから響ちゃんに、心霊現象だって説明しちゃだめだって言ったのに」
「あ……」
 言われてあやこは、ようやく彼女から受けた注意を思い出す。小さくこめかみを掻いて、首をすくめた。
「ごめんなさい。……でも、もうライブは終わったんだし、いいんじゃない? それにたしか彼女、意識を取り戻したら、自分が遭遇した心霊現象のことをきれいに忘れているとか言ってなかった?」
「まあ、それはそうなんだけどね」
 うなずいてもう一度溜息をつくと、SHIZUKUも肩をすくめた。改めてあやこをふり返る。
「そうだよね。もう終わったんだし、いいか。……それより藤田ちゃん、お疲れさま。あたしからもお礼を言うね。一週間、ほんとにありがとう」
「どういたしまして」
 あやこも笑って、まだ半分残っているコーラの缶を、SHIZUKUの手の中の缶に触れ合わせた。そのまま二人は顔を見合わせて笑うと、それぞれの缶に口をつける。
 そうしながらあやこは、こんなに気持ちいいんだったら、またライブをやりたいな――などと胸の中で考えていたのだった。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【7061/ 藤田あやこ/ 女性/ 24歳/ 女子高生セレブ】

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■         ライター通信          ■
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●藤田あやこ様
ライターの織人文です。
二度目の参加、ありがとうございます。
今回は藤田様お一人ということで、こんな感じになりましたが、いかがだったでしょうか。
少しでも楽しんでいただければ、幸いです。
では、またの機会がありましたら、よろしくお願いいたします。