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<東京怪談・PCゲームノベル>


◇白秋流転・壱 〜立秋〜◇


「はああっっ!? い、いきなり何なのキミ!?」
 突如目の前に現れた少年に「殺してくれ」などと言われ、杉森みゆきは素っ頓狂な声を上げた。
 極々普通…かどうかは主観によるだろうが、とにかく一般人を自負する者としては当然の反応である。
「え、だから、ボクを殺して欲しいなーって。あ、今すぐってワケじゃないよ? 色々条件があるから、それ満たしてからになるけど…」
「そうじゃなくてっ!」
 少年の言葉を遮って、みゆきは感情のまま捲し立てた。
「よ、よくわかんないけど、そんな簡単に殺すとかなんとか言うものじゃないよ。命っていうのは一個しかないだーいじなものなんだから。めっ!」
 そんなみゆきに対して、少年はきょとんと目を瞬かせていた。かと思えば、すぐにその表情を楽しげな――しかしどこか自嘲するような笑顔に変える。
「命が一個しかないだーいじなもの、か。…うん、まあそれはそうなんだけどね? ボクの命に関してはちょっと違うの。道具の一つみたいなものっていうかぁ…うーん、どう説明したらいいかなぁ」
 首を傾げて悩む少年。話に付き合う義理も何もないのだから、この間にさっさとこの場を離れた方がいいのだろう。明らかに少年の言動は普通ではないのだし。
 しかし、みゆきはなんとなく少年を放っておけないような気がした。
 そして、ちょっと考えた後、口を開く。
「…キミ、何か悩みでもあるの?」
「………『悩み』?」
 みゆきの言葉は想定外だったのか、少年は意外そうに単語を繰り返した。
「そう。困ってるなら相談に乗ってあげるから、よかったらお姉さんに話してくれない?」
「え。…『お姉さん』?」
 心底疑わしそうな目で、少年はみゆきを見た。それにみゆきはむっと顔をしかめる。
「…これでもボクはキミよりお姉さんなの、21なの。キミ、どう見てもハタチ以上じゃないでしょ?」
「確かにボクは15だけどぉ…キミも同じくらい、っていうか下手すれば年下に見えるんだけど。すっごい童顔だね?」
「失礼なっ!」
「まぁそれはおいとくとして」
 にっこり、と少年が笑う。口から出掛かっていた反論を思わず引っ込めるみゆき。
(むぅぅ、なんだか遊ばれてる気がする……)
 そんなことを思っているみゆきをよそに、少年はどこかはしゃぐような雰囲気を纏いつつ話し始める。
「自己紹介まだだったね、そういえば。ボクはハク。まぁ好きに呼んで。おねーさんは?」
 わざとらしい『おねーさん』呼びにつっこみたい気持ちはいっぱいだったが、多分そうしたところでいいように言いくるめられそうな気がしたので、みゆきは平静を装って答えることにした。…ちょっとばかり少年を見る目が非難がましくなったのは仕方ないことである。
「杉森みゆき、だよ」
「杉森みゆきさん、ね。…んーと、困ってるなら相談にのってくれるんだよね?」
 確認するようなハクの言葉にみゆきは頷く。
「ボクの目下の悩みごとっていうのは、さっき言ったけど、『ボクを殺してくれる人』が見つからないことなの。だからおねーさんがそれを了承してくれれば悩みごとは解消するんだけど?」
「だーかーらーっ! 殺すとかどうとか物騒なこと言わないの! そもそもどうしてそんな人探してるの? 理由は?」
「理由? …理由はね、ボクがボクじゃなくなるため、だよ。ボクっていう存在が器から消えるための儀式、みたいなものかな。ボクの『身体』は必要だけど、中身はいらないから」
「え、…?」
 どこか抽象的な言葉に、一瞬理解が遅れる。そして言葉の意味を理解して、さらに混乱した。
「キミが、キミじゃなくなる…って、どういうこと?」
「言葉の通り。ボクのこの身体は『器』なんだ。だから……えっと、いきなりここ説明するのは難しいから、ちょっと補足させてもらうね」
 そして考えをまとめるように視線を宙に浮かべつつ、ハクは語る。
「ボクの一族は『式家』って言うんだけど、これは春夏秋冬の『四季』が源なんだ。で、一族の中でも、春夏秋冬にそれぞれ性質が分かれるワケ。ちなみにボクは『白秋』――秋に属するんだけど。それで、当主の言によって、ある儀式が行われることがあるんだよ。季節ごとに分かれてね。その儀式の『白秋』の担当者がボクなの。その儀式によって起こることはどの季節も一緒だけど、その過程は違うんだ。『白秋』の場合は儀式担当者――便宜上、一族内では『封破士』って呼ばれるんだけど――を殺してもらわなきゃならないんだ。しかも誰でもいいってわけでもないから性質悪いよね。封破士と相性がいい人じゃないとダメなんだってさ。で、探してみたワケだけど、中々見つからなくって。やっと見つかったのがキミなの」
 そこで一度言葉を切って、みゆきに笑いかけるハク。みゆきはそれに応える余裕もなく、ただ告げられた言葉たちを必死に理解しようとする。
 そんなみゆきに柔らかな笑みを向けて、ハクは再び口を開く。
「で、さっきの話に戻るけど、ボクは『封破士』で『器』なんだよ。『器』っていうのは、『魂の器』のこと。一族の当主の大昔の仲間を『降ろす』ための器。まぁ、降霊術みたいなものかなぁ。一族の当主って言っても、ボクたちと当主に血のつながりはなくってさー。『当主』って呼んでるのもボクたちが彼に絶対服従だからっていう理由だし。…でね、『器』はその『魂』を受け入れなきゃいけないわけだから、もともと入ってる魂は要らないワケ。ボクの身体は必要だけど、魂は必要ない。だからボクの魂を消さなくちゃダメなの。それが出来るのは、一族以外で『封破士』と相性がいい人間…今回の場合はキミだね。で、単に殺してもらえばいいってワケじゃなくて、段階があるの。一族内では『封印解除』って呼んでるんだけど。それに、『封破士』に対して何らかの感情を抱いてもらわないといけないっていう条件もあるし。『愛情』とか『憎しみ』とかそういうね。キミは見たトコ初対面から他人に対して強い負の感情をもてなさそうなヒトだから、まあ『友愛』とかそーいうカンジの気持ちを持ってもらえればこっちとしては助かるんだけど。……大体分かった?」
 そう言ってハクが顔を覗き込んでくるが、みゆきはあまりにも理解の範疇を超えた話についていけず混乱していた。何とか聞いた話を整理してみようとはするものの、世界が違いすぎてどうにもならない気がする。
「んーとさ、キミこういう系に強そうじゃないから、別にちゃんと理解しようとしなくってもいいよ? ただ、ボクはキミと仲良しにならなくちゃいけなくて、条件が満たされたらボクを殺してねっていうだけの話だから」
 全然『だけ』で括れない話だと思うのだが。
「だから、簡単にそういうこと言っちゃダメだってっ!」
 とにかくこれだけは分かってもらわなければとほぼ反射的に言ったみゆきは、ハクと視線が交わり息を呑む。
 ――…ハクの瞳は、とても、空虚だった。
 空虚で、そして底には諦念と何かを嘲るような、悲しむような光が透けて見えた。
「だって仕方ないじゃん。これがボクの存在意義なんだから、さ」
 思わず言葉を失ったみゆきに、ハクは笑う。何かを隠すように、にこりと笑った。
「今日のところはこれまで、かな。とりあえず目的は達成できたし。言っておくけど、キミがイヤだって言っても『封印解除』は手伝ってもらう――っていうか手伝ってもらわないと困るし。だから、これからよろしくね? 大丈夫、二十四節季にあわせて『白秋』の間に6回会ってくれればいいだけだよ。難しいことじゃないし…まあ、ちょっとイヤかもしれないけどさ、ボクと仲良くするとか。殺すのだって、そんなに気負わなくても大丈夫だから、ね?」
 優しくハクは告げる。そして吐息がかかるかと思うほどの至近距離で、みゆきに囁いた。
「それじゃあ、またね」
 その瞬間、一陣の風と共に、ハクは消えた。まるで最初からそこに居なかったかのように。
 残されたみゆきは、ただ呆然とその場に立ち尽くすしかなかった――。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0085/杉森・みゆき (すぎもり・みゆき)/女性/21歳/大学生】

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■         ライター通信          ■
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 初めまして、杉森さま。ライターの遊月と申します。
 「白秋流転」へのご参加有難うございます。

 えー…ぶっちゃけますと、今回で殆どの『謎』はハクが喋ってしまいました。ハクはそこまで説明上手じゃないし気分で徒然に話すので、ちょっと分かり辛いかもしれませんが。
 『白秋』の封印解除の都合上、これからのシナリオではちょっとスキンシップが激しくなっていく可能性があったりします。それはダメ!という場合はどうぞ仰ってくださいませ。
 これからのシナリオで、ハクの本音を杉森さまが引き出してくださったら嬉しいです。ハクは素直じゃないので。

 イメージと違う!などありましたら、リテイク等お気軽に。
 ご満足いただける作品になっていましたら幸いです。
 それでは、本当にありがとうございました。