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<東京怪談・PCゲームノベル>


◆朱夏流転・参 〜芒種〜◆


 神社消失の急報を受けて現場に駆けつけたIO2エージェント・藤田あやこは、そこに見知った人物を見つけて少々驚いた。
 気づかれないように木の上からその人物を見守り、そして思案する。
 神社――もう誰からも忘れられたような荒れ果てたそれは、今は見る影もなく燃え朽ちてしまっている。
 それを為したのは鮮やかな赤い髪をしとどに濡らし、雨の中立ち尽くす人物――コウと名乗った彼だ。
 角度が悪く、その表情は見えない。しかしこのままずっと雨に打たれては身体を壊すだろう。
 そう考えたあやこは、風の精霊を操ってコウから雨を逸らそうとした。
 しかし、その瞬間コウが唐突にあやこを振り仰ぎ、鋭い視線で射抜いたのだ。
「あ、れ……藤田さん?」
 その視線は一瞬で、口を開きあやこの名を呼んだときには、どこかぼんやりとした掴み所のない瞳に変わっていた。
 見つかってしまっては仕方ない。あやこは身軽に木から下りると、コウの前に立った。
「なんか、随分変わったな、藤田さん」
 『変わった』などと言う言葉で表せられらないほどにあやこは変わった。変わってしまった。けれどコウは、それがあやこだと一瞬で見抜いたらしい。
「ちょっと込み入った経緯があって、ね」
 それはもう、色々と。
「へぇ……」
「コウくんが話を聞いてくれて、ずいぶん楽になったわ」
「話?」
「ほら、メールで」
 言えば、コウはああ、と頷いた。
「感情とかってのは他人に話すことで整理されることもあるしな。カウンセラーとかはそういうの考えて話聞くらしいし。…ま、俺なんかが役に立ったってなら良かった」
 笑顔を浮かべるコウ。しかしそれはそう長く共に居るわけではないあやこにも分かるほどぎこちないものだった。
 あやこは視線を神社に向け、静かに口を開いた。
「……何か、複雑な事情がありそうね」
「そうでも、ないけどな」
 自嘲気味にコウが呟く。
「話せば長くなるんだけど、私は国家規模の戦争に関わっているわ。…誰にだって秘密はあるのよ。もし良かったら話せる範囲で話してくれない? それで貴方が楽になるのなら」
「や、藤田さんを煩わせるほどのことじゃない。――俺と、俺の家の問題だから」
 妙にはっきりと告げられた言葉に、あやこは尚も言い募る。
「でもコウくんは、それが負担になってるんでしょう? さっきコウくんが言ったみたいに、他人に話すだけでも随分と変わるものだし…。お金も権力もある程度融通できるから、力になれるかもしれないわ。家の事情で封印解除をしてると言っていたでしょう? お家から独立したりとか…」
 そこまで言って、あやこは携帯を取り出し、その待ち受けをコウに見せる。
「事情があって、私はコウくんと同じくらいの娘が居るの。だから出来るだけ力になりたいのよ」
 これが母性と言うものなのだろうか――そう考えながらあやこは自分の思うことをコウに伝える。
「話す、ね……」
 誰にともなく言ってコウは笑った。暗鬱とした、笑みだった。
「まぁ、いいか。いい加減俺も限界だったしな。――あんまり深入りさせると不味いことになるかもしれねぇから、セーブはするけど」
 そうして、凄惨な笑みへと表情を変えた。
「『封印解除』ってのは、前言ったとおり『儀式』の下準備だ。もともとそれには双子が必要なんだよ。式家の中でも『朱夏』に縁深い――そして『解除』と『降ろし』に適した双子が。それが、俺と俺の妹だった」
 そこで一度言葉を切り、どこか遠くを見るようにしてコウは再び口を開く。
「『解除』も『降ろし』も理を捻じ曲げる。その代償として、大概は壊れる。…生まれた時から、俺たちはいつか壊れることが宿命付けられた道具だった。人間として見てくれるのは互いだけで、親も他の一族も俺たちを道具として扱った。――でも、当主が言った。やり方によっては俺たちのどちらか一方なら残れると。道具でなく、ヒトとして生きてもいいと。俺もアイツも、互いを『道具』の立場から解放しようとした。結果――俺が『封破士』になった。でも、たまにそれがすげェヤになるときがある。それが今ってワケだ。…自分で決めて、自分で選んだことなのに、な」
 『セーブする』と言ったとおり、コウはそれ以上詳しく話す気はないらしかった。どこか消化不良の感が残る。
「妹さんを守るために、『封破士』になったの?」
「いや、どっちかっつうと俺の我儘だ。アイツはそれにこれっぽっちも感謝しねぇだろうし、『守る』なんて大層なモンでもない」
「でも……守りたいと思ったんでしょう? 何かを守る努力は正しいものだわ。私だって娘のためなら世界を敵に回せるもの」
 あやこの言葉に、コウは苦しげに眉を顰めた。
「『正しい』――とは、俺は思わない。俺がやってることは、ただのエゴで自己満足で、肯定されていいものじゃない。『解除』自体、理に背いてる。それでも、俺は……」
 言いさして、コウは口をつぐむ。そしてあやこに向き直り、「悪い」と呟いた。
「思ったより参ってるみたいだ。これ以上話してられなそうだから、帰らせてもらう」
 言い終えると同時、その姿が消える。まさしく瞬く間の出来事だった。
 残されたあやこは、しばらく呆然とその場に立ち尽くすこととなったのだった――。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【7061/藤田・あやこ(ふじた・あやこ)/女性/24歳/IO2オカルティックサイエンティスト】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、藤田さま。ライターの遊月です。
 『朱夏流転・参 〜芒種〜』にご参加くださりありがとうございました。
 こちらの都合で一度流れたものを、再度ご参加くださってありがとうございます。

 『謎』にちょっとだけ触れるノベルとなりました。
 親密度、プレイングを考慮の結果、このようなことに…。
 立場も変わられていらっしゃるので、色々と変動しそうな感じです。

 ご満足いただける作品になっていましたら幸いです。
 それでは、本当にありがとうございました。