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行方不明の夫ご主人
すっかり怪奇探偵所となった草間興信所。
t武彦は過去のファイル文書をパラパラとめくってみた。
「私は呪われてて不運ばかり続いてるの」
そんなものは徐霊師にお願いしてほしいと思った。
おかげ様で霊能者や徐霊師の知り合いが増えたわけだが。
そして霊関係の知り合いも増えた。アトラス編集部の碇麗香などがそうだ。
アトラス編集部には時々ネタ提供するほどである。
そこであの黒電話がジリリリンと鳴った。
零が代わりに電話を取ってくれた。
「はい、こちら草間興信所ですが」
「お願いです。ご主人をみつけて連れて帰ってきてください!」
「ああああの、落ち付いてお話しましょう。もし落ち着いたころにこちらで面接とか」
零までもが混乱している。そこで電話を武彦に代わってもらった。
「もしもし。所長の草間武彦ですが」
「とにかくご主人は帰ってこないわ、給料もストップされてるわで大変なんです」
「一度落ち付いてお話しましょう。こちらに来ていただけますか?」
というわけで、面接に来てもらった。依頼主は中年太りはしているが、
服のセンスがおしゃれであるため、どこかのセレブのようにも見えなくもない。
「名前は鈴木恵美と申します」
「ご主人は全く帰ってこなくなったんですか?」
「いえ、時々帰ってくるのですよ。ふらりと」
「じゃあ遊び歩いてる形跡は?」
「ありませんが、見てしまったのですよ」
「何を?」
「ご主人が会社に行く時に何かの空間に入っていくのを」
「その空間の場所は?」
「須野江公園。あそこを通ると駅まで近道なのよ」
――数日後――
「まいったなこりゃ。また心霊ネタかよ」
「世知辛い世の中お仕事があるだけ良かったと前向きに考えましょ、武彦さん」
と言いながら、さっき〆切が終わって出勤してきたシュラインは武彦をぽむぽむと叩いた。
「んー帰らない日は出勤してないのかしら?曜日や時間間隔のズレが、旦那さんにはないのかしら?」
「こういうのは本人に聞いてみたいよな。でもその本人がいないんじゃねぇ」
念のため、会社にも連絡をしてみた。ご主人はとっくにクビになっていたようだ。
ある日から出勤したり遅刻をしたりひどい時は欠勤するのだが、原因を聞いても
「ただまっすぐ会社に向かってますよ。でも何故か時間通りに着かないんですよ」
その後、ご主人は行方不明になっている。
シュラインは考えた
「見覚えない家具有無等々依頼人に確認。会社自体がその異空間先になんて事、ないわよね……」
依頼人には問い合わせしたが、そのような家具はないそうだ。
じゃあ現場で確認だ。……と思って空間があったハズの場所に入口は見つからなかった。
「残念ね」
「また明日来るよ」
そんなわけで明日、空間の場所へシュラインと一緒に向かった。
光を当ててみたが違和感なし。耳をすましても空間のある場所を触っても何もない。
万事休すか…と思ったところに。
そこで急に口が開いたように空間が出現した。
「うわっ」
「なに?」
そこから男の子が一人現れた。
「確かお前は……」
武彦は一生懸命記憶の糸をさぐる。
「アトラス編集部のアルバイトの圭くんだね」
「別に性別なんてあってないようなものだから、ボクを男の子だと思ったらそれでいいですよ」
武彦は聞いた。
「まさかここの空間をいつも利用してたなんてことはないだろうね?」
「遅刻しそうな時はこの時間と空間がゆがんだこの道を使う時はありますよ」
「そのまさかのまさかで月間アトラス編集部は
あのご主人の会社フェルモーレ事務局と同じ、もしくは近くにあるとか?」
「フェルモーレ事務局はアトラス編集部の上ですよ」
今も空間は残っている。
「これね、しばらくの間、空間が残るようになってるんです」
それだ。そうやって圭の作った異空間への入口を通って行った。
実際近道になることもあったから、ご主人も積極的に利用した。
そうしてるうちに迷うようになった。
今は迷子になってしまって出て来れなくなったんだ。
「圭くん、明日も頼みたいことあるんだけど、いいかな?」
「給料くれるならいいですよ」
あぁ世知辛い。
昨日の夜はメールを打っていた。
「あのな:明日異空間を探検することになってるんで、お前もどうだ?(武彦)」
「もう:武彦さん私のこと、ただの事務員あつかいしてないでしょうー。まぁいいけど(シュライン)」
なにはともはれ、次の日になってしまった。
武彦、シュライン、圭の3人が須野江公園に集まった。
圭はまず手を差し出した。
「お金」
「あのな〜何で前払いしなきゃいけないわけだ?」
と武彦は言ったが、
「あなた達、無事に帰られる保障なんてないでしょう。
一応空間は常に空けておくけど、迷ったらお給料もらえないじゃない」
武彦はなけなしのお金、千円札を圭に渡した。
「なんだ。安くみられちゃったか」
「残りは時給性だ。今の時間、12時から経った時間分、事務所に帰って持ってくる」
そうして圭は空間に穴をあけた。武彦とシュラインはこの中に入っていった。
「シュライン、テグスは用意したか?」
「えぇ。だから迷うことはないはずよ」
武彦は腕時計を見た。針の動きは早い。
「まいったな。この空間の方が時間の流れが早い」
「だからここを出た時には、現実の時間があまり進んでないことになるよね」
懐中電灯を当ててみても吸いこまれる闇。そんな中手探りで歩きはじめた。
「おーーーいご主人!お前の上さんが心配してるぞーー」
と声をかけながら歩いていたら、階段をみつけた。
「武彦さん。これはどっちを行けばいいのかしら?」
「下かな。俺の予想では上に行くなんて迷うようなことはしない。
あくまで仮説な、どこかの段差に気がつかずに落ちて帰られなくなったんじゃないかと」
というわけで、階段から下のフロアを懐中電灯と大きな声を出すことで本人を探していた。
「おーーい。道に迷って困ってるご主人はいないかーー」
声は遠くまで届かない。
「おーい」
すると小さい声が聞こえてきた。
「助けてくれー」
急いでその場所に行くと倒れた中年の男がいた。
「あなたの名前は?」
身分を確かめるために、まず名前を尋ねた。
「鈴木勝男だよ」
あのご主人だ!しかし空間から落っこちたらしく、怪我をしているようだ。
この男を武彦とシュラインで運ぶことにした。力のある武彦がご主人を運び、
シュラインはテグスを持って帰り道を辿って行った。
しかし。
空間は空けられてない!閉じたままだ。
しばらく長い時間、武彦とシュラインと鈴木のご主人と待つことになった。
鈴木のご主人はお疲れらしく、スーーッとねむっていた。
「シュライン。算数の問題だ。時間の早い空間から現世に出るとどうなる?」
「私たちは時間を早く感じるけど、現世ではもっと遅く進んでるんじゃないかしら?
まだ文筆業のお仕事残ってるのになぁ」
この空間は長い。長すぎる。三人ともくたくただった。
「なぁ」
武彦が横で寝ているご主人を忘れてこんなことを言ってきた。
「キスでもする?」
そこでシュラインはカーーっとなって、
「嘘でもそういうことは言っちゃいけません!」
「まぁ冗談半分、本気半分だけれどね」
武彦さんがそんなことを言うなんて!
って思いながらもシュラインは顔が赤くなっていた。
そこで急に空間が開いた。
「生きてますか?皆さん」
その言葉で武彦の怒りが爆発した。
「空間をあける仕事をしてるのに、途中で閉じないでくれよ〜」
と武彦は大怒りしていた。
「ボクも寝る時間というものがあるし、仕方ないでしょ」
「じゃあ管理不十分として時給半額だ!」
「能力者なんて、そうそういないんですからきちんと払ってください」
などと言い合いをしていると、鈴木さんの奥さんである恵美さん、息子さんがこちらを見ていた。
「もうっ!あなた帰ってくるの遅すぎたわ」
という中に目頭がにじんでいる。
「パパーいつか帰ってくると信じてたよ」
と言いながら、息子は鈴木勝男の胸に飛び込んでいった。
そして息子をだっこして高い、高いをしている。
「あぁ。パパはスーパーマンだからね」
と微笑ましい家族の光景を見ていると、武彦は時給でもめてる自分が恥ずかしく思えた。
「圭くん、今から興信所に来ないか?ちゃんと時給払うよ。安いけどな」
武彦と圭は一緒に興信所へ戻った。
一方シュラインはたまった〆切を消化するため、自宅で修羅場をくぐり抜けることになる。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【0086 / シュライン・エマ / 女 / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
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■ ライター通信 ■
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こんにちは。私の悪いくせで「本業:翻訳家」の部分を忘れたプレイングが多くて
申し訳ないです。〆切抱えていても草間興信所に出向くと「事務その他のお仕事」
というイメージばかり先行してしまうのは気をつけたいですね。
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