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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>


【箱庭屋敷の旦那様】

■序章

 骨董屋のカウンターには小奇麗な箱庭が乗っていた。
 その中には小さな喋る黒猫がいる。
「で。入ったくせに出られないってのは、どんな理由だい。」
 店の主人、蓮はそんな黒猫に笑い聞いた。
「それは俺が知りたい! 解ってる範囲ではこの箱庭屋敷の中にいる強い思念のおかげで外に出れない様だが…」
 出たいのだと猫が小さな屋敷の屋根上で鳴き喚く。
 屋敷の鍵があれば中に入って出れない原因を如何にか出来るがと猫は更に続け、大きな溜息を付いて肩を落す。鍵は箱庭の横に大きなサイズのまま転がっていた。
「それは困った話しだねえ」
 さして困った様子もなく蓮が肩を揺らしながら言っていると、店の扉がガチャリと開いた。


「いらっしゃい」
 箱庭から視線を上げた蓮は来店した二人の姿を視界に留めていた。
 一人は見覚えのある少女。もう一人は…覚えの無い少年。随分と背が高く、その長躯に似合う体つきをした彼は、弓巻に包まれた和弓と矢筒を携えていた。
「あんた達、時間あるかい? ちょいと頼まれて欲しい事があ…」
「佳以!!」
 横の少年は誰か、などと蓮がそれなりに気にしつつも、箱庭の事を言ってみようかと話しを始めた矢先である。問題の箱庭から黒猫が声を上げていた。
「…藍星、さん?」
 どこからともなくと名を呼ばれて少し驚くようにした少女、八唄佳以はカウンター上の箱庭からの声だと気づきそこを覗き込む。そうすると屋根の上でしょぼくれる猫を見つけていた。
「姉さん…、知り合い?」
 佳以の反応に横にいた少年、八唄和多も箱庭を覗き黒猫を見る。
 喋る猫がいる事にもさして驚く反応も無いのか、短く疑問符を浮かべていた。そんな和多は、今しがた本人が佳以を“姉さん”と呼んだように、佳以の弟であった。
「ええ。以前、お世話になった事があります」
「おや、藍星と知り合いかい? この猫だけれど、此処に閉じ込められちまったんだって。助けに行ってくれないかい?」
 佳以の言葉に返事をしたのは和多ではなく蓮。短く問題点だけを告げた。
 佳以が喋る猫と知り合いだと聞き、和多も驚いている。もともと不思議な事に影響を受けやすい姉だが、まさか喋る猫と知り合いだったとは驚いた…が、驚く時にもさしたる表情変化がない。
 驚いたその後。和多は黒猫と言葉を交わす佳以を見やって少し考える。少しして考えが纏まるのか、無言のまま荷物を置くと弓掛を付け、和弓を巻から解いて弦を張った。 
 その様子を眺めていた蓮が口を開く。
「引き受けてくれるのかい」
「姉さんの知り合いなら、助けないと」
 それが少し変わった猫であっても。佳以がああして言葉を交わすなら、悪い相手では無いだろう。
「それは有り難いね。ただ…危ない可能性もあるよ」
 そんな蓮の言葉に和多は頷くだけの返事をする。普通では無い状態が目の前で起こっていて、そこへ飛び込むならば何があってもおかしくは無い。危険は承知だった。
「姉さんは、如何する…?」
「私も行きます。何か、藍星さんのお役に立てる事があるかもしれませんから」
 そうやって返してきた佳以に和多は直ぐに頷く。何か危険があれば自分が姉を護る。そのための弓矢でもあり、磨いてきている技なのでもあるのだ。
「それじゃあ頼もうかね。この鍵を持って、後の話しは猫に聞いておくれ。私も詳しい事まで解らなくてね」
 蓮は佳以には危険だとは言わなかった。和多の様子をほんの少しだけ見ると、言いながら佳以に鍵を手渡していた。
 箱庭の門に触れれば中に入れるよ。と、そんな蓮の言葉に頷いて佳以と和多は箱庭の中へと向かった。


■箱庭の中

 不思議な話しだったが、本当に小さくなって箱庭の中に二人は居た。上を見上げれば空は無く、変わりに骨董屋の古臭い天井がそこにはあった。
「まさか、佳以が助けに来てくれるなんて。思ってなかった」
 あちらこちらを見ていると、低い位置から声を掛けられる。黒猫だった。どうやらすっかり佳以に慣れ付いてしまった様で、声を掛け終わった後直ぐに佳以の足元にじゃれ付いてくる。
「私も驚いています。また藍星さんに出会えるなんて」
「そういえば、今日はあっちの金髪が居ないな?」
 一頻りじゃれた猫が改めて見上げると、そこには先日の少年の姿がない。そもそも居たら佳以を危険な箱庭へと向う事に反対するはずだ。その金髪の変わりに佳以の隣には、弓矢を携えた真面目そうな少年がそこには居て、黒猫は思わず聞いていた。
「彼は今日、委員会なんです。きっとまだ、学校です」
 猫の問いに小さく微笑んだ佳以は、いつも一緒の幼馴染についてそんな説明をした。そして気にする様に和多を見ている猫をゆっくり抱き上げると、弟を紹介した。
「それから…紹介します、藍星さん。弟の和多です」
「……弟…?! …言われて、みれば似ている様な…全然似てないような…そうか。弟だったのか…」
 猫はポカンと紹介された和多を見上げて暫く瞬きを何度か繰り返す。似ている点は髪色と目色くらい。寡黙そうな少年は、柔和な佳以に比べてまったく表情が無いのでは、という程で。しかしその二人が並んで立てば、姉弟と言われても不思議と頷ける。纏う雰囲気が似ているのかもしれない。そんな事を思った猫は、結局最後には間抜け顔を引っ込めて頷いていた。
「和多、藍星だ。…姉弟揃って面倒に引き込んでしまって申し訳ないんだが、宜しくな」
 姉に抱き上げられた黒猫がじっと見上げて言ってくる。言われた和多は面倒などでは無いと意味を込めて首を横へ振ってから、掛けを付けぬ手で無言のまま猫の頭を撫でていた。これでも和多は小動物や可愛いものが好きなのだ。猫は可愛いと思うし、微笑ましいとも思う。しかし相変わらずそれが顔には出ずであった。
「それで藍星さん。どうしたら此処から出れるのでしょう? 蓮さんから鍵を預かって来ましたが…」
「ああ、そうだった。鍵を使ってあの屋敷に入るんだ。屋敷の中に俺達を閉じ込めている原因があるから、それを如何にかすればいい」
 すっかり佳以の弟、和多の事で話しが別の方へ傾いたがそれを佳以が軌道修正する。
 忘れていたと言わんばかりの様子で猫はそれに答えると、抱かれる腕からするっと抜け降りてとりあえず、鍵を開けたいと、二人を屋敷の前へと連れ出すのだった。

 門前からの歩く間、和多も猫も人の手で作られた草や木のその影に白い物が転がっているのを見ていた。こうして同じように箱庭に閉じ込められた者達が、逃げ出す事が出来ずに果てた姿なのだろう。
 それを見た猫が気を回したのか、佳以が気付かぬようにと彼女の視線を常にそこから逸れる様にと話題を振っていた。
「それじゃあ、鍵を開けてくれ」
 そうして屋敷の前へとやってくると、黒猫がすぐさま言う。佳以はずっと握り締めていた鍵を鍵穴へと向けた。しかし。
「待て佳以。和多、お前が開けてくれないか?」
「…? ああ」
 鍵を開ける直前で静止の声が掛かった。和多は一拍の疑問符の間を置いてから、佳以と変わるべく動く。
「佳以。この先は何があるかわからないから。和多と俺だけで向おうと思う。お前は此処で…」
「藍星さん、お心遣い有難う御座います。でも…私、知ってしまいましたから。藍星さんの事も、こんな不思議な世界も」
 此処で待っていて欲しい。きっと猫はそう言うつもりだったのだろう。しかし佳以は珍しくも言葉に言葉を被せるように喋っていた。
 知ってしまったから、無理に関わろうと言うわけではなくて。ほんの少しだけでも、力になれたなら。それに、もし今後。この様な事があったとして、ずっと一人だけ安全な場所に居続ける様な事ではいけないのだと思う。そんな思いもあって、佳以は黒猫の藍星へと諭すようにして微笑んで言う。
「一緒に、連れて行っては頂けませんか?」
「……わかった。一緒に行こう」
 黒猫はそれでも少し悩んだ様だ。扉の前に立つ和多を見上げ、彼が姉の言葉に静かに耳を傾けそして口を出さぬ事を確認した。そうして間を挟んでから猫は首を縦へと振っていた。
 二人のやり取りが終わるまで動かなかった和多であったが、話しが終わったのだと知ると扉を開くべく動き出す。
「じゃあ、開く」
 和多は佳以を庇うように前に出て鍵を慎重に捻る。そして扉のノブへと手をかけた。
 扉はギィと古めかしい軋みの音を立て開いたが、何かが飛び出してくる様な気配は無い。
 それを確認した三人は、屋敷へと足を踏み入れたのだった。

■箱庭屋敷の旦那様

 箱庭屋敷の中は薄暗く、埃臭かった。
 人の手で作られた小さな屋敷の空間だと言うのに、驚くばかりの精巧さ。このまま生活も可能では無いだろうかと、そこまで思わせるほどのものであった。
「さて…、厄介なモノが居なければいいんだが。とりあえず、変わったことが無いかを探そう」
 そんな猫の言葉に素直に頷き辺りを見て回ったりと始める和多であったが、何せまるっきりこの手の幽霊だのなんだのと言うモノを感じる事が出来ない自分では、探そうにも探せない。霊感などと呼ばれる物を持たぬ者でも、見えるほどまでに霊が実態化をしていれば話しは別であったが…。
「姉さん、藍星さん。何か…、感じた事があれば俺に教えて欲しい。俺は、そういうモノがまったく感じ取れないから」
 その変わりに、何かがあったらば直ぐに対処をしてみせる。
 和多がそうして二人へ告げた直後。
「何か、……誰かが、います」
 佳以が階段を見上げて言葉を落とす。猫と和多がその言葉が指した階段を見上げたが、和多はもとより猫にもその場所に何も見えない。
 何が居たのだと、聞こうとしたがそれより先にゆっくりと佳以が歩き出してしまう。
「佳以、そっちには何も…」
「いいえ、感じるんです。誰かが呼んでいる声がします」
 言いながらも佳以の足は階段を上ってゆく。何かしらを感じ取っている佳以は、その事に対しての恐怖は抱いて居ない。その足取りが無いよりの証拠だった。
「姉さんは、自然と、強い思念を受け取ってしまう体質なんだ…。追いかけよう」
 姉は昔よりそんな体質であった。
 突然の事に驚きを見せていた猫へそう短く伝えると、和多は佳以を追いかける。いつもの事だが、姉を一人だけでその様な思念へと向かわせる事だけはしたくなかった。


 階段を上り二階。佳以は一つの扉の前で立ち止まった。
 今まで、思いがけずに誰かの思いが自然と流れて来た事はあったけれども。それが何かを、誰かを導ける力になるかもしれないなんて。今佳以はそんな事をふと思っていた。
「この能力…、和多や藍星さんの耳の代わりになれば…」
 そして、この部屋の奥にいるであろう思念の持ち主にも何らかの力になれば…嬉しいと思う。
「此処です。この奥から…」
 言い表せない程に不思議な感覚がこの先から流れている。何かを訴えてくる強い思いなのに、その肝心な訴えたい部分を読み取れない。それが何故かとても申し訳なくて、佳以は二人が止める前にその扉を押し開けていた。
「……子供部屋…」
 その先に佳以と和多が見たのはオルゴールや発条仕掛けの玩具達。
 誰も居ないのに沢山の玩具たちが一人でに動く。ブリキの兵隊が歩いて、綺麗なオルゴールが子供の頃に聞き馴染んだ様な曲を奏でていた。
 それは一種異様な光景とも言える。そして、佳以や和多の足元で黒猫がぶわっと毛を逆立てた。
『だぁれ? …パパ、ママ…?』
 直接頭へと響く様な声を佳以は聞く。小さく小さく消え入りそうなその声と共に、部屋の中央にクマの縫い包みを抱えた幼い少女が現れる。この少女が屋敷に憑いた思念。この箱庭の主人…。
 沢山の玩具に囲まれ今まで遊んでいたのだろう笑顔の少女は、縫い包みを抱えたまま床にペタンと座り、扉を見ては首を傾げていた。
 そんな少女の声を聞いた瞬間に、佳以は小さな衝撃を頭の中で覚えた。この子が、あの不思議な思念を出している。そう悟った佳以は、少女を驚かさないようにとそっと近づいた。もしかしたら、話しをする事が出来るかもしれない。
「あなたの、お父さんとお母さんではないのですが…私たちは、このお家に迷い込んでしまった者です」
 此処から出る方法を探しているのだ、と言うべきだったのだろうが佳以はそこで言葉を止めている。
 出るための答えだけを聞くのが躊躇われた。今でさえ、少女からは楽しさの底に隠れた寂しさの念が流れ出しているのだ。それを見ぬ振りなど、佳以には出来なかった。
「…何か、居るのか?」
 少女と言葉を交わすその佳以の背を見て和多は猫に尋ねる。和多にはまだ何も見えていない。
「子供がいる。あれが…無意識に箱庭へ人を吸い寄せている原因だな…」
 和多の問いに猫が小さくそう伝えていた。
『直ぐに、帰っちゃうの…? お姉ちゃん、ワタシと一緒に…遊んでくれないの?』
 佳以が言葉にしなかったそれを、少女は直ぐに見抜いた。微笑んでいた表情が段々と崩れてゆく。
「…それは…」
『パパとママが、ワタシを迎えに来てくれるまででいいの。お姉ちゃん…帰っちゃヤダ…』
 小さな小さな箱庭屋敷の一室にいる少女なのだ。もう、すでに少女はこの世の存在ではない。非日常に慣れていない佳以と言えども、それはもう解っていた事だった。だからこそ胸が締め付けられる。どれだけ待っても、少女が待つ両親は現れない。
「…ごめんなさい、それは…出来ません。でも、…」
 佳以は決めた様に首を横へと振る。どれだけ待とうとも現れぬ両親を待ち、少女と遊び続ける事など出来る事ではなかった。
『ヤダッ! 帰っちゃヤダッ…いい子にするから、一緒に遊んで!!』
 佳以が首を横へと振った瞬間。少女は大きく叫んで物凄い力で佳以の腕を引きよせていた。
 それと共に少女を取り囲んでいた玩具達が重力を無視して浮かび上がる。まるでホラー映画の一場面。
『お姉ちゃんはっワタシと一緒にずっとずっと、ここで遊んでっ!! どこにも行っちゃイヤッ』
 掴まれた腕から、この少女の強い想いが津波の様に押し寄せて声すら出ない。それなのに、恐いと思う気持ちよりも少女の辛くて寂しいその思いに、ただ苦しくなってゆく。
「姉さんっ」
 ぐらりと佳以が前方へ倒れこめば和多は弦に弓を番えて引きやるが、その的となる物が見えていない。何かが起こっている事は把握が出来ていたが、詳細な状況までもわからずに強く引いた弦が耳の横でギリと音を立てるだけで動けない。
 そんな和多の足元より黒猫が飛び出す。
「和多っ、右だそのまま射れ!」
 黒猫は佳以の腕を放さないでいる少女の手腕へと噛みついた。すぐさまに佳以は解放され、それと同時に猫も振り飛ばされる。
「見えなくても…藍星さんの瞳と、姉さんの感じた声が、俺の目と耳…。それがあれば――充分」
 冷静さを失わず、和多は黒猫の言葉の方向へ一射を放つ。直線の軌道を突き進む矢は猫が示した場所まで進むと、見えぬ壁に阻まれる様に弾き跳んでいる。それを気に止めず、和多は二射目を素早く引いたが、その和多の目の前で少女の姿が浮かび揺らぎ出す。
『ワタシ…ただ、皆と…遊びたいだけなのに!』
 少女の思いが爆発したのか、弱かった思念が和多でも目視できる程に色濃くなる。少女がわっと泣き出せば、浮かび上がっていた玩具達が佳以や猫を目掛けて飛んでゆく。それを用意していた二射目で和多が射ち払う。
「もう、話しの出来る様な常態ではないな。やむを得ん…和多、退魔の技術はあるか?」
 少しの間に佳以を連れて戻って来ていた猫が、和多に尋ねた。
「……。ああ」
 魔と呼ばれる物を払い除ける力を秘めた弓術は姉のためにもと備えてあった。
 尋ねてきたと言う事は、使えと言う事と同じ。泣きじゃくる少女を見やって小さく頷いた和多は、弓を一度だけ強く握り瞼を落とす。そして肩の力を抜き落とした瞼を持ち上げると、弓を構えて弦を引いてゆく。そこに矢は番えられない。
 和多と猫の会話を耳に入れていた佳以は今の状況を理解している。出来るならば話しをして…と、思う心はまだあったが自分が前へと出て行っても変わらないだろう。
 そうして佳以が胸の前で小さく手を握った時、和多の弓弦が解き放たれて高い音を響かせた。魔を払うと言われる“鳴弦”だった。
『…やだ。パパと、ママが来るまでワタシ此処に居たいの…っ』
 高くも尾を引く鳴弦の音に少女の姿が消えてゆく。浮遊していた玩具たちが音を立てて落ちて行く中、少女は必死にその場に留まろうと自らの身を抱き締める。
「あの…きっと、あなたのご両親も別の場所であなたを待たれていると思います」
 そっと歩き出した佳以が少女の腕から落ちた縫い包みを拾う。丁寧な縫い目のそれは手作りで“愛しい娘へ”と英字の刺繍がしてあった。
『…待ってて、くれてる…?』
「はい。一生懸命探しているかもしれません。きっと、会えるはずです」
 こんなに愛している娘なのだから。どこかで両親も同じように少女を待ってくれている。
 少女の視線にあわせしゃがむ佳以は、縫い包みを手渡して頷いていた。
『うん……。じゃ、あワタシ…パパとママに会いに行く』
 必死に留まろうとしていた少女は、佳以の言葉に身体から力を抜いた様だ。縫い包みを受け取ると、もう輪郭すらはっきりとしていなかったが、目元を拭った。
『お姉ちゃん、教えてくれて…ありがとう。お兄ちゃんも。…バイバイ』
 最後に子供らしい笑顔を見せた少女は、別れの言葉を残して消えていった。
 鳴弦の音に導かれた少女の思念は、佳以の言葉によって迷うことなくも天へと昇るだろう。高い高い空の果てで、少女が両親と出会う事をその場の誰もが願ったのであった。

■終章

 両親を求め、そして寂しさを拭い去りたかった少女の思念が、取り憑いた箱庭へと人々を引き込み閉じ込めていた。
 元凶であった少女の思念が消え去れば、箱庭はただの箱庭になる。閉じ込められていた三人はあの後すぐ外へと無事放り出されていた。
 ぽいっと放り出されて、蓮に中で起こった事を説明する。時計を見るとあれからもう二時間近くも経っていた。
「姉さん、怪我は…?」
 人に迷惑かけてるんじゃないよ。と蓮に説教を喰らっている黒猫を一度見た後に、和多は佳以に尋ねる。
「いいえ、大丈夫ですよ。和多も大丈夫ですか?」
 心配をくれた弟に微笑んだ佳以。和多も怪我は無いと一つ頷いた。
「そうですか。藍星さんは…大丈夫そうですね」
 弟の無事を確認し、続けて黒猫を見たが蓮と言い合う猫は変わりが無いようだ。
 姉弟と二人でその様子を微笑ましげに眺めると、外も暗いし戻ろうかとそんな流れとなった。
「蓮さん、藍星さん。私たち、そろそろ失礼させて頂きます」
「待て、俺も途中まで連れてってくれ。まだ、今さっきの礼もちゃんとしてないし、色々話しもしたい」
 佳以の声に反応した猫が蓮から逃げるように此方へやってくる。
 そうして弓を担いだ和多をカウンターの上でちょいちょいと手招きをした。
「和多いい腕だな。その腕を買って、コレをやる」
 やる、と言われて猫がどこからか二つの金色の鈴を視線で示す。佳以の分もある、と付け足す猫に首をかしげながら和多が鈴を手に取ったが、それは揺らしても音がしなかった。
「ただ…お前、もっと笑ったほうがいいぞ」
 いい男が勿体無いぞ。と笑う猫は、手招かれて自然と腰を折っていた和多の両頬を前脚でむにーと押し上げ、笑い顔?を作って鈴の説明なぞせずにそんな事を言っていた。
「……」
 猫の行動とそれを見て小さく笑う姉。どんな対応をしたらよいのか…と考えているうちに、戻りますよ、と声を掛けられて和多は結局蓮に会釈をし、そのまま佳以と黒猫と共に骨董屋を後にしたのだった。


END.












■登場人物(この物語に登場した人物の一覧)■

【7184】八唄 佳以(ヤウタ カイ)/女性/18歳/高校生
【7267】八唄 和多(ヤウタ ワタ)/男性/17歳/高校生


【NPC】

 碧摩 蓮(ヘキマ レン)/女/26/アンティークショップ・レンの店主
 藍星(ランシン)/男/5?/鳥居聖堂の飼い猫・大迷宮六代目管理人


■ライター通信■

 八唄 佳以 様

 お世話になっております、今回もご参加有難う御座いました。
 お待たせいたしましたが箱庭のお届けとなります。

 今回、佳以ちゃんは先日の迷宮の管理人よりも更に踏み行った非日常経験となる感じで書かせて頂きました。
 どこまで踏み込んだ形で書くべきか、今回の経験がこの先の佳以ちゃんを含む皆さんにも影響が及びそうかもしれない、
 と色々考えた末に、この様な形で仕上げさせていただきました。
 少女に腕を掴まれたりと、ほんの少しの恐怖的な体験も入ってますが、きっと恐怖を感じるよりも
 別の事を佳以ちゃんは感じ取ったりするのかな…などなどと思っておりました。

 それでは本編が長いので、通信は短くこのあたりで。笑
 リテイク等御座いましたらお申し付け下さい。それでは、失礼致します。