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<東京怪談ノベル(シングル)>


私ってブーツフェチ?


 ジィーって音と共に、レースアップロングブーツのファスナーを上げる。紐をきちっと結ぶと、心もキュって引き締まる。
 うん、いい感じね。気合も入って気分もいいし、さぁ、今日のステージも張り切っていこう!
 姿見の前で衣装を見てニッコリ笑顔を確認すると、私は楽屋を出た。

 ライトアップされたステージで、燕尾服に身を包み、私は動物達とショーを繰り広げる。私の鞭の音で猛獣が芸を披露すると、観客席はワーッと沸いた。
 お客さんの歓声はやっぱり最高ね。自分がプロなんだって思えるし、この仕事に誇りを持てるもの!
 あと、この衣装も人気があるみたい、主に…男性のお客さんに。スポットライトを浴びて立ちながら、そんなお客さん達の視線をすごく感じる。もしかして私の姿に見とれてくれているのかな?
 噂じゃ私の姿を見るために来てくれるお客さんも結構いる、なんてきいたこともあるけど…流石にそれはちょっと自惚れすぎかしら。
 でも、それは言い過ぎだとしても、私達を見てくれるお客さんがいるっていうのはステージに立つ者としてはやっぱり嬉しいわよね。お客さんにはいつだって喜んでほしいし、頑張ろうって思えるわ。
 沢山の拍手と視線に包まれながら、私は動物達と一緒に深々と観客席にお辞儀をした。


 ステージを終えて自分の部屋へ戻ると、私は一息つきながら衣装の手入れを始める。もちろん、パートナーの動物達とのコミュニケーションがイチバン大切だけど、衣装だって私の大切な相棒だものね。みんなが見てくれる自分の姿を引き立ててくれるんだもの、丁寧に手入れしなくちゃ。
 中でも私が特に気を使うのが、やっぱりロングブーツ。今や私にとって必要不可欠なアイテムね。色は黒がお気に入りかな、衣装にもよく合うし…それから、黒って色には何だか魔法のような魅力があると思う。誘惑の色、妖艶なイメージもあるかな? そんな大人びた雰囲気のカラーに、無意識のうちに惹かれているのかも。
 そんなことを思っていて、ふと思う。昔からロングブーツを履いた女性に憧れていたし、ブーツって好きだったんだけれど、そういえばいつから愛用するようになったんだったかしら?
 猛獣使いになったときには…もう既に常備していたのよね。そう考えると…いつの間にか、としか覚えてないわ。何だか不思議。それくらい自然に私はブーツを選んで常に身につけるようになっていたってことなのかな。
 ファッション雑誌なんかでブーツ特集が組まれているときも、ショッピングモールのウィンドウに飾られているときも、すぐ目がいっちゃう。
 考えながら、ブーツを手入れする手を休める。んー…ブーツって皮物だから、手入れも楽じゃないよね。しかもロングとあれば面積も広いし。ブラッシングしたり、布で磨いたり…光り具合にも気をつかわなきゃいけないもの。
 それからケアが必要なのはブーツだけじゃない。そう…私の「脚」の方もなのよね。
 衣装全体のバランスもあって、私は生足に直接ロングブーツを履いてるけれど、そうなると脚の方も蒸れたりするわけで…。そうすると、必然的に臭いとかもついちゃうわけで…がっくり。女の子として、これってどうなの? ううーん、こっちだって毎日ケアを欠かしてないんだけどなあ…そう思いながら脚を眺めてみる。結構スタイルは良い方だし、脚の形もいいと思うんだけど。はあ、いろいろ悩みは尽きない…。
 でも、それだけれど。
 私は手にした愛用のロングブーツを改めてじっくり見ながら、うん、やっぱり大好き、と思った。


「お客様、そちらの新作はいかがですか?」
 店員さんに薦められて、それを手にとる。今日の午後は久しぶりの休暇で、私はあちこちのブティックを回っている。
 目的? もちろん、今年の流行のブーツ! ふふ、どうしたって好きなものは好きなんだもの。新作チェックだってしておきたいじゃない? ふむふむ…ここのお店はこんなデザインがオススメなのね…リボンの形も綺麗だし、コケティッシュで可愛いかも!
 いくつかの商品を見比べつつ、私は鏡の前に立った。今日の私服は白のショートジャケットに黒のホットパンツ、ブーツはベルト付きのブラウンを選んできたけど、この上着になら他の色のブーツも合わせられそうね。
 うーん、キャメルカラーっていうのもなかなか季節感があっていいかもしれないな。サイドバックルにも惹かれるし…あ、でも足首が細めのデザインもスタイルが際立って魅力的かしら。でもここであえてピンクやオレンジのカジュアル系を選ぶっていうのもアリよね。でも待って、こっちのカントリー風のデザインなら、ミニスカートにすごく合いそう…!
 見れば見るほど迷っちゃうけれど、好きなものを選んでいるときのこういう時間って本当に充実しているから、私は大好き。
 悩んだ末に私は、その中でも一際フェミニンな一品を選び出した。
「この形で、黒ってありますか?」
 お気に入りのカラーもちゃんと確認しなきゃね。買うなら自分にしっくりくる、もちろん私の好みにぴったりのものを手に入れたいから。プロとしての…ううん、乙女としての、こだわりね。
「ありがとうございましたー!」
 店員さんに見送られながら新作のブーツを手に、お店を出る。次はどこのブティックへ行こうかな? まだ行くのかって? もちろん!
 だってまだまだ流行のブーツはいろんなタイプが出ているはずだもの。今度のお店ではステッチの入っているタイプを探してみようかしら。そうそう手入れ用品も買っておかなくちゃ。愛用の品はいつだって良いコンディションにしておきたい、当然よね。
 ブーツフェチって呼ばれても、もうこの際構わないわ。今日はとことんお店を巡って、買い物しちゃうんだから!


 サーカスの光の溢れるステージの方から聞こえてくる歓声、拍手。それらを聞きながら舞台袖で私は衣装を確認した。シルクハット、ちょっと露出度高めのコルセットやショーツの上には燕尾服、蝶ネクタイに…そして、黒の編み上げロングブーツ。
 私は屈むと、もう一度きちんとブーツの紐をきゅっと結んだ。手入れの行き届いた靴のつま先が、きらりと光を反射する。
 うん、良い調子。今日のショーもきっと良いものになるわ。ステージでは前の演目が終わり、次はいよいよ私達の出番。
 さあレッツ、ショータイムっ! 動物達と一緒に私は、きらきらとライトで眩しい舞台へと駆け出した。
 大好きな、ロングブーツの踵をカツカツと明るい音で鳴らしながら…。

 〜fin〜