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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>
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【箱庭屋敷の旦那様】
■序章
骨董屋のカウンターには小奇麗な箱庭が乗っていた。
その中には小さな喋る黒猫がいる。
「で。入ったくせに出られないってのは、どんな理由だい。」
店の主人蓮はそんな黒猫に笑い聞いた。
「それは俺が知りたい! 解ってる範囲ではこの箱庭屋敷の中にいる”何か”の強い思念か何かで外に出れない様だが…」
出たいのだと猫が小さな屋敷の屋根上で鳴き喚く。
屋敷の鍵があれば中に入って出れない原因を如何にか出来るがと猫は更に続け、大きな溜息を付いて肩を落す。鍵は箱庭の横に大きなサイズのまま転がっていた。
「それは困った話しだねえ」
さして困った様子もなく蓮が肩を揺らしながら言っていると、店のドアノブが回される音がした。
バタンッ、と勢いも良くアンティークショップの扉が開かれた。
壊れちまうよ、と思いながらも蓮はゆっくりとカウンターの上から扉に視線を向け口を開く。
「ああ、いらっしゃい。ちょうど面白い物が――」
「大迷宮の依頼って聞いて飛んできたわ!」
黒髪を揺らしながら辺りを見回し、カウンターに両手を付いて蓮に聞き寄ったのは藤田あやこだった。
「ほら、私三度のご飯よりもテロ対策好きなのよ。だから、立て篭もりでもなんでも、任せちゃって欲しいのよね。で、その立て篭り犯ってどこよ?」
言いながら直ぐ横にある箱庭が邪魔であやこは軽くあちらへ押しやる。
そんな様子を蓮は小さく笑った。とりあえず、テロってわけじゃないと思うけどね。と女店主は呟いた。
「あんたが今押しやった箱庭の屋敷ん中だよ。その犯人ってのは」
「え、この中? あぁ! 猫!」
ずずっと押しやった箱庭を今一度手元へ引き戻す。そうすると、屋根の上にふて腐れた小さな黒猫が居た。たしか名を藍星(ランシン)と言ったはずだ。大迷宮と言う場所を管理する喋る猫だと把握している。
まあ、猫がいて不思議は無いのだ。この黒猫が困っていると聞かされて飛んで来たわけなのだから。
なんとなく事を理解して、じゃあどうしたら中に入れるのかと尋ねようとした矢先だった。何処からともなくと、桃色電波がビビっと飛んできてさくっとあやこの頭に刺さって桃色電波が全身を駆け巡った。
「へ? ぇ??」
何事かとあやこが混乱していると、その端で彼女の携帯が着信音を鳴らした。慌てながらも携帯に出る。
『こちらIO2ニャ古屋研究所だぎゃ。小人になれる、みゃ〜黒ウェーブを浴びせたがや! ちょっと妙なデンパ入っとるけど問題にゃーがや! 成功を祈る!』
「…妙な電波って! ちょっ…」
名古屋弁が携帯越しに好きに喋るだけ喋り、あやこには喋らせずにブツッと切れその上、携帯が手の中から忽然と消滅した。
「ちょっと!!! コラあたしの携帯っ!」
これから携帯の値段高くなるってニュースで言ってるじゃない!と怒ってみてももう遅い。見る間にあやこの身体は小さく小さく縮んでゆき、人差し指ほどの小人になった。
まあ、何はともあれ。
とりあえずは箱庭の中には入れそうだ、と不満ながらにも気を取り直すとあやこは蓮に頼んでカウンターの上へ持ち上げてもらう。
「そういえば、鍵が無いと屋敷に入れないって藍星が言ってたね」
あやこが意気込み箱庭に向おうとすれば蓮が横手に置かれる鍵を指差した。
「……鍵って言われても。それ、デカすぎ」
示された鍵は“普通の人間用サイズ”である。小人のあやこに持てるサイズでは到底無かった。きっと小さくなる際に手にしていれば一緒に小さくなったのだろうが…。
「まあ、無くても如何にかするわ! じゃ、行ってくるっ」
じぃーと鍵を見たあやこだったが、結局面倒になって鍵を持ってゆくことを放棄した。別に鍵で扉を開けるだけが解決方法でもないだろう。そう思えばすちゃっと片手を持ち上げあやこは箱庭へと足を踏み入れたのだった。
■箱庭の中
庭に下してもらうと屋根の上から見覚えのある黒猫、藍星が降りてきた。
「お前、変なトコと交流もってるんだな」
開口一番見上げてきた猫はそんな事を喋る。変なところ…?
「IO2?」
携帯越しの名古屋弁との会話を猫は聞いていたのだろうか。獣だから耳がいいのかもしれない、などと思いながら猫を見下ろしてあやこはIO2の名を出した。組織自体は巨大だったが公ではないお陰で、さほど世には名が知れていない組織だろうが、その名を聞いて猫はコクコクと頷いていた。
「妙な女だ。エルフの王女らしいし、おかしなトコとは繋がってるし」
「喋る猫に妙って言われたく無いわよ。それに、そんな妙な女に助けられようとしてるの、あんたじゃない」
「っう…。偶には、そう言う事だってあるんだ」
失礼ね、と言い返せば猫はしらーっと視線を逸らしている。相変わらず都合がいい猫だ。
軽く溜息を落としたあと、あやこは辺りの様子を伺った。
外から見下ろしてた時は、小綺麗な箱庭の屋敷だったがこうやって中に入るとその年代の古さが窺がえる。白い壁も煤や埃でくすんでいるし、几帳面に作られたと思われる庭木や門などにも蜘蛛の巣が所どころと引っかかっていた。
そして何よりも目に付いたのが木の影や花壇の間に転がる白い影。
「同じように箱庭に取り込まれた人達が出れなくて、この中で死んで行ったのね…」
それは明らかに人骨だった。
なんともやりきれない様子で呟くあやこの横で、猫が緊張感も無くだからさっさと出たいんだと言い落としていた。
「取り込んでおいて、屋敷の中に招くでもなし。生かすでもなし。まったく、この屋敷の主人は礼儀がなってない」
「怨霊とかそんな類に礼儀って言ってもねぇ…。何か立て篭もってる理由があるのよ。要求叶えてあげれば、さっさとあたし達解放して序に出てくわよ。立て篭もり犯って大体そうじゃない」
屋敷に近づいて窓から内側を覗きつつ言う。
言いたいことが上手く伝えられずに“人質立て篭もり”なんていう形で言葉を伝えようとするのは幽霊も人間もそう変わらないはずだ。と、これは自分理論だが、案外一般的に通用しそうだなとも思う。極論だ、と言われそうだが間違っているとも言われないだろう。
薄暗い屋敷の中は、はっきりと見えなかったがその内側まで細かく作られている様で家具や階段がなんとか見て取れる。
「そうはいっても…どうやって要求とやらを聞き出すんだ。話しが通じる相手かもわからんだろ。――まあ、取り合えずこの中に入るのが先決だな。鍵、蓮に渡されただろ?」
屋敷の入口で猫が鍵穴を見上げて言う。
開けろ、と意図して言っている様だがあやこはぱっと両手を開いて猫に見せていた。
「あっはは、御免。持ってきてないわ」
「……。お前っ! じゃあ、なんのために此処に来たんだ!! 中に入れなければ何も出来んだろ!」
あやこがひらひらと手を振っていれば猫はそれを見て毛を逆立てて怒った。箱庭の外で蓮が何喧嘩してるんだい、と呆れた声で笑う気配がした。
「あーもー煩いっ! 何も強行突入だけが手ってワケじゃないでしょ。いいからあたしに任せて。IO2研究室の凄さも序に見せてあげるから!」
ふーとかしゃーとか、兎に角猫らしくも毛を逆立てて喚く黒い毛玉を煩いと一喝。
まだ文句を言い足りないと言う様子の猫を引っつかむと、あやこはズンズンと庭の中央へと移動し始めた。
■怨霊の母と馬鹿息子
まだ煩く小言を並べる猫を無視し、あやこはジャーンと何処からとも無くヴィジャ盤を取り出した。文字を指し示すプランシェットも一緒である。交霊術定番のそのセットを手に、あやこはぐっと気合を入れた。
「まさか、それでいちいち質問してって要求聞くわけじゃないだろうな…日が暮れる」
「違うわよ。立て篭もり事件っていったら、犯人のお母さんが出てきて涙ながらに説得するってのが定番でしょ」
王道は通すものである。
さも当然とそう言ってみせたあやこに、猫はドラマの見すぎだ。とボソっと呟いたが頼る相手は彼女しかいない。どうなるだか…と些かの心配を抱きつつその様子を隣で見守る事となる。
「えーっと…すみませんが、中に怨霊のお母さんいらっしゃいますか?」
地面に座りヴィジャ盤を置いたあやこはまずその質問から始めた。指先に据えたプランシェットが、すすっと動いて自然とYesを指す。所謂、狐狗狸(コックリ)さんの原理である。
「じゃあ、ちょっと出てきてもらって欲しいんだけど。駄目ですか?」
次の質問にはNOを指す。
「…やっぱり日が暮れる」
「っし! 黙って! ――出てきて貰わないと、あたしたち此処で白骨死体になんなきゃいけないのよね。っていうか、出てきて貰えたら息子さんの命は助けるわ。約束するから、出てきてくれないかしら?」
命って、既に死んでいるから怨霊なんだろうとか。息子って何でわかるんだとか。というか、もうコレは脅しじゃないのか。なんて、そんな煩い猫のツッコミは全スルー。交霊術と言うものは無駄にデリケートかつ、集中力を使うのだ。一々猫の相手をしていれば交信が途絶えてしまう。
あやこの問いに、盤の上のプラシェットがYesとNOの間を彷徨った。それが十数秒。プラシェットはYesを指して動きを止めた。
「よしっ、母親おびき寄せ成功じゃぁ!」
「人聞き悪いな。その喜び方」
ぐっとガッツポーズを作ったあやこは、もう用の無くなったヴィジャ盤を放った。横手で大欠伸をかましていた猫も一応は一連の流れを見ていたらしく、あやこが立ち上がると共に据えていた腰を持ち上げた。
一人と一匹が立ち上がると、屋敷の目の前に薄ボンヤリと今にも消えそうな身体の老女が現れていた。背中の丸まった小さな彼女が怨霊の母親の様だ。
「お母さん、こっちこっち!!」
さあ、これで数々の刑事ドラマ宜しくなあの感動シーンのための材料は整った。
拡声器やパトカーが無いのが少し残念だったがさほど問題ではない。怨霊の母親を呼びつつ、影であやこはライフルを構えた。
「右で微笑んで、左で武器を構えるか。なかなかの悪人だな、あやこ」
「悪人じゃないわよ! 誰の為にこんな事やてると思ってんの。あんたがドジして箱庭に捕まるからでしょ! それに、武器って言ってもそんな凶暴なものじゃないし。IO2秘密兵器“サイコライフル”よ。聖水を発射するの」
水鉄砲と言ってしまってもいいそれだが、一応はIO2の研究の粋を集めて作られたオカルティック兵器である。
そんな説明をし、怨霊の母親があやこの隣にたどり着いた。薄茶の髪を結い上げた中々の貴賓ある老女だった。
『うちの息子はもう、三百年も前からこうやってこのお屋敷に立て篭もっていて…』
「三百年?! そんなに長い間いったい如何して」
『それは…もともと、我が家には莫大な財産がありまして。けれども、私の主人が亡くなってから放蕩息子が全て使い果たしました。それから理由あって一家もろとも命を失う事となったのですが…息子はまだこの屋敷に財産が残ると思い込み、こうして取り憑いて探し続けているのです。この屋敷が箱庭とも知らず…』
怨霊の母親は喋り終えると顔を両手で覆った。泣いているのか、馬鹿息子に恥しさが込み上げたのか。
成り行きを聞いたあやこと黒猫は、顔を見合わせた後お互いに肩を竦めた。
「そりゃとんだ駄目息子だわ。現代にも居るわよね、働いたら負けなんていう親の脛齧り。死んでまで親の金に執着するなんて、情け無いったらないわね!」
無一文から叩き上げて多くの経営を成功させているあやこにとって、まったくふざけた話であった。お金は自分で稼いでこそ有り難味と価値があると言うものだ。
どんな理由で立て篭もっているかと思ったが、そんな呆れた理由ならば引きずり出してさっさと成仏なりなんなりさせてやる。
「ちょっと、屋敷の馬鹿息子! あんた、おかーさん泣いてるわよ! それに、もう財産なんて残ってないんだからっ。さっさと出てきて成仏して、新しく生まれ変わって自分でお金稼ぎなさいよっ」
手にしたサイコライフルで屋敷をビシっと指してあやこは叫んだ。
それから少し。辺りは静まり返って何も起こらないかと思われたが、突如目の前の白い屋敷全体がカタカタと音を立てて揺れ出した。そして次には窓と言う窓、扉と言う扉全てを吹飛ばして内側より青白い煙が風圧と共に噴出し一箇所に集まりだす。
「…なんなのっ」
強い風に足を踏ん張り目元を覆う。視界の端で猫が風に転がるのをあやこは見ていた。
『貴様っ!! ナンノつもりダっ、貴様も私ノ財産を盗ミニ来たのカぁッ!』
腹の底にまで届く様な割れた凶暴な声が響いた。
風を遮る為に持ち上げていた腕を下ろせば、その目の前には青白い火の玉の様な巨大な塊が浮いている。これがこの屋敷の旦那様だと言うのか。
浮遊する塊の中央には黒い空洞がいくつかあって、それが目や口の役割を果たしているのだと気付くのに少しだけ時間が掛かった。
「…これ…うわさの馬鹿息子。…じゃなくて、この屋敷の主人?」
見上げる塊から、言い知れぬ嫌な空気が放たれている。背中を駆け巡るその感じに、あやこは眉を顰めた。
命を失っても尚、金に固着する心だけが箱庭に宿っていたのだろう。最早人の形すら忘れてしまったそれは、明らかに怨霊と呼ぶに相応しかった。
「盗みになんて来てないっつーのっ! もともともう盗むモンなんて無いんだからっ」
『金に目ガ、眩んで居なケレばこの屋敷にハ近ヅケない! 持ち去ル、つもリダナ! 私ノ財産ヲッ』
「人の話し聞きなさっ……あ、危ないわねっ!!」
ちょっと落ち着いて人の話しを聞けと言おうとしたが、それより先に浮遊した怨霊の巨大な口から青白い炎があやこ目掛けて吐き出される。地面に身を投げ出し受身を取りながら避けると、慌てて木陰へ入り込む。
木陰で息を整え、サイコライフルを構えていると何処からとも無く猫が姿を見せた。
「母親使って、説得できてないじゃないか」
「煩いわね。失敗する時だってあるの! 戦う気ないならどっか行ってなさいよ。焼き猫になっちゃうわよ」
あの馬鹿息子も人の話しを聞かないが、この猫も猫で空気が読めないらしい。
邪魔。と猫を言葉で一蹴する。馬鹿息子の怨霊が第二波の火を吐き出すと共に、再びあやこは木陰より飛び出た。青白い炎を避けライフルをガシャと構えると、その中の聖水を怨霊目掛けて放った。
「ちょっと頭冷やしなさいよねっ」
『グッ…コノ、小癪な…娘めガっ…』
聖水は怨霊の額に勢い良く命中した。呻いた青白い馬鹿息子の怨霊は後方に下がり、聖水の効力で身動きが出来ないのかその場でもがいている。
「よっし、隙ありっ!」
怨霊がもがいている間にあやこは次なるアイテムを取り出す。拳大のそれは、煩悩の塊が詰め込まれた手榴弾。
すばやく煩悩手榴弾のピンを抜き取り、あやこは華麗なフォームでそれを怨霊へと投げつけた。
怨霊に叩きつけられた手榴弾はその場で爆発し、白煙で大きな怨霊を覆い包んでゆく。
「その中で一瞬だけ無い財産が見つかった夢でも見て、想い晴らして成仏してちょうだい」
ふぅ、と息を付いたあやこは乱れた黒髪を片手で整え、サイコライフルを肩に担ぐ。
『アぁ…あった、マダコんなニモっ…。ココにもっ、こうして集めてオケバ盗らレる心配もナイ…これで、安心シテ逝け、ル…』
煩悩の煙の中、怨霊の駄目息子は必死に金を掻き集めているのだろう。
本来、こうした未練の怨霊の最後は涙ながらの美しいものが定番のはずだが、まるで感動など無くて呆れの溜息ばかりが落ちる最後だ。
「やっぱり、ドラマとか映画の見すぎかな」
夢見すぎなのかなー。とあやこが呟いている間に、白煙の中から宙へ昇り出すものがあった。怨霊が想いを果たして成仏したのだろう。これで漸くこの箱庭から出れそうだった。
それから、あやこと黒猫は怨霊の母親に幾度と無く感謝され彼女が息子を追いかけるのを見送り、箱庭より出る事となった。
「やれやれ、これで何とか出れるな。まったく、困った息子だったな」
「困ったのはアンタよ、藍星。お金に困ってるってなら、少しくらい貸すわよ?」
この屋敷に取り込まれる者はどうやら金銭に固着する者らしいと、先ほど馬鹿息子が言っていた。
「困ってない。猫は別に金なんて無くてもやってける」
「あっそ。でも、少しくらい感謝しなさいよ。助けに来たんだから。」
「それは感謝してる。しかし…なんで困ってるって解ったんだ? IO2の賜物か」
ああ、そうか。と黒猫は自己解決した。
「っそ。IO2の情報ネットを舐めてもらっちゃぁ困るわよ。よーし、戻るか!」
問題は片付いたし。一暴れして疲れたし。お風呂にでも入ってさっぱりしたいなぁ、とグーっと背を伸ばしていると自然と身体が浮き上がって箱庭の外へと放り出されていた。
■終章
「ぁわっ、わっわわっ…!」
ぽいっと箱庭の外に放り出されて、ドサっともとの大きさでアンティークショップのカウンター前に落とされた。
その際、何かビリっと音がしたと思った瞬間やたらと身体が涼しくて…。小さな姿から大きな姿になる際に、服までもとのサイズに戻らなかったのだ。あやこはカウンターの前で衣服を身に着けない姿で座り込んでいた。
「し、しまった…服っ…着替え、持ってくるの忘れた…」
咄嗟に両手で胸やらを隠して猫や蓮に背を向けたが、それはもう恥しくてたまらない。
「あ、の……蓮さん…。お、お人形の服とかでいいから、貸して…。後、その…ショーツ、とか…も」
顔に血が上ってるのが嫌でも解る。真っ赤な顔をし、小声であやこが蓮にそう頼んでいると、店の扉が開いて誰かが出て行った気配があった。
「おやおや…あんた、おっちょこちょいだねえ。人形の服っていわないで、あたしの服貸したげるよ」
くつくつと、楽しげに笑う蓮の声。その後肩に掛けられたのが、女店主がいつも羽織っている赤い羽織。
「…あ、ありがとう…」
「そんな畏まるんじゃないって。――ああ、後ねこれ。藍星からだよ」
羽織の前をぎゅっと合わせたあやこの目の前に、何やら鈴の様なものが差し出された。
「…なに、これ?」
「さあね。良く解らないけど、渡しとけって言われたもんでね」
受け取っておくれ。と蓮は言って鈴をあやこの手の平に落っことしていた。
店内を見回すと既に黒猫の姿は無い。先ほどの出て行った気配はあの猫だった様だ。
「助けてくれて有難うってよ。今の騒ぎで居づらかったのかね、猫でも一応男は男ってね。さ、それじゃ服貸すからこっちにお出で」
笑い言い蓮は奥に引っ込む。
「お礼くらい自分でしろってのー。礼儀がなってないって自分で言ってたじゃないの」
渡された鈴を見て文句。指先で鈴を揺らしたが音が鳴らない。壊れてるのかと眉を顰めた所で、奥から蓮が呼ぶ声がした。
「早くおいで」
「今行くっ」
慌てて立ち上がったあやこは、一度だけカウンター上の箱庭を確認した。もう先ほどまでの嫌な気配はない。
それを知ると、あやこは服を借りるために羽織の裾を揺らしつつ店の奥へと小走りで向ったのだった。
■登場人物(この物語に登場した人物の一覧)■
【7061】藤田 あやこ(フジタ アヤコ)/女性/24歳/IO2オカルティックサイエンティスト
【NPC】
碧摩 蓮(ヘキマ レン)/女/26/アンティークショップ・レンの店主
藍星(ランシン)/男/5?/鳥居聖堂の飼い猫・大迷宮六代目管理人
■ライター通信■
藤田 あやこ 様
大変お世話になっております。この度はご参加有難う御座いました。
さて、今回ですがノリの良いプレイングを頂きましたのでちょっと調子に乗ってこんな感じに。
藤田様がIO2組織の一員と言う事で、その辺りもプレイング踏まえ活用させて頂きました。
そして屋敷の旦那様ですが流れ(母親を呼び出す等)の中でこんな放蕩息子になりましたが、
きっと藤田様の一喝で更生し来世ではしっかりと自活出来る様になるのでは…などなどと。
若干の戦闘?的な感じを織り交ぜさせて頂きましたが…いかがでしょうか。
少しでもご満足頂けましたら幸いです。
それでは、またご縁が御座いましたら宜しくお願いいたします。
今回も有難う御座いました。
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