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<Trick and Treat!・PCゲームノベル>
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はろうぃん・ないと
いつもと姿が違うけれど。
いつもと服装が違うけれど。
コレが自分の望んだ姿だというのなら、仕方がない。
*
大きな、美しく白い城から一台の馬車が飛び出す。
このままでは魔法が解けてしまう。早く家に帰らなければ。
城での舞踏会は、一夜の夢。だが夢だとしても無事に家に帰らなければダメなのだ!
行く時は良くても帰る時が困るのだ。
帰り道は、帰るのを妨げる吸血鬼や、フランケン、狼男などがいる。そいつらのいる墓地を通らなければならないのだ!
***
がたがたと揺れるのはカボチャの馬車。
空には大きな丸い月が昇り、暗い森を照らしていた。
馬車は大きな白い城からの帰り道を通っている最中だ。荒れた道を通るのに速度を出しているのは、かなり急いでいるためだ。
この先にある森を抜けるまでは気が抜けない。なにせ時間は深夜。怪物たちが目覚め、帰りを邪魔する時間帯なのだ。
**
馬車の中にいるのは三人。おとぎ話に出てくるお姫様の格好、と言えばわかりやすいだろう。桃色の可愛らしいドレスに、頭の上には銀のティアラをちょこんと乗せている八唄佳以は頬を少し赤く染めて視線を伏せていた。
(こんな格好したことないのに……な)
似合っているだろうか、今の自分に。顔を少しあげ、視線に気づいて隣を見る。
「佳以ちゃん、かわいい」
語尾にハートマークがつきそうな声だ。にこにこと笑顔をしてこちらを見ているのは、佳以とは対照的に「王子様スタイル」の欠梛壮だ。カボチャパンツではないが、白タイツ姿である。
「壮はまたそういうことを……」
「だって本当だもん」
えへ、と笑う壮である。
「佳以ちゃんと一緒にお城からの帰り道……ああ、なんてロマンチックなんだろう〜」
きらきらと瞳を輝かせる壮を、佳以は呆れたような視線で見ている。車内に彼らだけ、というわけではない。もう一人いるのだ。どうやら壮にはもう一人の存在は目に入っていないらしい。
佳以の向かい側には足をぶらぶらさせて座っている幼い少女がいる。年齢は5歳か6歳。大きな斑点のついている、どこか茸を模したようなバルーンワンピースを着た少女はシュライン・エマだ。
シュラインは自分の背後を振り返った。そこには小さな窓があり、御者の姿が見える。
御者として馬の手綱を握っているのは桃色の髪の少女だ。左眼に眼帯をし、凛々しい騎士姿で座っている。アリサ=シュンセンだ。
その横にはうきうきした様子で座っている、ガンマンの格好をした梧北斗。彼は被っているカウボーイハットをくいっと人差し指で上にあげた。
「この馬車や乗ってる人を護ればいいんだろ? へへへー!」
「……ミスター、あまりはしゃがないように」
ぴしゃりとアリサが言うと、北斗は唇を尖らせて「なんだよー」とぼやく。
馬車の後ろ側には後方の様子を見ながら立っているハル=セイチョウの姿がある。彼は狩人の格好だ。
馬車の前側に座っている二人は表情を引き締める。森に入ろうとしていた――。
*
がたんっ、と馬車が大きく揺れた。その拍子にシュラインの小さな体が軽く跳ね上がる。わっ、とシュラインが小さく洩らした。
「ああっ、大丈夫?」
慌てて身を乗り出した佳以だったが、揺れにうまくバランスがとれない。
「佳以ちゃん危ないって!」
佳以の腰に手を回して支える壮。
「大丈夫だから」
にこっとシュラインは微笑んだ。飛び跳ねてはいるが、子供の体のせいか軽くてそれほど衝撃はないのだ。
その時だ。
「どうやらすんなり通してくれないみたいですね」
というアリサの声が馬車の中に微かに聞こえた。
暗い森の中での頼りは月光だけだ。
北斗はうーんと腕組みする。なかなか敵の姿は見えない。
「なかなか出てこねぇなぁ」
この先は墓場になっているはずだ。ヤツらの根城ということだろう。
「出てこないならそれでいいじゃないですか」
「まぁそうなんだけどさぁ」
アリサにそう言っている時だった。ちょうど視界に、遠目だが墓場が入った。
木々の間から見える墓石たちを、北斗は凝視する。持っている銃を構えた。入っているのは銀の弾丸。どんな化物にも効くというわけではないが、銀は化物退治によく使われるものだからだ。
(追い払えればいいんだし)
緊張する北斗は、馬車が墓場に突入したことでごくりと生唾を飲んだ。
墓石が並んでいる中を進むのは気持ちのいいものではない。しんと静まり返った中を進む馬車の、がたがたと揺れる音だけが大きく響いた。
「……出てこないな」
過ぎ去っていく墓場の景色を横目に見ていた北斗は、ん? と瞬きをした。
墓石の上に何かがいる。なんだあの大きな物体は?
「お?」
身を乗り出す北斗の腕を、アリサが掴んだ。
「どうやらすんなり通してくれないみたいですね」
「やっぱあれって……! うわっ!」
蝙蝠の大群が馬車の上を飛び交う。体を少し屈める北斗の横で、腰にある細い剣を鞘から抜くアリサ。
ぼこぼこと墓場の土の下から何かが這い出てきた。ゾンビどもだ。かなり近いところでは狼の遠吠えも聞こえる。
「お、俺……ゾンビ系は苦手なんだよ……」
苦笑いのような、薄ら笑いの北斗であった。
馬車の中ではさっと緊張が走る。
佳以は不安そうに窓の外を見た。馬車の窓は、ガラスなどはまっていない。暗闇の中にぼんやりと浮かぶ墓場が見える。
「わぁ……」
いかにも、という感じだ。
「佳以ちゃん、あんまり乗り出すと危ないよ?」
「すごいことになっていますよ」
「すごい?」
何がとばかりに壮が佳以とは反対側の窓の外を見遣る。確かにすごいことになっている。すぐそばを蝙蝠が飛び、土の下からは埋められていたらしい死体が次々と出てきている。凄まじい光景だ。
「わあ〜」
シュラインが佳以と同じ窓から外を見る。ここを通る人間を狙うというのは本当らしい。
不安そうにしている佳以に気づき、シュラインは城でもらったお土産のお菓子を「どうぞ」と渡した。
「え? 私にですか?」
「元気がでるよ」
にっこり笑って言うと、佳以もつられて微笑む。佳以がクッキーを口に含んだ。おいしい。
馬車の中がなごやかな空気に満たされ始めた時、壮が外に向けていた視線を車内に戻した。瞳がキッと吊り上がっていた。
「佳以ちゃんとの甘い一時を邪魔されたら困る。可哀想だけど、徹底的に排除させてもらうから」
むんっ!
と、気合いを入れる壮を佳以は心配そうに見ている。止めるべきかどうするべきか悩んでいるのだ。
「……お菓子あげたらやめてくれないかなぁ、襲うの」
せっせと、お土産のお菓子を小分けにしているシュラインだった。菓子で言うことをきいてくれるような連中は、いないようだったが。
*
馬車に近づいて来るゾンビどもは動きが遅いので放っておいてもいいだろう。問題は蝙蝠たちだ。
「ミスター・アオギリ、大群の中に大きなものがいます! それを狙うのです!」
「てか、み、見えないんだけど!」
視界を邪魔する黒色。とてもではないが目を開けていられない。
馬車の後ろ側では、猟銃を構えて撃っているハル。追い払っているのは後方から迫ってきているゾンビたちだ。
突然がたんと馬車が大きく揺れた。手綱を握っていたアリサは慌てて振り向く。
何かが馬車に飛び掛ってきたのだ。馬車のドアを開けようとしているのは狼男。
「ハル!」
叫ぶアリサの声に、猟銃を慌てて前方に向けるハル。だが。
ドアが勢いよく開かれた。唖然とするハルは、車内からドアを蹴り開けたらしい人物と目があう。
「ったく。佳以ちゃんに危害を及ぼそうだなんて信じられないよ」
壮はハルからすぐに視線を逸らすと、そう言ってドアを閉めて車内に戻った。
次から次に馬車にしがみついてくる狼男たちを、ドアを有効的に使って壮は中に入ってこれないようにしている。
一方、北斗のほうは銃をうまく構えられない。蝙蝠がかなり鬱陶しい!
「えぇい! くそっ、この!」
ぶんぶんと銃を持った手を振り回すが、なかなかうまくいかない。
横では同じように蝙蝠に悪戦苦闘しているアリサがいる。そんな彼女に何かが覆い被さった。黒い大きなそれに、北斗は怪訝そうにする。よく見ればその黒いものはマントだ。
(てことは)
吸血鬼!?
青白い顔の男がアリサを拘束して、喉元に牙を立てようとしている!
まずい、と北斗が思った刹那、吸血鬼の顔に白い包みが当たり、粉が舞い散った。
「へっくしゅんっ、くしょんっ!」
くしゃみをしながら吸血鬼が慌ててアリサから離れる。一斉に蝙蝠たちも空高く舞い上がった。
北斗は振り向く。馬車からこちらを覗ける小窓越しに手を振っているのはシュラインだ。
「サンキュ! 今のなに?」
「もらったお菓子を潰したものなの。目潰しになるかと思って。……でも、勿体無いことしちゃった」
眉をさげるシュラインに北斗は「ほんとに助かった!」と礼を言う。
車内では佳以が馬車にしっかりと掴まり、激しい揺れの中でなんとかバランスをとっていた。下手に倒れてしまうと危ない。
「そ、壮……あまりひどいことは……」
か細い佳以の声は騒ぎに紛れてしまう。
馬車の揺れに体を任せながらも、シュラインは紙に包んだ菓子を懸命に手で潰している。壮はドアから入ってこようとするものを追い出していた。
ふいに佳以は視線を背後に向けた。背後の窓から何者かが手を入れてきていた。あまりのことに蒼白になる佳以は、うまく悲鳴が出せない。
どうしようと思った瞬間、シュラインが素早く紙包みを侵入してきた腕に投げつける。反射的に腕が引っ込んだ。
「ありがとうございます」
「どういたしまして」
礼を言う佳以ににこーっと笑顔を向けるシュラインだった。
*
銃を撃ちまくる北斗は、汗びっしょりだ。一体どれくらいの時間が経った? そんなにかかっていないような気がするが、早く抜けてくれ!
「アリサ、まだかよ!」
墓場は通り抜けているが、森を抜けない限り怪物たちは諦めないだろう。
「もう少しで抜ける……!」
アリサの言葉は正しかった。森の中を抜けたのだ。
突然視界がひらけて、北斗は安堵の息を洩らした。体から力が抜ける。
「はぁ〜、つかれた……」
車内では北斗と同じように全員が無事に抜けきったことに安心した。
「やった! 佳以ちゃん、無事に森を抜けたよ!」
抱きつこうとした壮より早く、佳以がシュラインの手をとって上下に大きく振った。
「やりましたね!」
「うん!」
にこにこと微笑み合う二人を見て、壮は「あれぇ?」と不思議そうな声をあげた。とてもではないが、この二人を邪魔できそうにない。
「あ〜あ、また逃げちゃった」
「美人ばっかりいたから血をもらいたかったのにぃ」
「仲間になって欲しかったねぇ」
森の闇から、そんな囁き声が響く。去っていく馬車には、聞こえないだろうけれど。
そしてひっそりと、森は元の静寂を取り戻していった――。
━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【7183/欠梛・壮(かんなぎ・そう)/男/18/高校生】
【7184/八唄・佳以(やうた・かい)/女/18/高校生】
【5698/梧・北斗(あおぎり・ほくと)/男/17/退魔師兼高校生】
【0086/シュライン・エマ(しゅらいん・えま)/女/26/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご参加ありがとうございます、シュライン様。ライターのともやいずみです。
キノコの妖精さん姿で参加していただきました。いかがでしたでしょうか?
少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。
今回は本当にありがとうございました! 書かせていただき、大感謝です!
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