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返魂の姿見
●オープニング
反魂香(はんごんこう)。
中国の書物に登場する神霊薬で、死者を蘇らせ、亡霊をこの世に呼び戻す力があると信じられている香。
漢(紀元前二世紀〜二世紀の中国)の皇帝、武帝がこの香を使い、寵愛していた李夫人の霊を呼び戻そうとした逸話は有名である。
越中富山の売薬の中でも有名な薬「反魂丹」は、万病に効くと言われている。
その効力を宣伝する目的からか、死者を生き返らせる反魂香にちなんでその名にしたらしい。
その香り漂う姿見が『幽玄堂』という店に納入された。
「おかしいですね…。このようなもの、頼んではいないのですが…?」
店主の香月那智は、首を捻りながらおや? と思った。
「また、この世のモノではない商品が紛れ込んでしまったようだな」
那智の隣にいる夢現も首をかしげる。
幽玄堂には、時折頼みもしない商品が舞い込むこともある。
姿見には、使用用途が書かれたメモが貼り付けられていた。
「どれどれ……」
返魂の姿見(はんごんのすがたみ)
同封されている線香を焚いている時間、この世のものではない人物と会えることができる。
亡くなった大切な人、可愛がっていたペット、等……。
時間は40分。その間だけ、姿見に映るモノと会話ができる。
あなたは、誰にお会いしたいですか…?
●秋雨
「まいったな、急に降り出すなんて……」
退魔の仕事を終え、帰宅する途中に突然雨が降り出したので天城・凰華(あまぎ・おうか)は、一軒の店先で雨宿りをすることに。
――あの日も、雨が降っていたな……。
暗い空を見上げながら、凰華はそう呟いた時、後ろから誰かが近づく気配を感じた。
「誰だ?」
魔剣アークを身構える凰華の背後に立っていたのは、幽玄堂店主の香月・那智だった。
「物騒なものをお持ちで……。外は冷えますよ。雨宿りをなさるなら、店の中へどうぞ」
「構わないのか……?」
「はい」
穏やかに微笑む那智には敵わないなと観念し、凰華は那智の言葉に甘え、幽玄堂で雨宿りをすることにした。
●姿見
「ハーブティーをどうぞ。お疲れのようですので、疲労回復にとローズヒップにしましたが宜しかったでしょうか?」
「あ、ありがとう……」
那智からティーカップを受け取った凰華は、一口飲むと安心した表情に。
身体が温まり、疲れが取れたことで心に余裕ができたのか、店に展示してある骨董品の数々を見る凰華。そこには、古い壷やら掛け軸、日本刀の類が多いが、中でも目を惹いたのは、見た目は普通の姿見だった。
「あの鏡は……?」
気になったので、那智に訊ねる。
「あの鏡ですか? 『返魂の姿見』といいまして、亡くなられた方と会話ができるという代物です。付属品である線香を焚いている間だけ、ですが……」
亡くなった人に会える。
鏡の力が本物ならば、凰華は一人だけ会って話したい人間がいた。
「ご店主、その鏡を僕に譲っていただけませんか……?」
そう言うだろうと予測していた那智は、わかりましたと承諾。
「この雨の中では、鏡を運ぶのは大変でしょう。あなたのご自宅にお送り致します。あ……ご自宅の道案内、していただけますか?」
「僕を、送ってくれるんですか……?」
「この時期の雨は冷たいですから、少しでも濡れて風邪をひいては大変です」
凰華がハーブティーを飲み終えると同じ頃に、鏡の梱包作業が終わったので、那智は車で彼女を自宅まで送った。鏡と共に。
●再会
「送ってくださり、ありがとうございました。鏡は、僕が部屋に運びますので……」
ぎこちない笑みで礼を述べた後、凰華は慎重に姿見を自室に運び込もうとした時、那智は、鏡の使用法を説明していなかったことを思い出した。
「返魂の姿見ですが、午前0時にしか使用できません。それと、部屋は暗くしておいてください。付属品の線香を焚かないと、お会いしたい方とお話できませんのでそれも注意してください」
では、と軽く会釈した那智は、凰華宅を後にした。
午前0時。カーテンを閉め、線香を焚いた凰華は、強く親友に会いたいと願った。
――頼む、来てくれ。あの時のことを、僕は……。
その願いが通じたのか、姿見が光を放ち、輝きがおさまると、姿見には親友の姿が映し出されていた。
●過去
「よう、ルヴィア。何しけた顔をしているんだ?」
姿見に映し出された親友は、笑いながらからかうように言った。
天城・凰華――本名はルヴィア・アルスーンは、古より竜族の血を受け継ぐ竜の一族の末裔だ。
会いたいと強く願った親友との900年振りの再会に、凰華は泣きそうなのを必死で堪えた。
「泣きそうな顔だが、クールなおまえには似合わんぞ」
「余計なお世話だ」
凰華、いや、ルヴィアは慌てて元のクールな表情に。
「私は、あなたに礼を言いたかった。そして……謝りたかった……」
姿見に手を当てながら、ルヴィアはあの時の出来事を思い出した。
900年前。
戦いを嫌っていた一族の中に、好戦的な者がいた。
その者は長の息子で、強さを求めて一族から出たがり、鍛錬する場所が無いと怒鳴り散らしては良く家を飛び出そうとしたが、結界に行く手を阻まれた。結界との格闘は、そんな彼の心を荒れさせてしまった。
その心が共鳴したのか、一族が住まう里に魔族が現れた。
一族最強と謳われたルヴィアは、仲間と共に力の限り里を守るべく戦ったが……一瞬の隙をついた魔族が彼女に襲い掛かった。
「危ないっ!!」
凰華を身を挺して庇ったのは、親友だった。
「大丈夫か!? しっかりしろ!!」
身体を揺さぶり、必死に声をかけたが……親友は既に死んでいた。
そのことでルヴィアの全身の血がざわめき、怒りが全てを支配したことで卓越した剣術と身体能力が更に高まった。
魔族殲滅後、ルヴィアには立つ力さえ残っていなかった。
私は死ぬんだ、そして、親友の元へ――と思ったが、彼女は生き残った。
●謝罪
「すまない……。あなたが、自らの命を投げ打ってまで私を助けてくれたのに、礼を言うことも言えなかった。一番近くに居ながら、自分の事で精一杯であなたを守ることすら出来なかった……。すまない、本当にすまない……!」
強く握り締めた拳は、爪が食い込んだのか、血が滲んでいる。
「最後にひとつだけ聞きたいことがある。今までずっと気掛かりだった……。一族の命を踏み台にしてまで生き残った私を、あなたは恨んではいないか……?」
姿見の中の親友は、ニッと笑った。
「馬鹿言うな。俺はおまえを恨んじゃいない。この言葉は本当だ。寧ろ、一族最強のおまえを守れたことを誇りに思ってるんだぜ」
「……本当にか?」
「ああ」
姿見越しではあるが、二人は両手を合わせ、微笑んだ。
「残念だが、そろそろ別れの時だ……」
何を――と言いかけた時、側で焚かれていた線香が燃え尽きかけていた。
「あばよ、ルヴィア。元気でいろよ」
そう言い残した親友は、線香が燃え尽きると同時に、姿見から姿を消した。
「ありがとう……。私は、あなたの分まで生きることを誓うよ」
姿見に触れながら、ルヴィアは強く誓った。
●御礼
その翌日、凰華は幽玄堂を訪れ、那智に礼を述べた。
「ありがとう……。あなたのおかげで、僕は親友とのわだかまりを解消することができました……」
「それは良かったですね。親友だった方も、あなたと再会できて喜ばれたことでしょう。あの姿見ですが、今後もお使いになりますか?」
那智にそう訊ねられた凰華は、心残りがないのでもう使いませんと答えた。
その後、反魂の姿見は二度と凰華に使われることはなかった。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【4634 / 天城・凰華 / 女性 / 20歳 / 退魔・魔術師】
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■ ライター通信 ■
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>天城・凰華様
はじめまして、氷邑 凍矢と申します。
このたびは「返魂の姿見」にご参加くださり、まことにありがとうございます。
お会いしたいと強く願った親友に関してですが、指定がございませんでしたので
凰華様と正反対の男性をイメージしてみましたが宜しかったでしょうか?
親友との会話のみ、一人称を「私」に固定しました。
過去の回想は、ご指定のノベルを拝見しながら書きましたが
いかがだったでしょうか?
イメージに合わないようでしたら、申し訳ございません。
またお会いできることを楽しみにしております。
氷邑 凍矢 拝
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