|
神の剣 双子の宿命 【状況捜査・後編】
鳳凰院家。
家からほど近く、彼らが祀る、神社があった。
そこで、美香は巫女姿になり掃除をしている。髪がみだれないように、腰あたりに伸びる髪の先をリボンで結んでいる。
「ケーキ、おいしかったな。」
つぶやく。
空は晴れていた。雲がほどよく浮かんで、空に現れては消えゆく。
蒼と白。
自分は、何をしているのだろうと、たまに思う。
其れが漠然と、理由が分からない故、不安になる。
継承者になることは決まっている、はずだった。しかし、鳳凰院家では其れが問題になっている。
「紀嗣が辞退した。おそらくあの事件で。」
なら、自分がなるしかない。
しかし、何かが違う、と心の中で思う。
本来なら一人で解決できそうにもないことを、一人で遣ろうとしていることが、間違いとは気付かずに。
紀嗣は、キッチンにて新レシピを試していた。
「さて、此はうまく行くかな?」
鼻歌交じりで、料理をしている。
姉が何故あそこまで人を避けるかを考えているが、自分が出来ることと言えば、ずっと側にいてあげるしかないと。
ただ、自分も姉も、何か人と違うと言うことは分かっているつもりだ。
故に、その力の本質が何か、其れがなにかが分からない。
答えは、姉が知っている。しかし、聞けない。
過去にあった力が怖い。其れを知ることが怖い。
たぶん、今、自分は逃げているのではないか? と思う。
その一歩を踏み出せるきっかけが何かも分からないまま日々を過ごす。
草間と影斬は、助手達の情報を元に、どう接触を図るか考えていた。
「この案も良いですが、事件で合同捜査というのは、難しい気がします。」
「では、単に学校で会うことが簡単だろう。まだお前も学生だからな。」
「周りに被害が出ないことを祈るばかりです。」
影斬はコーヒーを飲む。
「過剰反応するって言うが、其れは確実に怖いことか?」
草間が尋ねた。
「杞憂であればいい。と思いますが、高峰さんからの話です。一筋縄ではいかないでしょう?」
「む。」
つまり、高峰から来ると言うことはあちらの思惑もある。
「俺も動くしかないか。前はホント楽させて貰ったからな。」
草間が立ち上がる。
「じゃ、俺もその双子に会ってくる。」
と。
影斬は「よろしくお願いします。」と頷いた。
〈まずは面識を〉
静修院・刀夜は、鳳凰院の神社に来ていた。見た目はごく普通の町神社と変わらない。ただ、そこかしこに、「火の鳥」にまつわるものがある。
「なるほどね……。」
情報屋から仕入れている話では、ここに、鳳凰院美香が巫女で居るはずだ。
確かに、境内を掃除している。
こちらから接触を図るべきか考える。
なんとなく、彼女に近寄りがたい雰囲気があるのだ。洞察力が優れているならば、ああ、この娘は人を避けていると分かる。
「困ったものだ。接触しようと思ったのにこれでは。」
刀夜は苦笑した。
実際、依頼は終わっている。しかし、気になることがあるので、ここに来ているのだ。
ふと肩をつかまれた感触がする。
「静修院? どうした?」
「草間さん? どうして?」
「俺も会いに来ただけだが?」
「なるほど、確か全然あってないな。あなたは。」
草間も考えてみれば初対面。
「ま、伝承を聞くぐらいなら、対応してくれるんじゃないか?」
「俺もそう思っている。」
というわけで、二人そろって、美香に声をかける。
「ちょっとすまない。」
「おや? なんでございましょうか?」
普通に返答が来た。
「私たちは、一寸神社関係のことを調べているのだけど、ここの神社について教えてくれないかな?」
「はあ、取材みたいなものですか? それなら、こちらに。」
美香が案内しようとするが、
「おっと、名前を言ってなかった。静修院・刀夜と言う。こちらの人は草間武彦。まあ、取材というか趣味で神社探索をしているのでね。」
(趣味じゃねぇよ)
草間は心の中で思った。
「趣味ですか……。間違った方向に興味を持っているより、良いことだと思います。」
刀夜の言葉に、美里は答える。しかし、表情は乏しくない。
(長谷茜とは偉い違いだ)
(それは、だれ? ああ、噂に聞くハリセン娘か……)
「では、鳳凰院神社とは……。」
と、彼女はこの神社内を案内して、説明していく。
火にまつわること、鳥のことについて。
伝承では大きなものとして、この地に力尽きた鳳凰(不死鳥?)が舞い降り、人に力を与えて、灰になり、人の友情にて再生、礼を残し去っていったことからなると言う。また、その言い伝えから、火は、破壊と再生を同時に持っている。灰となったものは他の命をはぐくむ土台になる。また、火そのものは人を照らす明かりだ、と。火というものはものを壊すしかないと言うのは違い、すべてに二面性があることがあるのだと。この神社はその一つである事などを教えてくれた。
「勉強になったよ。ありがとう。」
「よく聞き入ってくれてありがとうございます。」
刀夜と美香は、お辞儀をした。
「私は名前を言ってませんでしたね。私は、鳳凰院・美香といいます。静修院さん、趣味の時間を大事にしてください。」
彼女はそう言って、神社の奥にある母屋に帰っていった。
「感じは良いな。」
刀夜は思った。
「禁煙はどうにかして欲しい。火を奉っているんだから……」
案内のなかで、草間はタバコに火をつけられなかった。
「それはべつだろ。」
苦笑するしかない。
「で、こっちに来た意味というのは?」
「ああ、御影の方で頼まれてな。」
「ふむ。」
草間には別件があったようだ。
美香が家に戻ると、紀嗣がエプロン姿で玄関にいた。
「男と話していた。」
弟は怒っている。
「神社の散策をしていた参拝者を案内していただけだ。おまえには関係ないだろう。」
「ある!」
「姉弟とかそう言う意味ではなく? それで、あるのか?」
「……。」
その言葉で、紀嗣は、一瞬言葉を失う。
弟はなにも言わず、ずかずかと台所に戻っていった。
美香はため息をつくだけだった。
時間は少しさかのぼる。
「すまないけど、草間さん、紀嗣の過去について調べてくれませんか? 依頼料出しますから。」
「?」
「一寸、彼の過去に気になることがあって。」
「そうか、わかった。その辺を調べてみる。」
草間はこういった調査に長けている。故に、一度鳳凰院を訪れたのだ。
今回は全体像を見るだけで終わった。紀嗣に会えなかったのだから仕方ない。興信所に戻る前に、色々噂を集めていたのである。
「いまのところ、御影が欲しい情報は得られなかった。」
「そうですか。」
「おそらく、家族内で起こったことの可能性もあるし、いつまであの姉弟が仕事に関わっていたのか、などは難しいぞ? 基本極秘だからな。」
「そうですか。もう少し掘り下げることが出来れば頼みます。」
蓮也は言った。
〈出会うタイミング〉
「うーん、やはり、二重奏講習上手く使う方が良いかしら?」
シュラインはいろいろな手段のなかで講習会を使う方が良いと言う。
「わたくしも、あのお二人がリラックスできる場所であることが重要だと思います。シュライン様の意見に賛成です。」
天薙撫子が、賛同する。
彼女の他にも賛成でありそうだ。
「顔を知ってもらっているのは数名いるし、音楽というのは良いな。」
「リラックス出来ると良いからね。」
同意の意見が帰ってくる。
「俺は、まだ面識ないし調べておきたいことがある。」
水滝・刃が言った。
「俺も、一応見知っておくと良いかなと、おもってね。神聖都に入ってみるよ。できれば、一緒に来てくれる人がいれば助かる。」
「なら俺が行こう。」
御柳・紅麗が立ち上がった。
なんか、蓮也に、影斬、撫子の三人から視線が来る。
「な、なんだよ?」
「ナンパだな。」
「ああ、ナンパだ。」
「浮気のおそれがありますね。紅麗様、それはいけませんよ?」
そろって口にする。
「おまえら!」
「落ち着け、紅麗。一応おまえも神なんだろ?」
刃がなだめる。
「いちおう……、死神だけどな。」
「誇りを持てよ。影斬もからかってないで。」
注意してみる。
「あ、いつもの反応をしてしまった。すまない。」
影斬は素直に謝った。
「俺の立場っていったい。」
項垂れる紅麗。
「まあ、もう少し活躍すればいいって事と思う。でも、……難しいか。」
刃も遠くを見てしまう。
偶然にもあった撫子やシュラインの話でも、紅麗はかなり紀嗣に警戒されていたようなのだ。警戒されているというのに、会いに行くというのはかなり危険ではと思う。一人でいる、美香に接触を図ろうと思うのだろう。
「で、おもうに、神聖都に向かうというのは、誰に会いに行くつもりだ?」
草間が刃と紅麗に尋ねると、
「可能なら、姉弟両方だな、挨拶程度ぐらいで。」
刃はまじめに答える。
「そりゃあ、美香のほうだよ。おれは、紀嗣に睨まれているし。女の子との会話の方が弾むって。」
笑顔で答える死神。
草間がマルボロをくわえ、火をつける。
「やはり、ナンパか。」
ため息をついた。
「御柳君、仕事分かっている?」
シュラインもため息をついた。
「やはりか。」
蓮也も。
「御柳さん、不純ですよ。」
コーヒーを入れている零も。その場にいる全員が紅麗に対して冷たい目線を向けた。
「おまえな……、だから皆につっこまれるんだよ。」
刃は彼に諭す。
「おわああ! おまえら、あの弟の殺気は尋常じゃねーんだよぉぉぉ!!」
紅麗の絶叫が興信所にこだました。
「それはそうと、二重奏講習に見学者OKなのか、カスミ先生に連絡入れるわね。」
シュラインは決まればてきぱきと行動する。
ほんの数分で、電話が終わって。
「静かに聴くと言うことなら、OKですって。」
「さて、普通の服がいいかね。」
今は着物姿の、刀夜が言う。
「コンサートとかじゃないし、どん引きするものじゃなきゃ。いいのではないでしょうか?」
影斬も、今のメタル風の服じゃダメだろうと思っていた。
「いつもその系の服か?」
刃が尋ねると。
「いや、普段着は普通にある。色合いを考えるのが私は少し苦手なのだ。」
影斬は答えた。
「ちゃんとした服装は、私が考えますら。」
撫子は微笑んで影斬を見つめる。
「いや、そこで新婚生活見せつけないでくれ。」
草間が苦笑する。
そういうことで、出会うまでに各自で当日に向けて行動し始めた。
〈神聖都学園〉
刃と紅麗は、神聖都学園に入る。あいかわらず、理由が理由で設立されただけであるが、無駄に大きい学園だ。
「やっぱでかいなー。高等部ってどこだっけ?」
「この道じゃないか?」
一応標識はあるが、敷地が広すぎなので、気を抜くと迷うかもしれない。
人に尋ねて、またはメール交換した学生を呼び出し、案内してもらった。
「あ、あそこに美香が居る。」
紅麗が高校の一校舎の屋上を指さした。
少し肌寒い風があるのに、よくあそこにいるな、と思うのだが。
「鳳凰院さんに用事?」
と、案内してくれている生徒が尋ねた。
「ああ、俺先日あってね。」
紅麗が言う。
「ふーん、でも、気をつけてね。紀嗣君が怒ると怖いから。」
くすくすと笑って、生徒は去っていく。
「はあ?」
紅麗はあんぐり口を開けていた。理解が出来ない。
刃は、ああ、もしかすると……と言う顔だが、確信が持てないので、黙っていた。
「まずは……紀嗣が良いかな。」
「おいおい。って俺は、美香の方に行くよ。」
「そうか、命を大切にな。」
なんで? という紅麗の問いに、刃は答えなかった。
刃は音楽室を簡単に下見して、本人に会えないかと思った。丁度、紀嗣が、一人でバスケのダンク練習をしているのを刃は見つけた。身体能力は確かに群を抜く。エアウォークも出来るぐらい。何度か成功していたが、一度失敗し、ボールが刃の足下に転がってしまう。
「あ、すみません!」
紀嗣が、手を振って、刃に言った。
刃は、投げないでドリブルし、綺麗にシュートを決める。
リングにすっぽりと入って、それを、紀嗣が上手くキャッチした。
「兄さん上手いね。」
「まあ、授業で習った程度なら。ダンクは一寸自信ない。」
「見てたの?」
「ああ、一寸だけ。」
バスケの話になっていた。
紀嗣の口調はぶっきらぼうと元気が混ざっているようだが、それほど悪印象を与えない雰囲気がでているのだった。流れで、すこし1on1で遊びながら話すことになった。
「友達とかは?」
「ああ、今は別行動、何かの打ち合わせとか、また他のつきあいもあるって事。俺、実はそんなに、いつもつるむとか、縦関係とかそれは嫌いなんだ。」
「そうか。」
刃がフェイントで抜き、シュートする。綺麗にリングに入った。
「わお。兄さんすごい。」
紀嗣は驚き、拍手する。
こんな素直な子が、なぜ? と刃は思った。
ジュースを買って、中庭で色々話をすれば意気投合できるようになっていた。
「音楽はクラッシックとか好きなんだ?」
「はい。でも、ジャズもあこがれるかな? アレンジなどで自分の気持ちを表現しやすいジャンルと思うから」
「そうだね。」
二人は色々話す。本当に、この弟は人が良いなと思ったのだった。
が……とたんに、紀嗣の“気”が変わった。何かに対して敵意を向けている。
「姉ちゃん。」
その視線は、屋上にいる姉・美香。
「姉ちゃんが誰か話をしている。とめなきゃ!」
「おい。ちょっと。」
刃はいきなり走った紀嗣を追った。
そこで、響カスミに二人は止められる。
「鳳凰院君、数日後の講習。わかってますか?」
「はい。わかってます! すみません! 急いでいるから!」
彼は走りながら、返事しそのまま走り去っていく。
「?」
「済みません。いきなりで。」
刃がカスミに謝ってから、彼を追いかける。
「どうしたのかしら?」
カスミは首をかしげた。
屋上にいるのは美香と、確実に紅麗だ。刃か確信している。
〈推測〉
興信所。
「義明君、分かっているとは思うけど、姉弟の力は、“輪の流動”なのよね?」
シュラインが影斬に尋ねた。
「ええ、そうです。元は一つの存在である“権能”として在った、鳳凰院家の力が分かれてしまったのだから。」
「と、いうことは、光をあわせると太陽と満月みたいなものね。だとすると、溜め込まないで、巡回させていく。片方に滞りを作れば危険になる。だから、お互いが、その流れを作れば対面できそう?」
と訊く。
「ええ、穏やかに対面できるかもしれません。」
影斬は頷いた。
「よかった。その手はずはあたし達に任せて。講習が終わった後に入るか、先に入っておくかどうか、詰めて打ち合わせをしないといけないわね。」
「ありがとうございます。」
影斬は、礼を言った。
「義明さん……。」
「撫子? どうした? ……ああ、言いたいことは分かっている。いきなり神格保持者の話はしない。私とて、力を発現しなければ、人であるんだ。君が心配する行動はしない」
「良かった……です。」
撫子は胸をなで下ろした。
「あのさ、音楽講習の後、色々音楽関係で話するってのは?」
蓮也が聴く。
「ジャンル違いだと、結構口論になってしまうとおもうが。」
「む。」
確かに、そうかもしれない。
「俺はアコースティックギターあるからな。」
「私はエレキでメタルなんだが……このところ道場関係などで忙しく、弄っていない。それにロックとメタル、さらにはクラッシックではかなり違う扱いだ。」
「うう。ストリート系でも良いじゃないか?」
今回は……クラッシック系である。時代の開きすぎた話だ。
「そのへんは、本人に尋ねてみよう。料理のはなしなら、どっちかが食いつくかも。つまりたとえばだ……、うん。」
蓮也はそう言った。
「ということは、俺もなにか別の話のネタを考えないといけないな。」
刀夜も考えていた。あの伝承をまとめ、思ったことを書き記した、小冊子でも作ってみるかとか、考えながら……。
草間が戻る。
「やっぱり、過去になにかがあった。」
彼の顔は情報をつかんだことに高揚感を押さえ切れていないが、真剣であった。
「?」
打ち合わせをしていた、3人は首をかしげるが、何のことか分かった。
「紀嗣は一度暴走をしている。詳しくは分かってない。姉があまり人と関わろうとしない事は、その辺に関連しているようだ。」
草間の言葉に、皆は顔を見合わせた。
〈屋上〉
「やあ、ここ寒いじゃない。」
紅麗が、屋上で景色を眺めている、美香に声をかけた。ずっと立っているのは辛いため、ベンチに座っている。
「なんだ、あのときの君か。ここには、なにもないぞ?」
美香は、素っ気ない口調で話す。
「いや、一寸先日は話できなくてね。」
「……ああ、あのときはありがとう。私や……紀嗣だけでは難しかった。」
立って、お辞儀をした。
紅麗はつられてお辞儀をしていまう。
「いやいや、それはいいよ。困ったときはお互い様だ。」
紅麗は話を続けようと思ったが、
「話はそれだけか?」
「え?」
「帰って欲しい。」
拒否。
紅麗は、その言葉の意志の強さに圧されている。
「さ、寒いんじゃないか?」
「いいや。」
彼女は首を振る。
「あ、その。」
「あのときは……、助かった、お礼は後にしっかりする。それまでまってくれ。もしかして催促とか言うなら、信用が落ちるぞ?」
言葉に刺がある。
紅麗は我慢した。いま、自分が逆ギレすれば、影斬達の予定が狂う。こらえるしかない。
「ああ、そういうことじゃなくって……ああ、……ええっと、すまなかった。でも、そのままいたら風邪ひくし、弟さん困るからホドホドにな。」
と、紅麗は校舎のドアを開け、去っていこうとしたところ……。
なにか鈍い音と共に、目が真っ暗闇になった。
「え?」
そのままコンクリートの地面にたたきつけられ……失神する。
「御柳!」
「紀嗣!」
「姉ちゃんに軽々しく話しかけるな!!」
不意打ちの拳が、紅麗の顔面をクリーンヒットしていたのだった。紅麗は意識の薄れるなかで、今、目をつけられている理由を思い出した。
(ああ、すっかり忘れていた。俺の痛恨のミス……だったのね?)
「本当に済みませんでした。」
「……いや、これは色々な面で、俺が悪かったかも。すまない。」
紅麗が、大丈夫というサインを送りながらも、美香の膝枕に頭を預けている。
「うう。おまえが、おまえが……。」
「紀嗣謝りなさい! いきなり暴力はいけないわ!」
美香が怒る。
「……ご、ごめんなさい。」
最終的には姉が、弟を怒り、刃がなだめ、紅麗との喧嘩発展は事なき事を得るのだが。先が不安になりそうだ。これはいきなり飛び出し、殴った紀嗣が悪いのであるが……。警戒するには異常ではないだろうか?
興信所に戻る前に、
「このことは秘密にしてくれ。頼む。」
「さて、どうしようかね。」
と、刃に黙って欲しいとを懇願している紅麗であった。いや、紀嗣のせいといえ、恋人もちが、他の女性に膝枕されているところとかは、かなりやばい。本当にやばい。いろいろな意味でやばくてもう彼の未来は、閉ざされる可能性が高くなる。役得だと思えば、知れ渡った後の罰が天と奈落の差である。
紅麗の顔の傷は綺麗に治っていた。刃はしっている。美香が体にうっすらと炎をまとい、紅麗の顔に出来た傷に手で触れていたのだ。それで治っているのだろう。
〈当日〉
講習日。それぞれ、思い思いの普通の格好で、音楽室に入っている。
美香と紀嗣は、目を丸くしていた。
「あ、あのときの?」
美香は驚く。
「見学者付き? でも、これはまた……緊張するなぁ。」
緊張している様子の、紀嗣だが、恥ずかしさからか笑みが零れている。
「こんにちは。見学させて頂くわね。」
「緊張するかもしれませんが、リラックスしてください。」
「神社では案内ありがとう。」
「鳳凰院、良い音楽聴かせてもらうよ。」
「二人とも先日ぶり、仲良くやってる?」
「………よ、よう。」
シュラインや撫子、ラフな姿の刀夜、草間、刃。そして縮こまっている紅麗が居るのだ。後一人は、かなり奥の方で静かに座っている。知らない人だが、雰囲気的には悪い人ではないし、恐怖感もない。シュラインと撫子は、笑みを浮かべて挨拶もすると、美香は照れくさそうに、お辞儀をした。
奥にいる知らない人間には注意を向けていなかった。全員には会釈で返す。
「コンクールでは、これ以上に緊張するかもしれませんよ? いつのまにか、顔見知りみたいだし、大丈夫?」
「ええ、大丈夫です。」
「予行演習から、徐々に本番と思いながらやりましょうね?」
「はい。」
美香はヴァイオリンを構え、紀嗣がピアノに向かう。カスミの指揮に沿って練習する。カスミの教えに従い、また、ほめられたり注意を受けたりしながらも、二人はがんばって練習に打ち込んでいた。
基本的に二重奏は、形式は多様化しており、いまではピアノとヴァイオリン属の弦楽器のものが多く、楽譜もアレンジされているものがおおいらしい。
見学者達は、ずっとその姿に見入っていた。姉弟の息はぴったりで、聴き入るのである。
「はい、ここまでです。良くできました♪」
「ありがとうございます。」
カスミの終わりの言葉と、姉弟の挨拶が終わると同時に、見学者から拍手が送られた。
「良かったわよ。」
「綺麗な音色でした。」
「あ、ありが、……とうございます。」
美香は、真っ赤になりながら、お礼を言う。
音には詳しいシュライン、やっぱり和のお嬢様な撫子は素直に拍手を送る。自然と、姉弟との距離は縮んでいる。 音楽のことを話し、またはあのときのお礼を言う姉弟は、今度お礼にそちらに向かいということなどを話していた。
そして、
「あの、あちらの方は?」
美香と紀嗣が、影斬の方を見た。
「ああ、彼はね。ここの撫子さんの未来の旦那さん。の織田義明って言う人。」
蓮也が答える。
「こら! 蓮也様!」
頬を赤らめてこつんと蓮也を小突いた。
「事実じゃないですか。」
「婚約者なのですね。おめでとうございます。」
「ありがとうございます……。あの、義明さん。」
「……ああ。」
奥にいた男が、立ち上がる。
「初めまして。織田義明だ。見学させてもらっていたが挨拶が遅れて済まない。良い演奏だったよ。」
と、優しく、落ち着いた声で影斬は二人の演奏をほめた。
「あ、ありがとうございます。」
「今日は、聴いて頂きありがとうございます。」
二人は礼儀正しく、影斬に挨拶をした。
そのあと、別室に移り、撫子が前もって買っていた、件の喫茶店のケーキとお茶を囲み、座談会感覚に会話が弾んでいった。美香はあまり喋ることはなかったが、少し嬉しそうで、女性陣は嬉しく思う。また人懐っこさがある紀嗣は、蓮也や刀夜、刃と話し、影斬にも、色々話しかけていたのだった。もちろん、世間話などで。
ちなみに、紅麗は下手に関わると後が怖いので、黙ったままケーキを食べていた。紀嗣も美香も、複雑な心境で紅麗を見ていた。
個々の問題は別として、大きな流れでは、成功というところだろう。
〈これからが始まり〉
再び草間興信所。
「草間さん、本当にありがとう。これが全部の依頼料です」
影斬は、もう一つの封筒を渡した。
「50万か。なかなかだな。ただ、神秘系や怪奇に関わらないものなら、大歓迎なんだけどなぁ。」
「文句は言わないの。」
シュラインが草間のほっぺをつねる。
「いひゃひゃら〜。」
「草間さん、こっちからも。」
蓮也も茶封筒を渡した。
「お。はやいな。」
懐が潤ったので上機嫌になる草間だった。
すると、ドアがノックされる音が聞こえた。
「鳳凰院です。失礼します。」
姉弟が、お土産を持ってやってきた。あのとき迷子を助けるのに手伝ってくれた人への、お礼のようである。
「あら、いらっしゃい。どうぞおかけになって。」
「はい。」
元気に返事する紀嗣と、まだ一寸人と関わりが苦手そうな、美香が入ってくる。
「和菓子だから、お茶が良いわね。」
「玉露おいてますから。」
撫子が給湯室に向かう。
「あら。ありがとね。」
和気藹々なお茶会になっていく。
ただ、これは始まりにすぎない。
影斬や、この宿命の双子、取り巻く人々によって、様々なことが……変わっていくのだ。
END
■登場人物紹介■
【0086 シュライン・エマ 26 女 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【0328 天薙・撫子 18 女 大学生・巫女・天位覚醒者】
【1703 御柳・紅麗 16 男 死神】
【2276 御影・蓮也 18 男 大学生 概念操者】
【3860 水滝・刃 18 男 高校生/陰陽師】
【6465 静修院・刀夜 25 元退魔師。現在何でも屋】
NPC
【草間・武彦 30 男 探偵】
【草間・零 ? 女 探偵見習い】
【影斬(織田・義明)? 男 剣士/学生/装填抑止】
【鳳凰院・紀嗣 16 男 神聖都学園高等部】
【鳳凰院・美香 16 女 神聖都学園高等部】
【響・カスミ 27 女 音楽教師】
■ライター通信
どうも、こんにちは。
滝照直樹です。
このたびは『神の剣 双子の宿命【状況捜査・後編】』に参加して頂き、ありがとうございます。
かなり平和的な、お話になり、感謝しております。
今回紅麗さんは、色々行動などが爆笑展開になり、コミカルや弄られ担当ととして確立していきますが、紀嗣くんとの喧嘩が起きそうな予感です。がんばって青春の友情をつかんでください。
他の方は、美香や紀嗣の好感度はよい感じですので、色々助けて行くとよろしいかもしれません。
今回の神の剣関係は、また単発ものなどの諸問題に関わってくると思いますし、これにより、鳳凰院姉弟は、他のノベル関係に出てくる可能性もあります。そのときも姉妹をよろしくお願いします。
では、また別のお話でお会いしましょう。
滝照直樹
20071028
|
|
|