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加登岬の遺産 解決編 真相
篤志が見つかり、彼が持っていた遺書とコピーを比べる。
「一つ抜けるだけでこういう意味に変わるとは……。しかし、何故だ? おまえが逃げると澪が苦しむと分かっていただろ?」
「しかし、其れしか僕には方法がなかった。」
完成された遺書の概要は以下の通りになる。
二つに財産を分ける。一族全般と、かわいい孫の澪と篤志に。一族全般の家族は、それを法律に基づき、配分する事。わだかまり無く指針は記している。澪と篤志には、一人でも生きていけることと、この本家の家、そして、私の秘密基地、村の土地を力会わせて守ってほしい。
「なんか、良く重要部分を……抜き取ったもんだな。」
草間は感心していた。
この遺書の最後には、願いが書かれていた。
全ての親族は、諍い無く、村の未来と平和を守ってほしい。
この村がダムに沈むのは絶対に阻止せねばならないのだ。
「なぜ、ダムに?」
「あの村はダムの場所として、適している土地なのです。しかし、全滅危惧種がいるためかろうじて……。」
「ふむ。」
「しかし、僕の家と他の一部が、それを狩ろうとしていたのです。おそらく、国ではなくダム事業と何かの裏取引をしていたのでしょう。」
そうか、金なのか。
それと、本家に対しての恨みか?
草間は反吐が出そうになった。
零も、館で得た情報で知る。
この村が危険であることを。わずかな怨霊が告げた。
殺気が、自分に向けられている。
「早く来て兄さん……。」
銃なり毒なりで死ぬような彼女ではない。しかし、それだと、「澪」ではないと、ばれるのだ。
草間は急いで館に向かうのであった。
〈急〉
行動を共にするために、皇茉夕良は零と一緒にいる。修羅場を幾度かくぐっている彼女は、殺気などを感じることができる。
「慎重に行動しましょう。」
「はい。」
お茶の時間も、なにかの稽古の時間も茉夕良が一緒にいた。
そのあいだ、ネットで怪我を負った、宮小路皇騎は確実にいやしていく。ネットの端末に自分の意志を残しているで、電子世界でわかることをまとめることはできそうだ。もちろん、“破損”した自分の部分を探す旅もしている。
殺気は感じるが、仕掛けてはこない。
このまま、草間と澪が戻ってくることを願うしかない。茉夕良は思った。
「急がないと。」
車を走らせる。
向こうでも少し動きはあった。危険な状態になる前に、すべてを終わらせるべきだろう。
「村近郊に着いたら調べたいことがあるの。」
シュラインが、器用に携帯を操る。
運転席の草間は、何をするのかすぐにわかった。
ダム問題に関係している人と出会えるかどうかを、調べているのだ。
一通り、話を聞いてから、アポを取り、地域担当だった、皇に“皇騎のつかんだネット環境を使い”話をする。もちろん、篤志がいるため、ダム計画に関わる企業を当たることはたやすかった。しかし、“証拠”がない。
可能性としては、澪の命をねらうのはダム賛成や賛成する親族だけではない。この村を守るために、誤解をもった反対派も澪に手を出そうとしている可能性がある。
「皇さん、そっちでわかることってあるかしら?」
「世間話程度であるなら、ダムの話はあったのですよ?」
「そう。」
皇が世間話で村人や町の人から聞いた情報を元に、手がかりの糸をたぐり寄せる。
「そう、三浦建設と保護同盟で一時言い争いがあったのね?」
「はい。」
「ちょっと当たってみるわ。」
シュラインは電話を切った。
「篤志さん、澪さん、一緒に来てくれないかしら?」
「どこに?」
「三浦建設と保護同盟に。あと、新聞社かしら?」
「はい。」
シュラインの言葉に、二人はうなずいた。
「急がないといけないが、まあ、裏取りは必須だろう!」
草間はハンドルを強く握り、アクセルを踏んだ。
加速する車が、集落を目指す。
〈事件〉
山奥から、火薬の音がした。あの、独特の乾いた音。それなのに、轟音ともとれる不思議なもの。猟解禁にはほど遠い時期のはずだ。
澪に扮している、零の持っていた、ティーカップが割れた。
「痺れを切らした?」
茉夕良が立ち上がる。
すぐに状況を把握する皇騎は、式神のフクロウを飛ばした。
旋回し、その射手をみつけ、1羽が飛びかかる。しかし、それほど強くない式神なので、簡単に追い払われる。
「くっ。逃がすか!?」
「ここは私が。怪我も治ってないでしょ!?」
「しかし!」
「交代! 私もこう見えておいかけっこは得意だから! もう1羽で、周辺情報よろしく!」
皇が走っていく。
「零さん大丈夫ですか?」
「ええ、驚いきました。」
茉夕良の動きともう1羽の式神により、簡単に犯人を捕まえることができた。
「事情を聞きましょうか?」
「くっ。それはいえない!」
皇は、犯人を上手く間接に決めている。少しでも動けば痛みが走る。
「警告だよ。当主候補がこの村のダム計画を完全に中止させないために!」
その言葉はフクロウを通じて、皇騎にも届いている。
つまり、ダム賛成派は、反対派の一人でもある澪を消したいのだ。
これは一族だけという形ではなく、企業の利益ということになるだろう。
「こうしてはいられないな。」
フクロウを通じて、茉夕良にいう。
「もう1羽でロープを持ってくる。いろいろはいてもらわないといけない。」
「わかったわ。でも、この極め技は疲れるから早くしてね。」
「はい。」
〈裏〉
シュラインは建設の事務所を訪れる。
澪と、篤志がいることで建設の幹部方は、焦りを隠せなかった。
「なぜ、姿を消したのですかね?」
「それも何も私の家族とあなたが、私たちをねらうからではないですか? 己の利己のために。」
「私たちはそんなことをしましたか? 証拠は?」
静かではあるが緊迫した、雰囲気の中、話は続けられる。
草間が間に入って、この怪しい建設会社と二人の緊張を柔ら得ていた。
シュラインがメールを見る。写真付きだった。
「ふむ、こういうことが起こっているのね。」
それは、男が銃を持っていた、揺るぎない証拠だった。
もっとも、皇に縄で縛られていたのであるが。
次に、保護団体に向かうと、二人はあつく歓迎される。
「心配いたしました。私たちもダムを止めるために必死で、でも、この種が確認されています。」
代表が全員に、リストをあげた。
レッドリストのほかに“絶滅確定”したとされる日本独特のカワウソまであった。
草間とシュラインは、その姿に“あれ”を思い出すが、顔に出さないでおく。
「では、川や、山。それを守るために。」
「ええ、それに、私たちは、あの自然をずっと守っていくために、それ以上に、あの村がすきなんです。なくなったあの方の意志でもあります。」
代表と幹部はいう。
逆恨みの筋はない。あくまで直線的になってきた。
あとは、順逆……。篤志が隠れるという時期だ。
「澪さん、聞きたいことがあるの。」
「はい。」
「命をねらわれるように感じたのは、いつ?」
「公開日です……。」
「なるほど、わかったわ。」
「私は、こうなるまで、世間のことは全然わかりませんでした。」
悲しそうに澪は答えた。
彼女は嘘をついていない。
なにか、の重圧が、彼女に何かをもたらしている。事実命がねらわれているということは確かにあった。
なにか、いろいろと、矛盾や引っかかることはあっても、これは、賛成派が、公開された遺書にかかれた「澪と篤志がいない場合」にしたかったともいえる。そうすれば、当主が置き換わり、ダム工事反対派を退け、大金をせしめるのだろう。
この先の、不幸などないといわないばかりに。
ある程度の裏付けは終わり、いまは零が危ない。
「急ぎましょう!」
「ああ! 乗れ!」
4人は車に乗り込み、猛スピードで屋敷に向かうのであった。
「家族会議だと? それなのに部外者を入れるなんてなんということですかな?」
親族は不機嫌だった。
「大事な話があるからです。当主として。いや、村を守るものとして。」
澪に扮した零が毅然として親族に向かっていう。
「私が、先ほど命をねらわれたのです。私はほとんどのボディガードも婚約者も、信用していません。」
今まであったこと、これから起こることを予想して、零は推理し、こう結論した。
「桑名さん、篤志兄さんが秘密を握り、探し出せる前に私を殺す。その後に……。」
桑名の当主が怒る。
「そんな事をして、私たちが得するわけ、ないじゃないか?」
「あります。」
皇騎の後ろに、縄で縛られた男がいた。
「彼が襲った理由も、あらかた聞き出しました。」
「……!」
桑名がたじろぐ。
そして、部屋に向かう足音が4〜6つ。
草間と、シュライン、澪に篤志だった。
一族は、どよめく。
「澪さまが二人?」
それを遮ったのは、篤志と澪だった。
あらゆる証拠を突きつけ、皇騎の仕入れたネットでの証拠をちらつかせ、桑名と、その癒着している業者の仕業だという証拠と動機をあげたのだった。
「つまり、村を守るという使命より、金をとった亡者。あなた方には罰が必要です。」
当主としての威厳を込めた、澪の言葉が、とても凛々しかった。
〈終わりに〉
この事件はあまり大きく取りざたされなかった。あまりにも大きく出すと、加登岬家と村に傷が付く。ただ、ダム工事論争のなかでの一段落がニュースに乗っていた。絶滅危惧種の存在の写真、絶命種の生存確認。明るいニュースが、メディアを通して流れている。
変装していた零の待遇は村の親しい人に、とても驚かされていたのはいうまでもないし、篤志の無事を喜ぶ人も多かった。これからはぎすぎすした一族の関係を、直していこうと二人はほほえみあっていたのは興信所のメンバーの誰もが印象に残っていたと話す。
細々とした事件の処理もすんで、はれて、遺産の相続を果たした澪は、信頼できるボディガードと篤志を連れて、草間興信所にやってきた。少し小さめのトランクケースに、約束の500万が入っていたのだ。
「はやり、約束は守らないといけません。それに、草間さんと皆様には本当にお礼がしたいです。今はこういった形でしかないのですが……。」
と、少し申し訳なさそうにいう。
「事件は何とか片づいたからいいのよ。零ちゃんはちょっと危険があったけど、彼女は気にしていないから。ちょっと楽しく感じていたかもしれないって。」
「お姉さん! それは秘密って!」
シュラインがほほえんで零が真っ赤になって、その場でぱたぱたしている。
「私たちは、元から村の子。もう少し落ち着いてから、また遊びに来てください。」
「ああ、そうする。秋ぐらいなら紅葉狩りなどできるだろう。」
「ええ、もしかすると、貴重種が見られるかもしれませんよ。」
事務所は明るい笑いに包まれていた。
皇騎は、保護団体のスポンサーになって、広告活動にいそしんでいる。そして、茉夕良は、あの加登岬の村近くの待ちにて、親子でじっくり話をして、フィアンセ問題はあるにせよ、たまには家には戻ってきてくれとなど、新しい仕事と、個人的に明るいニュースが伝わってくるのであった。
加登岬家の空には、鳥が飛んでいる。
もうすぐ夏はやってくるだろう。
彼女たちに明るい未来を。
END
■登場人物■
【0086 シュライン・エマ 26 女 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【0461 宮小路・皇騎 20 男 大学生(財閥御曹司・陰陽師)】
【4788 皇・茉夕良 16 女 ヴィルトゥオーソ・ヴァイオリニスト】
■ライター通信■
滝照直樹です。
こんにちは、もしくはこんばんは。
解決編、いかがでしたでしょうか?
現実世界ではもう10月で、季節はずれもいいところDA! と思いながら書いています。
捜索・推理などは、やってみると難しいものですね、と考えさせられる話でした。こちらもまた勉強になり、新しい挑戦をしたいと思っています。
では、別のお話でお会いしましょう。
滝照直樹
20071012
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