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<東京怪談・PCゲームノベル>


限界勝負inドリーム

 ああ、これは夢だ。
 唐突に理解する。
 ぼやけた景色にハッキリしない感覚。
 それを理解したと同時に、夢だということがわかった。
 にも拘らず目は覚めず、更に奇妙なことに景色にかかっていたモヤが晴れ、そして感覚もハッキリしてくる。
 景色は見る見る姿を変え、楕円形のアリーナになった。
 目の前には人影。
 見たことがあるような、初めて会ったような。
 その人影は口を開かずに喋る。
『構えろ。さもなくば、殺す』
 頭の中に直接響くような声。
 何が何だか判らないが、言葉から受ける恐ろしさだけは頭にこびりついた。
 そして、人影がゆらりと動く。確かな殺意を持って。
 このまま呆けていては死ぬ。
 直感的に理解し、あの人影を迎え撃つことを決めた。

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 不意に、ガバリと身を起こす。
 周りの雰囲気が一変していたように感じたからだ。
 そう思った藤田 あやこの勘は間違いではなかった。
 先程まではIO2のオフィスにある自分の机で、書類を書いたり丸めたり投げ捨てたりしていたのだが、今は違う。
 辺りを見回せば人、人、人。
 随分な賑わいを見せている場所まで来ていた。
「私はいつの間に夢遊病になったんだろう……。こんな所まで寝ている間にやってくるとは」
 あやこの記憶の中に、この風景はあった。
 何時ぞや、フラリと立ち寄った盛り場。確か土曜日の事だったか。
 特に用事もなく、ただ通り過ぎるだけだった。
 今回も特にこれと言って用事はない。さっさとあのオフィスに戻って面倒臭い仕事をこなそう。
 そう思っていたのだが。

 様子が一変したのはどうやら外見的なものだけではないようだ。
 周りの空気がピリピリと肌を刺すように感じられる。
 あやこがゆっくりと周りを見回すと、何故だがこの場に集まっている人間の全てがこちらを見ているようにも感じる。
「あらら、私ってば有名人? サインはまず列を作ってから……なんて」
 適当におどけていると、周りを取り囲む人間が一人、こちらに向かって一歩踏み出してくる。
 反射的にあやこが一歩退くと、後ろに居た人間が一歩踏み出してきた。
「な、なによぅ。私はこんな大勢に恨みを買うような事はしてないわよ」
 周りの人間と距離を取るようにして位置を取っていると、どんどんその輪が縮まっていく。
 ワケもわからず、緊迫した空気の中心にいるあやこは、そんな雰囲気に耐えられなくなり、ビルとビルの隙間に出来ていた路地を駆け出した。

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 路地を駆け抜けると、後ろからうめき声と共にさっきあやこを取り囲んでいた人間が入り口にひしめいていた。
「うわ、キモチワルっ!!」
 狭い隙間に詰まっている人間たちは、何となく地獄絵図という言葉を髣髴とさせる。
 苦しみ絶えぬ地獄からどうにか這い出そうとしている亡者のようだった。
「こんな観察してる場合じゃない。今はとにかく逃げないと」
 あれだけ人がいたのだから、別ルートを通る人間がいるかもしれない。
 そんなあやこの予想通り、別の路地からうめき声を上げて大勢の人が現れた。
 B級ホラー映画のようなノリに、軽くウンザリしつつも、あやこは逃げるために走る。
「ワケわかんないまま捕まってたまるか! 逃げ切ってやるわ!」

 その後、路地をこまめに曲がりつつ逃げ続ける事数十分。
 心なしか、追いかけてくる人影が最初より増えている気がする。
 逃げれば逃げるほど、周りにいた追っ手を増やしているような気さえしてくる。
 そして、最早どの路地を抜けようとしてもその先に追っ手が待ち構えているような、絶望的な不安すら感じ始めてきた。
「くそぅ、くそぅ! くそぅ!! こんな所で終わってたまるか」
 口の中にたまったつばを地面に吐き出し、一つ気合いを入れる。
 そうだ、こんなところで終わってられない。
 どうにか活路を見出さなければ。
「アイツらが追ってこなさそうな場所……追ってこなさそうな場所……」
 色々と頭の中に考えをめぐらせていると、一つ思いつく。
 先程『ホラー映画』と思ったこと。
 確かに、あの追っ手は何となくアンデットっぽい気がしなくもない。
 全力疾走で追いかけてくる辺りも、そんな映画があった気もする。
 だったら、神聖な場所には入れないんじゃないだろうか?
「とすれば、神社とか教会!」
 死地に光明を見出し、あやこはすぐに頭の中に地図を浮かべる。
 一番近いのは……神社。
「だとすれば、善は急げ! 逃げ切ってやるわ、逃げ切ってやるとも!!」
 荒い息を幾らか落ち着け、あやこは再び走り出す。

 検索に引っかかったのは小高い丘に立てられた小さな神社。
 そこを目指すにはまず、あの追っ手の波を掻き分けなければいけない。
 意を決して追っ手に向かって走っていくと……。
 追っ手の手にはいつの間にか武器が握られていた。
「おぉう!! 丸腰の女に向かって武器を持ち出すか、この外道ども!!」
 多少面を食らったが、襲い掛かってきた一人を簡単に打ち倒し、その手に持っていた剣をぶんどる。
「へぇ、ハンティングソードか。そっちは狩りのつもりってことかしら? それとも貴族気取りってことかしら? どっちにしろ腹立つわね」
 軽く剣を振り回し、敵を威嚇する。
「はいはい、怪我したくなかったら近寄らない事ね!!」
 手に持った剣をブンブン振り回しながら、人波をモーゼよろしく真っ二つに裂き、そのまま直進する。
 ここを駆け抜ければちょっとした林に入る。
 その中を抜ければ、近くの神社の階段に出るはず。そこを駆け上がれば神社の鳥居を潜れる!

 思い描いた道筋を通り、難なく神社の階段に到達するあやこ。
 ふと階段の下の方を見ると、追っ手がすぐそこまで来ていた。
「これから急な階段をのぼるっつーのに、変にプレッシャーかけないでよ、くそ!!」
 追いかけてくる奴らに悪態をつきつつ、あまり気にせず階段を駆け上る。
 一気に駆け上った先、赤い鳥居の根元をやっとの思いで潜った。
「これで……っ!!」
 助かったのだ、と思ったのも束の間。

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 鳥居を潜った瞬間にまた景色が一変する。
 どうにも生気の感じられない追っ手の変わりに、氷の肌をした吸血鬼の群れが現れたのだ。
 そして何の突拍子もなく神社は目の前から霞のように消え去り、ただの荒野が目の前に広り始める。
「こ……これは……」
 なんとも唐突で、なんとも絶望的な状況。
 今、あやこの手に聖水も、にんにくも、十字架も、白樺の杭もない。
 そんな中、敵は数ある化け物の内でも最強クラスと謳われる吸血鬼。それがザッと数えてもでも数十単位でひしめいているのに、どうして意気消沈せずにいられるだろう?
 しかしあやこは歯を食いしばり、折れそうになる膝に力を込めた。
「こ、今宵のハンティングソードは血を御所望じゃあ!!」
 一つ雄たけびを上げて、吸血鬼の群れに飛び掛る。

 その手に持つハンティングソードは、刺突が主な攻撃法。
 馬上から下に向けて突き刺すのが普通だが、今のところ馬に跨っているわけではないので、両手で柄を握って真っ直ぐ前に突き出す。
 すると吸血鬼の首元に深く突き刺さり、膨らんだ切っ先がそのまま首と胴を分断した。
 これは……いける?
 俄かに沸いた希望。
 だが、それもすぐに打ち払われる。
 刎ねられた首はすぐに血の飛沫となり、そして更にコウモリに変化する。
 そのコウモリは主の身体に舞い戻り、そのまま何事もなかったかのように頭を形成した。
 ニヤリ、と顔を再生させた吸血鬼が笑う。
「首を刎ねたぐらいでは私は殺せないぞ? さぁ、どうする人間、次の手を見せてみろ、早く、早く早く、早く早く早く!!」
 強烈なプレッシャー。
 人外が、それも最高位のモノが出す重圧と言うのはここまでに重いものなのか。
 桁が違う。
 それを実感した次の瞬間、後ろから衝撃と共に焼けるような痛み。
 振り返ると、別の吸血鬼があやこの背中を噛んでいた。
 あやこは翼を広げて吸血鬼を追い払い、飛び退いた吸血鬼目掛けて、振り返り様に斬りつける。
 斬りつける、と言っても前述したとおり、ハンティングソードは突く剣。
 細くなった刀身の部分を、吸血鬼は拳をぶつけて粉砕した。
 気がつくと、完全に周りを取り囲まれている。
「こりゃ……ホントに絶体絶命ね」
 冷や汗をたらしながら、使い物にならなくなった剣をその場に捨てる。
「ふ、ふふ……こうなりゃヤケよ! やるだけやってやるわ!!」
 そう言ったあやこは手近にいた吸血鬼に向かって、果敢にも駆け出していった。

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 寝覚めは決して良いものではなかった。
「あー、くそ、齧られるのって痛いわねぇ……」
 傷跡もないが、首筋を何となくさすり、あやこがノロノロ起き上がる。
 夢は夢であったが、嫌な夢だった。
 そして、目の前に詰まれた白紙の書類。
「あーあ、これもいっそ夢だったらどんなに良いか……」
 嫌な現実はダラダラ続く。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【7061 / 藤田・あやこ (ふじた・あやこ) / 女性 / 24歳 / IO2オカルティックサイエンティスト】

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■         ライター通信          ■
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 藤田 あやこ様、ご依頼、ありがとうございます。『そうあれかしと叫んで斬れば、世界はするりと片付き申す!』ピコかめです。
 まぁ、斬る前にやられちゃいましたが。

 大勢の狩人と追いかけっこ、吸血鬼相手になんちゃら無双の二段構えでした。
 勝敗的には完敗ですかね。吸血鬼にやられちゃいましたね。
 最初に狩人との追いかけっこで体力使ってたし、しょうがないっちゃしょうがないですよね。
 では、気が向きましたらまたどうぞ〜。