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傀儡の糸“side=0”―不夜城奇談―
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その日、草間興信所を訪れた依頼人は十七歳の少年だった。
「ここの探偵さんは怪奇現象に強いって聞いて…」
暗い表情で話す少年に、入り口の張り紙が見えなかったのかと言い返してやりたい衝動に駆られつつも、正面に座る子供の思い詰めた顔を見ていると、このまま帰すのも躊躇われる。
「…で、何を依頼したいんだ？」
嫌な予感がしながら先を促せば、少年は「自分にも良く判らない」と前置きし、自らに降り掛かった奇妙な現象を話し始めた。
聞いてみると、それはここ最近、世間を騒がせている総合電波塔の爆発事故に関わっており、少年は爆発と同時刻に塔の真下で発見された、とある騒動で失踪したと言われていた人物だった。
「自分の部屋で寝ていたはずなのに…気付いたら真っ暗な世界にいて……、ずっと…変な声が聞こえてた」
「声？」
「俺なんか存在する価値はない、って…」
それは、思春期の少年にとってどれほど重い言葉であり、その心を傷つけるものだったかと、草間は声の主に対して怒りを感じた。
しかし少年は思い掛けないことを言う。
「…俺…ずっと…クラスの奴に酷いことしていて…酷いって判ってるんだけど…そいつの顔見たら、なんか、殴らずにいられないって言うか…」
「――」
「だから…存在する価値ないって言われたら、そうなのかな…って」
草間は瞠目する。
彼が語った内容もそうだが、それが事実だと言うなら、いま目の前に座り、自分のこれまでの行為を語っている少年と、話の中の少年は同一人物であるはずなのに違和感を禁じえない。
その正体は何だろう。
気付いたら闇の中にいたと言う。
変な声が、していたとも。
「…で、何を依頼したいんだ？」
草間は繰り返す、違和感の正体を知りたくて。
「俺…病院で目が覚めた時…自分がどうなっているのか良く判らなかった…覚えていたのは…暗闇の中で何度も同じ言葉を聞いていたことと…“十二宮”って名前だけなんだ…」
「十二宮？」
確認するように聞き返すと、少年は頷いた。
「お願いです…十二宮って何なのか、調べてください…それが何か判らないと…、判らないと…何か、怖い事が起きそうで…」
少年の言葉は、次第に独り言のように声量を落とし、瞳が虚ろになっていく。
草間は息を呑んだ。
只事ではない、――それは怪奇探偵と称される彼の直感だった。
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「あいつー…っ」
玲奈は眉を吊り上げ、乱暴な足音を立てながら帰路を歩いていた。
その表情には不機嫌な心境がありありと見て取れ、口調も非常に荒々しい。
と言うのも、彼女の個性的な外観がクラスの男子生徒の癇に障るようで、彼女は事有る毎にからかいの対象となっていたのだ。
「あぁもう！ 腕の一本でもへし折ってやりたいとこなんだけど、そんな事したって何の解決にもならないし！」
そもそも、基本的にはどの同級生も悪い人間ではない。
報復したとて自身の鬱憤晴らしにはなるだろうが、行く行くはかえって反感を肥大させるだけである。
「でもムカつく！」
きーっと甲高い歯軋りをした彼女は、そのとき不意に視界を過ぎった人影に目を瞬かせた。
二人の男女。
その少年の方をどこかで見た覚えがあったのだ。
（誰だっけ…）
しばらく考える内、母親の部屋でたまたま見かけた資料の中にあった顔だと思い出す。
「そうだ、あの東京タワー爆発事故の時に見つかった失踪者の！」
とあるきっかけから彼女自身も関わることになったラジオ番組を通じて三十四名の男女が失踪。
その後、全員が無傷で保護されたと聞くが、発見場所が爆発した東京タワー展望台の真下だったこと、更に爆発の原因は今を持って不明であることなども災いし、この騒動は世間の注目を一身に浴びる形となっている。
しかし彼女は、原因の一端を知っていた。
だからこそ母は失踪者の追跡調査を続けているし、彼女自身も少年の顔に見覚えがある。
山本健太という名の高校生。
確か失踪した理由は、彼に虐められた事を苦に自殺しようとした同級生が、彼を憎んだために“闇の魔物”に魅入られたこと。
更に、同じ失踪事件に関わった女性が投身自殺を考えた事例などもあったため、玲奈は健太も放っては置けないと考えた。
「ねえ！」
虐めは、自分にとっても他人事ではない。
力になれると思った。
「ね。あなた山本君でしょ？」
「ぇ…」
少年が目を見開く。
隣にいた少女は怪訝な顔をする。
だが玲奈は構わない。
彼を魔物から解放しなければ！
「君が役に立てる時が来たよ」
「ぇ…」
「君が虐めたい子って誰？」
「――」
唐突な問い掛けに少年の顔からは血の気が引く。
隣の少女が前に出た。
「あなた、失礼です！」
強く言い放ち、少年の手を引いた。
「行きましょう、こんなことを言う方と話すことなんてありません！」
「ちょっと！」
「ついて来ないで下さい！ これ以上、この方を傷つけるつもりでしたら私だって容赦しません！」
言い放った少女はぐいぐいと健太を連れて遠ざかっていった。
「な…なんなのよ！」
魔物の精神汚染を解除すると同時に、これに関わる十二宮という存在を誘き出してやろうと考えてのことだったのに、余計な邪魔が入った。
「もう！ これじゃ十二宮の言うことにだって一理あるわよっ、正しいことは受け入れるっていう柔軟な思考を持たなきゃ地球は自滅するんだから！」
強く言い放った玲奈は、彼らの後をつけ、隙を見て再び健太と接触しようと決意した。
＊＊＊
だが、しばらく家のまえで様子を伺っている内、玲奈が見知った複数の人物が彼を訪ねて来た。
中には、草間興信所の所長、草間武彦の姿もある。
（あそこに依頼してたの！？）
嫌な予感……と更に様子を伺っていると、しばらくして、地震が来たわけでもないのに家が揺れ始めた。
彼の家だけが、激しく揺れたのだ。
そうして散開したのは温かな光り。
「もう…っ…人がせっかく作戦を練ったって言うのに！」
汚染された精神を解放してしまっては十二宮を誘き出すために危険に遭わせる訳にもいかない。
「…まぁいいわ。あの子が助かったのは確かなんだし」
十二宮を迎え撃つのは次の機会にすればいい、と。
玲奈は多少の不満はあったものの、薄い苦笑を残してその場を去るのだった――……。
―了―
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【登場人物】
・7134／三島玲奈様／女性／メイドサーバント／
【ライター通信】
こんにちは。
「傀儡の糸」へのご参加ありがとうございました。当方のシナリオへ、そして狩人達へのご協力には大変感謝しております。
しかしながら、今回お送り下さったプレイングで少年を救うことは出来ません。
もしまたお逢い出来る機会がありましたら、その時にはお送り下さる内容とオープニング文章を今一度ご確認下さい。
どうか宜しくお願い致します。
もうすぐ冬の到来です。
三島様も、ＰＬ様も、風邪など召されませんよう体調管理にはお気をつけ下さいませ。
月原みなみ拝
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