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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


人魚の涙 −中編−

「さてと……あいつらのおかげで手持ちの札がそろったな」
武彦はディスクチェアに座るとおもむろに机の上に散らばっていた資料に目を通し始めた。
事細かに書かれた報告書である。
時には図や写真まで記してあるところから、かなり入り組んだ内容であることが目に取れた。

先日武彦は知人の依頼により捜索の仕事が舞い込んでいた。
その捜索対象者は人魚の子孫。
依頼主にとっては恋人。
彼女は先祖の血の呪いによって「人魚の涙」と呼ばれる宝石を泣くたびに作り出してしまうというところをどうやら目をつけられ、どうも大きな組織に狙われているらしいことがわかっていた。
なにやらきな臭い一面を持った一件である。

武彦は前回の調査によって明らかになった部分を抜き出し、自分が裏サイドから取り寄せてきた資料とを付けあわしていた。
「どうも、思ったより大きな依頼だったらしいな」
タバコを口にくわえながら髪の毛をかきむしる。
すぅっと細めた目が奥底で光を有した。
「さて……どうやら人手がいるようだ……」
火の付いてないタバコを噛み締めながらポツリとつぶやいた。

捜索はまだ始まったばかり……
しかし一刻の猶予も惜しかった。
真実と嘘が矛盾によって浮き上がってくる。
武彦はこれから始まるであろうこの捜査の行く末を案じるかのように目を閉じた。

************************************

「それでしたらわたくしは裏方に回らせていただきますわ」
そう口を開いたのは海原みそのだった。
彼女自身も祖先返りの人魚という妹もいることもあり今回の事件には最初から関わっていた。
「不可解な点もたくさんありますもの。これは調べがいがありますわよね」
うっすらと笑みを浮かべている。どうやら食手が動くようなことがあったのかもしれない。
「私は現場サポートの方ですね。武彦さん頑張ってください」
シュラインはお茶と茶菓子を運びながら答えていた。
「あぁ、まぁ、人手に関しちゃ詮索さえしちゃえば乗り込むやつそんなにいらねぇだろうしな。しっかり頼むぜ。海原さん、そっちの方は頼んだ。悪いがかなり込み入ってると思う。資料は出来る限り用意してるが裏の裏までは流石に短時間では無理だった。必要なものがあったら零にいってくれ」

武彦が衣を正しながら資料を渡す。
二人はそれからこれからどのように動くか頭の中に図を展開していった。


シュラインは気がかりなことがたくさんあった。
今回の事件腑に落ちない点はいくつもある。
裏取引の港の近くに協会、依頼人と人魚の関係。疑えるものはたくさんある。
しかし、まず向かわなければいけないのは保護である。打ち上げられた情報が入ってからすでに3日……彼女の行方はいまだ明らかではない。先日までの捜索でわかったといっても実際彼女が確保されるまでは油断できないのだ。
幸い今回調査のほうでは一緒に捜査に当たってる海原みそのが当たってくれるらしい。
いま自分がすること……保護のための武彦へのサポートに集中することにした。


踏み込む場所は裏取引に使われている港の倉庫だった。
昼間でも人影がほとんどなく、実際使われている状態には見受けられない。
港が使われる時間帯自体が夜なのだろう。
ここが現場として絞られたのにはいくつかの条件が重なったからであった。
普段人影が見えない場所に最近出入りが始終見られるようになったこと。
人魚の涙と称する宝石を取り扱ってる組織が使っているという港ということ。
そして……
打ち上げられた場所から非常に近い港ということだった。
医者の出入りがあったという事実はつかめなかったものの、おそらく厳重警備・警戒態勢・港からの移動がないことより人魚の状態は怪しまれる可能性がある。
状況はやはり早急な行動が求められていると見られた。

シュラインはあらかじめインカムを救出活動に携わる人数分用意することにした。。
武彦と応援として呼んでいたもののほか、サポート要員として零とシュライン自身の分だ。
あとは緊急手当ての準備と……予想する限り必要なものを準備していった。



倉庫の規模はあらかじめ調べていた。
丁度近隣にある倉庫のタイプと同じであることがわかっていたほか、もと対象の組織の一員だったものからも内部状況は聞くことが出来ていた。
倉庫内は2階建てであり、集合スペースは吹き抜け、裏側よりに部屋が展開しており、一階には4室。並びは壁際に2室、それに向かい合うように2室あり、壁側より2階へと上がる階段があること。
2階では吹き抜けを覗くような形で通路が展開されており、それとは別にやはり壁際に3室部屋があることがわかった。
灯りは薄暗く、吹き抜け天井に大きくあるほか、2階の廊下の下に連なってあるくらいだということである。
1階には主に警備員が一名モニターにて表の入り口に設けられているカメラで確認しているほか、昼間はもう一人が在庫管理としているぐらいである。
重要な取引物は2階の各部屋に保管され、1階には組織での取引用の部屋が1部屋、取引相手の待合部屋が1部屋、休憩部屋とモニター部屋になっているとのことである。

裏の入り口は表の入り口とは違い、直接相手用の待合部屋へと繋がっているらしい。
表から入れば吹き抜けスペースへとでる。表側の入り口は倉庫だけあり、4トントラック一台が軽く入れるほどの大きさになっている。

作戦では裏口から回ることが理想的だった。
2階から直接……とは考えたものの、話によると2階の窓は無くまた隣接する倉庫も無かった。隣接するのは岩だったのだ。
その岩から……と考えも出たが窓が無いなら無意味と却下された。
岩のおかげで潜入は出来ないものの待機場所は確保できた。
岩陰が丁度倉庫から死角になることがわかったのだ。
ただ残念なことに道路とは繋がっていない。そのためボートを待機、入り江近辺に車を待機させることになった。

情報は出来るだけ集めた。用意するものも……
後は現場での判断に任せる……一同は緊迫した空気の中、出発することになった。


決行は人目を避けるため夕方に行うことになった。
その時間帯に丁度警備の交代がある。
その次の交代時間はそれから4時間後……実行時間はその4時間の間に絞られていた。


出発は決行予定時間の1時間前であった。
初めに予定していたポイントに車で乗り寄せ、別部隊として用意したボート組と合流後、最初の潜伏ポイントの岩陰への移動となった。
移動の際に零の怨霊を利用し限りなく静かに移動。
車移動中にインカムは全員へと渡し、通信確認は済ませていた。
岩陰でひっそりと決行時間まで待機をするなか、シュラインは事前調査の準備へと行動を移していた。

岩づたいに身を倉庫へと引き寄せる。
その際零に頼んで足音を消してもらうことも忘れていなかった。
壁伝いに内部音を検索。人の気配は1人……事前の調査では2人常駐とのことだったから現在聞き取れない範囲にいるのだろう。
聞き取れる範囲はどのくらいかを考えるとおそらく吹き抜けスペースにいるか、2階にいるのか……
把握できるのもきっとモニター室にいる一人であるだろう。

表側の入り口に近い場所にあるらしいことがわかった。
声は聞こえない。
チャンスはきっと交代時に交わす時だろう。その時に声紋を取るつもりだ。
壁室は……倉庫といえど頑丈に出来ているらしい。
ちょっとの事では壊れないだろう。そして……音の洩れも少ない材質と見られる。

「後は……零ちゃんに内部を探ってもらおうかしら……」

幸い2階には窓は付いてないものの、1階の部分には窓がいくつか見られた。
そういっても内部状況を確認することは難しく、窓の近辺に棚が置かれているようだった。
少し窓が開いてる。
ここから情報を得るだけの行動は出来そうだった。


岩陰に戻る。
「零ちゃん、ここから少し先に窓が開いてるところがあるの。そこから内部探ってくれないかしら」
「はい。えっと……どこを重点に置けば良いでしょうか」
「そうね……下は大体見取り図通りだし、潜入自体の支障には変わりはないっぽいから……2階のほうを重点において。もうそんなに時間無いから、出来れば彼女がいる場所がわかるように」
「はい」
「私はあちらで待機してるから」
「お気をつけて」
再び裏口近くで待機することにした。
音声の確保を……


交代時間になった。
港の入り口から車が一台入ってきた。人は……3…4……全部で5人だった。
どうやら外側の警備員の交代と内部、どこか一人は継続ということだろう。
車から降りると一同表の入り口からいったん内部へと入っていった。数分後今度は別のもの1人を伴い先ほど入っていったものが3人出てきた。
そこで今度は表の者たちは言葉を交わし交代のための要因を話し車へと去っていった。
裏口の方はというと……

内部から扉が開かれた。
先ほど中に入ったものの一人が裏にいたものに交代を告げた。
その様子にシュラインは耳をそばだてた。

−いける−

声は確かに聞いた。
そして、交代員が内部に入ると同時にシュラインは用意していた薬を含んだタオルをその新しい警備員の口元へとすばやく押し当てた。
「っ!!」
微かな悲鳴が洩れるも、同時に武彦たちも駆け寄り次に手套を腹部へと入れていた。

「後は頼んだ、シュライン」
「はい、武彦さん」

互いに簡単に交わした言葉。目で合図する。
突入が始まった。

岩場の影では詮索の終わった零が武彦たちに内部の詳細と場所を話したのだろう。
壁づてに音を探ると小さくうめく声が聞こえる。
足音はまっずぐと上部のほうへと移動していっていた。

「私もこうしてはいられないわね」
そういうとシュラインは周りの状況を確認するべく周囲の音に集中しだした。
交代からすでに1時間ちかくがたとうとしている。
おそらく予測していた以上に警備員の交代は時間がかかったのだろう。
表側の警備員に知られないためにもすばやく済ませたかった。
警備員にかがせた薬の効き目も1時間弱。そう、1時間以内に撤退までを行わなければいけないのだった。







そして……
30分経過した時点で武彦たちは裏口へと現れていた。
二人がかりで布にくるまれた女性をもっている。
シュラインは周囲を確認後岩陰へと移るよう合図を取った。
すかさず零にも合図を送り足音を消してくれるようにする。


去り際に表の方へと探ると変わった所は見られない。
気づかれることは無かったようだった。



ボートに戻ると一同すぐに入り江へと向かった。
車へと到着すると毛布を取り出し、運び出したものを包み直した。
案の定、彼女はあちこちに傷が見受けられる。まっすぐに伸びた肢体は鱗へと覆われており、ところどころはがれ血がにじみ出ていた。
「酷い……」
思わず声が洩れる。
「でも、彼女が気を失ったままで助かったよ。もし悲鳴を上げられていたらこんなに穏便に済んだものやら……」
「ええ、確かにそうです。少々熱も持っているみたいなのでよろしくお願いしますね、シュラインさん」
「わかったわ」
そういうと用意しておいた応急処置セットに手を伸ばした。



手当ては意外と手間取った。
傷はあちこちに渡り、患部が熱を持ち始めていたのだ。どうも打ち上げられた後手当は特にされた様子は無い。おそらく放置してあったのだろう。
明らかに人扱いをしていない。
ある程度患部を手当てし終え、額を冷やそうとしたときだった。



「っう」




彼女から声が洩れた。
「ノーラさん?」
「……だ、だれ?」
「安心しろ。ここは安全だ」
「私たちはあなたを助けに来たのよ」
「……た、たすけに?」
「ええ、もう心配いらないわ」

その言葉を聴くと顔をしかめつつも朦朧とした意識には耐え切らなかったのだろう、目を閉じた。

「詳しい事聞くのは……事務所に戻ってからか」
そういうと口元にタバコを運ぶ。
その武彦を横目でにらむ零を見つつシュラインはうなづいた。


−とりあえずは……任務終了ってとこかしらね……−

安堵のため息を吐くとシュラインはそっと武彦を盗み見ていた。



興信所に戻ったシュラインはノーラをソファーの上に横たわらせるように告げるといつものようにコーヒーを入れていた。
武彦はノーラの様子を見つついくつか基本的な情報を聞き出している。
名前・出身・イッタイ何があったのかなど
事務所に入る前にシュラインは様子を見ようと武彦に告げていた。依頼主との関係も確かめなければならない。入れたてのコーヒーを運びながらこれからの扱いについて脳裏にめぐらせていた。

話をしつつ、ノーラは涙でほほをぬらしていた。
その頬から離れた雫が床へと落ちるとき……

「人魚の涙……」

青い雫となりカツンと跳ね上がる。それは、人魚の涙だった。




「おう、海原さん。彼女がノーラだ」
それから半時たったころ、興信所のドアが開いた。
海原みそのが帰ってきたのだ。

「人魚の涙……ですの?」
床に散らばる青い石に目をやりながらみそのはつぶやいた。
「あぁ、どうやら呪いはあるらしいな」
「でも……これは海の魔女の呪いでは……」
「あぁ、だいぶ情報が食い違ってるみたいだ……俺も驚いてる。それで、そっちの情報を教えてくれないか?」


みそのは調査内容を、武彦やシュラインは潜入時とノーラから聞き出したことを話した。お互い今までの成果を確認しあった。そして……ここから導かれた疑問点についても。


そこで出た結論は……


「ここは彼によく聞いてみるしかないってことだな」
一同深く了解しあったのだった。



To be continued……

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0086 / シュライン・エマ/ 女性/ 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
 1388 /海原・みその   / 女性/ 13歳 / 深淵の巫女


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■         ライター通信          ■
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 この度は人魚の涙(中編)にご参加ありがとうございました。
 長らくお待たせしましてもうしわけございません。

 この度はプレイヤー様によって視点を分けさせていただいております。
 よろしければ他の方のを見ていただくと全体の状況がつかめるかと思いますのでよろしくお願いいたします。
 次回はいよいよ真相にたどり着きますので、またお会いできたらと思います。
 ご拝読ありがとうございました。

 written by 雨龍 一