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蘇る亡霊(三島・玲奈Ver.)
■オープニング
第二次大戦末期、満州(現・中国東北部)に司令部を置く陸軍第731部隊において開発を進められていたもう一つの心霊兵器「魔仙丹」――それを大量服用した者は己の命と引き替えに、数日間とはいえ鬼神のごとき無敵の兵士と化す。
心霊特攻兵器「魔仙兵」と名付けられたそれは、実戦投入される前にソ連軍参戦とその後の敗戦という混乱の中で永遠の闇に葬り去られた――はずだった。
草間興信所に国内有数の大企業「光亜製薬」会長・徳田隆三が依頼人として訪れた。
高校入試に挫折して以来自宅にひきこもりを続けていた孫の和也が、突然失踪したのだという。
ありふれた家出人捜査。そう思い気軽に依頼を受けた武彦に、隆三は突然己の過去を語り出す。
かつて731部隊所属の軍医であった隆三は、中国古来の秘薬「仙丹」に目をつけその研究に没頭し、その結果呪われた薬「魔仙丹」を生み出してしまった。魔仙丹の記録は歴史から抹殺されたが、唯一残された試薬のみが隆三の手により密かに保管されていた。家出した和也はその試薬を持ち出したのだ。
和也はインターネットを通して関わった心霊テロ組織「虚無の境界」の手引きにより、魔仙丹の存在とその保管場所を知らされたらしい。
時を同じくして、新宿駅地下に姿を現した和也が「虚無の境界」構成員・「メイ」と名乗る少女と接触していた――。
■AM9:00 衛星軌道上
〈IO2よりシエラ27へ。IO2より……〉
「ふわぁ〜い」
体内のインカムから響くせわしない呼び出しコールに、巨大な宇宙船の上に俯せでうとうとしていた水着姿の美少女が、寝ぼけ声で応じた。
「こちらシエラ27……軌道上で日向ぼっこ中で〜す☆」
〈休暇中のところをすまん。現在、東京にて心霊テロ発生の確率大〉
「えーっ、今から出動ぉ〜!?」
コードネーム・シエラ27、すなわち三島・玲奈は不服そうに声を上げた。
〈いや、その前に君の超生産能力で作って欲しいものがある。ある毒物の解毒剤だ〉
「うっさいわね! あたし救急箱じゃないって!……えっ何? 魔仙丹?」
〈いい子だ、聞いてたんだね。今から送るのは、第二次大戦後に米軍が日本軍731部隊の捕虜から押収した情報だ〉
「う〜ん……これじゃデータが少なすぎるよぉ」
〈やっぱり無理か〉
「待って。薬の成分までは判んないけど、魔仙兵の再生力や怪力って……どうやら急激な新陳代謝の産物っぽいわね。となれば……」
〈秘策が有るのか?〉
「大アリよ!」
エルフのような外見に天使のような翼を持つ少女は身を起こし、自信たっぷりに笑った。
■AM10:00 草間興信所
「もう一度いう。この件は、零には絶対に話すなよ!」
朝から十何本目かの吸い殻をやけ気味に灰皿へと押し込み、草間・武彦は怒鳴った。
次の一本を取ろうと煙草の箱に手を伸ばし、もう空だと判ると握り潰して床へ叩きつけた。
「でも、和也君はどうするの? 見殺しにするつもり?」
所長席の前に腕組みして立ち、切れ長の目と中性的な美貌を備えた若い女が、面と向かって武彦に詰め寄る。
興信所の最古参事務員、かつて武彦と共に数々の怪事件に関わってきたシュライン・エマだ。
「もちろん捜索はするさ。強欲ジジイとヒッキーのボンボンがどうなろうと知ったこっちゃないが、依頼は依頼だからな!」
「もう徳田家だけの問題じゃないわ。もし魔仙丹が『虚無の境界』の手に渡ったら――」
「そんなこと、いわれなくても判ってる!」
世界を道連れに自殺したがっている愚か者など、掃いて捨てるほどいる。
もしそんな連中にあの薬をばらまかれたら?
それはあまりに忌まわしい想像だった。
「それに、和也君がもう魔仙丹を使っていたとしたら……武彦さんも危険だわ。やっぱり、今回は零ちゃんの協力を――」
「あいつに、何をさせろって?」
武彦が上目遣いにエマを睨み上げた。
普段はしっかり者のエマの尻に敷かれっぱなしの武彦も、今回ばかりは一歩も引く構えを見せなかった。
「零は兵器なんかじゃない、俺たちの妹だ! おまえは、そう思ってなかったのか!?」
「そんな……私だって、零ちゃんのことは……」
気丈そうなエマの顔が辛そうに歪み、青い瞳が微かに潤む。
「いや、すまん……ついカッとなった」
武彦の右手が、とうに切れた煙草を求めるようにデスクの上をさまよった。
長年行動を共にしたパートナー同士、相手の気持ちは痛いほど判っている。
そして今、世界の命運と彼らの愛する「妹」を秤にかける、苦渋の決断を迫られつつあることも。
「どうしたんですかー? 外まで聞こえるような大声出して」
二人がぎょっとして顔を向けると、扉の前に買い物カゴと兎のヌイグルミを抱えたあどけない少女が立っていた。
買い物を口実に朝から外出させていた零が、ちょうど帰ってきたのだ。
「あ、エマさん泣かせてる! お兄さーん、今度は誰と浮気したんですかぁ?」
「バ、バカ! 人聞きが悪い――」
「そうなのよ、零ちゃん。何でもないの。ちょっと仕事のことで熱くなっちゃって……」
慌てて涙を拭き、エマが無理に笑ってみせる。
「なら、いいんですけど……いくら『喧嘩するほど仲がいい』っていっても、やっぱりみんな仲良しが一番ですからね!」
そういうと、零は少し首を傾げてニパ! と笑った。
どんな荒んだ心も和ませる、春風のような微笑み。
だが少女がこんな風に笑えるようになったのは、本当にごく最近のことだ。
数年前、ある事件がきっかけでこの興信所に引き取ったとき、彼女はただ「笑え」といわれれば笑うだけの、ロボットのような娘だった。
武彦やエマ、その他大勢の人々と触れ合うことで、ようやく手に入れた人間らしい「心」。
いま零を魔仙兵と闘わせることは、その「心」を捨て去りかつての心霊兵器に戻れと命じるに等しい。
「――判ったわ。では、こうしましょう」
エマが武彦に向き直る。
「まず武彦さんは徳田氏にもう一度会って、何とか『魔仙丹』の解毒剤が作れないか交渉してみて。そしてその間、零ちゃんに徳田氏を護衛してもらうこと――これなら、問題ないでしょ?」
「どうだかな……あの爺さん、もう和也のことは見捨ててたようだが」
「でも、それだって本心でいったのかどうか……やっぱり見放して欲しくないもの、お孫さんのこと」
「新しいお仕事ですかー!?」
買い物袋を床に置き、ワクワクした様子で零が駆け寄ってくる。
「零ちゃん。悪いけど、これから武彦さんと一緒に出かけてくれる? 場所は、ええっと……」
徳田隆三が置いていった名刺を取り上げる。「光亜製薬」本社ビルは西新宿にあった。
「ハーイ!」
「私は、徳田氏の自宅へ行ってみるわ。和也君のPCや徳田氏の書斎に、何か魔仙丹に関する手がかりが残ってるかもしれないし」
「仕方ない……とりあえず、アポだけでも取ってみるか」
渋々いうと、武彦は手を伸ばし、昭和の遺物ともいうべき黒電話の受話器を取った。
■AM10:20 西新宿
東京・西新宿。整然と立ち並ぶ高層ビル街の一角に、光亜製薬本社ビルもあった。
「解毒剤? そんなもの、作れるものならとうに作っておるわ!」
最上階の会長室で、徳田隆三は受話器に向かって怒鳴った。
「じゃが、いかんせん肝心のサンプルがない。これでは分析もできんわい」
〈でもあれを作ったのはあんただろう? 記憶から何とか再現できないのか?〉
電話の向こうで、武彦が必死で食い下がる。
「よいか? 仙丹とは中国仙道でも秘伝中の秘伝! その製法は複雑怪奇、主な成分だけでも薬草から生物、鉱物まで数百種類におよぶ。中には今の日本では入手すら困難な――」
「たとえば、健康な人間の生き肝とか?」
「……うぬっ?」
背後からかけられた声に、思わず振り返った老人の顔が驚愕に固まった。
地上200m、分厚い強化ガラスのすぐ向こうに、見覚えのある少年が浮かんでいる。
パーカーのポケットに両手を突っ込み、少し俯き加減でこちらを見つめながら。
「かず……や?」
「メイから教えて貰ったナンバーで金庫を開けたとき、何で内側にベタベタ御札が貼ってあるのか不思議だったけど……初めてアレを飲んだとき判ったよ」
〈おい、徳田さん? どうしたんだ!?〉
床に落ちた受話器から、武彦の叫びが虚しく響く。
「人体実験やアレの材料にするため、随分と殺したんだね……金庫の中に封じられてた怨霊たちが、みんな教えてくれたよ」
「ま、待て! わしの話を――」
「さよなら、爺ちゃん」
凶暴な衝撃波が薄氷のごとく強化ガラスを突き破る。
己の肉が裂け、骨が砕け散る音――それが、老人の最後に聞いたものだった。
最上階が吹き飛ぶと同時にビル内の数カ所で大爆発がおき、巨大な光亜製薬本社ビルはトランプの城のごとく脆くも崩落して行った。
建物の中にいた数千の人命と共に。
その光景を、空中に浮いた和也は顔色一つ変えず、ただ無表情に見下ろしていた。
「ご苦労さま、和也」
ふいにその隣に黒衣の少女が現れ、甘えるように少年の肩に手を回して寄り添った。
見た目は10歳くらいの幼い女の子。
長い銀髪、ゴスロリ風の黒いドレスがよく似合ってまるで人形のようだが、血のような紅い瞳には名状しがたい邪悪な光が宿っている。
「これで魔仙丹の秘密を知るのは、あたしたちの組織だけ……お母様も、さぞお喜びになるわ」
「……僕には、優しい爺ちゃんだったんだ」
独り言のように、少年がつぶやいた。
「テストで一番になると、父さんや母さんよりも大喜びして……その晩は、いつも得意の中華料理でご馳走してくれた」
「あなたが『ご自慢の優等生』だったうちは、でしょ?」
和也は頷いた。
「僕は、第二でも第三志望でもよかった……ただ高校に進学して、みんなと勉強したかっただけなのに……それをあいつは『格下の高校に通わせたら家名に傷がつく』とか言い出して、僕をあの屋敷に閉じこめた……大検を取って、直接東大を受けろって」
「あらあら可哀想……でも、よかったじゃない。これで、あなたはもう自由よ」
「あまり先のない自由だけどね……」
そこで、初めて少女の方へ振り向いた。
「……で、次はどこをやればいい? 何なら、今日中に東京を廃墟にしてやろうか?」
「ウフフ。貴重な『残り時間』を無駄遣いしちゃダメよ。あとは、たった一人殺ってくれればいいから」
「霊鬼兵って奴か? 昨日君がいってた」
「そう。今のあなた同様、大日本帝国が遺した60年前の亡霊……ただし、あなたと違って周囲の怨霊を自在に操る力があるけど」
「キモい野郎だな」
自分のことは棚に上げ、和也が嫌そうに顔をしかめた。
「安心して。怨霊どもの方はあたしが引き受けるから」
「互いにハンデなしの勝負ってわけかい?」
「そうよ。でもねえ、ここまでお膳立てしてあげて、それで負けるようなら……」
少女の瞳が、三日月のようにニイっと残酷な笑みを浮かべた。
「あんた、死ぬまでおちこぼれよ」
「……!」
ギリッ――少年の歯が食いしばられ、唇を切った血が顎を伝い落ちた。
■PM09:20 東京上空
「シエラ27より本部へ! 間もなく目標地点に到達!」
〈了解。ガツンと一発頼むぜ!〉
「任せといて!」
元気良く答えながら、玲奈は翼を大きく広げ着陸体制に入った。
当初、IO2本部は魔仙兵のデータ収集目的でしばらく和也を泳がせておく方針だったらしい。しかし敵がいきなり新宿のど真ん中で大規模テロという暴挙に及んだため、日本支部の要請で慌てて宇宙圏防衛軍に出動命令が下ったのだ。
現在、西新宿において草間興信所所属の霊鬼兵「零」が魔仙兵と交戦中、とのことだった。
(もう、上がグズグズしてるから民間人に犠牲者が出ちゃったじゃない! ホント、無能な味方は有能な敵より始末に負えないよ)
そのとき、ふと異変に気づいた。
軌道上に待機させた「船」の各種センサーにより、既に地上の状況は把握している。というか、彼女の脳細胞およびクローン増殖させた体細胞によって構成された巨大な「船」こそが玲奈本来の肉体である。
その「船」から転送されるデータのうち、なぜか心霊センサーだけが靄でもかかったように反応がない。
(変なの。西新宿っていえば、いつもなら怨霊ウヨウヨの心霊スポットなのに……)
と思った刹那、攻撃は真下から来た。
凄まじい殺意の籠もった念動力の衝撃波。
だがこれは、玲奈の耐霊障フィールドにより打ち消された。
「IO2の飼い犬! 邪魔はさせないわよ!」
(ハァ? な、何よこの子?)
襲撃者が幼い少女であることに一瞬ポカンとなるが、すぐ「虚無の境界」の手先と思い直し超精密攻撃レーザーで迎撃。
だが今度は敵のフィールドで玲奈のレーザーが拡散・吸収された。
「キャハハ! お母様が創って下さったゴーストシールドよ。たとえ核兵器だって破れるものですか!」
「ははぁーん。地上に霊波ジャミングをかけてたのもあんたね? でも、今はおチビちゃんと遊んでる暇はないの!」
一気に急加速。最新鋭戦闘機も遠く及ばぬ高機動により冥をかわし、地上を目指す。
だがそんな玲奈の前に、再び冥のゴーストシールドが立ちはだかった。
(瞬間移動!? ったく、厄介な子ね!)
敵は何としても玲奈を西新宿へ降ろしたくないらしい。
ただし玲奈のフィールドを突破するほどの攻撃を仕掛けてこない所を見ると、戦闘よりも戦略情報戦に能力特化された使い魔なのだろう。
高機動で飛び回る玲奈。先回りして瞬間移動する冥。
不毛な空中戦が十分ばかり続いた。
「なかなかやるじゃない? おチビちゃんの割には」
「誰がチビよ!?」
「――ところでさ、あんたのジャミング範囲って、どれくらいなの?」
「え? ……あっ!」
眼下に広がる太平洋を見やり、冥が愕然となった。
しかもここは高度十キロの成層圏。
玲奈の地上降下を阻止しようとムキになる余り、まんまと自分が新宿から遠く引き離されてしまったのだ。
「んじゃ、そーゆーことで。バイビー☆」
あっけにとられた冥の横をかすめ、玲奈が高加速で東京へ向かう。
「行かせるかぁーっ!」
負けじと瞬間移動する冥。が、転移した先に玲奈の姿が見えない。
「つーかまーえたっと♪」
ぐっと背後から回される腕。
玲奈とて無駄に追いかけっこをしているわけではなかった。
空中戦のさなか、本体の「船」に冥の瞬間移動パターンを解析させ、次の出現予測位置で待ち伏せをかけていたのだ。
当然、ゴーストシールドの内側である。
「さ〜て。お仕置きタ〜イム!」
片手で冥の首根っこをつかみ、空いた方の拳を振り下ろす。
「ひっ……!」
使い魔の顔面を粉砕する拳は、しかし彼女の鼻先でピタリと止められた。
「――と思ったけど、お子ちゃまだからこれで許してあげる☆」
人差し指一本で、冥の額にバチンとデコピン。
「きゃあぁ――っ!」
それでも並の人間なら軽く頭が消し飛ぶほどの一発をくらい、幼女の姿をした使い魔は遙か彼方の洋上へと弾き飛ばされていった。
「あ、捕獲しとけばよかったかなぁ? ま、いーや。とにかく、今はこっちが先!」
翼を翻し、玲奈は何事もなかったように再び東京を目指した。
■PM09:40 西新宿
「もうやめてぇーっ!!」
和也の猛攻に手も足も出せず、ただ一方的にいたぶられるだけの零の姿に、エマは顔を覆って叫んだ。
「な……何で怨霊を使わないんだ? 零……」
武彦も悔しげに呻くが、普通の人間である彼にはどうすることもできない。
超回復能力のため目立った外傷こそないものの、零の体の各所に青白い火花が走り、確実にダメージが蓄積されていることを物語っている。
サンドバッグのごとく数知れぬ拳と蹴りを受けた末、ついに彼女の動きが止まり、ガクガクと痙攣しながら路面にくずおれた。
「ハァハァ……弱すぎだよ、おまえ……本当に霊鬼兵なのか?」
和也もまた、攻め疲れしたように息を切らしている。
キイィ――ン!!
「うわっ!?」
唐突に甲高い高音が和也の耳を撃ち、一瞬三半気管を狂わされた少年がグラリと上体を揺らす。
もはや我慢ならなくなったエマが、武彦の制止を振り切って飛び出し、唯一の戦闘能力である超高音ボイスを浴びせたのだ。
「いい加減にしな、このガキ! 私が相手になってやるよ!」
「……なら、おまえから殺してやる」
そういいながらエマの方へ歩き出す和也の片足を、倒れた零の手が弱々しくつかんだ。
「エマさんには……お姉さんには……手出し……させません」
「しぶといやつだ……」
再び向き直った和也が、今度こそ確実にとどめを刺すべく、零の頭部を踏み潰そうと高く足を上げる。
そのとき。
――フゥオォォォォォン
生暖かい風が吹き抜け、足を上げた姿勢のまま和也が固まった。
「な、何だ……あぐっ!?」
霞のような何者かが少年の全身にまとわりついたかと見るや、宙につり上げ魔仙兵の怪力をも凌ぐ力でギリギリと締め上げ始めた。
「ぎゃああああっ!?」
零が肘をついて上半身を起こした。
武彦たちは知るよしもないが、上空から霊波ジャミングをかけていた冥が玲奈に撃退されたため、今まで沈黙していた怨霊たちが一斉に動き出したのだ。
こうなると、もはや魔仙兵など霊鬼兵の敵ではない。しかも、和也に襲いかかってきた怨霊の大半は他でもない、彼自身が昼間殺した人々である。
「ダメ……気持ちは判るけど、この子を殺してはいけません……」
それでも零は、怨霊たちに自制を命じた。
「ぐぐっ……好きにしろ……どうせ、僕の命はもう――」
「お待たせーっ!」
状況に全くそぐわぬ元気一杯の声が、和也の言葉を遮った。
翼を広げたエルフのような少女が、天使のごとく武彦たちの前に舞い降りる。
「凄い科学で地球を護ります☆ IO2宇宙圏防衛軍所属、三島・玲奈ただいま参上!」
その両手には、「船」から転送させたライフル型の武器を抱えている。
「えっと零ちゃんだっけ? お願いだから、そのボウヤ押さえといてね!」
「ハイ!」
身動きできない和也を狙い、構えたライフルから数発の銃弾を撃ち込む。
「何の……真似だ? 僕の体に、銃なんか――」
だが、その言葉はすぐ悲鳴に取って代わられた。
少年の衣服が破れ、全身の筋肉が暴走したように膨張しビクビク蠢動している。
「フフン♪ どう? 特製・癌化ウィルス弾のお味は」
「癌化ぁ? おい、そんなもの使ったらこいつの命も……」
「あ、だいじょーぶ。癌は狂ったDNAを壊死させる防衛本能でもあるの。たとえ魔仙丹の成分は不明でも、『本来のDNA』から逸脱した細胞を選択破壊したら一緒に死滅するよう、キチンとプログラムしてあるよん」
その言葉通り、十分ほど後には和也の肉体は元に戻り、そのままガックリと意識を失った。
「終わったんですね……」
自身の超回復、加えて怨霊たちにダメージを癒してもらいながら立ち上がった零を、駆け寄ったエマがぎゅっと抱き締めた。
「頑張ったね。よく頑張ったね、零ちゃん……!」
■エピローグ〜草間興信所
『現在、徳田和也はIO2の隔離施設にて療養中。容態は快方に向かいつつも、記憶の大半を喪失している模様……』
PCに事件の報告を一通り打ち込み終わり、武彦は新たな煙草に火を点けた。
もっとも、この報告書を出すべき依頼人はもはやこの世にいないのだが。
和也の記憶は果たして回復するのか。
回復したとして、彼は己の犯した罪とどう向き合って生きていくのか――。
(一生記憶喪失の方が……本人にとっては幸せかもな)
そんなことを思いつつ、ぼんやりと煙草をふかす。
その日の家事を一通り終えた零が、妙にウキウキした様子で事務所に入ってきた。
「お兄さん、お電話お借りしていいですか?」
「おう、どうぞ」
受話器を持った零が、電話の向こうに出た相手と何やら楽しげに話している。
「そういや、あいつ最近よく電話してるな……相手は誰だ?」
「玲奈ちゃんよ。あの事件以来、すっかり仲良しになったみたい」
傍らで書類を整理していたエマが、微笑ましそうに答えた。
「ああ、IO2の……ん? 彼女、確か普段は衛星軌道で待機してるんだよな? いったいどうやって電話してるんだ」
「ええと……確かアメリカにあるIO2の本部に国際電話して、そこから回線を回して貰ってるって……」
そこまでいいかけ、武彦とエマはハッとしたように顔を見合わせた。
「零ぃ――っ!!」
その月の草間興信所の電話代が、膨大な額に上ったことはいうまでもない。
〈了〉
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
(PC)
7134/三島・玲奈(みしま・れいな)/女性/16歳/メイドサーバント
0086/シュライン・エマ(しゅらいん・えま)/女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
(公式NPC)
草間・武彦(くさま・たけひこ)/男性/30歳/草間興信所所長、探偵
草間・零(くさま・れい)/女性/??歳/草間興信所の探偵見習い
(登録NPC)
逢魔・冥(おうま・めい)/女性/10歳(外見)/「虚無の境界」使い魔
(その他NPC)
徳田隆三(とくだ・りゅうぞう)/男性/88歳/「光亜製薬」会長
徳田和也(とくだ・かずや)/男性/17歳/徳田隆三の孫
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■ ライター通信 ■
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こんにちは、対馬正治です。度々のご指名、いつもお世話になっております。
いつもながら、当方の意表をつくプレイングありがとうございます。
今回のストーリー、玲奈さんには私の初登録NPCである「冥」相手に空中戦で活躍して頂きました。冥は軍用機でいえば「電子戦機」+「早期警戒機」に相当するキャラで、魔仙兵と連携して闘えば霊鬼兵すら敵でない! ……はずだったのですが、よりによって初陣でぶつかった相手が悪かったようです(笑)。まあこの子には今後も懲りずに悪行三昧させる予定なんでどうぞよろしく。
ちなみに玲奈さんのコードネーム「シエラ27」の元ネタはおそらく……ですね。ありがとうございます(謎)
では、ご縁があればまたよろしくお願いします!
(なお「エマVer.」及び「玲奈Ver.」はほぼ同一ストーリーですが、部分的なPC視点に相違があります)
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