コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<Trick and Treat!・PCゲームノベル>


『魂の旋律―残された微かなリズム<命の賛歌>―』

 土の匂いが感じられる。
 ぼんやりと、景色も見える。
 だけれど、その全てが色あせていて、心は何も感じない。
 何も、聞こえない。

 目を――開けているのだろうか。
 自分の姿さえも忘れてしまった。

 突然現れた子供に、口の中に何かを入れられた。
 その瞬間、全てが消えてしまった。

 なりたい姿を見つけられなかった者の末路。
 無くなってしまった、身体。
 無くしてしまった、記憶。

 トン、トトン、トントン

 ……音が、響いた。
 普段は、意識しない音だ。
 低く、リズムを刻んでいる。
 これは、自分の命のリズムだ。

 一歩、前へ進む。
 失った身体と心を取り戻すために。


 強い想いを思い出せ。
 大切な人を思い出せ!
 自分を表す言葉は何だ?
 自分は何を求めている!?

**********

 歩いている。
 しかし、足はない。
 霧に包まれた白い世界が、少しずつ動いていく。
 歩いている。
 前へ。
 一歩、一歩、足はなくとも。
“私は誰だ?”
“帰るべき場所はどこだ”
 答えはない。
 自分の声さえも聞こえない。

 薄らと見える景色が、変わっていく。
 ……ように見える。感じる。
 それさえも定かではない。
 多分、歩いている。
 前へ。
 一歩、一歩。

 記憶が混濁し
 自分の存在も不確かだ。

“自らの存在を信じろ”
“生命の炎を感じ取れ”

 何も無い。
 何もかも希薄な此処に。
 たた一つだけ。
 微かに在る音がある。
 
 トン、トトン、トントン

 命のリズム。
 自分が生きている証。
 存在している証。

 耳を澄ます。
 心を澄ます。
 自分が奏でるリズムに。

 自然と、声が出ていた。
 耳では捉えることのできぬ声。
 心に響き渡る声。

 脳裏に浮かぶ霧の中、微かに映る景色に
 思いを馳せた。
 リズムが変わる。
 心が深く惹き込まれる。

 声を、届けた。
 歌を、届けた。

 万聖夜に来たりし精霊達。
 その中に在る自分。
 今は見えぬ手を開き。
 戦に斃れし英霊を
 両手で覆い、涙した。
 胸に抱いて、愛おしむ。

 風が土の匂いを運ぶ。
 手が、見えた。存在した。
 細く、長い指が見える。
 指を絡ませる。
 胸の前で、手を組んだ。
 閉じているのか分からぬ眼。
 瞼の裏に映るは、少女の姿。

 貴女は誰だ?
 何故、私をそのような眼で私を見る?

 彼女の瞳は切なげで
 その悲しみに満ちた眼に、胸が締め付けられる。
 だけれど、芯は強く
 眩しい輝きを放っている。

 この身体は彼女を知っている。
 そう
 あれは“娘”という存在だ。
 娘と共に、広がる世界。
 現れてゆく世界。人々。
 私の愛しき者達。
 記憶の中の、愛しき臣民達。

 肉体の存在を微かに感じる。
 身体を強く、抱きしめる。
 僅かに見える自分の身体。
 存在を確かめ
 鼓動を聴く。

 リズムが流れる。

 トトトン、トトトン、タンタタンタタタンタンタンタンタン――

 高鳴るリズムは刃の如く。
 響く音は、鋭き刀身。
 唯、願う。
 平和の訪れを。
 古の龍に蹂躙されし祖国の民に
 どうか武運を……。

 音が聞こえた。
 光が降り注いだ。
 霧が光に吸い込まれていく。

 声が、音として響き渡る。
 其れは、生命の音。
 生命の燃焼。
 秋の森が、琥珀色に染まり
 溢れ出る、命の賛歌が響き渡る。
 
 森は、黄金色の稲穂に姿を変え
 輝く黄金の光と共に、幾多の光が乱舞する。
 紡がれる歌が、優しい響きを帯びる。
 光は円となり、舞い踊る。

 時の果ての故国。
 眠る英霊に安息を。
 今は、抱きしめることのできない貴方を
 私は深く、愛している。
 例え、刃に倒れようとも。
 全ての臣民の、幸せを願い、求め続けていく。
 この命、全ての愛すべき民たちと共に――。 

 響き渡る歌は、自分の口から紡ぎ出されている。
 流れる音楽は、舞いし精霊達の奏楽。

 私は、誰?
 誰なのだろう。

 白い粉が舞っている。
 淡い風に、踊り狂う。
 一陣の風が、口の中へ。
 砂糖菓子の甘い味が広がっていく。

 これは、私の身体の記憶。
 彼女の記憶、だ。
 締め付ける想いを胸に、足を踏み出した。

 私の名前は藤田あやこ。
 リアノーンシー王女の身体を持つ者。

 光がはじけ飛ぶ。
 音がはじけ飛ぶ。
 一つの世界が消えてゆき。
 新たな世界が現れる。
 見慣れた街。
 見慣れた風景。

 一歩、進んだ。
 足がある。
 身体がある。
 琥珀色の光は、もう見えない。
 街の匂い。
 人々が奏でる音。
 数々の雑音。

 自分の音は消えてしまった。
 自分の存在と引き換えに。

 だけれど、口を開けば
 紡げるリズムがある。

 歌っていた。
 身体の記憶の歌を。
 切なく、凛々しく、慈愛に満ちた歌を。

 ――或る有名な詩人はこう述べた。
『リアノーンシーは生命を与える妖精で、詩人や歌い手に霊感を授ける』と。
 対して、詩人にして劇作家の友人はこう説明する。
『リアノーンシーは、生命を燃焼させながら霊感を与えるため、優れた詩人や歌い手は短命なのだ』と。

 生命が織成す歌。
 彼女が奏でる歌は、命そのもの。
 ――命の賛歌――

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【7061 / 藤田・あやこ / 女性 / 24歳 / IO2オカルティックサイエンティスト】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛

ライターの川岸です。
この度は、ハロウィンコラボ企画『魂の旋律―残された微かなリズム―』にご参加いただき、ありがとうございます。
いつもとは違うシリアスな発注文に、いささか緊張しながら書かせていただきました。
ノベルの方は、小説というより、詩のようになりました。何か問題がありましたら、リテイク指示お願いいたします。
あやこさんの奏でた音楽は、PURE REDさんの「Trick and Treat!・PCイメージミュージック」から発注ができます。
どうぞよろしくお願いいたします。