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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


行け行けアトラス探検隊 花嫁衣裳編

●オープニング
「めぼしい記事が無いってのも、問題よねぇ……」
 アトラス編集部編集長の碇麗香は、編集部宛に届いたメールの類を見ながらぼやいていた。
「碇編集長、お客様です」
 誰よ、この忙しい時に……とぼやきながらも、麗香は渋々対応することに。

 麗香を訪ねたのは、月刊アトラスを大事そうに抱えて持っている大人しそうな大学生風の女性。
 長髪に瓶底眼鏡、地味なワンピース姿の女性を見て、麗香は
(「女版さんした君ね」)
 と心の中で呟き一瞬唖然としたが、すぐ毅然な態度に。

「突然、お尋ねしてすみません……。私は、西亜大学4年の木山と言います……」
 三下並みのおどおどした態度で、木山は本題を切り出した。

「私は……こう見えてもオカルト研究同好会の会長を務めています……。
 一月ほど前、男子部員の一人から……東京郊外にある古びた屋敷で「夜な夜な男を求めて彷徨う女の幽霊が出没する」という噂を聞いたので……交霊術を行うことにしたのです……。何故彷徨うのか……ということが気になりましたで……」
 好奇心は身を滅ぼす。
 この言葉を、同好会員達は後に身をもって知ることとなる。

「実行した部屋は……レトロなデザインのウェディングドレスを身に纏った綺麗な女の人の肖像画が飾られた広い食堂でした……。
 私達が準備をしている間に……女子会員が二階の一室で肖像画に描かれていたウェディングドレスを来て食堂に来たのです……。
 廃墟にあり、しかも、かなりの年代ものと思われるそのドレスですが……ボロボロになっていないのが不思議でした……」

 ドレスを着た女子会員は、これを着て交霊術を行おうと言い出した。
 霊が着ていた、あるいは着るはずだったものを身に纏えば、自分に女性が憑依するのではないかという安易な考えからであった。
 さあ、はじめようというその時だった。
 女子会員の身体が突然宙を浮き、食堂が大きく揺れ始めた。

『ケッコン……シテクダサルト……ヤクソクシテクダサッタノニ……!』

 男とも、女ともわからぬ声が、女子会員の口から発せられた。
 それと同時に、男子会員数人は頭を抱え、恐ろしいものを見たかのように発狂し始めた。
「く、来るなぁ!!」
 誰もが、同じことを口走っていた。
 ドレスを着た女子会員の身体がドサッと落ちると同時に、揺れはおさまったが……男子会員達の精神は崩壊したままで、病院送りとなった。
 この事件だが、新聞記事の片隅に小さく掲載された程度だった。

「ドレスを着た女子会員ですが……何度もウェディングドレスを脱ごうとしたのですが……信じてもらえないでしょうが……皮膚の一部と化してしまったのです……」
「何ですって!?」
 この言葉には、麗香も驚いた。
「お願いします……彼女を助けてあげてさい……! 
 警察にこのことを話しましたが……信じてもらえませんでした……。
 なので……アトラスの探検隊の皆さんだけが頼りなんです……!」
 木山は、涙を流しながら深々と頭を下げて頼んだ。
 ウェディングドレスを着たままの女子大生は、屋敷から一歩も出られないという。

「皮膚の一部と化し、脱げなくなったウェディングドレスねぇ。これは、良い記事になるかも」
 そう思った麗香は、記事を書いている三下忠雄を呼びつけた。
「へ、編集長……また記事ボツですか?!」
「まだ原稿見ていないでしょうが! それより、この事件の調査をして頂戴。うまくいけば、面白い記事が書けるわよ〜」
 小悪魔のような笑みで、麗香は三下に強制命令した。

<編集長指令>
 脱げなくなったウェディングドレスの謎を解き、女子大生を救え!
 場所は東京郊外にある古びた屋敷の食堂。

●今回の調査員
「あなたが……さんした君の同行者?」
 普段のクールビューティーはどこへやら、碇・麗香は憮然とした表情に。
 月刊アトラス名物コーナーになりつつあるこの企画に、参加者が一人だけというのもあるが、その人物の尖った耳、小さな白い翼、左目紫のオッドアイ、とエルフに近い使容姿も理由のひとつである。編集部に来るまでは人間の姿だったのだが、到着するなり変身しだしたのだ。これでは、麗香の機嫌がよろしくないのも納得できる。
 麗香の隣に座っている今回の依頼人、木山の反応はたまげた、といった表情であったが。
「藤田・あやこ(ふじた・あやこ)です、宜しくお願いします」
 あやこは自己紹介すると、早速二人に自分の推理を話し始めた。
「私が思うに、その幽霊を結婚させれば良いかと。そうすれば、ドレスは用済みになるでしょう?」
「それはそうだけど……何か考えがあって言っているの?」
 麗香の表情が、少しだが元のクールさが戻ってきた。
「思いつきだけで、こんなこと言いませんよ。私に任せてください!」
 胸をポンと叩いて「大船に乗った気でいてちょうだい」といわんばかりのあやこ。
「木山さん、お願いがあるんだけど……」
「な、何でしょうか……?」
「その場にいた女性同交会メンバーを連れてきてくれない? 詳しい話を聞きたいから」
 他にも目的があるのだが、それはまだ秘密、ということで……。
「わかりました……。声をかけてみます……」
 
 話し合いの結果、明晩、件の屋敷に向かうこととなった。

●霊の無念
 明晩。
 木山を含めた西亜大学オカルト研究同好会女性会員数名を引き連れたあやこと三下は、件の屋敷に向かった。
 三下は女装するはずだったのだが、あやこの案で普段の格好で行くことになった。編集長命令ということもあり、絶対に嫌だとは言えなかった。
(「ぼ、僕がおかしくなったら、編集長、責任取ってくださいよぉ〜!」)
 顔も泣いているが、心でも泣いている情けない三下だった。
「ほら、行くわよさんしたさん」
「みのした、です〜!」
 突っ込むだけの余裕はあるようで……。

 屋敷の食堂には、脱げないウェディングドレスを着た女子大生がいた。
 彼女が身に纏っているのは、レトロなデザインの、かつては純白だったと思われるが、色は肌色そのものだ。かなり年数が経っているものの、破れや解れが一切無いのが不思議だ。
「彼女が……ウェディングドレスを着て交霊術を行おうと言い出した津積芽衣子さんです……」
 木山がそう言い出すと、芽衣子が一瞬ピクリと動き出し、三下のほうを見た。
「ひぃっ!!」
 気の弱い三下は、蛇に睨まれた蛙と化し、身動きひとつ取れなかった。
「さんしたさん、大丈夫。安心してお休みなさい♪」
 あやこは、エルフ秘伝のスリープの呪文を三下の耳元で囁き、彼を眠らせた。
「これで、さんしたさんは気が狂わないっと。さて、幽霊さん、あなたのお話、聞かせてくれない?」
 水晶玉を手にしたあやこの唐突な質問に、芽衣子、いや、芽衣子に憑りついた女は、少しずつ話し始めた。

『私は、山岡あずみと申します。18の誕生日を迎えると同時に、ある方に嫁ぐことになったのですが……その方は……』

 あずみと名乗った霊の口調は、寂しげなものから、少しずつ怒りに変わろうとしていた。
「別の女と結婚しちゃいました、ってオチかしら?」
 あやこがきっぱりそう言うので、オカルト研究同好会女性会員達はまずい展開になると焦ったが……。

『仰るとおりです。その方は、他の女性と結婚しました。私は、涙が枯れるまで泣き続けました……』
 その後、あずみは徐々に衰弱し、家族と彼女おつきのメイドに看取られて息を引き取った。

●合コン開始?
「あずみさん、その人のこと、今でも憎い?」
『……はい』
「そう……」
 一瞬俯き、寂しそうな顔をするあやこ。
 このまま暗い雰囲気で終わると思いきや、あやこは眠っている三下を抱え
『そんな男のことなんか、忘れちゃえばいいんですよ〜』
 と、三下の声色を真似、彼で腹話術を始めた。
「現代の女はね、一人の男に執着しないのよ。駄目だったら、次の男を探すの!」
「ふ、藤田さん、な、何を言い出すんですか……?」
 あやこの発言に、木山は戸惑い、女性同交会員達は、どういうことか説明してと騒ぎ出した。
「シャラーップ! あなた達に来てもらったのは、合コンをするためよ!」

 ご、合コン!?

「で、でも男性が三下さんだけでは……?」
「心配ご無用。ちゃーんと用意してあるわ♪」
 用意?
 そう言うと、あやこはバッグから数点のフィギュアを取り出すと、イケメン男を降霊し、フェギュアに乗り移らせた。すると、フィギュアはスーツ、モーニング姿の180センチほどの男性に変化し、動き始めた。
 その中には、モテそうもない男数名がいたが、これは女性同交会員達をあの世に行かせないための対策である。
「ちょっと、こんなんで大丈夫なの!」
 あやこに突っかかった女性のひとり。
「だーいじょーぶ! 胸に魔除けのお札貼ってあるから」
 
 さあ、開始よ! とあやこの号令と共に、古びた屋敷での合コンが始まった。

 強引にではあるが、芽衣子に憑依したあずみを含めた合コンが開始された……とはいえ、酒もなければ料理もない、という味気ないものだが。
 それでも、イケメンに囲まれた女性同交会員達はそれなりに楽しみ、お目当ての男性に話しかけている。

●一夜限りの幸福
「あずみさん……あなたも、お声をかけてみてはどうですか……?」
 木山に促され、あずみはもじもじしながらも男性のひとりに声をかけた。
「あ、あの……」
 あずみが声をかけたのは、黒のモーニングを着たオールバックの男性だった。
「……き、喜一朗様!」
 男性の顔を見るなり、あずみは驚いた声を上げた。
「あなたは……あずみ……さん!?」
「は、はい……」
 その様子を見た女性同交会員達は青褪めた。あずみが怒り狂い、あの時の惨劇が繰り返されるのではないかと……。
 と、思いきや。

「あずみさん、僕は……あなたに謝らなければならないことがあります。黙って、僕の話を聞いてください」

 喜一朗は、あずみと結婚できない事情を語り始めた。
 彼の家は、元華族の名家だったが、家を守るために別の女性と結婚。
 その後、父親が事業に失敗したため没落し、一家は夜逃げを。
 その途中の列車事故で、喜一朗を除く家族は死亡。喜一朗は深い傷を負いながらも逃げたが、野垂れ死にしてしまったのだ。
 彼の亡骸は、無縁仏としてある寺に埋葬されている。
「そうだったのですか……。そうとも知らず、私はあなたを恨んでいました……」
「もういいんです。こうして、再びあずみさんと会えたのだから……」

 その頃、あやこはあらゆる宗派が網羅されているサイトに携帯でアクセス中。
「どのような結婚式がいいかしらね〜♪」
 あれこれ迷った結果、結局、チャペル式で行うことに。
 あやこは隣の部屋に向かうと、僧侶の衣装に着替え、神父役をすることに。

「じゃじゃ〜ん! レベル8エルフ僧侶、あやこ登場! 除霊、もとい、二人の結婚式を行うわよ〜♪」
 あやこの宣言と同時に、あずみと喜一朗の二人に盛大な拍手が送られた。
 結婚式、というが、誓いの言葉のみであるが、二人は幸福に満ち溢れていた。

『皆さん、ありがとうございます……』

 あずみと喜一朗は、感謝の言葉を述べると成仏した。
 あやこの足元には、元の大きさに戻ったイケメンフィギュアが落ち、あずみから解放された芽衣子は、下着姿で倒れた。あずみの成仏と同時に、ウェディングドレスが消え去ったのだ。
 フィギュアを手にした取ったあやこは、あたしも結婚したいなぁと思っているのだろうか。

「うぅん……」
「め、芽衣子さん、気がついたんですね……!」
「木山会長……?」
 目が覚めた芽衣子が不思議そうな顔で木山を見たが、妙にスースーするなと思い身体を見ると、下着姿だったので驚いた。
「こ、このままじゃ家に帰れないじゃない!!」
 大丈夫! とあやこが服を差し出したのだが……白ライン入りのあずき色ジャージだった。下着姿でうろつくよりはましであろう。

 結婚式が滞りなく終わった後、気絶した三下を放っておいて女性陣は合コンを再開。

●その後…
 あやこと女性達から説明を聞き、記事を必死にまとめた三下だったが……。
「ボツ!!」
「ど、どうしてですかぁ!? ちゃんと書けているじゃないですかぁ〜!」
「これのどこが『ちゃんと』なのよ! 幽霊との合コンノロケ話じゃない!!」
 書き直しなさい!! という麗香の怒号が、アトラス編集部内に響く。
 三下が無意識に麗香を怒らせた、というのもボツの理由かもしれない。

 ――結局、僕は何をしに行ったのでしょうか……?

 その頃、あやこの元には「もう一度合コンしたい!」というオカルト研究同好会女性会員達の要望があった。
「意外と好評だったわね、この案。今度は会費いただこうかしら……」
 等、様々なことを考えているのであった。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【7061 / 藤田・あやこ / 女性 / 24歳 /  IO2オカルティックサイエンティスト】

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■         ライター通信          ■
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>藤田・あやこ様

 氷邑 凍矢と申します。
「行け行けアトラス探検隊 花嫁衣裳編」にご参加くださり、ありがとうござます。
 またお会いできて嬉しいです。

 暗くなりがちなオカルト話になるかと思いきや、あやこ様のアイデアひとつで
 面白い展開となりました。
 合コンを兼ねた結婚式……。普通は思いつきませんね。
 あやこ様お目当てのお相手はいらっしゃったのでしょうか?
 
 次回合コンがあるかどうか楽しみにしながら、締め括らせていただきます。

 氷邑 凍矢 拝